第2話


一章 五月祭

 

「祭り、ですか」

嫌そうな顔をして、キリト・カズサが言った。

傭兵隊宿舎、隊長室にて、である。

「そう。祭りだ。きたる五月一日に、祭りがある。五月祭、春の訪れを祝う祭りだ」

「はあ」

気のない返事。

その、五月祭のイベントに、『ナイスガイコンテスト』なるものがあり、まあ有り体に言ってしまえば傭兵隊からも何人か出ないか?と、傭兵隊隊長ヤング・マジョラム大尉が持ちかけたわけである。

「何人かって…」

「この五人だろ?」

その場に同席しているのは、

傭兵隊第一隊隊長、リヒャルト・ハイゼン曹長ならびに副長、グラン・グラハルト軍曹。

同じく第二隊隊長、キリト・カズサ曹長ならびに副長、フィル・マッシュロイム軍曹。      

同じく第三隊隊長、ヴァレス・エイオン曹長。

この五人である。

「仕方がないだろう」

ヤングがくるりと椅子を回しながら言った。

「残りの五人は既に予定が入っているそうだ」

「つまり世渡り下手の五人がここに集められたと」

「そう考えて相違ないだろう」

また椅子を回し、五人に顔を向け、

「それに、ちょうどいい」

「なにがです?」

嫌な予感を本能的に感じ取ったのだろう。

世界的に見ても数少ない『魔法使い』たるヴァレスが訊いた。

あるいは訊かなかった方が良かったかもしれない。

「そりゃあ、傭兵隊というか人類屈指の異能集団だからな。おまえらは。入賞間違い無しだ」

にこにこしたままきっぱりとそう言い切ったヤング。

やはり訊かなかった方が良かった。

 

 

「とは言え…」

強引にナイスガイコンテストへの出場を決められた彼ら五人は困り果てていた。

何をすればいいのか。

根本的に、なぜそんな催しに出場するのかという疑問もあったが、それはあえて封印した。たぶんまたロクでもない理由だろう…。

「俺は鞭を使う」

リヒャルトが言った。既に、何か思いついたらしい。顔が自信ありげだ。

「ぼかぁどうしましょうか…。弓ですねー。やっぱり」

フィルも、何かを決意したようだ。

「お、俺は…何しよう…うん…」

北欧の怪力巨人、グラン・グラハルトも何を思ったか笑みを浮かべた。

岩から削り出したかのようなごつい顔が、凄絶な笑みを形作る。

「こわいって。グラン…」

フィルのうめきに、素直にいつもの顔に戻るグラン。

「私はまあやはりアレしか」

「だろうな」

ヴァレスのアレ、魔法使いである彼のアレなど、当然の結果だろう。

となると、

「お前は?キリト」

「何かやることあります?」

「お、お前のやることって想像つかねぇなァ」

「多芸と見えて無芸なのが人間です」

「お前等、俺をなんだと…?」

キリトの問いに、全員が言った。

 

「「「「刀剣狂いの刃物馬鹿」」」」

 

半ば当たっているだけに、キリトには言い返す気力も無かった。

出会って一月で、早くもキリトはそういう目で見られているらしい。

 

 

五月祭。

人通りが非常に多い。

その中でやはり、ナイスガイコンテストに出場するべくやってきた五人の傭兵は浮いていた。

何せ、キリトは大きな、藍鉄色という暗い色の衣を纏っているし、リヒャルトも鞭を蛇のように身体に絡ませた異様な風体であるし、グランはただただでっかいし、ヴァレスの風体もまあ、一般大衆が見慣れたものでもないだろう。

まともなのは唯一、フィルだけであったが、フィルもやはりキリトに借りた大きな弓が奇妙だった。

 

ゆえに、見つかりやすい。

リヒャルトの場合、目立とうと思ってそうしているわけだが。

 

「あ…」

視線に気付き、キリトがそちらを向く。

ソフィア・ロベリンゲがこちらを見ている。

友人だろう。

三人の少女と一緒に、だ。

マズイ…

キリトは思った。

もし、連れたちにばれたら。

特にリヒャルトにばれたら、自分は思い切りからかわれた後精神的に刻まれるだろう。

だが時既に遅し。

「キリト…さん?」

「…久しぶりだな…」

そして、残りの四人の傭兵達が彼女達に気付くまで、そう時間はかからなかった。

 

