8話「それぞれの道」

4.カタギリ


「ねえねえ、手紙が来てるよ」

「手紙?もしかして、カイティからか?」

「果たし状…って書いてあるから、違うよ」

「じゃあ、あいつか?…でもなあ…」

 カタギリは届いた手紙を読み始めた。カタギリの予想通りのことが書いてあった。

「…」

(「今宵、銀月の塔で決着を」…か)

「あのジョアンから果たし状かぁ…なんか、裏がありそうだよね…」

 ピコはカタギリの顔をうかがった。何かを考えている。

「…どうしたの?」

「ん?ああ…ジョアンは、まだ、あのことを知らないのかなって…」

「あの事って…2週間前のこと?」

 

 まだ、ソフィアが爆弾テロの被害によって入院していたときに、病室を抜け出して浜辺まで行ったことがあった。

 浜辺に着いたのは夜。そこで、アンと出会った。

「アンさん…好きなんですね…彼のことが…」

「ソフィア…さん?」

「カタギリさん…彼女の気持ち、受け止めてあげてください…」

「で、でも、それじゃあソフィアさんが…」

「いいんです…私には婚約者がいますから…」

「ソフィア…さん…」

「カタギリさん…さよなら…」

 ソフィアは、最後にその一言だけ言うと、カタギリとアンに背中を向け、街の方に消えていった。

「カタギリさん…気付きましたか…?彼女、私のために、彼女自身の気持ちを…」

「…」

 カタギリは先ほどからずっと自分の足下の地面を、もしくは虚空を見ている。アンの質問は耳に届いてないようだった。

「私…ソフィアさんの所に行って来ますね…」

 アンも浜辺から姿を消した。

 カタギリが宿舎に帰りだしたのは、もうしばらくしてからだった。

 

 翌日、ソフィアがカタギリの部屋に訪れたが、「今まで、いろいろとありがとうございました…」とだけ言って、帰ってしまった。

(ソフィアは俺と別れたんだ…そういう方向での決着をつける必要は…無いだろう…)

「…どうするの?」

「…行くさ…」

「ホントなの!?どうして!?」

 予想してなかった答えにピコはカタギリに詰め寄った。

「そんなに慌てるなよ、ピコ…まだ戦うと決まった訳じゃない…」

「えっ?」

「問題は、何のために戦うか…だ」

「?」

「騎士として…つまり、腕試し。もしそうなら、受けるつもりだ…」

「ソフィアを…彼女をめぐって…だったら?」

「2週間前のことを聞けば、あいつだってわかるだろう…戦うのが、無意味だって…」

「そっか…」

 一通り会話が終わって、少し静かになったところに双子の声が聞こえた。

「カタギリ!食材の買い出し手伝ってくれ!」

「んん…?レン…か?」

 ドアを開けた後カタギリがそう言うと、双子の片割れはうなずいた。

「シンは…?」

「なんか…『用があるから』って言ってどっかに…」

「…わかった。宵の時まで暇だからな…」

「…お前も何かあるのか…まあいい、じゃ、行こうぜ」

 

 

 宵の刻。

 カタギリは剣を持って銀月の塔に向かった。

「よく逃げずにやってきたな、東洋人!」

 レリックス駅の辺りで、この国で数度、会ったことのあるジョアンの部下の、チンピラ達と出会った。

「ぐへへへ…おっと、勘違いするなよ…お前さんが加勢を頼んでないか、確かめるだけだ」

「どうやら、あんた一人のようだな…オーケイ、通っていいぜ」

「…」

 カタギリは無言のまま、銀月の塔へ歩いていった。

「…来たか…」

 ジョアンは銀色の鎧を着込んで、頂上で待っていた。

「まずは今宵の決闘における、立会人を紹介しよう…」

 そして出てきたのは、ソフィアだった。

(…!)

「東洋人…覚悟はいいか…?」

「待」

「ジョアン、止めて!こんな事しても、しょうがないでしょう!?」

 カタギリの言葉はソフィアの声にかき消された。そのソフィアの声に、ジョアンは顔をしかめた。

「しょうがない…?そんなことあるものか!」

 ジョアンはソフィアに対し、激しい剣幕で怒鳴りつけた。

「ソフィア!君はこの東洋人が好きなんだ!この僕を見ていないっ!」

(…)

 カタギリは少し、寂しい顔をした。

「僕のどこがこんな奴に劣るんだ!?こんな傭兵ふぜいの東洋人に、エリータスに生まれたという僕が!」

「…」

 ソフィアは、答えなかった。

(…それさえ、その貴尊般卑の性格さえなければ、ソフィアはお前のことを…)

好きになっていただろうな、とカタギリは思った。

「ソフィア…き、君も思ってるんだっ!ぼ、僕が、ママの…マリエル・エリータスの、操り人形だって!ただの…木偶人形だって!」

「違う!ジョアン…なぜ」

「黙れえっ!」

「聞けっ!」

「う…う、うぅぅ、うーーーーっ!」

「ジョアン!?」

 ソフィアの驚きの声をかき消すかのように、ジョアンは絶叫している。

「ぼ、僕はマリエルの人形…ちち違うっ!さ、最高の聖騎士、ラージン・エリータスの息子だあっ!」

(く…説得は、無理か…?)

