第二話「家族の温もり」


 

その日、早めに起きたシュン・カタギリは、ランニングがてら町を散策する事にした。

この習慣は、欧州に来てからついたものである。スィーズランドにいた頃、同じように早起きして散歩をしていた時、公園では知っている老人にであった。興味を持ったシュンは、暫く側でその老人を見物していたところ、「一緒にやらないか?」と誘われたのだ。以来、早起きした時はこうして走るようにしているのだ。

「ふ〜」

しばらく走った後、シュンは大きく息をついた。既に小一時間は走っている。長旅で低下していた体力も、順調に回復しているようだ。日々ヤングにしごかれているのだから、当然と言えば当然の話である。

あの、初日の適性テスト以来、ヤング・マジョラム大尉は何かに付けてシュンに目を掛けてくれるようになった。実技訓練においては、あれこれと適切なアドバイスをしてくれるし、シュンの最も苦手な教養課程においても、いろいろと便宜を図ってくれている。ヤング自身が何を考えているのかは分からないが、シュンにとってはありがたい話である。そんなヤングの期待に応える為にも、がんばろうと言う気合が湧いてくる。

『お疲れ様。たまにやれば君も頑張るよねえ』

 シュンの肩に舞い降りたピコが、笑顔を浮かべながら言った。

「…………何だか、含みのある言い方だねピコ」

『褒めてるんだか、少しは喜びなよ』

「はいはい」

 シュンは苦笑して返事をすると、部屋から持ってきた水筒に入っている紅茶を口に含んだ。

 早朝だけあって、公園の中は静まり返っている。まるで、元々この世界の住人が誰もいないかのように、静寂だけが辺りを支配していた。

「よし!」

休憩を終えたシュンは、立ち上がってランニングに戻ろうとした。その時だった。

「シュン君?」

突然名前を呼ばれて振り返ると、そこには茶色いロングヘアをした少女が立っていた。

「ソフィアさん!」

以前港で助けた少女に偶然再会でき、シュンは顔を輝かせた。

「どうしたんですか?こんな朝早くに?」

「うん。今日は学校で飼っているウサギの世話をしなければいけないから、少し早く家を出たの」

そう言って、ソフィアはシュンを見た。

「シュン君こそ、こんなに朝早くどうしたの?」

「僕はランニングをしているんです」

「そう、偉いのね」

そう言って、ソフィアはニッコリ微笑む。

「私のお友達にも、走るのが好きな娘がいるから、今度紹介してあげようか?」

「え?いいですよ。僕だって毎日やってる訳じゃないですし」

「そうなんだ」

それから2人は、歩きながらいろいろと話をした。

「訓練って、大変?」

「はい。でも、友達もたくさんいますし」

「友達って、シュン君と同い年の人?」

それを聞いてシュンは笑い出す。

「いいえ。みんな、僕より年上の人達ばっかりですよ」

「そうなんだ」

「でも、みんないい人達ばっかりです」

それを聞いて、ソフィアは不思議そうな顔をした。

傭兵とは世間一般では戦場のハイエナとして忌み嫌われている物である。当然ソフィアも、そんな傭兵に対して、荒くれ者の集団というイメージがあった。

しかし、目の前の少年は、そんな彼等を「いい人達」と呼んだ。それがソフィアには不思議に思えた。

「それに、教官にヤング・マジョラムって人がいて、僕によくしてくれるんです」

「その人なら知ってるわ。ドルファンで最強の騎士って言われてる人よね」

「はい、そうです」

「シュン君って、そんなすごい人に教えてもらってるんだ」

ソフィアが、そこまで言った時だった。

「ぼ〜くの〜、愛しのソ〜フィア〜……」

どこからともなく、歌声が聞こえてきた。

「はっ……」

その歌声を聞いて、ソフィアは明らかに脅えの表情を見せた。

「どうしたんですかソフィアさん?」

「ごめんなさいシュン君。わたし、いそいでいるから。それじゃあ!」

「あっ、あの!」

それだけ言うと、シュンの制止も聞かずソフィアは走り去った。

「……どうしたんだろう?」

シュンは首をかしげる。

するとソフィアと入れ替わりに、派手に着飾った青年が現れた。

「うん?さっきまでここにいたと思ったのだが?」

青年は辺りを見回してから、不思議そうな顔でたたずむシュンに駆け寄った。

「おい貴様!」

「?」

「貴様だ貴様!」

シュンはきょろきょろと辺りを見回してから、自分の顔を指で指した。

「貴様の他に誰がいるのだ東洋人!」

「さあ?」

シュンはそっけなく言葉を返した。青年は身なりからして貴族の一員、それもかなりの良家の出身かと思われるが、それを差し置いてもいきなり「貴様」呼ばわりされて気分がいいはずはない。