「へえー。コンテストに参加するんだ―」

ハンナ・ショースキーと名乗った少女が言った。

ショートカットの似合う、ボーイッシュな少女である。

「無謀だねェ」

ぐさりと確信をついたのは、金髪を腰まで伸ばした、それはそれは申し分のない美少女である。

名をレズリー・ロピカーナ、と名乗った。

「無理だと思うなー」

純真無垢にとどめをさしてくれたのが、ロリィ・コールウェルという、三人より幾つか年下と見える少女であった。

その子供の一言に、歴戦の傭兵たちはかっくりと首をおる。

「そうなんだよ…」

「大体無茶なんですよ。何か特典があるわけでなし…」

フィルの呟きに、レズリーが答えた。

「え?知らないのか?賞金出るんだぞ?」

 

「「「「「うぞォ!!!!!!!」」」」」

 

思わず五人の声がハモる。

「き、教官殿は何も…。まさかこれは陰謀!!?」<キリト

「成る程…。傭兵隊の予算確保の手段か…流石はヤング大尉…!」<リヒャルト

「ハンガリアの狼の名は、伊達ではないということですね…」<ヴァレス

ヴァレスの言葉に傭兵たちが神妙きわまる顔つきで頷いた、そのとき。

「妙なところで脅威を感じられても困るんだが…」

いつの間にか、件のヤング・マジョラム大尉が真後ろにいた。

彼は瞬時にその場の状況を分析し、言った。

「ん?ほほう。…お前等隅に置けんな…?まさかこんなお嬢さん方と…」

「や、これはあの、キリトが!こいつがですね!」

妙にむきになるリヒャルト。

ヤングはそれを面白そうに見て、

「そうそう。紹介しておこうか」

「え?」

教官の後ろから出て来た、大人の女性に、傭兵各々はぽかんとした。

四人の少女達も同様である。

「俺の“妻”だ」

ヤングの言葉の数瞬後。

 

「嘘でしょ?」

「妹とか、従姉妹とか」

「いやいや実はご近所の…」

「ってか誘拐?」

 

「おい」

制しなければとめどなく続いてしまう。

そう察知したヤングはとりあえず五人の部下を制止した。

「全く…」

「ほんとなんですか…」

「事実だ」

その後ろで、ヤングの“奥さん”が困ったような笑みを浮かべていた。

「あ…。クレアさん?」

ソフィアが声を上げる。

「知ってるのか?」

「ええ。買い物に行くときによくお会いします」

「ほう」

クレア、と呼ばれた女性はにこりとし、

「クレア・マジョラムと申します。はじめまして、皆さん。いつもヤングがお世話になっております」

「あいやいや、こちらこそ…」

何故か東洋的な、というか日本的な挨拶に、一応この五人中最強のリヒャルトが代表して返答する。

五人がそれぞれ会釈する。

クレアが上品に会釈を返し…。

やることが無くなってしまった。

話題がないのだ。

「ところで」

膠着を破ったのはヤングだった。

「何です?」

「お前達、昼は?」

「まだ摂ってないです」

「そうか」

満面の笑みを、ヤングは浮かべたのだった。

「お譲さん方も、如何?」


二章 各々の演目

 

「美味い!」

思わずリヒャルトが声を上げる。

「五月蝿い。黙って食え」

即、キリトが突っ込む。

「美味いものを美味いといって何が悪い!?」

「お前は五月蝿いのだ!!」

いつものように喧嘩が始まり、

いつものようにグランが止めにはいる。

「やめとけよぉ〜…」

口より先に、彼等を掴んでぶら下げている。

 

「美味しいですねー。本当に」

「ありがとう」

クレアは皆が彼女の作ってきたお弁当を食べ始めてから、ずっとにこにこしている。

連発される「美味い」が、そうさせているのか、どうなのか。

「いやー。ヤング大尉も仕合わせ者ですねー。はっはっは」

フィルがやたらと歳をくったように見える。

「お前も上手いな。おだてても昇進は無いぞ?」

「いやー。それはキツイですねー」

『ははははははは』

そんな二人の様子を見て、ハンナが、

「あれってさ、何が面白いんだろ…ヴァレスさん?」

「私には分かりかねます」

ソフィアはクレアに、弁当の料理の味付けについて質問し、レズリーはなにやらロリィに引っ張られて人ごみに消えた。

そこは、平和だった。

とことん、骨のズイまで平和そのものであった。

 

