最初に気が付いたのは夕食の頃だったろうか。
 他のことに集中していたら気づかないほどのかすかな視線。
 それが食事の間中、ずっと俺に注がれているのを感じた。
「む……?」
「どうかしましたか、先輩?」
 きょろきょろと視線をさまよわせた俺を不審に思ったのか、桜が食事の手をとめて問いかける。
 きょとん、とした少女の大きな瞳に、とりあえず返事を返しておいた。
「いや、なんでもない。……気のせいかな」
 と口では言っておいて、我ながらその言葉をちっとも信用していなかった。
 今、この食卓についているのは3人。俺と桜と藤ねえ。
 しかしそれとはまた別の視線を、たしかに感じる。
(結界が反応しないから、問題はないと思うけど――)
「そういえば藤村先生。イリヤちゃんはどうしました?」
 考えこむ俺をよそに、向かいの席で桜が隣の藤ねえに話しかけた。藤ねえはむっと眉をよせて、
「ここに来る前、電話があったわよ。もう旅館に着いたんですって」
「ああ、この間言ってましたね。たしか温泉に行くとかなんとか……」
「そう! 藤村組のみんなで三泊四日の温泉旅行! いいなー、わたしも行きたかったのにー」
 食事中にもかかわらず、ぶんぶん、と両手を振って暴れる大トラ。
 その姿に二十代後半女性の持つ落ち着きはまるでない。どう見ても彼女が教える生徒と同レベル、いやそれ以下だ。
「教師が学校休んで旅行行く算段を立てるな、藤ねえ。責任ある社会人だろ、それでも」
「ううー。だから我慢したんじゃないの。でなきゃわたしだって……」
「まあまあ藤村先生。かわりにいっぱいお土産頼んだじゃないですか。それで良しとしましょう」
 よしよし、と子供をなだめるように、桜が猛獣を人間に戻してくれる。うう、苦労かけるな、桜。
 しかし、こうやって改めて見ると。
「三人だけ、っていうのも、ずいぶんと久しぶりだよな」
 ぽつりともらした言葉に、他の二人も首肯する。
「そうですね。この家もずいぶん人が増えましたし――」
「居心地がよくて、ほとんど減らないのよね」
 言って桜は野菜炒めを、藤ねえは鮭の切り身を口に運んだ。
 魔術使いとしての俺の在り方を大きく変えたあの聖杯戦争以降、この家にはさらに人が増えた。
 イリヤは藤ねえと一緒に毎日襲撃に来るし、遠坂も朝は来ないものの週の半分は、うちへ夕食を食べに来る。
 独りでとる食事は味気ないのだろうから、俺もそのことについて言及するつもりはない。人が多いのはいいことだし。
 ――ご近所や同級生の一部から、ハーレムだとか大奥だとかエロ学派だとか言われることを除けば問題はない。
 ともかく人数の多いのに慣れてしまっているから、いつも見慣れているイリヤが抜けただけで、妙に寂しい気持ちになる。
 だって、食卓から見慣れた姿が消えたなんて――――
「この家からいなくなっちゃったのって、切嗣さんと、セイ…………」
 言いかけて、藤ねえは不自然に言葉を切った。
 目を泳がせて、そのまま俺をチラリと見る。
「どうかしたか、藤ねえ」
「あ、ううん、なんでもないのっっ!
 そうそう、士郎、夕方に荷物届いた!? 届いたよね!?」
 強引に話を別の方向へ持っていこうとしているが、その挙動不審っぷりじゃ子供だってごまかせないだろう。
 聖杯戦争終結から二ヶ月。俺は三年に進級し、一週間ほど前から新しい生活が始まった。
 いろいろな物を得、そして喪った聖杯戦争。けれど二ヶ月もたてば気持ちも落ちつき、自分の心に折り合いをつけて、改めて自分の道を歩いてゆくのに十分な期間だ。
 だが藤ねえはその間ずっと、とある少女の名前を出すのを極端に避けようとする。何も知らないはずなのに、野生の本能で何か感じ取っているのだろうか。全く見当違いではあるんだけど。――だって俺は――
 しかしまあ、そこを突っ込んで聞くのも趣味が悪いので、俺は藤ねえのふった話題に乗ってやることにした。
「ああ、届いた。中身なんだったんだ? 『開封厳禁』なんて書いてある藤ねえの名前入り荷物なんて、開ける勇気がないからまだ開けてないんだけど」
「ふっふっふ、士郎、若さがないなー。若者なら好奇心を持って、キケンに突入するのが特権ってものなのようー」
 勝手に開けたら間違いなく暴れるくせになんか言ってやがりますよこの虎は。
「お爺さまがね、わたしがお世話になるから士郎に送りなさいって。産地直送のカニさんなのだー!」
 カニカニー、と言いながら両手でピースサインをする姿は、カニと言うよりバルタン星人。
 ふと藤ねえの隣に視線を移すと、桜の目が輝きを増している。
「カニですか!? わたし食べたことありません! 先輩、明日のお夕飯はカニ鍋にしましょうね!」
「あー……それもいいけど。明日の夜は遅くなるからなあ……」
 明日の放課後はバイトが入ってしまっている。鍋はみんなで囲むから楽しいのであって、一人で取り分けたものを食べても空しいだけである。
 桜は目に見えてしおれてしまい、
「そう、ですか……そうですよね。先輩もアルバイト、お忙しいでしょうし…………」
「あ、でも! 別に俺の分だけ取り分けておいてもいいぞ!」
 あんまり意気消沈されると、さすがに罪悪感を感じてしまう。
 しかし桜は顔を上げて、ニッコリ微笑んだ。
「いえ、いいんです。カニはやっぱりみんな揃った時にしましょう。冷凍しておけばしばらく保つでしょうし、せっかくいただいた物ですもの」
「じゃあカニ鍋はあさってね。けってーい!」
 ご近所中に響くような、鶴の一声ならぬ藤ねえの咆吼で、二日後のメニューが決定される。
「…………ん?」
 その瞬間。さっきから感じていた視線が、少しだけ、強くなったような気がした。
 首をひねっている間にも夕飯は終わり、桜と藤ねえが帰路につく。
 後かたづけをして、なんとなくテレビを見て、風呂に入り。
 ――――そして、その間。
 ずっとおかしな視線が、俺につきまとっていた。まるで監視でもしているかのように。
 いや、正確に言えば、風呂の間は視線がなかったように思う。気がついたらその視線がなくて、なくなったかなと思っていたら、また気がつくと視線に追われていたり。
 正直これはあまり気持ちのいいものじゃない。冷たい緑茶を一杯いれて、振り払うように一気にあおる。
 けれど、なぜだか。
 こんな状況に自分が置かれることは不安だけど、視線そのものは不快に感じなかった。
「……ま、いっか」
 そんなふうに思えてしまったのも、きっとこの視線のせい。もっとイライラさせられるとか、警戒心を抱かせるとか、そういうものなら気になって眠れもしなかっただろうけど。
 この視線はどうしてか時間がたつほど、あってもいいのだと思えてしまう。
 生死をかけた戦いの二週間で、『彼女』に叩き込まれた感覚が、そう告げていた。




