〜第三章〜「魅惑」


太陽の光が窓から覗き、鴎の鳴き声で俺は目を覚ました。

「ほら起きて、朝だよ」ピコがうるさく言う「私もうお腹が減っちゃって…何か作ってよ」

「うるさいなあ、その辺のもので食べれば良いだろう?」

俺はピコに言った。とにかく自分はまだ寝床から出たくはなかった。

懐中時計は7時を指していた。

「嫌よ、犬じゃないんだし。それにヒュウガの作ったものは美味しくて」

「下手なお世辞はいらないよ。ったく分かったよ」

俺はぶつぶつ言いながら寝癖のある頭をかきながら大きく欠伸をして起き上がった。

作ると言ってもその辺にあるありあわせの物で作るより他はない。俺は卵を取って割り、熱もったフライパンに流し込んで目玉焼きを作ってやった。勿論ピコの食べられる大きさに切って、それをパンの上に乗せてやった。

「うわ♪おいしそ〜。ありがと♪」

口よりも先に手が出ていた。

やれやれ、もう一眠りするか…

 

 

「あれ?ヒュウガじゃん?どうしたのこんなところで?」

ハンナは俺に話しかけてきた。

「晩飯を買って来たところだ」

俺はさっさと終わらせて帰るつもりだった。

「ふ〜ん、晩御飯ねえ」

ハンナは俺の手に持っている袋を見ながら言った。

「すまないが俺は空腹でね、帰らせてもらうよ」

そう言って歩き出そうとしたその時、

「強盗だ〜!!あのレストランに強盗が入ったぞ〜〜!!」

人々の叫び声が聞こえた。

「強盗だって!?あそこのレストランはボクの従姉が働いてるところだ?!」

ハンナは叫ぶと俺の腕をつかみ、

「君強いんだろ?ボクの従姉を助けてあげて!」

彼女は泣きそうだった。

やれやれこんな時に…。

しかし事件では仕方がない。俺はしぶしぶとそこへ向かったそのレストランには大勢の人々が集まっていた。よくよく見ると強盗は人質を取っているみたいだ。迂闊には手は出せない。

「うりゃあ!誰も動くんじゃねえぞ!金を持って来い、ありったけな!!」

どこかで聞き覚えのあるような声だった。

俺は人々をどけ、前へと顔を伸ばした。見てみると薬中のビリーとその兄弟二人の三人組であった。

「ん?てめえ、東洋人じゃねえか!!ちょうどいい、俺達三人兄弟が纏めて始末してやる」

ビリーはナイフを握り締め喧嘩腰だ。

こいつらを相手する気は全くなかった。

「離してよ!このデブ!!!」

気の強そうなウェイトレスが暴れている。

この街で一番の元気娘、キャロル・パレッキーだった。

こいつとは色々あって話せば長くなるのだが、一応気の合う仲とでも言っておこう。

「あっ!ヒュウガじゃん、ちょっとこいつら何とかしてよ!!」

キャロルが叫ぶ。

俺は呆れていた。

他の人質は怖くて足が竦んでいると言うのにこいつだけは元気だった。

「助けてくれたらアンタのツケ、半分にしてあげても良いわよ?」

こいつは店長でもなんでもないただのウェイトレスだ。そんなことできるわけが無い。

「いちいちうるせーぞこのアマ!!」

大男がキャロルを突き飛ばした。

「キャア!!」

キャロルは悲鳴を上げて床に叩き付けられた。

俺の頭の中で何かが切れた…

「ケッ、うるせえ女だぜ」

大男は言いながら酒を飲んだ。

一瞬の出来事だった。大男は宙に舞いカウンターの方へ吹っ飛んでいった。何が起きたのかさっぱり分からないサムとビリーは大急ぎで大男の方へ行こうとした。しかしたどり着かないまま、そいつらは左右別々に吹き飛ばされた。

「な…に……?」

大男が不思議がっているその時、俺はそいつの胸倉をつかみ持ち上げた。やつの体が浮く。

「死にたいか?」

そう俺は冷酷な眼差しで呟くと大男は涙ぐみ、命乞いをし始めた。

「た、助けてくれ。悪気は無かった、ただ金が欲しかっただけなんだ」

必死にそいつは言った。

俺はそいつを下に降ろし、キャロルを抱き起こした。

「大丈夫か?」

俺は聞いた。どうやら軽い脳震盪を起こしたらしい。命に別状は無い。

その時、大男はその辺の椅子をつかみ襲い掛かってきた。

「くたばれ東洋人!!!」

俺は呆れてしまった。

…馬鹿が、そこまでして勝ちたいか?

「…破斬天激」

俺は鞘を抜かず、ふっと舞い上がると稲妻のごとくそいつの脳天に剣を叩き込んだ。大男の体は床にめり込み、動かなくなってしまった。

サムとビリーは恐れをなしてその大男を抱き上げ、逃げて行った。

「覚えてやがれ!!」

そういい残すとすぐに見えなくなってしまった。

街の人々は歓声を上げ、俺は街では有名になった。

 

 

その後俺はハンナと一緒に帰りを共にしたが、気になる事が一つあった。

「さっきはカッコよかったよ,やっぱり君は…あ、なんでもない。気にしないでね」

そう言って別れた。

あの言いかけた言葉は一体なんだったのだろうか?


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