 

「はあーい、ナイスガイコンテストに出場する人―、こちらにお集まりくださーい」

司会者の声が響いた。

フィルが訊き、

「大尉は参加されないんですか?」

ヤングが答えた。

「ん?俺はな、ああいうのに参加しなくてももてもてで…いや、妻がいるからな。愛すべき妻が」

冷や汗ともとれるものをたらしつつ、ヤングは朗らかな表情で言った。

その横で、キリトとリヒャルトが蒼白になっていた。

「今のは…?尋常ではない殺気だったが…」

「クレア殿か…?」

「馬鹿な…」

「だが…そうとしか考えられん」

「そうだとしたら…彼女はどれほどの修羅場を…?!」

グランの声。

「何やってんだぁー?」

「「今、行く」」

見事に二人の声がハモったのだった。

 

 

エントリーナンバー16から20までが、傭兵達の番号だった。

キリトは一番最後だ。

そして今、控え席で五人は項垂れていた。

「なあ、ヴァレス。お前頭良かったよな?」

うんざりした声でリヒャルトが尋ねた。

「何です?」

「ナイスガイ、ってコトはよ、それなりにナイスな芸をしなきゃならないんだよな?」

「そうでしょうね」

「ならよ…」

リヒャルトが特設された舞台を見る。

「飛び跳ねたり菓子ばら撒いたりケツ振ったりするのがこの国の『ナイス』なわけか?」

「そうですね。きっとこの国の『ナイス』の基準は一風変わっているのです」

「変わりすぎだ…」

少々、常軌を逸したコンテストではあった。

大食いは分かる。まだ分かる。とりあえず“芸”ではありうる。

手品も、まあ分かる。いいだろう。

だが、リヒャルトのうめきの内容を見て、傭兵五人は疲れきっていた。

見るだけで疲れてくる。

「俺、駄目かもしれん」

リヒャルトがぽつりと言った。

「大丈夫だ。俺などまだ何やるか決めていない」

「そりゃマズイだろお前」

キリトへの突っ込みも、いつもの切れが無かった。

 

 

「エントリーナンバー16!ゲルタニアの鞭使い!リヒャルト・ハイゼンン!!!」

エキサイトしまくりの司会者とは裏腹に、醒めた表情のリヒャルトが舞台に上がる。

それなりに整った顔立ちの彼は、するりと鞭を抜き、一振りした。

 

ずぱんっ!!

 

彼の鞭はひらひらと舞っていた木の葉を打ち砕き、跳ね返り、彼の手に戻る。

無論、前座、というか慣らしである。

一瞬、場がざわめき、

「さて…。色煉瓦をもらえるか?五つほど、それぞれ違う色だ」

彼の要求に、道具係が完璧にこたえる。

赤、青、橙、緑、紫の五色に塗られた煉瓦が彼の前に詰まれた。

しょせんレンガなので、五つ積んでも大して高くはない。

何をするのか、と、皆が固唾を飲んで見守る。

 

すぅ……

 

息を吸い、止める。

腰をおとし、姿勢を低くして、

「しッ!」

気合とともに、鞭を振るう。

一番下の、赤のレンガが間横に吹き飛ぶ。

間髪いれずにもう一度手を返し、飛びぬけたレンガを叩き割る!

 

「だるまおとし、か」

 

キリトのいった通り、それは『だるまおとし』だった。

見る間に、右に、左に、色レンガが飛び出し、叩き割られていく。

上に載ったレンガは、全く揺れずに真下に落ちる。

そして、最後の紫のレンガがばかりと割れ、リヒャルトは会釈して舞台を降りた。

 

大歓声。

その歓声の中、次はフィルの番である。

「エントリーナンバー17!スィーズランドの豪弓!フィリオネル・マッシュロイム!!」

「どーもどーも」

てくてくと、キリトから借りた日本国の『籐弓』と呼ばれる長弓を携えてフィルはステージに上がった。

ところどころから、「きゃー、かわいー」などと黄色い声があがる。

「やー、どーもー」

ひらひらと手を振り…。

「大尉!!!」

視界に入ったヤングを指差して怒鳴った。

「なんだ!?」

おやつか何かしらないが、パンをくわえたヤングも怒鳴り返す。

漫才でもはじめる気か、と皆が思った次の瞬間、

「動かないで下さいねー」

フィルが長弓を引き絞り、ヤングが何かいう前に、彼のくわえたパンをぶち抜く。

「…」

「当たったー」

のんきに言うフィルとは裏腹に、ヤングもクレアも目を点にしている。

 