 ぎぃぃ、と扉のきしむ音で目が覚める。
 うっすらとまぶたを開けると、土蔵の窓から入り込む朝日がまぶしかった。
「おはようございます、先輩」
「ああ、桜か。おはよう」
 首を巡らすまでもなく、枕元に座っている少女のことがわかった。
 桜は嬉しそうに、まだ目の開ききっていない俺に話しかける。
「起きてくれないとまたわたしが朝食作っちゃいますよ?」
「……む。それは困る」
 ここのところ、バイトが忙しいせいで、夕飯も桜にまかせることが多くなってきたのだ。この上朝飯までまかせるのは、ちょっと心苦しい。
「じゃあ、早く起きてくださいね。台所で待ってますから」
「着替えたらすぐ行く。それまで待っててくれよ」
 はい。と笑顔で返事をして、桜は立ち上がった。
 その後ろ姿を見送ってから、俺は上半身を起こす。
「またここで寝ちまったな……」
 周りを見回すと、修理しかけのストーブと、適当に投影したガラクタがちらばっている。
 ゆうべ魔術の鍛錬をした後ストーブを修理していて、そのまま眠ってしまったらしい。
 最近はあたたかくなってきたんで、風邪の心配だけはないのだが、いいかげんこのクセはなおさなきゃな。
 腹にかけられていた毛布を横によけようとして――
「………………あれ?」
 その違和感に気づく。
 おかしい。ゆうべは部屋に戻る余裕もなく寝ちまったんだから、毛布なんかかけてるはずはない。
「……桜か?」
 いやいや。桜が来るのはいつも朝だ。この家に来てすぐに俺を起こしに来るのだから、毛布なんかかけないだろう。
 他に来そうな面子は、ゆうべ帰ってからこの家に来てもいない。
「――なんでさ?」
 わけわからん。
 俺は首をかしげながら、ひとまず台所に向かう。寝起きは悪くないが、起き抜けに頭がうまく働かないのは、人間として正しい姿だと思う。
 考えるのは後回しにして、まずは朝飯の準備をしなければ。
「って桜? どうしたんだ?」
 台所に入ると、桜はエプロンをつけたまま、冷蔵庫の中を見て固まっていた。
 俺の声を聞いて我に返ったか、こちらを振り向いた顔は困惑の色を見せている。
「あ……先輩。ちょっと見てください、これ」
 桜に指さされ、冷蔵庫の中を見てみると。
「なんだよこれ」
 冷蔵庫の中身が減っていた。
 正確には、ニンジンやダイコンなどの食材はそのまま残っている。ゆうべの残りのおかず、つまりすぐ食べられそうな物がなくなっている。
 量としては大したものじゃない。せいぜい一食の半分あるかないかぐらいだ。元々残しておいた量が少なかった、というのもあるが。
 それにしたって、夜中誰もいない台所に忍びこみ、誰かがメシを食った、という事実は変わらない。
「いったい誰がこんなことを」
「藤ねえとかかな」
 あの虎ならやる。やりかねない。そんな妙な確信がある。
 とはいったものの、実際にやったことがあるかと言われると、さすがにそんなことは一度もない。
 藤ねえは夜になれば藤村の家に帰る。夜中小腹がすいたのなら、藤村の冷蔵庫を開ければすむ話だ。わざわざうちまで来るなんておかしい。
「ま、まさか泥棒でしょうか……!?」
「いや、まさかそんなはずは」
 この家には悪意ある侵入者が来ると警報を発する結界が張ってある。それをやすやすとくぐり抜けられるはずがない。
 しかし他に理由も見当たらないし、そうなると謎はますます深まってゆく。
 念のため他の場所も確認したが、金銭には手つかず。貴金属は元々うちにはない。
 被害があった場所といえば。
「他にはご飯だけか」
 なぜかというか当然というか、ゆうべの残りのご飯がきれいになくなっていた。これもせいぜい茶碗1杯分だから、たいした量じゃない。
 つまり侵入者は、敵意なく我が家に忍び込み、メシを食って帰っていったということになる。
「………………なんでさ」
 メシ泥棒? それってただの食い逃げとか言うんじゃないだろうか。
「本当に藤村先生じゃないんでしょうか?」
「むぅ。……違うと思うな。ほら」
 流し台には、賊が使ったとおぼしき食器一式が、洗われないまま置かれていた。隅っこにきちんと積み重ねて置いてあるあたり、律儀な泥棒なのかもしれない。
 それは藤ねえがうちで愛用している食器ではなかった。今は使われず、食器棚の奥にしまってあったもの。藤ねえなら自分の食器を使うはず。それを使うわけがない。
 賊に食事を食べられたことより、その食器を使われたことのほうが、ひどく腹だたしかった。