「う、うう、うううぅぅぅーーーーっ!!」

 ジョアンは絶叫しながら剣をかまえた。

「…行くぞ、ジョアン…残念だが、今のお前を止められるのはこれしかないようだからな…」

 カタギリも抜刀した。ソフィアに避難を促して、ゆっくりと緊張の度合いを高めた。

「うう…うううぅーーーーっ!」

「行くぞっ!」

 戦いが、始まった。


血闘(けっとう)

 

「うううぅぅーーーっ!」 ジョアンの剣が頭の上をかすめた。

(攻撃自体は適当なんだがな…なかなか近づけないな…)

 やたらめったら剣を振り回すので、ケガを覚悟しなければ攻撃しに行けない。

(…さて、行くか!)

 上からの剣撃を剣身を使って右側に受け流し、右から左への返しで一撃入れた。血が少し飛び散った。

「う、う、うわああぁぁーーーーーっ!」

(!!興奮して、さらにめちゃくちゃになりやがった!)

 カタギリはいったん離れて距離をとったが、ジョアンはまだ剣を振り回していた。完全にパニックになっている。

(…やるしか、ない!)

 カタギリは剣をいったん鞘に収めた。

(一瞬で相手を制す…それがこれだったな…)

 本で一度だけ見たことのある技、居合い。練習はしていたが、実用までには到らず、ドルファン・プロキア戦争は終わってしまった。

(本にあったとは言っても…紹介だけだったからな…)

 ジョアンが剣を振り回しながら近づいてきた。

(けど、賭けなきゃな!)

 あと7、8歩のところでカタギリは地を蹴った。ジョアンの剣は振り下ろされて、ちょうど上にあがり始めるところだった。

「たああぁっ!」

「う、う、うわあぁぁっ!」

 本の通りに、鞘から一気に剣を抜いて、ジョアンを「叩く」。

 頭の上に剣を持っていったジョアンのがら空きだった腹に、剣身が当たった。

「ううっ…」

「あんたが死んだら、悲しむ人がいるんでな…刃の逆側だよ…」

「う、う、ううう、うーーーーーっ!」

 ジョアンの動きは止まらなかった。

「うぐっ?」

 これで終わったと思っていたカタギリは、油断していたところを、ジョアンの剣で自分の剣をはじかれてしまった。

「死ぃね死ね死ね死ね死ね死ねぇゃーっ!」

「ぐあああぁっ!」

 至近距離でだされた「サウザンド・キル」をかわすことは不可能だった。

「くっ!」

 正確な攻撃をしてこなかったのが幸いした。かなりの切り傷を負ったが、致命傷にはならなかった。

(…一撃じゃダメだ。動けなくさせなきゃ…)

 剣を拾い、先ほどの居合いの構えをとる。

 再び、カタギリはジョアンの懐に飛び込んだ。左上から剣が来たが、剣がとどくよりも速く、飛び込むことができた。

「はああっ!」

 剣で叩くだけではなく、殴り、蹴り、体当たりする。ジョアンの体は2、3メートルふっとんだ。

「う、うう…」

 ジョアンの動きが、止まった。

「ま、負けた…パパの、聖騎士の血を受け継ぐ僕が……僕は、ダメなのか?みんなが陰で言うように、ママの操り人形なのか?」

 まだ少し、気が動転しているようだ。

「もういやだーーーーっ!殺せぇぇ!僕なんか殺せぇぇっ!」

 そう絶叫したジョアンとの間に、一つの影が割り込んできた。

「!!」

 割り込んできた人影はソフィアだった。

「カタギリさん…勝負はつきました。貴方の、勝ちです…だから、もう、剣を収めてください…全て終わりにしましょう…」

 カタギリは鞘に入っている剣に添えていた手を、離した。

「ジョアン…私、貴方のもとへ行きます…もう、誰も苦しめません。父も…貴方も…」

「そ、ソフィアぁ…」

「カタギリさん…今日まで、本当に楽しかったです…貴方に会えて、本当に良かった…」

 少し寂しい微笑みを浮かべながら、ソフィアは喋った。

「私、いつからか…私、貴方のことが…でも、でも…」

 ソフィアの目には、涙が浮かんでいる。微笑みも、消えていた。

「ごめんなさいっ!」

 涙を浮かべたまま、ソフィアは走っていってしまった。

「東洋人…僕は、貴様に勝ったのか…?ソフィア…泣いてた…」

 そう言うと、ジョアンはゆっくりと帰っていった。

 

(誰も苦しめません…か…)

 空を見上げた。星が、いつも通りに輝いていた。

(………)

 カタギリは、宿舎へと帰っていった。

 

 3月8日、カタギリの決着は、ついた。


あとがき

 

 ソフィアファンおなじみのイベントが終わりました。

 初期プレイ時、ヴォルフガリオになぶられて(防御が低かったので、ガードしても15前後くらった覚えが…)HP130ぐらいでジョアンに挑み、HP4ぐらいで勝った覚えが…

ジョアン「殺せぇぇっ!」

 瀕死なんだから、東洋人。無理です。やろうとすれば病院行きです。

ソフィア「貴方の…勝ちです…」

 いや…ほぼ相打ちだろ、これは。などとつっこんでました。どうでもいいですね。はい…

 初期プレイ時は、ソフィアねらいの方が多かったと思いますが、この「連戦」、どうくぐり抜けましたか?

 余談ですが、友達に「みつナイ」を貸したら、5回連続、ソフィアのバッドエンディングを見たそうです(理由はアンと知り合わなかった)。

 ジョアンとの戦いには5回全部勝ったらしいのに…

 

 さて、次回で終わりです。とりあえず各キャラとのグッドエンドを迎える予定です。

 まあ、がんばります。では。

 

星輪


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