ぶっつんしたヤングにフィルが連行され、しかしそれでも司会者は元気に次の出場者を読み上げる。

「エントリーナンバー18!…って『魔法使い』だけですか…?」

「差し障りはないでしょ」

「まあ良いや…。ヴァレス・エイオン!!!!」

いかにも魔法使い、なヴァレスが舞台に上がる。

観客席の反応もとっても普通であった。拍手と、ざわめき。

「んー。じゃあ、こういうの…」

ぽつりと言って、彼は空を指差した。

「?」

観衆がいっせいに空を見上げ、そして絶句する。

 

先ず喜んだのはこども達であった。

「おかしだー!」

「すげー!!」

その子供の言葉どおり。

空には、正確には雲が、様々なお菓子や、かっこいい騎士の姿を形作っている。

ヴァレスがぱちりと指を鳴らした。

それと同時に、お菓子が消え、雲が集まり、何とドラゴンを形作った。

「わー!!!」

雲の騎士が雲のドラゴンを打ち倒し、そこで雲は元の姿に戻る。

 

ぱちぱちぱちぱちぱち

 

拍手が巻き起こる。

主に子供達から。

ニコニコ顔で、ヴァレスは舞台を降りた。

 

「さて!魔法の次は怪力か!エントリーナンバー19!北欧の怪力巨人!!」

「何だあのキャッチコピーは」

「フィルが考えたそうです」

「グラン・グラハルト!!」

「んだああああああああ!!!!!」

どがどがと雄叫びを上げつつグランがステージに上がる。

「さてグランさん!一体どのような…って何を?助っ人ですか?」

「そ、そんなようなものだ」

ヴァレスが舞台のそばまで来る。

「じゃ、アレですね?」

「おう」

ヴァレスが指をならす。

巨大な、氷の柱がグランの足下から生えそびえた!

「おおおおおっ!!!」

歓声。

「アレってヴァレスのパフォーマンスになってしまうのでは…」

ぽつりとキリトが呟いた。

「があっ!!」

 

ぼっきん

 

「…」

キリトをはじめ、傭兵達、そして観客たちが絶句した。

大人が二人でやっと抱えられるかという極太の氷柱が、

グランの正拳で中ほどからぶち折れたのだ。

皆、ぽかんとしている中、本人は満足そうに、ずかずかと控え所に戻ってきた。

 

「さて!引き続いていってみましょう!エントリーナンバー20!!」

今までが今までだけに、かなり期待のこもった拍手が上がる。

「東洋から来た無限の刃!」

このキャッチは結構良いかもしれん。

そうキリトは思って、懐から何物かを取り出す。

「キリト・カズサ!!!!」

その音声とともに、キリトが舞台に踊り出る。

白刃を引っさげ、顔には恐ろしげな鬼の面を被って。

剣をもっていない左手には、鼓があった。

舞いながら、それを打つ。

打ちながら、舞を舞う。

彼の祖国の舞である。

演目は、『鬼一』といった。

無論ドルファンの人々はそのようなことを知るはずがないが、その舞が、非常に高度な技術を要する、ということは大抵の人間が理解していた。

 

頓…頓々々…

 

舞は続く。

場の全員が、その動きに見とれていた。

 

沌!

 

おとが、終わる。

舞いも、終わった。

キリトは大きな拍手の中、ゆるゆると舞台を後にしたのだった。

 

 

「それでは!!!!」

司会者が声を張り上げる。

「順位を発表します!今年も皆、非常にナイスな男たちが…」

「そうなのか?」

リヒャルトのぼやきが届くわけもない。

「では、第三位!!!」

五人の顔が引き締まる。

「スィーズランドの豪弓!フィリオネル・マッシュロオォォォイム!!!!!」

 

おおおおおおおおおおおおおおっ!

