第二十五章 「激闘!ゴッドハンドVSロケットナイト」


ここ最近になって、ドルファン首都城塞では不穏な話題が広がっていた。

自称よい子の人気者、ロケットナイトと名乗る者が傭兵、騎士、軍人を問わず手練の戦士に一騎討ちを申し込み、必ずその相手を打ち負かしているのだ。

当然、戦うことが本職の彼らにとって(特に騎士団)は、軍の醜態をこれ以上晒すのは危険だと考え、日夜その対策を練っている。

が、ロケットナイトは実に奇怪な奴で、神出鬼没で正体不明、しかも天をも翔けるという根も葉もないような噂もある。

そんな奴の対抗策を練れと言われてもできる筈もなく、対策会議と言っても無駄にああでもないこうでもないと言い合うだけであった。

アシュレイはこの会議に傭兵代表として出席していたが、対策を執った所で何にもならないだろうことは早い段階から気づいていた。

ロケットナイトは、戦士が外に出かけているときに突如として現れ、その場で一騎討ちをして相手を負かすと陽炎のように消えてしまう。

せいぜい、鍛練を積む以外にロケットナイトを退ける手段はないだろう。

結局、今日も結論の出ないまま会議は幕を閉じた。
 

 

アシュレイ「ロケットナイトとやらには困ったものじゃ」

傭兵寮に帰ってきて早々、アシュレイは溜め息を吐いた。

出るだけ無駄な会議に付き合わされれば、こんな愚痴の一つや二つは軽く出るだろう。

ギャリック「じっちゃん、帰ってきたのか?」

ロビーにギャリックが現れる。

格好は、最近の流行りのカジュアルな服装に、得物である『バハムート・ティア』を背負っている。

アシュレイ「これから出かけるのかえ?ロケットナイトがお前さんを襲うかもしれんというに、その格好では危険じゃぞ」

ギャリック「って言われてもなぁ……これからあいつとデートだし、それに俺には相棒がいっから、ケイゴみたく敵の攻撃を手甲とか臑当てで防ぐ必要ねぇしな」

と、ギャリックは『バハムート・ティア』の柄を指さす。

彼は攻撃においても防御においても威力を発揮する大剣での戦闘が得意なので、別に防御は剣で行えばいいのであって、極論を言うと彼には防具は必要ないのだ。

アシュレイ「ギャリックよ。ところでケイゴの奴はどこにおる?」

ふと、アシュレイは彼の居場所を訊いた。

実際の所、一番ロケットナイトの襲撃を受ける可能性が高いのは他ならぬケイゴなのだ。

ギャリック「ん?俺は知らねーけど」

シャオシン「ケイゴさんでしたら、ロケットナイトに襲撃されたお知り合いのお見舞いに行っていますけど」

二人の会話が聞こえたのか、訓練所から帰ってきたシャオシンが答えた。

アシュレイ「そうか。あやつのことじゃから、何も心配はいらんじゃろう。さて、儂は武器の手入れでもするかの」

『シルヴァンス』の面倒を見る為、アシュレイは自分の部屋に入った。

 