 おかしなことが立て続けに起こっても、今日が平日ならば学校は変わらず登校日である。
 時刻は12時。4時間目が終わり、日直が号令をかけた。それとほぼ同時に昼休みのチャイムが鳴り響く。
 俺はカバンから弁当を出して立ち上がった。
 教室を出ようとする俺に、背後から声がかかる。
「衛宮。今日は生徒会室に来るか?」
「あー、悪い一成。先約が入ってるんだ」
「む。そうか。たまには衛宮と共に、と思っておったのだが……。まあ良い」
「すまない。来週また誘ってくれ」
「うむ。わかった」
 一成の誘いを断って、俺は屋上に急いだ。
 ドアを開けると、ごう、と吹き込む強い風。そろそろ暖かくなってきたが、幸い他の生徒の姿は見当たらない。
 俺の先約たる遠坂の姿以外には。
「遅いわよ。士郎」
「む。そんなことないだろ。チャイムが鳴ってすぐに来たぞ」
「わたしが来るより遅かったら遅いのよ」
 なんだろう。遠坂はやたらと不機嫌っぽい。さっさと給水塔の影に行くと、俺を待たずに座り込んだ。
 遠坂にならって隣に座ると、ジロリと睨みつけられる。
「な、なんだよ?」
「ふん。なんでもないわよ。――――鈍感」
 最後の一言は口の中でつぶやかれたものだったが、俺はあえて聞こえないフリをした。
 遠坂はすでに持ってきた菓子パンの袋をやぶり、昼食を始めてしまっている。
「なあ遠坂……」
「なによ」
 なんでそんなに不機嫌なんだ? と本当は聞きたかった。しかしそう言おうものなら、何倍にも不機嫌になった視線に射抜かれ、凍死が決定してしまう。
 そんなわけで二番目に気になったことを聞いてみることにする。
「わざわざ呼び出した用ってなんだ? 何か用があって、ここに呼んだんだろ」
 今にして思えば、今朝交差点で会ったときから遠坂はずっと不機嫌だった。
 学校への道はひたすら無言。こっちからいくらか話しかけてみても、ろくに返事が返ってこない。
 あげくのはてに教室に入る直前、
『士郎。昼休み、屋上』
 などといった呼び出し方をされれば、気にならないほうがどうかしてる。
「あら。用がなきゃ衛宮君を呼び出しちゃいけないのかしら?」
 にこーーーりと浮かぶあくまの笑み。う、マズいかもしれない。
「いや、そういうわけじゃ……」
「がっかりだわー。士郎がそんなにつれない人だったなんて。たまには女の子と約束してお昼ごはん、ってのもいいんじゃない?」
 ちくちくと擬音がしそうなほどトゲのある言葉。しかしこのあくまスマイルが浮かんでる場合、彼女はネズミをいたぶる猫の心境で、つまりは楽しんでいるらしいのだ。これがニッコリとスキのない笑顔の場合は、怒りが頂点に達していて、つまりは俺の命の危機ってことなんだけど。
 どこをどのようにしてしまったのかはわからないが、どうも俺は藪蛇をつついてしまったらしい、というのは理解できた。まあそのおかげで遠坂のキゲンは戻りつつある。――俺の心労と引き替えに。
「――――と、まあ、士郎で遊ぶのはこれくらいにして。
 ええ、もちろん用があったからよ。それもかなり重要な」
 ふと。
 遠坂が満面のあくまスマイルを消して、真剣な顔をこちらに向ける。
 それは魔術師としての、冬木の管理人としての遠坂凛。
「貴方にも、この町の魔術師として、それからわたしの弟子として聞いておいてほしいの。まあ士郎が戦力になるかどうかはわからないけど」
「戦力?」
 内心首をかしげる。なんだか物騒な単語だ。
 彼女は、そう、とひとつ頷き、
「昨日から、おかしな気配がひとつ。この町にあるのよ。それもものすごく強大な」
「なんだよそれ。おかしな気配? どこがどうおかしいんだ?」
「それがわかれば、もっと的確な表現を使ってるわよ。ともかく異質なの。……正直、こんなの初めてだわ」
 ぶるり、と遠坂が肩をひとつ震わせたのは、武者震いか、それとも――
「なんて言うか……魔力の塊、みたいな感じ。ニンゲンだとは思うんだけど、普通のニンゲンにこんな魔力は持ち得ないわ。
 もしもこの気配がニンゲンでないのなら、サーヴァントか幻想種って言われても、納得するでしょうね」
「そんなにか!?」
 思わず驚いて声をあげると、ジロリと睨め付けられた。
「ホントに鈍感よね。こんな大きな気配に気づかないなんて」
 はあ、と溜息をつき――たぶん弟子のふがいなさに呆れているんだろう――遠坂は手にしたパックのジュースを飲んだ。
「それより心配なのは……これも気づいてないでしょうけど。その気配、今朝からずっとこの近くにあるみたいなの」
「え?」
「昨日、突然現れた不審者――って、人かどうかわからないけど。ともかくソイツは昨日のうちに、町中に入ったみたい。
 そのまま一晩じっとしてたから、こちらも様子見だったんだけど、朝になってまた動き始めたわ。そしてあろうことか――」
 整った顔に緊張をみなぎらせ、遠坂は驚くべき事実を告げた。
「どうやら、あたしたちのすぐ側にいたみたいなの」
「いつから!?」
「ちょうど士郎が交差点に来るちょっと前くらいかしら。さすがに気配は隠してたみたいだけど、あんまり大きくて完全には隠し切れてなかったのよね。だから昨日のヤツだってすぐにわかった。
 それから、ずっとよ。学校に着いても、授業中も、昼休みに入ってからも、ずっと近くにいた。まるで見張られてる気分だったわ」
 胸の前に抜き身の剣を突き付けられてるみたいな緊迫感だった、と遠坂は言う。悪意はないけど、正体不明のソレがいつ悪意や殺意を持つかはわからない、と。
 そうなったとき自分では勝てないということを、おそらく彼女は知っているのだろう。だから恐れる。
 俺はこっそり遠坂に耳打ちした。
「……それで。そいつ、まだ見張ってるのか?」
「いいえ。今はいないわ」
 菓子パンの最後の一口を押し込んでそう言った。
「偵察と牽制と、士郎との作戦会議の時間稼ぎを兼ねて、使い魔に攻撃させてるの」
「大丈夫なのか!? それ!?」
「平気よ。普通の人間や三流魔術師相手ならカンタンに対象を殺せる使い魔だけど――」
「おい待て。」
「けどあの相手じゃあ、せいぜいこぜりあいがいいとこね。できるだけ時間を稼いでから、収集した情報を持ち帰るよう使い魔には命令してあるわ。だから今、そいつはいないの」
 そうか。今は見張ってる相手はいないのか。
 ――――と、そこで。
 俺はふと。『あの』気配もないことに気がついた。
「……なあ遠坂。関係があるかどうかわからないんだが――」
「ん? なによ」
 本当に、関係があるかはわからない。
 けれど『昨日』と『見張る』というキーワードが、俺の中でひっかかった。
 昨日から衛宮邸を見張っている気配。そいつは今、感じることができない。
 今でも家を見張っているのか。どこか全く別の場所に行ってしまったのか。あるいは。
 断言はできなかったけど、俺は遠坂に昨日からのことを話してみた。
 話を聞いて、遠坂は深く考えこむ。
「士郎の家を――?」
「ああ、そうなんだ。気配は強く感じることもあれば、まったく感じないときもある。でも…………」
「でも?」
「悪いヤツじゃない、と思う。なんていうか、気配が――」
 気配が、なんだろう。
 まるで久しぶりにどこかへ還ってきたような感覚。彩られた旧い想い出の体温を感じるような。
 そう、これは言葉で表すとするならば、たぶん――――
「士郎の家は悪意に反応する結界も張ってあるしね。今のところは信じていいかもしれないわ」
 遠坂の言葉が俺の思考を遮った。
 思わず顔を向けたときには、彼女はもう立ち上がっている。パンパン、とスカートの埃を払って、いつの間に食べ終わったのか、傍らのゴミを拾い上げる。
「けど士郎の家を見張っていたヤツとその魔力の持ち主が同じヤツかどうかはまだわからないし。そうだとしても正体不明の存在に違いはないんだから、警戒は怠らないで。
 それから、何かわかったらすぐにわたしに連絡すること。わかった?」
「………………」
 思考から戻りきれずに一瞬虚を突かれた俺を、遠坂はどう思ったのか、
「なによその顔。モンクある? 冬木の管理人への登録料と魔術指南代の未払い分として、少しぐらいは働いてくれてもいいんじゃない」
「あ、いや、文句はない。だいじょうぶだ。こっちでも気をつけるよ」
 我に返って慌てて言い繕う。このまま黙ってると後が怖い。
「ならいいわ。あんまり期待はしてないけど、しっかりね。また今夜おじゃまするから」
 ひらひら手を振って、遠坂は俺より一足先に屋上から去ってゆく。
 ふと手元を見下ろすと、弁当箱の中身はまだ半分近く残っていた。
「――遠坂のやつ、食べるの早いな」
 独り事をつぶやき、弁当を片づける。
 10分ほどして、最後のおかずを口の中に放り込んだ時。
「!」
 一瞬だけ、『あの』気配を感じた。しかしすぐにまた消える。
 けれどその一瞬が、俺にこの気配の感覚にふさわしい言葉を思い出させてくれた。
 いつも失うばかりで、この手に戻るものなどなかったから、久しく忘れていたカンカクとコトバ。
 ――――懐かしい、という想い――――
「……どうかしてるな、俺」
 頭を振って、考えを振り切る。
 なぜ思ってしまったんだろう。なぜ連想してしまったんだろう。
 この感じは――『彼女』によく似ている、と。