ぱちぱちぱちぱちぱち

歓声と拍手。その中でフィルは少し残念そうに、赤と青の奇妙なグラデーションのついた顔を緩ませた。

「いやー、一位だと思ったんですけどねー」

「上官の口元を射抜いてか…?」

「まあ、そこはそれです」

どれだよ。

という疑問はあえて口にしないでおくキリトであった。

「続いて!第二位!北欧の怪力巨人!グラン・グラハルト!!!」

 

わあああああああああああっ!!

 

ごついからだで小躍りするグラン。それを横目に、

「まずいな…」

リヒャルトは真剣に自分の入選を考察していた。

「さあ、注目の第一位!!」

 

どこどこどこどこ

ぱふぱふ

 

「東洋から来た無限の刃!キリト・カズサ!!!!!!!!!!」

「良し!」

 

キリトがガッツポーズをとる。

「釈然としない…」

リヒャルトが抗議の声を上げた。

「残念だったなリヒャルト。ま、おまえの芸などそんなものということだ」

「私は…」

ヴァレスも不服の表情を浮かべる。

「地味だもんなー…」

いつの間にか後ろにいたヤングの即答に、ヴァレスはがくりと膝をついてしまったのだった。

 

キリトの芸が、もっとも技能を有するものであり、同時にもっとも美しいものであった、というのが審査員達の見解だった。

不幸にも、リヒャルトのそれはあまりにも解らなさすぎた。

何をやっているのか、そしてまた、どれほどの技能が要るのか。

鞭という、珍しすぎる武器を使用したのも駄目だったのかもしれない。


三章 祭り終わりて馬鹿がくる

 