ドルファン病院にて。

ケイゴ「ロバート殿、大丈夫か?」

清潔な真っ白シーツのベッドで寝ているロバートに、ケイゴは声をかけた。

今、この病室にいるのはロケットナイトに倒されたロバートと、その見舞いに訪れたケイゴ、とソフィアの三人のみである。

ロバート「いや、さすがに起き上がるだけでも辛い」

そう自分の状態を告げる彼の表情には、不覚を取った自分に対する悔しさが混じっていた。

ソフィア「お父さん、無理しなくていいから」

無理して体を起こしていたロバートを、ソフィアは寝かせた。

「しかし……」と彼は一旦はそれを拒んだが、やっぱり娘の言う通りに従った。

ケイゴ「それにしても、ロバート殿までロケットナイトにやられたとは……」

ロバート「ああ、全くだ。まさか空を飛べるとは思わなかったからな」

ケイゴ「何?」

「空を飛ぶ」という所で、ケイゴの目が険しくなる。

ソフィア「それって、本当?」

ソフィアも目を丸くする。

ロバート「ああ。奴は背中に変な筒を背負ってる。花火の筒を逆にしたような物をな。その筒の口からガスか何かを噴射して空を飛ぶんだ」

ケイゴ「……」

ケイゴは、腕を組んでしばらく何か考えているような仕草をした後、踵を返してロベリンゲ父娘に背を向けた。

ソフィア「ケイゴさん?」

ロバート「……まさか」

ケイゴ「ああ。ロケットナイトが一番闘いたい相手はこの俺だろう。ならば、俺が奴を誘き寄せて倒すしかあるまい。心配は無用だ。俺はすぐに倒されるクチではない。それに、そのロケットナイトとやらと一戦交えてみたいと思っていたことだしな」

ケイゴは振り向きざまにフッと笑うと、病室を出ていった。

ロバート「……戦争以外で強い奴と闘えるのが相当嬉しいらしいな」

一人の格闘家としてのケイゴの科白に、アイツらしいと思うロバートだった。

 

フェンネル地区で、ケイゴはロケットナイトが現れるのを待っていた。

首都城塞の中で、ロケットナイトが出現するのがここだけだからだ。

セリナリバー駅のベンチに座っていると、向こう側のベンチにクレアが座っていた。

毛糸に編み棒を巧みに動かしている様子から、編み物をしているようだった。

ケイゴ「クレア殿」

彼は職場の同僚(とは言ってもアルバイト)に声をかけた。

クレア「あら、ケイゴ君」

ケイゴ「こんな所で編み物なんかして、どうしたのだ?」

クレア「ちょっと、とある人にプレゼントをしようと思って」

ケイゴ「とある人?」

クレア「そう、とある人」

そう言って、クレアは可愛いげな笑顔をケイゴに向ける。

そんな彼女を見て、ケイゴの顔が綻んだ。

その刹那。

ヒュンと何かがケイゴに向けて飛んできた。

軌道を読み取って、ケイゴは飛んできたものを掴む。

それは、羽をかたどった柄の投げナイフだった。

 

