第5章「恋」


──嘘だろう?

俺はベットの上で体をのばしながら自問自答した。ベットはやや窮屈で、のばすと足首の辺りから外へ飛び出す。

(いや、俺がでかいのか?)

(小さいのは)

ため息をついて、起き上がる。

ゆっくりと歩き去っていく、ライズの背中。

小さくて──そう、きゃしゃだったのだ。元々。態度が大きいからそんなこと意識しなかったが。

ランプの光がいやに眩しい気がして位置をずらす。

光がベットの隅へと移動する。それでも部屋の四隅だけは落としこんだように暗い。

抱いた肩も、気が抜ける程細くて柔らかな──…俺は手をみつめ、おもむろに頭をかきむしった。

(……何をばかなことを)

 

 

薄暗がりのなかを一歩一歩、踏みしめるようにして私たちは歩いた。王宮の占いからの帰り道、言葉がみつからなくて、黙ってただ歩き続けている。

明日からはまた闘いの日々だ。

私は彼の広い背中をみつめた。手の届く近さにありながら、どうしても手をのばすことの出来ないそれを。

「ねえ、ひとつ聞いてもいいかしら」

何だ、と振り返った彼の目はどこまでも穏やかだ。

「もし、あなたと私が敵として出会ったら……あなたは、私を斬る?」

私はその目をみつめ返した。

……私の心なんて、どうだってよかった。

斬る、と言って。

俺もお前も剣士だろう、と。

そうすれば、少なくとも毎夜のこの手の震えは収まるだろう。

ソフィアの暖かな笑顔が脳裏に浮かんでは消える。

拳をぎゅっと握る。硬い革の感触。

(手袋)

(血を吸ったような深紅の)

……私はもう、普通の娘になどなれはしないのだから。

マクラウドは静かに告げた。

「……斬れないだろうな……」

私は口唇をかんだ。しびれているがかすかに痛い。

「騎士らしくもない答えね。──私は斬るわ」

「だろうな……」

そんな。

「分かっていて斬らないと言うの?私はあなたを斬るのに、あなたは私を斬らないというの?」

矢次ぎ早に叩きつける。しかしマクラウドは答えなかった。何もかも分かっているかのような顔で言葉を受け止めている。

ややあってから、頷いた。

「……ああ」

短い沈黙が降りる。

──どうしてそんなに落ち着いていられるの?

私は首を振った。

「ずるい人ね……」

「ずるい?」

「──何でもないの。つまらないことを聞いたわ」

言って脇を擦り抜ける。

涙が、おさえてもおさえても溢れてくる。頬を伝い髪やスカートに水滴がこぼれ落ちる。だから、立ち止まることなど出来ない。

宿の明かりが近づいてくる。

そして砂利を踏む音も近づいてくる。

「ライズ」

「……何の用」

「俺は、何があっても絶対に斬らない。……覚えておけ」

私は足を止めた。

彼がゆっくりと歩み寄ってくる足音。

背中から抱き寄せられる。身を硬くして、息を詰めた。

顔をおおう。──泣き顔など、見られたくはない。

私は、剣士だ。

剣士が──普通の娘のように、泣く筈がない。

革手袋が、濡れて柔らかくなった頬にこすれて痛む。

体が背中からじわりと暖かくなってくる。

「何も言わなくていい……」

低い声がささやく。

私は小さく頷いた。

そして立ったまま、声を殺して泣いた。


後書き

 

恋愛物は恥ずかしい(*^^*)

次は「第6章 守る者と守られる者(前編)」です。


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