「納得できねぇ…」

まだぶつぶつと文句をたれ続けるリヒャルト。

「あー、耳障りだなー。負け犬の遠吠えというのは」

「何か言ったか」

「べっつにー」

そんなリヒャルトを虐めつづけるキリト。

まあ、いつものような光景だった。

誰もなだめに入らない。

そのうちどちらかが手を出せば――今までそんなことは一度もなかったが――だれも手をつけられないのが判りきっているからだ。

触らぬ神にたたりなし、である。

顔を突き合わせて火花など散らしている二人を尻目に、

ヴァレスは立ち直り、もとより何も気にしていなかったフィルと、ハンナ達とともに人ごみに消えていった。

いわく、

「何か面白いものないか見てきますー」

「迷わないようにね」

「魔法の真の力を見せてきます」

「それは危ないと思うが」

だそうである。

それを聞いていたのは、そして返答したのは、マジョラム夫妻だけであったが。

しばらく、二人でぎゃあぎゃあと争い、疲れてふと我に返る。これも、いつものパターンである。

「けんかするほど仲が良い。とは言うもののな」

「「仲良くなどありません」」

二人が同時に言う。

まるで子供のようなその光景に、ヤングが吹き出した、そのとき、

どがらららららららららららららららららららららららら

白塗りの、やたらでかい馬車が、大尉の後ろすれすれを通り抜けていった。

ちなみにここは本日歩行者天国のはずである。

「…。な…んだぁ?」

ぽかんとし、次に

「大丈夫ですか?」

クレアの、大声ではないが、よくとおる声にふと気づくと、背中から血がにじんでいた。

さっきの馬車のどこかに引っ掛けたのだろう。

かすり傷程度だったが、擦れているため結構痛そうだ。

「あれは…」

明らかに異様な角度で背中に腕を回してさすっていたヤングがつぶやいた。

「エリータス」

ドルファン王国行政府において、『旧家の両翼』と言われる二家の片一方である。

第二席に座してはいるものの、先代が聖騎士であった、ということもあり、首席のピクシス家を十分に脅かし得る存在だ。

そんな大貴族が、なぜこんなところへ…

その疑問の前に、キリトは背筋に何かを感じた。

ここに居るべきではない

本能が告げていたが、これから何が起こるのか、という好奇心に敗れた。

その好奇心は、一応は満たされる。

しかし、その後に続くのは強烈な不快感だった。

「ジョアン・エリータス!華麗に見残!!」

おしくも最後が間違っている。

金髪碧眼、美男子を絵に書いたようなその男は、きょろきょろと周りを見回し、おもむろに、なんと、傭兵たちの方にやってきた。

無論だが、傭兵などが目的ではない。

藍色の陰に隠れるように立っていた、ソフィアであった。

「ソフィア」

歩きながら、歌うような声色で、ジョアン、と名乗ったその貴族は言った。

「今日は僕との約束があったのに…。どうしてここにいるんだい?」

「…忘れていたの…ごめんなさい、ジョアン」

ソフィアの前、つまりはキリトの近くに何故か体をくねらせて彼は立ち止まる。

「まあいい。これから、行けばいいんだからね」

「え……。ええ…」

明らかに、ソフィアは嫌がっている。

どうにも、そこのところがよく判らないようだ。この貴族には。

小さなため息は、貴族に聞こえたらしい。

「何だ?貴様。今のため息は」

「べっつにィ…」

鉄のキセルに、このあたりで採れる香り草を詰めて吸いながら、思いっきり嫌味たっぷりにキリトは言った。

こういう類の男は、どうも好かない。

「ふん。何も知らないようだな」

「知りたくねぇ」

「僕とソフィアはな、婚約者なんだ。フィアンセだよ!わかるか?ええ?わかるのか?」

どうやら興奮してきたらしく、嬉々とした表情でキリトに詰め寄るジョアン。

あろうことか、胸倉までつかみあげている。次は拳でも出そうかという勢いだ。

下手なことをしてくれるなよ

そういう、ヤングの思いは無残にも叩き砕かれた。

真っ赤に焼けた鉄キセルを以って。

ぺちん

呆れ顔で、キリトは、熱くこげたキセルを一瞬だけ、ジョアンの額に叩き、こういった。

「掴むな」

途端、ジョアンの顔がみるみる紅潮してくる。

どうやら怒っているらしいが、どうもそうではなく駄々をこねる子供のようであった。

キセルで叩かれたところがほかの部分より少し赤くなっている。

「きっきっき…貴様ァ!!!!何をする!?僕はジョアン・エリータスだ!聖騎士・ラージン・エリータスの血を引く騎士だぞ!!!」

が、それに続くキリトの声は、剣の柄に手をかけたジョアンを完全に圧倒した。

「我が名は稗屋上総守吉光が嫡流!斬九郎靖守なるぞ!!」

その家系の凄さが、ジョアンには解らず、そしてエリータスの重さをキリトも理解はしていなかった。

一つ、言えるのは、キリトのその気迫に、ジョアンは腰を抜かし、少なくともその場は東洋人が収めた、ということだけだ。

無論、キリトは、それがどういった意味を持つかなどまったく考えていなかったが。


あとがき

 

こんにちは皆さん。くりくりぼうずでございます。

どうも祭りという感じが出ない…。収穫祭にかけるか。(おい

 

ところで、最後のほう、キリトが名乗りをあげますが、「斬九郎靖守」が彼の本当の名前です。ええ、九男です。

フルネームを正確に書くと、「ひや ざんくろうやすもり」となります。

ちなみにお父さんは、「ひや かずさのかみ よしみつ」です。

ちょっと説明すると、父親が死んで、口減らしのような感じで疎まれていた彼は、その家にいるのが嫌になり、父の遺した家宝の刀をもって欧州に渡航。

その際、父の官職であった「上総守」と、自分の名前の一字を取って、「上総斬人」と名を変えたのでした。

そういうわけです。

ちなみに戦場では、「我は上総斬人なるぞ」といってます。

今回は、ジョアンが自分の血統を名乗ったため、こういっただけです。

 

そして彼はタバコも吸います。鉄のキセルで。すぱすぱと。頻繁にではないが。

「香り草」、といいましたが、まあ煙草と考えてください。なんとなくです。なんとなく。

 

演目とかも、適当です。詳しかったらもうちょっと書き込めるんだがな…。

 

リヒャルト・ハイゼン  二十六歳 A型 男 ゲルタニア生まれ

赤髪碧眼の鞭使い。

鍛えぬかれた体躯から振るわれる鞭は板金鎧すらもひしゃぐ力を持つ。

キリトとは犬猿の仲ながらも、「喧嘩するほど仲がよい」を地で行く。と、周囲では言われている。

 

グラン・グラハルト  二十一歳 B型 男 アイルランド生まれ 

怪力の巨漢。

少々人とずれたところがあり、喋り方も、どもったり、妙なところで伸ばしたりする。

が、知能指数自体はけして低くなく、むしろ高い。学問分野など、魔法使いたるヴァレスに迫るものがある。

文武両道、気はやさしくて力持ち、を体現する男。でもやはり抜けている。

 

それでは。

次回は戦…。


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