ナイフの飛んできた方角に振り返ると、その先には一般の感覚からずれた男が立っていた。

男と言っても、果たして男と……いや人間と言えるだろうか。

ネズミのような口と鼻に金髪の髪で、目はゴーグルで隠れている。

ナイフの柄同様の装飾が施された鎧に剣。

明らかに、変な奴であった。

???「アイアーム、ロケットナァーィトッ!!」

開口一番、その変な奴は大きな声で名乗った。

どうやらこのネズミのような顔をした者がロケットナイトのようだ。

その声から、ロケットナイトは男であるらしいということもわかった。

ケイゴ「いきなり不意打ちか?それでは今までのお前の戦績が否定されてしまうぞ」

ロケットナイト「ノンノン、今のはホンの挨拶の代わりだよ。輝ける腕の持ち主、ケイゴ・シンドウ君」

ケイゴ「本番はこれからということか。クレア殿、下がってくれ。ここは危険だ」

クレアはコクリと頷くと、その場から離れた。

それに倣い、いつの間にか集まった野次馬たちも後退する。

ロケットナイト「これで即席のスタジアム完成だね」

ケイゴ「ああ」

ロケットナイト「戦士に言葉はもう要らないね。じゃあ、行くよ!」

素早い所作で剣を抜いたロケットナイトが、一気にケイゴの懐に飛び込む。

が、その一撃は武神具『明鏡止水』に阻まれ、弾かれる。

ケイゴ「甘いな。俺は今までの奴とは違うぞ!」

最初の一撃を弾いた直後、ケイゴはボディブローをロケットナイトの鳩尾にめり込ませた。

よろめいた相手を追撃せんと鞭のような蹴撃を放つが、ロケットナイトは寸での所でかわす。

良く見ると鎧が凹んでいるが、それだけだった。

ケイゴ「雷槌脚!!」

踵から伸びた闘気の爪がロケットナイトに襲い掛かる。

それをかわした彼は、ケイゴの脇腹目掛けて剣を横に振る。

その剣閃は目の前の相手を捉えるが、黄金に輝く手甲に弾き返された。

ロケットナイト「クッ!」

金属を叩いた手の痺れに顔を微かに歪めるロケットナイト。

その一瞬の隙を突いて、ケイゴが渾身の一撃を放った。

ケイゴ「金剛武神流、金剛掌!」

ロケットナイト「こうなったら!!」

ロケットナイトは背負ったロケットを急速点火させ、急上昇による回避に出た。

何とかケイゴの黄金の腕を避けることに成功した彼は、反撃に出た。

ロケットナイト「アイアーム、ロケットナァーィトッ!!」

空中で旋回し、加速し続けながらケイゴに向かっていく。

ケイゴ「金剛武神流、霊光掌!!」

両手から放った気弾がロケットナイトに直撃した。

が、彼の突進の加速によるソニックウェーブにより消滅してしまう。

ケイゴ「音速によるエネルギー波の無効化か。ならば!!」

今からでは回避は間に合わない。

瞬く間に距離を詰めたロケットナイトの剣先を、ケイゴは全身全霊を込めて受け止めた。

衝突の衝撃がケイゴの体を突き抜ける。

ロケットナイト「このまま力で押し飛ばす!」

ケイゴをそのまま押し込もうと、ブースターの出力を上げるロケットナイト。

ケイゴ「させん!」

飛ばされまいと地面に足を沈み込ませるケイゴ。

押し合いだった状態がしばらく続いていたのだが徐々に崩れ始めていた。

わずかながらだがじりじりとケイゴが押されていた。

ロケットナイト(これで、僕はゴッドハンドに勝てる!)