「貴様、僕を馬鹿にしているのか!?」

「いいえ、別に」

シュンはそう言って、そっぽを向く。

それに構わず、その青年は話を続ける。

「今、ここに茶色いロングヘアで、色白の少女はいなかったか?」

ソフィアの事だ、と一瞬で思い至った。しかし、ここまで頭ごなしに言われて素直に教えてやる義理はない。

「ああ、その娘なら、あっちに行きましたよ」

そう言って指差したのは、ソフィアが走り去ったのとは反対の方向だった。

「よし、待ってろソフィアァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

それだけ言うと、青年は砂埃を上げて走り去った。

「…………何だろう、あのおじさん?」

『さあ?』

後に残ったシュンとピコは、ただ首をかしげるだけだった。

 

 

「なるほどなあ、そんな事があったのか」

シュンの隣の席についた、エミール・シュテルハインが朝食の弁当をつつきながら言った。このシュンより四つ年上の少年とは妙に馬が合い、こうして友人関係を気付くに至っている。

ここは教習所にある教室である。本日の午前中のメニューは教養課程となっていた。

「なんでああいう人が、この世にいるんでしょう。あれじゃあ、僕じゃなくても腹が立ちますよ」

「まあまあ、そういきり立つなって」

エミールは、わんぱくな弟をたしなめるような口調でシュンをなだめた。

「お前も知ってるだろ?」

「何がですか?」

「この国の騎士団。特に貴族連中が勝手に名乗っている『自由騎士』って連中の事さ」

自由騎士とは世襲制の騎士の事で、祖父や父親が階級の高い騎士であった場合、その息子や孫はそのまま世襲で騎士になれると言う制度である。昔からプロキアとの国境紛争が絶えなかったドルファンは、まず貴族自らが戦場に立つ事によって、前線兵士の士気を高める事を目的にしてこの制度を作った。その為、自由騎士となった者は否応無く前線に立つ事になったのだ。しかし近年、貴族階級にある者達は、その特権を利用して兵役を免れ、それでいて自由騎士を名乗る者が後を絶たない為、騎士の権威のみが先行する形となってしまっている。

「かつて、ドルファン騎士団と言ったら『陸戦の雄』っていう異名で呼ばれてたんだ。その強さは南欧圏最強とまで言われていた。だが、あの、自由騎士とか言う連中がのさばるようになってから、その威光は日に日に衰えていったんだ」

「そうだったんですか」

シュンは感心したように息をついた。東洋出身のシュンは、当然ドルファンの歴史など知るはずはない。それを聞かされて、シュンは瞳を輝かせた。

「なあ、シュン」

エミールは、改まった口調でシュンに話し掛けた。

「俺はな、実を言うとヤング大尉に憧れてるんだ」

突然そんな事を言われて、シュンはキョトンとした顔でエミールを見る。

「ハンガリアの狼と呼ばれたあの人のように、強くなりたいと思っている。そして、ゆくゆくは大尉のように、この国の騎士に仕官しようと思っている。その時は、内部に巣食う腐りを取り除くつもりだ」