 学校は6時間目で終わり、バスに乗って新都へ向かう。
 今日はコペンハーゲンでのバイトの日。最近は食い扶持が増えたから、ムリを言ってバイトの日を増やしてもらっている。
 その理由がおやじさんからネコさんの耳に入ったらしい。「1時間も説教されちゃったよー」と半泣きになりながら、藤ねえが食費という名のついた、およそ藤ねえの手から渡されたことのない、金の入った封筒を持ってきたのは記憶に新しい。できれば毎月、と願うのは、たぶん贅沢な悩みなんだろうけど。
 バスを降りて駅前方面へ歩く。深山町と違い、ここでは人混みに阻まれて真っ直ぐには歩けない。
 右も左も前も後ろも人人人人人。どうやら帰宅ラッシュのようだ。今この場では人がたくさんいて当たり前。人の気配も人の声も、当然あり得るものばかりだ。
 だから、前を歩く女性の姿も、別段不思議なものではないはず、なのに。
 ふと、その人に言いしれぬ『懐かしさ』を感じた。
 前を行く女性の髪は、金髪だった。
 ただそれだけ。髪も肩上までだし、背も『彼女』より高いし、そもそも同じ金髪でも微妙に色は違うし、白い服は似てるけどはいてるスカートの色は違うし、感じるフンイキは全くの別人だし。
 ――――それでも。
 その女性の髪が、金髪だった。ただそれだけの事実が、どうしようもなく『彼女』を――あの青い少女を思い出させる。
 知らず、足が早くなっていた。前の女性を、『彼女』の残滓を見失わないように。
 周りの人にぶつかりながら、早足で歩きだし、わずかの間が経ったとき。

「ぁっ…………!」

 後ろの方で声が上がる。
 音からして少女のもの。それも別段珍しくはない。なんたって今ここでは、人があふれかえっているのだから。
 ――――それでも。
 その声は、まだ想い出と呼ぶには新しく、日常と呼ぶには遠い、たった今脳裏に思い描いていた声と寸分違わないものだった。
「え――――?」
 思わず振り向く。雑踏の中、瞬時に描かれる『彼女』の姿。
 しかしそれは単なる幻だったらしい。瞬きをする間もなく、目にやきついていた残像は消え去った。
 そこに変わらずあるのはただ、他人に無関心な雑踏と、それを堰き止める俺を迷惑そうに見やる人の視線。
「……………………」
 わかってる。
 そんなことはわかってる。
 いるわけはない。『彼女』が、こんなところに。
 さっきの声だって、実際に響いた声じゃない。あんまり強く想っていたから、脳が勝手にテープレコーダーのように再生しただけに過ぎない。
 そんなことは、嫌になるほど、わかっている、のに――――
「セイ――――」
 バー、と。続く声を飲み込んだ。
 ここで『彼女』の名前を呼ぶのは、あんまりみっともない気がして。
 代わりに右の拳を握りしめる。強く。高ぶる思いのまま強く。
 その拳を、左手に一度、強く打ちつけてから。
 俺は踵を返し、再びコペンハーゲンに向けて歩き出した。




