第十章「ドルファン王女の表裏」


10月25日。

朝早く起きたケイゴは、浴衣姿で傭兵寮の外に出た。

玄関外にある傭兵たちの郵便受けの中から、自分のを見つけて新聞を取る。

その時、ハラリと一通の封筒が彼の足下に落ちた。

豪華でお洒落な封筒を見て、ケイゴは首を傾げる。

ケイゴ「これは……ドルファン城からの手紙だな」

何でこんなものが自分に送られたのかはわからないが、彼は一旦部屋に戻って中身を確かめることにした。

ピコ「あ、ケイゴ。お茶用意できたよ」

自室に戻ってくると、ピコがケイゴの肩に乗った。

彼は自分で淹れた茶を持って椅子に腰を下ろし、先ほどの手紙の封を切る。

ピコ「手紙?」

ケイゴ「ああ」

中の手紙を開く。

 

    ケイゴ・シンドウ様へ。

    明日、行われる私のパーティーに、あなたをご招待致します。

    是非いらして下さい。

 

                        プリシラ・ドルファン

 

ピコ「ええ〜〜〜〜っ!!」

手紙の文面に目を通すと、ピコがこれまでにないくらいの大声を出した。

と、同時に、ギャリックが「おい、ケイゴっ!!」とこれまた大声で入ってきたものだから、ケイゴは思わず耳をふさいだ。

ケイゴ「騒がしいぞ!」

ギャリック「ドルファン王国の王女から明日の誕生パーティーに招待されたんだぜ!これが騒がずにいられますかって!」

ケイゴ「お前もなのか?」

ギャリック「えっ?な〜んだ、お前も招待されてたのか」

ケイゴの手紙を見せられたギャリックのテンションが一気に下がる。

いやというほど自慢しようと思って来ただけに、当然と言えば当然だ。

ケイゴ「しかし、なぜ俺たちにこれが届けられたんだろうか?」

こうした会に呼ばれるほどケイゴもギャリックも身分は高くないし、それ以前に傭兵である彼らにこんなものを渡す筈がない。

ギャリック「考えたってわかるわきゃねーだろ?せっかくパーティーに招待されたんだから、明日は楽しもうぜ!」

ケイゴ「それもそうなんだが……」

彼には、あることが引っ掛かっていた。

およそ二ヶ月前の出来事だ。

ギャリックと二人で緊急招集の命でドルファン城に向かっていた途中で起こったことだ。

確証はないが、もしそうだったら、ケイゴはとんでもないことをしてしまったなと思った。

 

 

10月26日、王女誕生日。

ケイゴとギャリックは、城のメイドに案内されて謁見の間に通された。

今日のパーティーに招待した張本人が、二人に是非会いたいと言ったのだ。

ケイゴは黒のタキシードに手甲『阿修羅』と脚絆(タキシードのパンツの下に隠れているので、足首から上は見えない)という一風変わった服装で、ギャリックはドルファン軍から支給された軍服を身にまとって謁見の間に入る。

玉座には華やかに着飾った王女、その横には近衛隊の軍人であるミラカリオ・メッセニ中佐が控えていた。

プリシラ「久しぶりですね。ケイゴ、ギャリック。私のことを覚えていますか?」

王女が顔をあげて微笑む。

雰囲気は違えど、彼女にはケイゴもギャリックも見覚えがあった。

二ヶ月前、緊急招集で城に向かっていたケイゴとギャリックを強引に引き留めて、二人をいろんな場所に連れ回した(実際はケイゴが連れ回された)少女だった。

その一週間後に会う約束(ケイゴは行かなかった)をしたのだが、日が暮れても現れず、ギャリックは結局その日一日を棒に振ってしまった。

ギャリックは驚き半分でプリシラの顔を凝視しているのに対し、ケイゴは予測通りだったなと大分冷静だった。

ギャリック「はい!」

ケイゴ「ああ」

対称的な答え方だったが、余程嬉しかったのだろう。プリシラは素になって二人のもとに駆け寄った。

プリシラ「よかった!覚えててくれたのね!あのとき、お城を抜け出そうとしたんだけど、その日は警備が厳重で出られなかったのよ!それでね、今日のパーティーはちょ〜どいい機会だから、あなたたちを招待したのよ!」

