贈り物

〜その2〜「モデル」

著:おタクろ〜


これなら肉体労働のほうが良かったな…モデルがこんなにキツイとは思わなかった。

とにかく暑い…「せめて鎧を脱いで」なんて言えないしなぁ…

真夏の森の中、よりにもよって一番日当たりの良い場所で、ずーっと立ちっぱなし。

 

「ね、そろそろ話しかけたら?」

「ん?」

「二人を仲直りさせるんでしょ?とりあえず、何でも良いから話したら?」

この状況で何を話せば良いのか…

 

「ねぇ…何で俺なんかをモデルに?」

「『キミが好きだから』なーんて都合のいい答えを期待してない?」

 (う…うるさい!)

「うるさいなぁ…集中できないだろぉ!」…予想通り怒鳴られる

「…展示会に出すんだよ、絵を教えてくれた人がな『面白いからタマにはやってみな』って」

「面白い?」

「ああ…面白いね。普段は好きなことを描いてるけど、

テーマがあるってゆーのは、ガラにもなく考えて描くってことだからな」 そう答えた彼女の顔は生き生きしていた。

「へへ…嬉しいでしょ?キミを描いてて面白いって」

「…それで、なんで俺なの?」

「『戦争』がテーマだからな…あんたが描きたかったんじゃなくて、傭兵が描きたかったの!」

「照れ隠しだよ…きっと」

(ムリに慰めてくれなくてもいいよ、なんだか空しくなる)

「で?…あんたはなんで、こんなコトをやってるんだ?」

「こんなコト?」

「私たちを仲直りさせようってんだろ?…顔に書いてあるぜ」

「キミって“バカ”がつくほど正直だもんね…」

「戦場では心理戦ってのもあるんだろ?…良く死なないよなぁ」

「だよね〜」うなずくピコ、二人してバカにするなよ…

「死なないから、生きてるからだよ。

 戦場で沢山の“死”を目の当たりにして…自分でも山ほど敵を…人を殺しているから」

「…だから“生きてる人には幸せになってほしい”ってか?…クサいヤツ!」

「そのとーり…無くした物はもどらないから、だから仲良くしてほしい」

たしかに“クサいヤツ”だと自分でもそう思う。

けど…、戦場の醜い死体の山の中にいると、人間の綺麗な部分を信じたくなる…

「じゃあ、なんで傭兵なんてやってんだよ?」

「…騎士になるため」こんなコトを言ったら笑われるかな?

「は?」

「騎士になれば守るべき誇りも、使えるべき主も見つかる…そう、思ったから」

「誇り…」

「金のために殺しをやる傭兵がイヤだったし、それにカッコイイだろ?」

「カッコイイねぇ…」

おもいっきりあきれてるな…

「俺には何もない…誇りも、守る物も…何もない、出来るのは人殺しだけだ」

…なんで俺はこんなコトを話してるんだろう…

「…私だってそうさ、ソフィアには歌が…ハンナにはスポーツが…ロリィには夢がある。チョット子供っぽいケド…。

 アレはアレで真剣だしな」

キャンバスに隠れて、彼女の顔を見ることは出来なくなってしまったが…

「だから…だから怒鳴りつけたんだよ、うらやましかったんだ、あの子が情けなかったんだよ、

 描けないでいる自分が…へへ…みっともないな」

泣いてるのかな…?」

(………)

「あ〜あ…なに、らしくない話をしてるんだろ!」

キャンバスの影から笑顔を見せるが…ムリをしてるのが見え見え。

「あらら…ポーカーフェイスが出来ないのはお互い様だネ」

「らしくない話をしてるのは俺も同じ、二人して何を話してるんだか…」

「ははっ…まったくだ!」二人で力無く笑いあう…

「そんなことより…ホラ!」

(あ…そうだった!)

「後悔…してるんだよね?怒鳴りつけたこと」

「当然だろ…」

「それなら!」

「“仲直りしろ”だろ…わかってるよ!ただ、なんて言ったらいいか…」

「ちょっと耳貸して!…ボソボソ」

(その前にレズリーには聞こえないだろ…)

「えーと…プレゼントとかは?何かほしがってたみたいだし」

「…ドコにそんな金が」

「何だったら俺が…って、チョットまてぇ!」

「なんだよ…」

(俺のふところ具合を知ってるだろ!)

「いいから続けて!」

「え〜…かっ金なら心配するな!」

「マジか…?」

「銀色蝶?…って知ってる?それを捕まえて…あ、そーゆーことか!」

「おまえ…言動が変じゃないか?」

「とっとにかく、銀色蝶を捕まえれば、それを…」

「わかった、わかったよ、おまえが一緒に行ってくれるんならな!」

「へ?」

「…以外なセリフ、頼りにされてるんだぁ…コノコノォ!」

 

―女の子に頼りにされてる…以外と嬉しい物だな―

 

…だが、その言葉の真意を知る頃には、浮かれていられる状況じゃなくなっていた…

つづく……


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