8話「それぞれの道」

2.VSヴォルフガリオ


 3月1日、大型のハリケーンがドルファンに直撃した。

 3人のもとに、一通の手紙が届けられた。

 

「戦時非常収集令D弐号発令す」

 

 ヴァルファバラハリアンとの、最終決戦であった。

 

 3人は、思う。考える。

 

「これで…この国は平和になるのかな…?」

「ああ…多分な…」

「…まだ引きずってるの?ソフィアのこと…」

「…」

「カタギリ!今は戦争のことだけを考えた方がいいよ!この戦争で死んじゃったら…何にもならないんだから…」

「ピコ…」

「生きてれば何とかなるかもしれないんだから!」

「…ああ…そうだな…悪い、心配かけて…」

「わかればいいよ…」

 

(いよいよ、最後か…義父…本当に自分たちの手でヴァルファをつぶせるなんてな…思いもしなかったよ…)

 

(この国を守るための戦いもこれで終わりか…どうなるんだろうな、俺…プリシラの話だと、外国人排斥法とか言うやつが…)

 

 

 出撃の時が来た。

「急げ!首都城塞まで迫っているぞ!ダナンにいる騎士団本隊が来るまで耐えるんだ!」

 カイティ(第4話参照)の指揮のもと、傭兵部隊は分散して、それぞれのゲートを受け持った。

「死ぬなよ!」

「ああ!」

「ここまで来たんだ!死ねないさ!」

 3人はゲートを1つずつ分隊長として受け持つことになった。

「ひるむな!抜けさえすれば、こっちのほうが有利だ!」

 カタギリの所には歩兵、弓兵、工兵が攻めてきた。2つの部隊が遠距離から攻撃してくるので、なかなか近づけない。

「騎馬隊でかく乱して、歩兵隊がつっこめ!弓兵隊は城壁の上から援護射撃を!」

 カタギリの受け持ったゲートでは、ドルファン側が4分の1になったものの、何とか防衛することができた。

「押されるな!弓兵隊はじっくりねらいを定めろ!」

 シンの所には歩兵、騎馬兵、工兵が来た。

「弓兵は、歩兵が近づくまでになるべく数を減らせ!近づいてきた騎馬兵は、歩兵で対抗する!騎馬兵は歩兵、騎馬兵の2部隊をすり抜けて工兵隊を攻撃するんだ!」

 シンの的確な指示もあり、このゲートも守られた。

「一気に攻めろ!長期戦は不利だぞ!」

 レンの所には騎馬兵、弓兵、工兵が来た。防衛線の兵がいなくなれば、騎馬隊に突破されてしまう。

「弓兵は落ち着いて騎馬兵をねらえ!騎馬隊がいなくなれば接近戦で圧倒的に有利だ!」

 レンもゲートを守ることができた。

 シンの所に伝令が来た。

「大変です!騎士団が受け持っていたゲートが1つ突破されました!」

「なっ…!」

 シンは絶句した。

「突破と言うよりも、すり抜けられたというほうが正しいですが…」

「城に向かっているって訳か…」

「はい…ここが一番近いゲートですので、伝えに来ました」

「わかった…伝令は隣のゲートの部隊に連絡しろ!騎馬兵!馬を借りるぞ!副隊長!後の指揮を頼む」

「はっ!」

「みんな!城の防衛にいくのなら、それも良いが、このゲートの防衛に残るのも忘れるな!俺について城まで来る者がいるなら、それぞれのバランスは副隊長に任せる!」

 そう言って、シンは城に向かって駆けた。

(城には近衛がいる…まだ、間に合うはずだ…!)

 後についてくる傭兵は、いなかった。

 雨がやんできた。しかし、風はいまだに強い。

 

 城門前。

(まだ来ていないか…)

 敵はまだ来ていない。近衛兵が戦っている音が聞こえてくる。

 戦いの音とは違う方から、数騎の騎馬隊が見えてきた。

「…!?そこ!何やってる!?ここは我々が守備」

 その騎馬隊に気付かなかった近衛の言葉は、斬撃によって遮られた。

「ぐはあっ!」

 赤い鎧の男の、大剣による斬撃だった。

「…何人も、我が行く手を阻むことはできぬ…」

 50代ぐらいのその男は、そう言ってシンの方を向いた。兜は着けて無く、顔の右側が火傷の跡のように黒ずんでいる。

(あれ…この顔…それに、今の声って…)