プリシラが来れなかった理由を聞いて、ギャリックは彼女がわざと約束を破ったわけじゃなかったのかと胸を撫で下ろした。

プリシラ「どう?びっくりした?」

我を忘れて喋る王女を見て、メッセニはわざとらしい咳払いをした。

プリシラ「あ、あらやだ……私ったら……」

顔を赤らめ、プリシラは表情を取り繕ろった……かに見えたが、今度は小声でささやきかけた。

プリシラ「ねえねえ、また今度、どこか行かない?連絡くれれば、抜け出すわよ?」

聞こえないように言ったつもりだったが、しっかりとそれはメッセニの耳に届いていた。

本日二度目の咳払い。

プリシラ「と、とにかく、ケイゴ、ギャリック。今日は、どうかゆっくり楽しんでいって下さい」

二人が返事をする間もなく、プリシラは奥の間へと姿を消した。

メッセニ「お前たち」

ケイゴ「どうかされたか、中佐殿?」

メッセニ「つまらん問題でも起こしたら、即刻軍法会議ものだからな……まぁ、そこの東洋人ならその心配もないようだがな」

ギャリック「なっ!」

とりあえず、二人に釘を刺したメッセニは、プリシラの後を追った。

ギャリック「何だよ、あのジジイ!何で、俺なんだよ!」

メッセニが立ち去ったのち、ギャリックは怒りを吐き出した。

ケイゴ「阿呆。日頃の行いがなっていないからだろう?」

ギャリック「ナニィッ!!」

ケイゴにまで言われ、ギャリックの怒りがますます膨れ上がる。

だが、彼の意見も最もなことだった。

それは、異常なまでのナンパ癖である。しかもそれで修羅場に遭遇したことが、ドルファン王国に来てから既に10回もあるのだ。

ケイゴ「今日は宴に招待されたのだ。暴れたら傭兵隊の信頼にも関わる。暴れるなら、明日の訓練でだ」

ギャリック「わかったよ」
ふてくされて答えるギャリック。
本意ではないが、仕方なくケイゴの言う通りにする彼であった。

 

プリシラ「ケイゴ。楽しんでいますか?」

パーティー開場の隅で一息吐いていたケイゴにプリシラが声をかけた。

ケイゴ「ああ。だが、息苦しいな」

と、ケイゴは開場を見渡した。

そこにいるのは、みんな上流階級の紳士淑女ばかり。

この慣れない雰囲気に、ケイゴは顔をしかめる。

プリシラ「ところで、ギャリックはどこに?」

ケイゴ「あ、ああ。あいつなら……そこだ」

プリシラ「え?」

ケイゴの指差す先には、テーブルの上に乗っている食べ物を恐ろしい勢いで平らげているギャリックの姿があった。

その鬼気迫る光景に、怖がって誰も近寄らない。

ケイゴ「呆れてものも言えん。今のあいつには近づかない方がいい。自分まで恥をかくぞ」

プリシラ「はは……そう、ね」

ケイゴ「ん?」

視線を感じ、ケイゴがその方へ目をやると、立派な髭を生やした紳士がこちらを見ていた。

王女と自然に会話している東洋人に、興味を持ったのだ。それだけではなく、あちこちから視線を感じる。

プリシラ「ふふ、あなたの注目度アップしたみたいね。それじゃ、頑張って!」

ケイゴ「お、おい!」

ケイゴが引き留めようとするも、すぐにプリシラは開場を去ってしまった。

その直後、彼の容姿に魅了された令嬢たちが集団で襲って(?)きた。

令嬢1「あ、あの、お名前を教えて頂けませんか?」

令嬢2「プリシラ王女とは、どういう関係なんですか?」

令嬢3「ケイゴさんの生まれた国はどんなところなんですか?」

などと矢継ぎ早に質問を浴びせられる。

仕方ないなと思ったケイゴは、結局パーティーが終わるまで付き合わされた。

 

 

帰り道。

ギャリック「ケイゴ、どうした?なんか疲れてるみたいじゃねーか?」

ケイゴ「ああ。慣れないことをしたからな。やはり、ああいう場所は俺には合わん」

ギャリック「そうか?いいとこのお嬢ちゃんに囲まれてたのにか?」

ケイゴ「それもあるが、あのパーティーの雰囲気全体が慣れない。俺の国では、あんな堅い宴はなかったからな。お前こそ、その大量のタッパーなんぞ持ってくるとは……」

ギャリック「なんだよ、別にいーじゃん。こういうの滅多に食えねぇし」

ケイゴ「それは構わん。が、ああいった場所で堂々とそんなことをするな。傭兵隊によからぬレッテルを貼られでもしたら、全てお前の責任だぞ」

ギャリック「何でそーなるんだよ!」

と、いった会話をしている二人を暗闇の中で見ている者がいた。

ライズだった。

ライズ「……まさか、ドルファン王国の王女にも面識があったなんて……」

彼女は、誰にも聞こえない声で呟く。

どういうことなんだろうか?

彼は、プリシラの護衛でもしているのだろうか?

そんなことを考えながら、二人の影を目で追っていた。


後書き

 

国士無双です。

 

今回のは、コメディチックに仕上げてみました。

アニメや漫画にしたら、演出や構成などの手法によっては大爆笑できるかも(?)

 

出入国管理局管理名簿では、書いてませんが、実はプリシラ王女とライズはお気に入りです。

記入したとき、大好きなキャラを一人だけ書くものかと思っていたので(笑)

 

それでは、次回をお楽しみに!


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