 冬の名残もすっかり消え、夜の空気はあたたかい季節を謳歌している。
 もっとも冬の長い冬木市では、春の夜も寒くはないという程度で、やはり昼間に比べると温度はずいぶん違っていた。
 頭を冷やして帰るには、これぐらいが丁度いい。
 来る途中にあんな出来事があったものの、バイトをしているうちに、だんだんと気持ちは落ち着いてくれた。
 しかしどうやら自分で思っているほど俺は冷静ではなかったらしい。
 普段は絶対にしないレジの打ち間違いを4度もして、お客さんやおやじさんにひたすら迷惑をかける始末。
 そのたびに平謝りする俺を、おやじさんやネコさんは笑って許してくれた。
 けれど、ネコさんがバイトの上がり際、ふとからかうようにもらした一言が、結構効いた。

 ――――エミヤんってば好きな女の子でもできたの? なんか思いつめた顔してるよ。

 正直心臓がドキリとした。そういえば彼女の親友である虎も、意外なところでバカにできない鋭さがあったっけ。
 やっぱり今日はどうかしている。なぜ今頃になって、こんなに強く思い返してしまうのか。頭から離れてくれないのか。
 それとも、元々こんな状態だったのを、自分でも知らないフリをしていただけなのか。
 たしかにずっと考えていた。たった二週間を共に駆け抜け、そして消えていった少女のことを。
 本気で愛して、幸せにしたくて、けれど叶わなかった。そのかわり互いに一番大事なものは守り切れたと信じている。
「……セイバー」
 名前を、つぶやく。口の中で転がすように。
 ただ一言だけの名前に、万感を込めて。
 あの日、朝焼けの中で別れて以来。俺の中であいつの輝きは、今も変わることがない。朝焼けの太陽が決して色褪せぬように。
 未練はない。
 後悔もない。
 けれど想いは、今も変わらずある。
 衛宮士郎には10年前のあの日から、1番大事な席がぽっかりと空いていた。『自分』というものを入れるべき、1番大事な席が。
 本来ならば誰にもある特別の、そして不動の席に何もなかった。
 だがあの戦いを経て。そこには今、セイバーがいる。
「……忘れることは、ないよな」
 10年前のあの日。全てを変えた地獄も、俺を救った切嗣の顔も、鮮明に思い出せる。
 5年前のあの日。俺が夢を形にしてやる、と告げたときの切嗣の最期も、鮮明に思い出せる。
 ならば2ヶ月前のあの日。愛していると言ってくれたセイバーの顔は、いつ忘れるというのだろう……?
 ――いや、そんなことはありえない。
 衛宮士郎には10年前のあの日から、1番大事な席がぽっかりと空いていた。『自分』というものを入れるべき、1番大事な席が。
 本来ならば決して他の誰にも変わらぬ、そんな特別席に、今もセイバーはいる。
 ……そんな特別席に、セイバーを押しのけて入ることのできる存在など、ありはしない。




 家に帰りつくと、居間では藤ねえがせんべいをかじっていた。他に人影はない。
「あれ? 藤ねえ、桜と遠坂は?」
 この時間なら、まだ2人とも家にいると思ったんだが。
 最近遠坂と桜が11年前に別れた姉妹であると公表し、堂々と姉妹のつきあいをするようになった。主にこの家で。
 なんでもまだ事情をよく知らない他人の前で、呼び名を変えたり態度を変えたりすることは抵抗があるらしい。気にしなくてもいいと俺は思うんだが、女心はフクザツなんだと、遠坂になんだかよくわからない説得をされてしまった。
 だから2人ともわりと積極的にこの家に集まる。そして時間の許すかぎりお茶を飲み、世間話をして帰っていく。今日もその例にもれないと思ったのに。
「桜ちゃんならもう帰ったわよ。遠坂さんは今日は来てないし」
「来てない?」
 おかしいな。たしか学校では、今夜来ると言ってたんだが。
 首をかしげ、荷物を部屋に置くため居間を出ようとしたそのとき。まるで待っていたかのように電話が鳴った。
「はい、衛宮です」
『もしもし士郎? わたしよ』
「遠坂? どうしたんだ、今夜来るんじゃなかったのか」
『………………』
 電話の向こうで不自然な沈黙。なぜかものすごく嫌な予感が、稲妻のように背中を駆け抜けた。
『許せないのよ――――』
「……え?」
『絶対許せないわーーー!! 今度こそコテンパンにしてやるんだからーーーー!!』
「どわっ!」
 慌てて受話器を耳からはなす。くっそお遠坂のヤツ、叫ぶ前に聞き取れないくらいの小声で話す、なんて高度なワザ使いやがって。これじゃあ誰だって受話器に耳を密着させてしまう。
「いきなり何すんだ遠坂!」
『士郎。わたししばらく、そっち行けないかもしれない』
「は?」
 突然の話題転換はカンベンしてくれ。わけがわからない。
「遠坂?」
『もっと強い、最強の使い魔を作ってやるわ。フフフ、それこそサーヴァント並のね…………』
 どこか据わった目つきの想像できる遠坂の説明によると。
 昼間言っていた、怪しい気配を追わせていた使い魔は、あっけなく追跡対象に捲かれた上、消されてしまったそうだ。おかげで相手の情報はなにひとつ手に入らなかったらしい。ただひとつ、相手がとんでもなく強い、ということを除いては。
『使い魔だってタダじゃないのよ! せっかくわりと高性能の、使い回しができるのを送り込んだのに! このまま泣き寝入りだけは絶対にしない――!』
「それで、しばらくは学校以外に外出しない、ってことか」
『そうよ。遠坂のプライドにかけて、正体を掴んでやるの。そんなわけでしばらく工房にこもるわ。じゃあね』
 がちゃん、と音をたてて電話は切れた。言いたいことを言ったら用はないらしい。
 それにしても。
「士郎ー。遠坂さんなんだってー?」
「あ、いや、たいしたことじゃない。……うん、しばらく家の都合で、こっちに来れないかもしれないってさ」
 藤ねえに適当な返事をし、もう一度考えこむ。
 遠坂だって若いとはいえ、相当な力を持った、一流とも言える魔術師だと思う。その彼女の使い魔が軽くあしらわれるなんて…………。
 何かとんでもないものが、今、冬木市にいる。それは言いしれぬ不安を呼び起こした。
 初めてサーヴァントを見た、あの時のような不安を。
 ――視線は昨日と変わらず、また俺を見ている。
 その視線が悪いものでないのは昨日のままだ。
 この不安を拭い去るには、今はそれだけが頼りだった。






