ごちんっっ!!!
「うっさいわねっ!! 少女は、頭を抱え涙目でうずくまる相棒の指さす方を見遣る。
ここは昼下がりの商店街。
「あれって、どれよ?」
彼の言うとおり、花屋の店先には様々な切り花を生けた木桶がずらりと並べられている。 青年は嬉しそうに続けた。 「“リナリナ”だってさ。 お前さんと同じ名前だな〜♪」
一瞬の沈黙の後。
「‥‥ガウリイくん。 あんたついに視力までクラゲになっちゃったの?
もう用は済んだとばかりに踵を返す少女。
「どーしたのよ、ガウリイ! ぐずぐずしてると置いてくわよっ!」 思いがけない彼の言葉に、少女の目がテンになる。
「な‥‥なによイキナリ‥‥! 大の男が花なんか欲しがったりしてっっ!!」
言いながら青年は彼女のマントの端をつかむ。
「なぁなぁリナぁ〜、買ってぇ〜〜〜! 一本でいいからさぁ〜〜〜!!」
言うなり少女は青年の襟首をむんずとひっ掴み、
「ああああああああああああリナリナ〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」
「ほ〜らガウリイ、あんたの欲しがってた花よ。 お好きなだけどーぞ!」 目の前に広がる鮮やかな色彩に言葉を失うガウリイ。
季節は春から初夏に移らんとする頃。
「すっげ〜〜! 満開だ〜〜!! そう言って、リナはふと微笑んだ。
「実を言うと、この花あたしの実家にもあるのよ。 懐かしそうな彼女の笑顔にガウリイも目を細める。
「そりゃあこっちのは本当の野生種だから、お店のより花はちょっと小ぶりだけどね。 さっきまであんなに駄々こねていたのに。 思い出して、リナは苦笑する。
「ねぇ、ガウリイ。 この花のどこがそんなに気に入ったの?」 隣を歩く青年は、手を伸ばして花に触れながら答える。
「まず、名前」
リナはぷいと顔を背けた。 ガウリイはくつくつ笑いながら柔らかい栗色の髪をかき回す。 「なんで怒るんだよ。 褒めてんのに」
ごく自然に肩に滑り落ちてきた手をするりとかわし、 「ね、ガウリイ。 リナリアの別名、知ってる?」
無理矢理話を逸らそうという彼女の魂胆は見え見え。
「いや、知らん」 花を引き寄せて見せながら、なぜかリナはくすりと笑った。
「なにが可笑しいんだ?」 くすくすくす 悪戯っぽく笑う少女に、しかし彼もにやりと笑い返す。
「そ〜か?
今度こそ真っ赤になって固まってしまったリナを
「スキあり!!」 じたばた じたばた いくらリナが暴れても、逞しい腕の拘束は少しも緩まない。
「なぁリナ‥‥お前の親父さんって、優しい人なんだな」 腕の中からくぐもった声。
「誕生日に娘の名前にちなんだ花を贈るなんてさ。 思わずリナが顔を上げると、自分を見下ろしている限りなく優しい青い瞳。
鼻先に指をぴっとつきつけられ、破顔するガウリイ。
「命懸けで頑張らせてもらいます」
|
******************************
管理者から一言:
いくら愛しいからって、町中で大声で連呼しちゃダメよ、ガウリイ(笑)
P.Iさんが花の名前のお話を書いた時、「こんな名前の花があるよ」と言ったのがきっかけでした。
こんなええ話をいただけるとは、タレコミ(おい)した時は思いもしませんでしたね〜〜。
さあ、リナリアの花持って、ご両親への挨拶がんばれガウリイ♪
この花の花言葉は、リナのご両親へも通じるぞ!(こらこら)
一緒におまけの話もいただいちゃいましたので、ぜひどーぞ♪