自分の夢を語ったエミールの瞳は、どことなく輝いている。

「お前も、何か夢はあるのか?」

「え?ええ……まあ……」

エミールに質問されて、シュンは口篭もる。

「何だよ、もったいぶるなって。俺も教えてやったんだからよ」

「そっ、そうですね……」

シュンが口を開きかけた時だった。

「は〜はっはっはっはっはっ!」

突然耳障りな声が、廊下から聞こえて来たと思ったら、教室のドアがガラッと開き、シュンにとって見覚えのある青年が入って来た。

「あっ、今朝のおじさん」

「ほう、いかにも間抜け面だな」

そんな二人の会話などつゆ知らず、青年は一人でしゃべり続ける。

「傭兵は哀しいな。僕のようにうまれついての騎士ならともかく、このような場所で勉学に励まなくてはならないとは」

そう言うと、まるで舞台俳優のように額に指を押し当てる。

「まあ、せいぜいがんばって戦場で屍をさらしてくれたまえ!は〜はっはっはっはっは!」

そこでシュンは挙手をした。

「質問がありますおじさん」

「誰がおじさんだ!僕はまだ二十歳だぞ!」

青年は怒りの目をしてシュンを見る。しかし、そんなしぐさもどことなく……いや、かなり滑稽だ。

「ん?よく見れば今朝の東洋人の子供ではないか。僕に質問とは何だ?」

「はい。おじさんはいったいどなたなんですか?」

「だからおじさんではない!しかし、その質問は良い」

そう言って、青年はバッと腕を振って格好を付けると、自分の姓名を名乗った。

「耳の穴を掃除して良く聞け!僕こそはドルファンの名家、エリータス家の三男、ジョアン・エリータスだ!さあ、僕の前にひれ伏すがいい!」

『決まった』などと心の中で思っている事だろう。しかしそれを聞いても、シュンはキョトンとしたままだ。

「エミールさん。エリータス家って何ですか?」

それを聞いて、ジョアンは崩れ落ちた。

「旧家の両翼って言ってな、このドルファンの政治を司っている貴族のお偉いさんのうちのひとつだよ。まあ、こいつは三男だから、いわゆる『無駄飯食い』だな」

「エミールさん。それを言うなら『冷や飯食い』ですよ」

「そうだったか?」

「ふっふっふっ、ふざけるなあ!!」

シュンとエミールの会話に逆上したジョアンが、拳を振り上げる。

しかしその拳は、背後から何者かに捉まれた。

「なっ、何をする!!」

思わず振り返ったジョアンの目に、ヤングの顔が映った。

「やっ、ヤング大尉…………」

「授業の邪魔なんだがなあ……おじさん」

「ぐっ……」

家柄こそジョアンの方が上だが、実力、階級ともにヤングの方が勝っている。第一、くぐってきた修羅場が違いすぎる。ジョアンはすごすごと退散していった。

それに変わって、ヤングは教壇の上に立った。

「お前達、あいつの事は気にするな。ああいう輩が多いから、この国の騎士団は腐っていく一方なんだ」

それだけ言うと、ヤングは教本を開いて授業を始めた。

 

 

 その日の訓練も過酷を極め、シュンの若さあふれる肉体はいやが上でも酷使される結果となった。

「ふ〜……疲れた」

 訓練も終盤に差し掛かり、シュンは休憩を採る為に訓練場の裏手にある木の下で横になった。ここは訓練場内でもシュンしか知らない穴場である。訓練で疲れたときなどは、よくここに来るのだ。ちなみにピコは一人で遊びに行ってしまい、この場にはいない。

 今日もヤング大尉に搾られた。素振り1000回にトラック走りこみ20周と、主に体力関係を中心に鍛えられた。最初にシュンと立ち会ったヤングは、その一回だけの立会いでシュンの持久力が低い事を見破られてしまったらしく、そこを徹底的に鍛えるように言われてしまった。

「ふ〜」

 シュンはもう一度大きく息をついた。

 この国はもうすぐ戦争状態に入るかもしれない。ドルファン暦二十六年五月、傭兵騎士団ヴァルファバラハリアンを先鋒としたプロキア公国は、一気にドルファン国境線を突破、国境都市ダナンを占拠した。これによりドルファンはプロキア迎撃の拠点を失い、戦局は著しく不利なものになるはずだった。しかしここで、天はドルファンに味方した。プロキア公国で政権交代が起こり、それまでプロキアの支配者だったフィンセン公王が政権を追われて亡命。代わって政権についたヘルシオ公王は、ドルファンとの戦争を継続する意思は無く、戦争の気運は一気に遠のくかと思われた。しかしここで、事態はさらに二転した。プロキア軍に先んじてダナンを占拠したヴァルファバラハリアンが、プロキアからの撤収命令を無視してダナンを占拠し続けていた。その兆候は六月に入っても続き、下旬までに何らかの動きが無かった場合、軍の出動もありうると考えられていた。