 翌朝いつもの交差点に現れた遠坂は、一見普段通りに見えた。
 しかしわずかに目が充血していたあたり、昨夜の苦労がうかがえる。
 一瞬指摘してやろうかと思ったが、やめた。逆ギレされたら怖いし。
「それで、どうなんだ? 調子は」
「作業に問題はないわ。ただ…………」
 そこまで言って、整った眉をわずかに寄せる。
「今作ってる使い魔は、消されたやつよりかなり力を入れるつもりなの。その魔力が簡単には溜まらないのよ」
 つまり車体ができてもエンジンができないようなものらしい。多少力を抜いても動きはするが、それでは例の相手には勝てない、ということだ。
「そんなわけで士郎。貴方今夜、うちに来て手伝いなさい」
「え……ええ!?」
「なに驚いてるのよ。足りないなら余所から持ってくるのは魔術師の基本でしょ? 言っとくけど、桜にも手伝ってもらうつもりでいるんだから」
 あっさりと言い切ってくれる遠坂。
「でもそんなことできるのか?」
「当たり前じゃない。遠坂の魔術師が使うのは『転換』よ。多少質が違ったってなんとかなるわ。アンタの極小の魔力だって、少しは足しになる」
 手伝ってもらう予定の俺に対してひどい言い草だが、よく見ると充血していた目の下に、うっすらクマが浮かんでいる。ここは逆らわない方が得策のようだ。
「わかった。桜には――」
「今日わたしが直接話すわ。今夜のごはんはそっちに行くから」
 用意するより食べに行った方が早い、とまるで外食に行くような口ぶりで言う。まあいいけど。
「……ところで士郎」
「なんだ?」
「気づいてる? コレ」
 突然声を落として囁く遠坂。声量に反比例して声に真剣さが増す。
 俺も合わせて声を落とした。
「今ついてきてる気配のことか?」
「ええ。間違いなくわたしたちを追ってる。――どういうつもりかしら」
 苦虫を噛み潰すような遠坂の口調。未知の相手に対する焦りとまだ打てる手段のない自分に対する苛立ちからか。遠坂の表情は余裕の色が消えている。
 最初にこの視線を感じてからすでに丸一日半。今日で三日目。気配はいまだ変わらず、状況も変わらない。そのうち本当に見られているのが当たり前になってしまいそうだ。
 遠坂は険しい顔を保ったまま、無言で学校への坂道を行く。俺も同じく何も言わずにその後をついていった。
 校門を通り抜け、まっすぐ校舎へ。昇降口から中へ入ろうとして――――
「危ないっっ!!」
 上の方から声がした。
 反射的に頭上を見上げる。
 するとそこには。
「な――――!」
 およそ三階の高さから、何かが落ちてくる。一瞬遅れて、どうやら植木鉢のようだと確認した。
 しかもプラスチックではなく素焼きの植木鉢。これは当たるとかなり痛い。当たり所が悪ければオダブツだ。
 そこまで判断してようやく、避けなければ、と頭より先に身体が判断する。とっさに脚の筋肉へ指令を出す。しかし間に合わないだろうな、と頭の片隅でぼんやり思った。
 脚に力がこもる。横の方へ身体を移動させる。まったく同時に頭に来る衝撃を覚悟する。
 その瞬間の行動と、これまた同時に、『ソレ』は起こった。

 ビュルルォォォォッ!

 一陣の風――いや、風というより突風と呼ぶべきソレは、どのような理屈からか植木鉢に向かい、まるで竜巻のようにぶつかっていった。
「――――え?」
 思わずマヌケな声が漏れる。
 およそ自然の状態ではありえない風がいきなり吹いてきて、ソレが俺の頭を救ったのだ。
 風に押されて、植木鉢の軌道がズレる。植木鉢は地面の何もない場所に落ち、ガチャンとハデな音をたてて割れた。
 普通なら落下地点であった俺の頭は割れておらず、キズひとつない。
「士郎っ!?」
 先に昇降口に入っていた遠坂が、事態を察して駆けつけてくる。他にも登校中だった生徒たちが集まってきた。
「大丈夫?」
「ああ。助かった――いや」
 助けられた、のか?
 理由もわからず、そんな考えが頭に浮かぶ。
「…………?」
 いきなり言葉を切った俺を見て疑問符を浮かべる遠坂。いきなりおかしな考えをして疑問符を浮かべる俺。
 植木鉢から頭を守ってくれた、一陣の風が、不思議なほど心に引っかかった。




 今日は土曜日だったおかげで、授業は午前中のみ。部活動をやる連中は午後も学校に残るのだろうが、俺は早々家に帰ることにした。
 昼食はどうしようか? 実は何も作りたくない、というのが本音だ。藤ねえと桜は弓道部、遠坂は家で食べるのだろう。今日の昼食は俺が一人で作り、一人で食べる。その本人にまったく食欲がないのなら、気力もなくなろうというもので。
 学園の名物となりつつある坂を下る。うちの学園へ通う生徒の大部分はこの坂を下り、それからいつもの交差点で各々の帰路をたどる。そんなわけでまだあちこちに、学園の制服姿の人影が見てとれた。
 俺も彼らの一団に混じりながら足にまかせて道を歩く。身体というのは不思議なもので、頭で考え事をしていても、ある程度慣れた行動を勝手にとってくれるらしい。
 歩くことは身体にまかせていたため、頭の中はここ数日のことでいっぱいだった。
 ――2日前から俺達を見張る視線。けれど不快ではないその気配。俺を助けた謎の風。
 なぜか事あるごとに思い出される、少女の姿。
 俺はどうかしてしまったのだろうか。すべての符号があいつに結びついてしまう。
 そんなことあるわけないのは、自分が一番よくわかっているというのに。
 あいつは自分の時間へ帰った。もう手を伸ばしても届かない。あいつの未来には、あとは破滅しかないと知っていながら、それでも彼女の人生で最も大切なものを守れると信じていたから、手を離した。
 だから。あいつは――――セイバーは。
 彼女の誓ったこと、王としての誇りを胸に、眠りについたはずなのだ。
 そこに後悔はない。ない、はずだ。
 たとえセイバーを思い出すたびに、愛しさと共に沸き上がる切なさを抑えられなくとも。
 それは後悔や未練とは違う名前のつくべきものなのだろうから。
 セイバーは納得して逝ったはずだ。それはちゃんとわかっている。
 だから。
 セイバーが、今ここにいてくれたらどんなにいいかと、そんな夢想をすることは――――