そう思った矢先、ケイゴはフッと笑った。

この程度では負けないという自信の現れだろうか。

それともただの痩せ我慢か。

それでも彼の覇気が萎えていないことだけは、ロケットナイトにははっきりとわかった。

ケイゴ「悪いが、空を飛べるのはお前だけではない!ハァァァァァァッ!!」

気合の入った声が天を突き抜けたかと思うと、ケイゴの背中から黄金色に輝く三対の翼が生えた。

翼の光がケイゴの全身を包み込む。

闘気が一気に膨れ上がった彼に、ロケットナイトは驚かざるを得なかった。

ケイゴ「うおおおおおおおっ!!」

ロケットナイト「なっ!!」

ロケットナイトはさらに驚愕した。

背中のロケットをフル稼動させた状態でケイゴをそのまま押し破らんとしていた自分が、その相手に投げ飛ばされたのだ。

何という力だろうか。

これが、彼の本当の戦闘力なのだろうか。

逆噴射で即座に方向転換すると、目前にケイゴが迫っていた。

ロケットナイト「いつの間に!」

ケイゴ「背中の飛行装置では急な方向転換はできまい。俺はその間に距離を詰めただけに過ぎない」

ケイゴが拳を繰り出す。

ロケットナイト「なんのぉ!」

ロケットナイトは正拳をかわしてケイゴの喉元に剣先を向ける。

しかし、ケイゴは体を逸らして剣先から逃げたかと思うと、ロケットナイトの腹に膝蹴りを浴びせた。

ロケットナイト「がっ!」

あまりにも重い蹴りに、ロケットナイトは奇声をあげた。

その隙をケイゴが見逃す筈もなく、雷槌脚で地表にロケットナイトを叩き付ける。

ロケットナイト「がはぁっ……ぐっ……!!」

全身を地面と衝突した時の衝撃に貫かれ、ロケットナイトは立ち上がるだけで精一杯だった。

剣を杖のようにして起き上がると、ケイゴが降りてきた。

光の翼をしまった彼は、良く見るとボロボロだった。

素肌が見える部分からは血が流れており、ロケットナイトの体当たりを受け止めていた掌には大きな痣ができていた。

ロケットナイトの渾身の一撃を受け止めただけでこれほどのダメージだったのだ。

直撃を受けていたら、ケイゴは集中治療室送りになっていたのかも知れない。

ケイゴ「お前のあの攻撃はさすがに効いた。あの時天神の力を発動していなければ勝負は着いていただろうな。受け止めただけでこれだ。今までお前にやられた連中は、直撃を受けたのだろうな」

ロケットナイト「……おっと、それなら僕も同じさ。さすがに君の空中戦の強さには驚かされたよ。でも……まだ勝負は着いていない!」

ケイゴ「そうだな。では、ただ一撃に賭けるとしよう」

ケイゴの提案に、ロケットナイトは無言で頷いた。

お互い間合いを取り、ゆっくりと、じわじわと相手との間を詰める二人。

街中であるというのに、その二人を取り巻く空間・セリナリバー駅周辺の空気が張り詰め、重苦しくなっていく。

一秒が一時間にも思えるような、そんな時間感覚のずれまで生まれるような空間だった。

恐ろしく静かで、まるで無音の世界にいるような感覚が、二人のファイターを見守る見物客を包み込む。

そして、二人が動いたのは同時だった。

ケイゴ「金剛武神流奥義、金剛神掌!!」

ロケットナイト「アイアム、ロケットナァーィト!!」

一閃。

胸に一筋の傷を追うケイゴ。

彼の口から、どす黒い液体が溢れ出る。

それを見て、ニヤリと笑うロケットナイト。

ロケットナイト「僕の勝ちだね」

ケイゴ「……それは、お前の……体を見てから……言え」

ロケットナイト「何だって……!!」

ロケットナイトが自身の体に目を向けた瞬間、鎧と剣が文字通り粉砕した。

さらに、遅れて金剛神掌の衝撃が彼の全身を襲い、骨まで砕いたのだ。

金剛神掌の一点集中の破壊力を全身に拡散するように放った結果だった。

金切り声を発した後、ロケットナイトは崩れ落ちた。

ケイゴ「くっ!がぁっ!!久々に……気持ちの晴れ晴れする闘いだった……な」

自分の勝利が確定すると、ケイゴは流血量が多かったのか、それともただ単に疲れただけなのか、そのまま気を失ってしまった。

 

病院に運び込まれてソフィアの輸血を受けたケイゴだったが、驚異の回復力で二日後には戦闘で受けた傷がほぼ完治していた。

彼の治療を担当した病院関係者はその様子に目を皿のように丸くして驚いたようだ。

後は三日ほど安静にしていれば退院できるだろう。

ちなみにロケットナイトはというと、全身複雑骨折の為全治三ヶ月の大怪我だった。

彼に対する軍の事情聴取は当分先になりそうだ。

テディー「ケイゴさん、面会の方が来てますよ」

ケイゴ「わかった。入れてくれ」

毎度お馴染のメンバーが、ケイゴの病室に雪崩れ込む。

スーとロリィとリンダがケイゴに迫ってきたり、ソフィアがその様子を見て寂しげな表情になったり、そんな二人を見てレズリーとハンナが「まだまだ前途多難だね」と漏らしたりといつもの喧騒が始まる。

何気ないようでいて大切なものが、ここにはあった。

いつ死ぬともわからないケイゴには、それが一層大事なものに思えた。


後書き

 

ロケットナイト、ナイスキャラクターです。

棒読みなセリフにネズミ顔。

んでもって良くわからない所が面白い。

そんな彼でしたが、全身骨折喰らっちゃいましたね。

シリアスキャラじゃなくてギャグキャラで運用した方が効果的なやつだと思うのですが。

そんじゃ、今回はこれで失礼します。

次回楽しみにしててくださいね。

 

See you next time!


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