 聞いたことがある。シンはそう思った。

(そうか!デュラン国王の…)

「若いの…冥土の土産に教えてやろう…我が名は、破滅のヴォルフガリオ!」

 ヴァルファの軍団長。それが今、シンの前で剣をかまえている。

「あの王城で惰眠を貪る国王、デュラン・ドルファンはかつての弟…」

 剣で城を指し、ヴォルフガリオ、いや、デュノス・ドルファンは言った。

「我を死地に追いやった張本人!我が憎むべき肉親であり、敵!」

 近衛が集まってきた。今の話を聞いて、うろたえてるようだ。

「耳ある者は聞けーっ!目のある者は見よーっ!この顔こそ、何よりの証!」

(政治の中のどろどろした面…この国にもあったのか…)

 シン達の義両親はその中で殺された。少し、義両親のことを思った。

「我に刃向かう者は、ドルファン王家の血に仇なす事になるぞ!」

 近衛兵達は誰一人として動けなかった。

 静寂の中、遠くで、雷が鳴った。

 デュノスは、剣をシンに向けた。

「若き東洋人よ…そこを、どくのだ…」

「…」

 少しの間、静寂が続いた。

「…いやだね…」

「む…?」

「俺は傭兵(よそもの)だからな…ドルファン王家の血なんか、関係ないんだよ…それに…」

「それに…?」

「いや…何でもないさ…とにかく、ここをどく気なんて無い」

 シンは、双刃槍でヴォルフガリオを指した。

「騎士らしく…一騎打ちで決めようか…」

「…面白い…その勇気に敬意を表し、我も、最高の剣技を持って応じよう…」

 再び、雨が少しずつ、降り始めた。

 

「ぐうっ!」

「どうした?その程度で我が道に立ちはだかるつもりだったのか?」

(なんて力だ…!)

 両手持ちで大剣をふるう。今まで経験したことのない剣圧。一撃でもまともにくらえばどうなるか…

 

 ガギィッ!
 

 上段の一撃を受け止めたのだが、気を抜くと押し込まれてしまいそうだ。気を抜かなくても、少しずつ押されているが。

「…っの野郎っ!」

 双刃槍を引き、前にバランスを崩させた。

「はあっ!」

 一撃を放った。後ろに回り込んで、背中への全力攻撃。だが、鎧にわずかなヒビを入れるだけで、デュノスの方にほぼダメージはない。

「なっ…?」

(全力でやって…この程度のヒビしか…?)

「致命傷になると思ったか…?我が鎧は特別製だ。この程度では、我に傷をつけるには遠いな…」

「くそっ!」

 シンは下がった。デュノスは余裕からか、動こうとしない。

(どうする…?)

「…どうした!怖じ気づいたか!」

(どこかに穴があるはずだ…どこだ…?)

「ならばそこをどけいっ!勇無き者に振るう剣など無いっ!」

 デュノスが近づいてくる。

(…そうか!)

「…これであんたと互角になれるかもな…」

「むっ?」

 シンは片方の刃の切っ先を、デュノスに向けて、突進の姿勢をとった。

「いくぞっ!」

 シンはデュノスに向かって走った。デュノスは横に剣を振った。

「ふっ!」

 シンは剣が向かってくる方に跳んだ。剣が足の下を通り過ぎ、無防備な左側面に着地した。

「そこだっ!」

 シンは肘付近の部分を攻撃した。攻撃した辺りの鎧が砕けた。

「むうっ!?」

「くらえっ!」

 柄の部分を叩きつけた。

「ぐ…?」

 デュノスの左腕が剣から離れた。かなり効いたようだ。

(関節の部分は、動きを妨げないように薄めに作られている…あの鎧も例外じゃなかったみたいだな…)

 シンはそのまま攻撃を続けた。デュノスは右手だけで剣を振ってきたが、威力などはあまり変わっていないようだ。相変わらずまともに当たったらやばそうだ。

「これで…終わりだよっ!」

 1〜2分後に、右肘への攻撃も成功させた。デュノスは剣を落とした。

(…やったか?)