「……戦争……か」

 風に揺れる木の葉を見つめながら、シュンは呟いた。

「どこに行っても……戦争は終わらないんだね……」

 夏に向かう温かい風が、シュンの頬を軽く撫でて行った。

 その時だった。

「!?」

 シュンの耳に、かすかに悲鳴のようなものが聞こえてきた。

「これは……女の人の声。それも複数だ!」

 シュンは勢いつけて立ち上がった。

 丁度そこへ、エミールが歩いてきた。

「なんだシュン、こんな所にいたのか?カードの頭数が足りないんだ。ちょっと付き合えよ」

「すいません!」

 それだけ言うとシュンは訓練用の剣を取り、二メートルはあろうかと言う柵を一足で跳び越した。

 

「こっ、こわいよう。お姉ちゃん……」

「だっ、大丈夫だよロリィ」

「この!あっち行け!」

 三人の少女が、複数の野良犬に囲まれている。必死に犬を追い払おうとしているのは、髪をショートにしたボーイッシュな少女、その隣で小さい子をかばっているのは、ブロンドの少し癖のあるロングヘアの少女、そして最後の一人はピンク色の髪をツインテールにしている。

 最近ドルファンでは飼い主が犬を捨てるケースが多く、こうした野良犬が増えているのだ。

 三人は徐々に壁際へと追い込まれる。

「おい、ハンナ。ここは私が何とか食い止めるから、あんたは誰か助けを呼んで来な!あんたの足なら振り切れるだろう!」

 ブロンド髪の少女が、ハンナと呼ばれたショートヘアの少女に言った。

「無理だよレズリー!犬のほうが早いんだから。それに、二人を置いてはいけないよ!」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」

「お姉ちゃん。ロリィ怖いよう」

 レズリーと呼ばれた少女の腕の中で、ロリィと言う少女が目に涙を浮かべて震えている。

 その時、ついに野良犬の一匹が三人に襲い掛かった。とっさに目をつぶる三人。

 しかし次の瞬間、「ギャン!」と言う声と共に野良犬は吹き飛んだ。

「え?」

 三人の前に、腰まで達する黒髪を一本にまとめた少年が立っている。その手には銀色に光る剣が握られていた。

「大丈夫ですか?」

 シュンは後ろ目に、少女達の無事を確認する。どうやら目立った外傷は無いようだ。

「あっ、あんたは一体?」

「……すぐに済みます」

 そう言うとシュンは、野良犬たちに切りかかった。訓練用の剣は刃引きがしてあり余程のことが無い限り斬れる事は無い。それでも当たれば相当な打撃になる。

 シュンの斬撃を喰らった野良犬は、そのまま三メートル以上吹き飛ぶ。

 その光景に恐れをなしたのだろう。他の野良犬たちはすごすごと退散して言った。

 しかし中に、あきらめの悪いものが一匹おり、その犬はハンナに襲い掛かった。

「ああ!」

 シュンは初動が遅れて、間に合いそうに無い。ハンナの顔が恐怖に引きつった。しかし、

「おらよ」

 突然現れたエミールが、野良犬の腹を蹴り飛ばした。

「エミールさん!」

「ったく、一人で先走りやがって。こう言う事なら俺に声を掛けていけっての」

「すいません……」

「まあいい」

 そう言うと、エミールは何とかショックから立ち直った少女達に向き直った。

「怪我は無いか、お嬢さん達?」

「あっ、ああ」

「何とか……」

「ありがとう、お兄ちゃん達!」

 三人は、口々に礼を言う。

「礼ならこいつに言ってくれ。こいつが気付かなきゃ俺は助けに来れなかったんだからな」

 それを聞いて、少女達はシュンに向き直る。

「ありがとう。ほんとに助かったよ。あっ、ボクはハンナ・ショースキーって言うんだ。よろしくね!」

「あたしはレズリー・ロピカーナ。助けてくれて、サンキュー」

「ロリィ・コールウェルだよ。助けてくれてありがとう!」

 三人はそれぞれ自己紹介をした。それに対して、シュンとエミールも自分の名前を名乗る。

「俺はエミール・シュテルハイン。傭兵をしている。んで、こっちが……」

「シュン・カタギリです。よろしくお願いします」

 それを聞いて、三人は顔を見合わせる。

「あれ、シュンってさ、東洋の人か?」

「はい?そうですけど?」

 それを聞いて今度は、三人の顔に笑顔が浮かぶ。

「ああ!やっぱり!ソフィアが言っていた子だよ!」

「え?ソフィアって……」

 思いがけず知り合いの名前が出てきて、シュンは驚く。

「ロリィ達ね、ソフィアお姉ちゃんとお友達なんだよ!」

「え?そうなんだ」

「ついでに言うと、あたしとハンナは学校のクラスメートさ」

 そう言って、レズリーは笑う。

「いやあ、ドルファンも狭いねえ」

「そうですね」

 つられて他の四人も、笑い出した。

 

