4.柔らかく傷つきやすいシステム

コンピュータは基本的に柔らかいシステム(神経系統のように,極めてデリケートで傷つきやすいもの*1)であると考えるべきではないか?

おそらく,コンピュータともっともよくなじむ社会,コンピュータの機能を最大限発揮することのできる社会は,コンピュータのこの本質的にデリケートな特質とマッチングできる柔らかい社会(人間関係に十分な信頼関係の行き届いた社会)ファインチューニングされた社会*2であるだろう.

*1 実際,ネットワークを構成する電話回線からなる神経網はほとんど外気に無防備にさらされている.ハードディスクを(間違って)蹴っ飛ばせば,豆腐のようにないし脳味噌のように壊れてしまうだろう.インターネットは,無数のそれぞれ独立したノードが網の目のように結合しているから,ある種の自己修復性を持ったネットワークである.

*2 クーデターによって転覆されたチリのアジェンデ政権にはこの種の調和的なネットワーク社会を構築するというかなり先走った構想があった.マレーシア,シンガポールなどの情報通信政策にもこのような方向性に対する嗜好を嗅ぎ取ることができる.(これらに共通するのは,学者肌の政治指導者の存在と西欧的なものと(東南)アジア的なものの融合である.マレーシアには独自の政策がある.しかし,いわゆる民主化に逆行するような動きも見える.どちらの方向に進むのかはまだ未知数だ.)(ニュージーランドもおもしろいポジションにいる.一部地方自治体にはこのような方向性を志向するいくつかの実験がある.)
 

そのような最良の社会を想定するとすれば,その社会の構成規則は,万人にとって(例外なく)認められるような合理的なものでなければならないし,また,すべての過誤,失敗を快復することのできる retrievable(救済可能)でかつ, adespairable(絶望不可能)な社会*3(かつてカソリック社会が夢見たような)でなくてはならないだろう.*4

*3 JRでは,飛び込み自殺の多発に困り果てて,駈け込み相談用のフリーダイアルを設けたという話だ.日本では,資本主義の基本ルールに含まれる破産という手続きがまだ社会的にうまく機能していない.それを代替しているのは暴力的な取立てである.多発している中小企業者の自殺の大半は暗然たる殺人と見なくてはならない.

*4 アメリカは猛烈な自由競争社会であるが,同時に敗者復活のシステムも備わっている.低物価ということはなかでも重要なポイントである.(電力,通信,交通などライフラインの料金の高すぎることが日本経済における価格構成上の構造的問題である.これらはもともと税金を投入して育成してきたいわゆる公共事業である.それらが今,日本の首を絞めている.)