第十五章 後編「生門と死門との狭間で」


ボランキオを前にして、ヴァルファの兵士たちは逃げようなどという考えを実行に移すことを止めた。

生き残りたければ敵を倒す。

それができない者には、どの道死が訪れるのだから……。

もう自棄になった兵士たちは、再びケイゴたちに殺到する。

ギャリック「おい、ケイゴ!どーする?」

ケイゴ「俺が突破口を開く。その隙に要塞の頂上で狼煙を」

ギャリック「りょーかい!」

生死を分ける戦場にはそぐわない、能天気な返事が返ってくる。

ケイゴの腕が光を放つ。

ケイゴ「雑魚共が……消えろ!破砕掌!」

床に叩き付けた闘気が、ケイゴたちを取り囲んでいた敵兵を一気に吹き飛ばした。

とはいっても、味方にダメージが及ばないようにある程度威力を押さえてあるから、諸に受けても重傷にはならないのだが。

ギャリック「シャオシン、じっちゃん、行くぞ!」

シャオシン「し、しかしケイゴさんは?」

ケイゴ一人を残して行くことを、心配に思うシャオシン。

アシュレイ「なに、あやつは大丈夫じゃて」

ギャリック「あいつなら心配ねぇよ。なんせアイツは『ゴッドハンド』だかんな!」

と、その他二人はたいした不安もないようだ。

シャオシン「でも……」

ギャリック「でももクソもねぇ、黙って付いて来い!」

納得のいかない様子シャオシンの手をむんずと掴んで、ギャリックは強引に連れていく。

幾人かギャリックたちの跡を追っていった者がいたようだが、彼らのことなら心配無用だろう。

ケイゴは百数名の敵兵を見回す。

数的に言えば、圧倒的にケイゴが不利である。

しかし、ヴァルファの兵士たちは誰一人彼の前に出ようとはしない。

ケイゴ「どうした?掛かってこないのなら、こちらから行くぞ!」

ケイゴは、もう一度破砕掌を放つ。

今度は本気の一撃である。

閃光は敵を飲み込んで、天井を割り、壁を吹き飛ばした。

光が収まったかと思うと、そこは、瓦礫と骸の山と化す。

バルドー「たった一撃で、百名の兵を……」

ボランキオは、今もなお凄まじい闘気をまとっているケイゴを見る。

黒て統一したスタイルとは対称的な色の手甲と脚甲。

多少、童顔ではあったものの、こんな格好をしている男は彼以外にはいない。

バルドー「……お前が、『ゴッドハンド』か」

ボランキオが身構える。

ケイゴ「如何にも」

ケイゴも、その腕にオーラを宿す。

バルドー「覚悟はいいか?」

ケイゴ「それは俺の科白だ」

『阿修羅』と、黄金のハルバードが一合する。

二人の激闘の幕開けであった。
 

一方、ギャリックたちはというと、敵兵を振り切って、要塞の最上階にある見張り台に到着していた。

ギャリック「狼煙を上げるぞ。ウォン」

シャオシン「は、はい!」

早速、狼煙灯台で準備に取り掛かるシャオシン。

階段の入り口から、ガチャガチャという金属の音が聞こえてくる。

アシュレイ「鎧の音か……敵が来るぞ!」

ギャリック「わかってるって、そんじゃいっちょ行きますか!」

見張り台に溢れるように出てきた赤い鎧の集団の前に、二人は立ちはだかる。

アシュレイ「ファーレンス流剣技、五月雨!」

ギャリック「ブラックフラッシュ!」

目にも止まらぬ早さの剣閃と、全てを喰らう黒き一閃。

瞬時に十数名のヴァルファの兵を葬った。

ギャリック「ここを通りたきゃ、俺を倒してみやがれ!」

龍の咆哮の如く、ギャリックが吠える。

 