 

「そうか。それは大活躍だったな」

 そういうとヤングは、手に持ったグラスに口をつけた。

「はい。本当に人の縁って不思議ですね」

 シュンはそう言って笑った。

 ここはシーエアー地区にあるヤングの自宅である。シュンはヤングに誘われて夕飯を食べにきていた。

「はい、料理ができましたよ」

 奥のキッチンから、ヤングの妻のクレアが、鶏肉のシチューを運んできた。

「ありがとうございます。クレアさん」

「いいえ。この人が部下の人を連れてきたっていうからどんな人かと思ったら……」

 そう言ってクレアはクスクスと笑う。

「こんなに可愛い子だったなんて」

「はあ……」

 そう言うとシュンは、頬を赤く染める。それを見てヤングは苦笑する。

「おいおいクレア。あんまりシュンをからかうなよ」

 そう言うとヤングはシュンに向き直る。

「さあ、遠慮しないで食えよ。自分の家だと思っていいぞ」

「はっ、はい!頂きます!」

 そう言ってシュンは、シチューを口に運ぶ。

「すごく美味しいです!」

「ありがとう」

 そう言ってクレアはニッコリ微笑む。

「私達も、シュン君のような子供が欲しいわね。あなた」

「おいおい」

 それを聞いて、ヤングは苦笑する。

『いいなあ……』

 シュンは、心ひそかに思った。

 十歳になる前から戦場を駆け回っていたシュンは、こうした家族のぬくもりを久しく感じていない。その為、この二人の光景がとてもうらやましく思えた。

「どうした、シュン?」

 そんなシュンの様子に、不審を抱いたヤングが尋ねる。

「いっ、いえ、何でもないです!」

 シュンは慌てて答えた。

「何でもないっ、て顔じゃないな」

 シュンの表情の曇りを見て取ったヤングは、なおも尋ねる。

「あの……教官……」

「何だ?」

 口を開いたものの、先の言葉が続かないシュン。

 それを見てヤングとクレアは互いに顔を見合わせて微笑むと、シュンに言った。

「なあシュン」

「はい?」

「お前さえ良ければ、これから時々うちに飯を食いに来ないか?」

 それを聞いて、シュンの顔は輝いた。

「良いんですか!?」

「ええ、良いのよ」

 クレアが言った。

「私も、料理を食べてくれる人は多いほうが作り甲斐があるし」

「あっ、ありがとうございます…………とってもうれしいです……」

 シュンはそう言うと、目の縁が熱くなるのを感じた。

「あらあら。どうしたの?」

 クレアは慌てて、ハンカチでシュンの目を拭う。

 

「すいません……みっともない所見せてしまって」

「いいのよ」

 そう言って、クレアは微笑む。

「そうだぞシュン。これからは、ここを自分の家だと思え。俺達も、お前の事を息子だと思って接することにする」

 そう言って、ヤングはシュンの頭に手を置く。その手は、武術をたしなむ者の宿命としてとても硬かった。しかし、それも増してヤングの温かみが伝わってきた。

「ありがとうございます……教官……クレアさん」

 

 

 この日、シュンはドルファンにおける『家族』を得た。それは、長く逃亡生活を続けるシュンにとって、やっと得る事のできた小さな、本当に小さな陽だまりだった。

 しかし、時代はそんなシュンの喜びを嘲笑うかのように混迷へと船出しようとしていた。

 

 

第二話「家族の温もり」 終わり


後書き

 

こんにちは、ファルクラムです。

 

今回は沢山の女の子を登場させて見ました。

ようやくみつナイっぽくなってきました。

あと、どれくらい女の子が出るのかは、はっきり言って不明です。

もし、本命の女の子が出なくても、どうか恨まないでください。それでは、また。

ファルクラム


第三話へ

 

第一話へ戻る

 

戻る