「まだだ…まだ、我が力は尽きておらんっ!」

 デュノスは剣をかまえた。両手で。

「…なら、次で終わりにしてやるよ!」

 シンは斬りかかった。デュノスはかまえたまま、動いていない。

「はあっ!」

 突如、威圧感が広がった。鳥肌が全身にたった。

 攻撃が鈍った。

「うっ!?」

 攻撃が受け止められ、一瞬の隙ができた。

「滅せよ!!」

 雷が近くで鳴り、閃光が、辺りを包んだ。

 大剣での十文字切り。最も恐れていた、「まともに当たる」事になってしまった。

 雷の閃光が大剣を包み、大剣の軌跡が、残像になって見えた。

 十の字の、軌跡。

 ヴォルフガリオの必殺技、「ヘヴンズ・ドア」。

「…」

 シンは声さえ出せなかった。吹き飛ばされた場所で倒れた。

「さすがだった…我が前に立っただけのことはあったな…東洋人よ…」

 ヴォルフガリオは城に歩き出そうとした。

「なっ…?」

 シンが、立ち上がった。

「く…」

 双刃槍を、杖代わりにして。

「…立つ理由は何だ?誇りか?」

「…負けず嫌いなだけだよ…」

「下がれ…その傷で戦うつもりか?」

「…ああ…まだ、戦えるさ…」

「ならばとどめを刺してやろう…さらばだ…」

 デュノスの上段をフラフラになりながらもかわし、後ろに回り込んだ。

 そこには、最初についたヒビがあった。

(賭けるしかない…!)

 最後の力で、双刃槍を叩きつけた。

 穴が、空いた。

「ぐっ…?」

 何も考えずにデュノスの背中を斬りつけた。そしてひるんだところへ、両腕に柄の部分を叩きつけた。

「かっ…」

 背中から広がったヒビは前の方までとどき、鎧が崩れた。デュノスは剣を振って牽制したが、あまり力がこもっていなかった。

(最後だ…!)

 少し鎧の部分が残っていたが、そんなことは気にしていなかった。シンは前面をおもいっきり斬りつけた。デュノスが崩れ落ちた

「ぐはっ…!」

(今度こそ…やったか…?)

「我が天命もここに尽きたか…若いの、我が首を取れ!」

 デュノスは自らの負けを認めた。

「待って!」

 誰かが割り込んできた。デュノスは、その者の名を口にした。

「ライズ!?」

 割り込んできたのは、ライズだった。デュノスの前に両腕を広げて立ち、シンを睨みつけている。

「軍団長には、これ以上、一指たりとも触れさせないわ…」

「馬鹿者…早く…早く逃げるんだ…もはや、我々の負けだ…」

「まだです…まだ…」

「我が憎悪の念が…お前も、八騎将も、他の兵士達も、負け戦に巻き込んでしまったな…」

 そして、声をひときわ大きくして宣言した。

「ヴァルファバラハリアンは、我が死と共に消滅する…!」

 さらに、遺言としてライズに一言、残した。

「残りの人生を、自分のために使え…普通の、女としてな…」

「お父様ぁ…」

(お父様…?)

「者ども、聞けぇーっ!我が娘は、ドルファン王家の血を継ぐ者ぞ!手出しすること、まかりならん!」

 そう言うと、デュノスは剣を取り出した。そして。

「ぐはっ!」

 デュノスは自分の剣で自分の生涯を閉じた。

「あっ…」

 デュノスは崩れ落ちた。そして、ゆっくりと…目を閉じていった。

「いやーーーっ!お父様あーーーーーっ!」

(親子…だったのか…)

 シンはここで気絶した。血が出すぎた。

 

 話によると、カタギリ達が運んでくれたらしい。自分の部屋にいた。手当てもされていた。

「大丈夫か…?シン…」

「ああ…すまない、カタギリ…」

「終わったな…ようやく…」

「そうだな…レン…」

(終わったんだ…これで…ようやく…)

 

 

ドルファン・プロキア戦争は終わった。

しかし、まだカタギリとシンには戦わなければならない相手がいる…


あとがき

 

あと3話ですね…

シン、カタギリ、それにエピローグ。

ああ…終わるのかな…2月に…(2月4日現在)

 

星輪


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