第九章「交換留学生の少女」


彼女はある極秘任務の遂行のためにドルファン王国に入国した。

ドルファンとヴァルファの戦争の優越に関わる、重要な任務だ。

これが失敗すれば、ヴァルファ軍団長の悲願が永久に達成されないだろう。

たくさんの重圧が彼女を襲う。

が、全ては打倒ドルファンのため。

その負荷に耐えつつ、彼女は波止場に降り立った。

交換留学生として……
 

 

9月3日。

ケイゴは新しい部隊配属表を広げながら、訓練所への道を歩いていた。

この配列表には、次のようなことが書かれていた。

 

・歩兵部隊副隊長…ケイゴ・シンドウ

 

これは、ケイゴのイリハでの功績が称えられた結果だ。

ドルファン軍の指揮官の中には、彼を傭兵隊の隊長にするべきだとの声もあったが、それには、傭兵隊の中で最長老にして未だに腕の衰えることのない、アシュレイが就任した。

理由は一つ、戦場での経験を考慮したからだ。

ちなみに、アシュレイは歩兵隊の隊長も兼任している。

弓兵部隊の隊長だが、新規徴兵された傭兵の中から選抜されている。

ケイゴ「ギャリックは……騎馬隊隊長か。気の短いあいつが指揮に向いているとは思えんが……」

と、今回の配属換えについての自分の考えをまとめる。

まあ、今回はまだ暫定なので、それほど深く考えることもないのだが。

ピコ「ねえ、ケイゴ。そんなことしてると危ないよ!」

ケイゴ「……」

ピコが注意するのだが、ケイゴの耳に届いていなかった。

こういった編成なら、どういう戦略に使えるだろうかと考えるのに熱中している彼には、何ものも耳に入ってこない。

ピコ「あっ、危ない!」

ドルファン学園前に差し掛かったとき、ピコが叫んだが、当然ケイゴ以外の者にはその声は聞こえなかった。

ケイゴがドンッ、と誰かにぶつかる。

ケイゴ「!……申し訳ない」

ソフィア「あ……ケイゴさん!大丈夫ですか?」

と、顔を上げると、見知らぬ少女が尻餅を突いていて、そのすぐ後ろにソフィアといつものメンバーが目を丸くしてケイゴに目を向けている。

ケイゴ「ああ、俺はな。それより、大丈夫か?」

と、ケイゴは見慣れない少女に手を差し伸べた。

少女「え、ええ……」

それを、戸惑いつつも手袋をはめた手で少女は握る。

ケイゴ「すまないな。読み物にふけっていたもので」

見知らぬ少女「それはお互い様よ。私もよそ見してたから……それより、この人なんでしょ?あなたたちが言ってた、ケイゴ・シンドウっていう傭兵は?」

年頃の女の子にはない淡白で落ち着いた表情で、少女はソフィアたちに振り返った。

ロリィ「うん、そうだよ」

と、ロリィが元気に返事を返す。

どうやら、この少女はケイゴのことをソフィアたちから聞いたようだ。

彼女は、ケイゴの前に一歩出た。

少女「私の名はライズ・ハイマーよ。縁があったら、また会いましょう」

ライズと名乗った少女は、そのままドルファン学園の門をくぐってしまった。

ケイゴ「何者だ?あのライズという少女は?」

ソフィア「二日前に、ドルファン学園にやって来た交換留学生なんです」

ケイゴにソフィアが答えを返す。

レズリー「声かけてもあんまり口も聞かないし、無表情だし、付き合い悪いよなあ?」

ハンナ「でも、ケイゴだって無表情でしょ」

レズリー「まあ、そりゃそうだけど……ケイゴは無表情でも、なんか人を寄せ付けないような雰囲気がないからいいんだよ。ライズの奴は、なんていうか……近寄りづらいというか」

ハンナ「どっちにしろ、ライズってクールな感じがいいよね」

ソフィア「ええ、私もライズさんはいい人だと思いますよ」

ロリィ「うん、ロリィもそう思う」

レズリーは、ライズに対していい印象を持っていないようだったが、ソフィアとハンナ、そしてロリィは逆に好感を持っているようだ。

ケイゴ「そうか……」

とだけ、彼が口にしたとき、ドルファン学園の始業ベルが鳴った。

ロリィ「お姉ちゃんたち!もうベル鳴っちゃったよ!」

ハンナ「お先にーっ!」

と、ハンナが先を越して行ってしまった。

レズリー「自分だけずるいぞ!」

ロリィ「待ってよーっ!」

その後ろに、レズリーとロリィが続く。

ソフィア「ケイゴさん、私もこれで」

ケイゴ「ああ」

ソフィアは、ケイゴにペコリと頭を下げると、急いで校舎の中に入っていった。

ピコ「早くしないと、ケイゴも遅刻しちゃうぞ!」

ケイゴ「ちっ!」

ケイゴも、慌てて訓練所までダッシュした。
 

 