 …………どどどどど…………

 エンジンの音が聞こえる。うるさい。
 たとえ俺にその気がないとしても、こうして彼女のことを思ってしまうのは、未練ではないのだろうか?
 いや、それはたぶん許されない。あの時、セイバーの手を離したのは俺自身の意思。
 ならばどんなに辛くても、あの時の選択を後悔してはいけない。
 信じたものを胸に走り続けること。それがセイバーがあの戦いで見つけた答え。

 パパパパパパパパーーーーーー!!!

 今度はクラクションの音。
 うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。
 今はセイバーのことを考えていたいんだ。邪魔しないでくれ。
 だから。俺は。

「きゃあああああっ!」

 女生徒の悲鳴があがる。
 絹を裂くような声で我に返り、はっと顔を上げると――

    眼ノ前ニとらっくガ迫ッテイタ
    「え――――――?」

 ギャキュルルルルィィッッッ!!!

 ドン、と体に衝撃が走る。
 ハデな音とゴムの焦げるにおいがあがり。
 自分の視界がグルグル回って、地面を転がるのがわかった。
 やがてブレーキが効き、トラックが止まる。
 俺はそれを、血に濡れた瞳で見上げ――
「…………あれ?」
 ――ることにはならなかった。
 道路に焦げ痕をつけた車は離れた場所にあり。その近くには何も転がっていない。
 驚いた。まるでテレポートでもしたかのようだ。
 けれどその次の瞬間、耳朶をうつ声にはもっと驚いた。
 驚いた、というより、それこそ何が起こったのかわからなかった。


「シロウ! 貴方は何を考えているのですか!?」


 二ヶ月の間では、忘れることなどできなかった、声。
 混乱した頭で、おそるおそる顔を上げると、聖緑の瞳が怒りをたたえて俺を見ている。
 今は憤怒の表情だが、それでもなお、造作の整った顔がそこにある。
 初めて会ったときの月光のような金色の髪。今日の青空のような澄み切った青い服。
 これだけ揃ってしまえば、もう、彼女が誰であるかを疑うことはない。
 彼女の名を呼ぶ俺の声は、みっともないほど震えていた。
「…………セイ、バー…………」
「なんですか。生半可な言い訳は聞く耳持ちませんよ。あんな大きな車に飛び込んでゆくなんて、貴方の無防備さにもほどがある。
 私がここにいなかったら、一体どうするつもりだったのです?」
 いや、そもそも。
 なんで、おまえがここにいるか、が知りたいのだが。
「――――――ええっと…………」
「どうしました。言いたいことがあるならはっきり言って――――っ!」
 その時、言葉の途中で。
 突然、俺の体を支えていたセイバーの腕から、力が抜けた。
 へたり、と地面にひざをつき、腹をおさえている。
 思いがけぬ再会に加え、セイバーの苦しげな表情が、俺からすべての思考回路を奪ってゆく。頭ん中が真っ白になった。
「セイバー!? どうしたんだ!?」
「くっ…………」
「おいセイバーしっかりしろ! セイバー!」
「シ……シロウ……」
   ――――ぎゅるるるる
 ……なんだか聞き慣れた音が耳に届いた。
「――へ?」
 セイバーは顔を赤くして俯いている。
 これはもしかして…………
「…………まさか、腹へってるのか?」
 白い顔をさらに赤くしながら。
 彼女は、コクンとうなずいた。




