3.産衣にくるまれた揺りかごの中の赤子

だが同時にコンピュータは,まだ生まれたての赤ん坊のようにひ弱で無防備な存在だ.現在のコンピュータは生まれてからまだ3日半しか経っていない.あるいは3才半の幼児と言えるかどうか?(一般に第3.5世代と言われている.第1世代,真空管時代.第2世代,トランジスタ.第3世代,IC.第3.5世代,(現在の)LSI,第4世代,超LSI.第5世代*1,(非ノイマン式)知能機械).

*1 通産省が推進した第5世代コンピュータの開発は,巨額の予算が投下されたにも関わらず,一般には失敗に終わったと目されている.このプロジェクトには相当な人的パワーが結集された.筆者の周辺からも応募の話はあったのだが,チームリーダーのなり手がいなくてお流れになった.
 

コンピュータのシステムダウン,クラッシュなど,システムとしての致命的なひ弱さ,脆弱さは,依然として克服されていない.(つい最近にも,220メートルの高所を高速運行中のエレベータが,扉に挟まった紙袋を引き抜いたときの電気的ショックで停止し,幼児を含む何人もの人が2時間余り,宙吊りに閉じ込められるという事故があった.)
 

システムが高度になればなるほど,複雑でかつ膨大なものになるソフトウェアの完全なデバッグが一層困難になりつつある.*2

*2 某○●ソフト社は,バグのないプログラムを開発するという当初の目標から, good enough な(まあまあに動く)ソフトウェアを開発するという方向に方針変更した.予測不可能なバグに対処するための(トータルでは莫大なものとなる)費用は,すべてユーザ持ちである.(彼らの得ている利益の一部が不当なものであるという主張には充分な根拠がある.)
 

伝送中の信号が予期せぬ電圧の変動のために化けてしまうなどのエラーのチェックをすべての段階で完全に行うことは不可能である.(チェックを行う処理自体のチェック,それをチェックするための処理,それをチェックする...and so on →エラーはそのすべての段階で発生し得る.)
 

人為的な入力エラー(キーインミス)その他,外的なほとんど予想外の些細なミスから重大なシステムダウンが起こり得る.
 

まして,意図的に行われる破壊に対しては裸同然であるし,コンピュータに関わる犯罪は,想像するだに恐ろしいほど――想像可能である*3

*3 まさか患者を集めるために細菌を散布する医者はいないと思う.コンピュータウィルスのワクチンを販売する会社がウィルスをネット上で撒き散らしているということはあり得ないとしても,想像可能である.
 

継ぎはぎによってしだいに巨大化し,密林化してしまったシステムの相互接続!によって起こり得る事態の予測不可能(てんでんばらばらに開発されてきた既成事実のメツレツな積み重ね)*4

*4 目前に迫ったY2Kはこの種の教訓を含んでいるが,OS98と銘打った製品が2000年問題に対応していなかったという事例などを見ると,「人はほとんど目先のことしか考えていない」ということが,改めて実感される.