昼休み。

ライズはホームルームの窓から、訓練所のグラウンドに出ている傭兵たちを眺めていた。

丁度、実力を知るためのタイマン模擬試合をしているところだった。

その中には、ケイゴの姿もあった。

腕と足に装着した手甲と脚絆を武器に、次々に相手をねじ伏せていく。

ライズ(戦い方は、氷炎のライナノールに似ているけど、一撃そのものの威力が凄まじいわね)

ケイゴの戦い方を見て、ライズは冷静に分析した。

素早さと一撃の重さが同居していることには驚かされたが、さらに彼女の理解の範疇を超えた光景が次の瞬間起こった。

ケイゴ「金剛武神流、金剛掌!」

対戦相手「ぐおおおおっ!」

激しい閃光の中、対戦相手が宙を舞う。

その様子を、ライズは呆然と見つめていた。

 

 

その二週間後だった。

ライズはソフィアの父、ロバートとの決闘を終えたケイゴに近づいた。

先ほどの決闘で見せた彼の技の数々についてを聞き出すためだった。

二週間前に見た金剛掌、今回目にした雷槌脚といい、彼の技の属性の判断がつかなかった。

無属性の攻撃かとも思ったが、それとも違うものをケイゴの気から感じ取っていた。

 

ここで、属性について語る必要がある。

この世界には、まず元々何もない無と、混沌から別れた光・闇があり、その配下にそれぞれ大地、火・雷・星、水・負・風と分かれている。

だが、これは飽くまでも分岐系統に過ぎず、相克・相生関係には関わらない。

過去の戦において、大地属性の術が光属性の術を吸収し、敵の隊を全滅させたことがあるという。

 

病院から出てきたところを狙って、ライズが話しかける。

ライズ「ちょっと、いいかしら?」

ケイゴ「ああ。別にかまわないが」

ライズ「あなたの技の属性がイマイチよくわからないのだけれども、何の属性かしら?」

と、彼女は単刀直入に話を切り出した。

ライズの目が、ケイゴの瞳孔の中を探る。

彼は意外なことを訊くなと思ったが、別に秘密にする必要もないので彼女の質問に答えてやることにした。

ケイゴ「そういうことか。だが、ここで話すのは難だな」

ライズ「そうみたいね」

と、ライズは周囲を見回した。

人が多く、内容を聞かれてはまずい。

彼の提案で、近くの喫茶店に移ることにした。

ケイゴ「それでは、さっきのお前の質問に答えるとしよう」

店のウェイトレスに案内された席に座ると、ケイゴは口を開いた。

ケイゴ「東西を問わず、戦士は己が技を繰り出すのに気を使うが、そのほとんどは何らかの属性を持たせる。それは、気の力を純粋なエネルギーとして使うことが難しいからだ」

ライズ「純粋なエネルギー?」

ケイゴ「そうだ。その制御が属性変換した気よりも難しいのだ。金剛武神流は、気そのものの力を生かすことを前提とした流派。それ故、幼い頃から鍛練を積み、世界を渡り、己が精神と肉体の超越を目指すことが必要だ」

ライズ「じゃあ、あなたの技には属性がないのかしら?」

ケイゴ「……辛うじて言えば、『混沌』といったところだな」

ライズ「……『混沌』ね……ありがとう」

感心したような顔を見せると、注文した天然水の空のグラスを置いて立ち上がる。

ケイゴ「しかしライズ、なぜこのようなことを訊いたのだ?」

ケイゴが、ふと疑問に思ったことに対して、ライズはそっけなく言った。

ライズ「そういうのに興味があったから、それだけよ」

 

 

喫茶店を出た後、ライズはメインストリートの裏に回った。

昼間から、マフィアやチンピラがたむろしている危険な場所である。

どう見ても、16歳の少女が訪れるようなところではない。

だが、聞かれてはまずい話をするにはもってこいの場所だった。

ライズがとある建物の壁に寄りかかる。同時に、建物の影から男が現れた。

男「首尾はいかがでしたか?」

ライズ「ケイゴ・シンドウと接触することができたわ……でも、彼の強さがどれくらいなのかはまだわからないわね。未知数ってところかしら?」

男「そうですか……ライズ様は彼の調査を続けて下さい。それでは、私はこれで」

ライズ「わかったわ」

男は、すうっと影に溶けるようにその場から消えた。

男の気配が完全に消えたのを確認すると、ライズは表通りに戻り、夕飯の買い物に出かけた。


後書き

 

登場してもうライズの正体をバラしてるぞって言われそうだな(-_-);;

……会って間もない女の子に自分の流派の説明すんなよ、ケイゴ!

などと自分の作品にツッコミを入れてる国士無双です。

 

『THE GOD HAND』の世界での属性関係ですが、

星とか負とか出てるのと、分岐系統でわかった方はわかったと思いますが、

スターオーシャンセカンドストーリーとCCさくらを参考にしました。

それだけではちょっとあれなので、陰陽五行説の資料もかじってオリジナリティーを出してみました。

それによると、大地は無属性に似ているようなので。

 

さて、次回はどうかというと……

やっぱり、ライズ出したんだから、あの人も出さなきゃおもしろくありませんよね?

てなわけで、爆裂お父さん……じゃなくって爆裂猛進プリンセスが登場します。


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