ケイゴとボランキオの死闘は、未だ決着がつかない状態のまま続いていた。

暴れるには狭いということで、二人は要塞の外に出て、互いの武器を一合、二合と交えている。

ケイゴ「はっ!」

バルドー「やらせん!」

ケイゴの拳が、金色のハルバードに阻まれる。

ケイゴ「甘いな!」

ケイゴは体を屈めてボランキオの懐に入り込む。

バルドー「何っ!」

リーチの長い長柄武器にとって、懐中は死角だ。

ボランキオはとっさに体を縮め込む。

ケイゴ「金剛武神流、金剛掌!」

バルドー「ぐぐうっ!」

黄金の煌めきを放つ右腕がボランキオの腹部に命中するも、十分にダメージを与えることができなかった。

ケイゴ「……耐えたか」

間合いを取って、ケイゴはボランキオを見据える。

一方のボランキオは、笑っていた。

バルドー「面白い、面白いぞ!我が死戦に華を添えるには相応しい闘いだ」

ケイゴ「なぜ笑う?お前には笑っていられるほど、時間も余裕もない筈だろう?」

バルドー「フッ、この戦、初めから負けることはわかっていた。ならば、最期は戦士としての生を全うするまで」

ケイゴ「そう言うことか……だが、それだけではあるまい」

ボランキオの眉根がつり上がる。

気づくと、鋭いケイゴの目が自分の瞳の中を覗いていた。

まるで、自分の心の中を覗いているかのように。

バルドー「その通りだ」

ボランキオは否定はしなかった。

ケイゴ「悪いが、死ぬために闘うような者に……俺を倒すことは不可能だ!」

ケイゴの全身から、闘気がオーラとなって湧き上がる。

バルドー「俺の前に立った者は皆、そう言って返り討ちに遭った!」

ボランキオも、全身に覇気をみなぎらせる。

地面が陥没し、クレーターのようになる。

バルドー「グレイブジャベリン!」

ボランキオのハルバードが大地を裂いた。

弾けた勢いで、抉られた岩盤が無数の鋭い槍になって飛んで行く。

雨のように降ってくる岩盤を避けながら、ケイゴは距離を縮める。

バルドー「爆砕破!」

ボランキオはまたも大地を裂いたが、今度は地面が崩れ、そこのあったもの全てを飲み込んだ。

だが、ケイゴは上空にいた。

ケイゴ「金剛武神流、霊光掌!」

バルドー「効かぬわぁ!」

直径1メートルもある気弾を斬り捨て、ボランキオは頭上でハルバードを回転させた。

バルドー「必殺、破砕閃斧!」

ハルバードの生む風は、竜巻になり、あらゆるものを巻き込む。

ケイゴ「何っ!」

当然、空中にいたケイゴは、その竜巻の中に吸い込まれる。

彼の体を、風が鎌鼬のごとく斬り裂く。

ケイゴ(……このままでは、やられる!)

 

そう思った時だった。

彼の脳裏に、一人の女の子の顔が浮かんだ。

自分には、眩しいくらいの笑顔をこちらに向けている。

よく知っている、健気で、可愛らしい女の子。

多分、自分が死んだら、彼女は悲しむだろう。

自分のせいで、彼女から笑顔を奪いたくはない。

 

ケイゴ「悪いが……」

目をカッと見開く。

ケイゴ「俺は……」

気を全身に解放する。

ケイゴ「死ねない!」

気合で竜巻の無風空間に抜けたケイゴは、ボランキオ目掛けて落下する。

バルドー「馬鹿なっ!」

ボランキオは破砕閃斧を止め、再度グレイブジャベリンで攻撃を仕掛ける。

しかし、全身に闘気の光をまとったケイゴは、岩盤の槍を砕いてやり過ごす。

目指すは一直線、ボランキオ。

ケイゴ「金剛武神流、雷槌脚!」

バルドー「ぐぅっ!」

右の踵から伸びた光の爪が、ボランキオの得物を折り、彼の左肩に深々と突き刺さった。

傍らには、ハルバードの上から先の部分が横たわっている。

ケイゴ「言った筈だ。俺は死ぬために闘うような奴には負けないとな!」

左足でボランキオの腹を蹴り、宙返りしつつ光の爪を引き抜いた。

ケイゴ「金剛武神流……金剛神掌!」

閃光。

 

ケイゴの腕が、ボランキオの体を貫き、風穴を空ける。

バルドー「がぁっ……最期に、お前と闘えたことを誇りに思うぞ……」

ケイゴ「……」

バルドー「礼を言うぞ……これで……妻と子の元へ……行ける……」

ボランキオの体が、ズルリとケイゴの腕から抜け落ちる。

 

ドドドドドドドド……

 

向こうから蹄の音が聞こえて来た。

恐らく、ドルファン軍だろう。

要塞内に侵入し、ただちに蹂躙に取り掛かる。

こうなっては、残っているヴァルファの兵はどうしようもない。

ケイゴ「ギャリックたちはうまくやったようだな」

作戦の成功を見届けたケイゴは、ギャリックたちと合流すべく、要塞の最上階へと駆け出した。


後書き

 

どーもどーも、国士無双です。

 

ケイゴってやっぱスゲェ!

書いてていつもそう思ってしまいます。

何がすごいって言われても、全部が全部スゴいから、自分じゃ表現しきれませんけど。

(おい、俺は作者だろうが!こんなんでいいのか!) 

 

さて、次回予告いってみよう!

次回は、ライナノールネタではありません!

スポーツの祭典です。

陸上という舞台で燃える二人の火花は熾烈な勝負へと発展する。

それでは、お楽しみに!


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