 衛宮家の台所は戦場と化した。
 とりあえず買い置きしておいたパンを、バターやジャムやマーマレードとセットにして差し出す。セイバーが空腹をしのいでいるうちに米を炊き、できるだけ早く作れる総菜に取りかかる。
 幸いにも今朝下拵えした魚が冷蔵庫の中にあった。今日の昼食に使おうと思っていたものだ。それを手早く火にかける。
 手の空いた隙を使って、援軍も呼んだ。桜は弓道部の部活動に出ているし、他にうちで料理を作ってくれそうな人間を、俺は1人しか知らない。
 そうして緊急レベル特Aで呼び出した援軍は、突然の呼び出しに不機嫌そうな顔で我が家まで走ってきてくれた。もっともその不満顔も、居間でパンを頬ばるセイバーを見るまでのことだったが。
「せっ………………!」
 そのまま二の句が継げず、ポカンと大口を開けた遠坂は。
 きっちり10秒後に再始動し、一気にセイバーへ詰め寄った。
「ちょっとセイバー!? どういうこと!? 本物なの!? なんでここにいるのよ! どうやって帰ってきたの白状なさいっ……!」
「り、凛。それはいささか苦しい。手を離してください」
 セイバーの肩をつかみ、がっくんがっくん前後にゆさぶる遠坂。相当興奮しているらしく、目が血走っている。――あれ? 前、「どんなときでも優雅たれ」が家訓だとか言ってなかったか?
「おーい遠坂。セイバーの目を回してもらうために、おまえを呼んだんじゃないぞ」
「じゃあどういうっっ…………!」
 叫びかけて、どうやら気づいてくれたようだ。俺の目の前にある大量の食材に。
 予備のエプロンを取って、ほら、と手をふる。遠坂は不満そうな顔で俺を睨み、セイバーの手元にある食べかけのパンを見、そして大きくため息をついた。
「――――はあ。わかったわ。なんかすごく納得いかないけど、それは後回しにしてあげる。
 そのかわり、食べ終わったら全部説明してもらうわよセイバー」
「ええ。元よりそのつもりです」
 力強くうなずくセイバーに、遠坂が微笑み返す。
 心強い援軍のおかげで、なんとかセイバーの腹の虫に追い付きそうだった。
 やっとできてきた料理の数々を次々セイバーの前に並べる。セイバーはそれをかたっぱしからたいらげる。
 相変わらず一口食べては、
「ふむ……ふむ、ふむ…………」
 とうなずいていた。それは嬉しかったが、以前よりうなずくスピードが3倍増しなのはどういうわけか。
 いやそれだけ腹が減ってるっていうことなんだろうけど。
 とうぜん食べるスピードも3倍増し。前はゆっくり大量に食べるのがセイバーのスタイルだった。今回はそれにスピードが加わり、藤ねえもびっくりの食いっぷりを見せている。
 俺も遠坂も料理を作るだけで手一杯で、セイバーの食べた食器を下げる暇がない。自然セイバーの前には、食べ終わった食器が積まれて山をなしてゆく。
 その光景を見て、俺は昔なにかのアニメで見た、行き倒れキャラを思い出した。
 たとえば道に迷ったとかで数日なにも食べていない人が、人家を見つけて立ち寄る。そこで出された常人の数人前はある料理を残らずたいらげ、みんなの度肝を抜く。とかいうようなヤツ。
 そんなどこかの猿のシッポを持った宇宙人顔負けの食欲を見せたセイバーは、衛宮家の食糧を91%食べ尽くした時点で、ようやく止まってくれた。ごちそうさまでしたと両手を合わせ、行儀良くごあいさつ。そして。
「やはりシロウと凛の作る食事はとても美味しい。戻ってきたのだと実感がわきます」
 にっこりと幸せそうに微笑まれてしまったら。
 もう彼女が帰ってきた疑問も食糧をあらかた食われたこともどうでも良くなるあたり、男ってやつは単純かもしれない。
「おそまつさまでした。セイバー、食後のお茶飲むか? 江戸前屋のどらやきもあるぞ」
「それは嬉しい。ぜひとも――――」
「ってちょっと待ちなさいよアンタら。もしかして何か忘れてない?」
 すっかりくつろぎモードに入っていた俺たちを、遠坂がジト目で見る。
 いや悪かった。おまえの言いたいことはわかってる。だから魔術刻印を輝かせるのはやめてくれ。
「まったく……。こっちは料理しながらずっとあれこれ考えてたってのに。あんまり焦らさないでよね」
 遠坂は、わたしにもお茶、なんて言いながらとっとと居間の食卓についてしまった。食器はとりあえず洗い桶につけておいて、お茶とどらやきを持ってゆき、セイバーの隣に腰かけた。
 遠坂が真剣な顔になり、改めて問いかける。
「それで。どうやって戻って来られたの、セイバー」
 俺がお茶をそれぞれに渡し終わるのを待ってから、セイバーはおもむろに口を開いた。
「聖杯を破壊した後、私は自らの時代へと還りました。
 あのカムランの、血塗られた丘で、アーサー王として死を迎えるために――――」



 〜interlude〜


 聖剣が湖の貴婦人に返されたのだろう。全身から力が抜けていく。彼女は終わりが近いことを悟った。
 自分の人生が頭の中を素早く駆け巡る。
 決意を持って剣を抜いたこと。王として国のために働いたこと。そして自分の愛した少年のこと。
 彼と別れたかった訳ではない。共に生きることを夢想しなかった訳ではない。
 けれど彼は自分の誇りを守ろうとしてくれた。自らの気持ちを押し殺して、それでも彼女の誇りを守ろうとしたのだ。ならば自分には、それに答える義務がある。それこそ、自分の気持ちを押し殺してでも。
 だからアーサー王は、一片の後悔もなく最期の刻を迎えるべきだった。
 ――――ただ。
 今この時。ほんのわずかな時間だけ。
 王としてではなく、彼のことを、一時のユメを見る弱さが許されるだろうか。
「――すまないなベディヴィエール。今度の眠りは、少し、永く――」
 傍らの騎士にそう告げて。偉大なる王は眠りについた。
 おそらくは、二度とは覚めぬ、永劫の眠りに。
 騎士も、そして王自身も、そう思っていた。
 しかしそれは大きな錯覚だったのだ。

(……ん――?)
 自身の身体が揺られる感覚で、彼女は目を覚ました。
 ぎぃこ、ぎぃこ、と規則的に奏でられる、木製のなにかを動かす音。
 耳に届く水音。そして潮の香り。
 ……潮? おかしい。自分は森の中で最期の刻を迎えたはずなのに。
 なぜ、潮の香りなどするのだろう……?
「…………これは…………?」
 重いまぶたをムリに押し上げ。彼女の漏らした第一声はそれだった。
 まず視界に映ったのは、一面の海原。そして星空。
 すでに岸は見えない。かなり沖へ出ているようだ。
 自分の身体が揺れているのも道理。なにせ小舟に乗せられているのだから。
「おお、お目覚めかい。王よ」
「なっ……貴方はマーリン!? なぜここに……!」
「なぜもなにもないだろう。迎えに来たに決まっているじゃないか」
 かけられた声に驚き、飛び跳ねるように起き上がり、そこには見慣れたお抱え魔術師の姿があれば、驚愕もひとしおというもの。
 さらに、まるで多く作りすぎたおかずを隣家にお裾分けに来ました、と言う奥さんのような気軽さで。
 本当になんでもないことのような口調で、魔術師はトンデモナイことをのたまった。
「む……迎えに……?」
「そう。お迎え、というヤツさ」
 こういう場合、あの世へ連れていかれるためのお迎えなのだろうか? いやしかし、この魔術師が自分より先に死んだとは、どうしても信じられない。
 頭がグルグル回りはじめる彼女の耳に、今度は別の声が届いた。
「もう、マーリンったらイジワルなのねえ」
 今の今まで気づかなかった存在に、彼女はパッと振り向く。
「あ、貴女はたしか、湖の妖精の姫……っ!」
「ヴィヴィアンでーす♪ 王さまお元気ー♪」
 やたらカルいノリの婦人に背中をバン、と叩かれ、彼女はすこしむせた。
「ケホッ……。それで、いったいこれはどういうことです!?」
「ふむ。やはりちゃんと説明しないのはまずいね」
 いたずら好きでいつもにやにやしていた魔術師は、彼女でも数えるほどしか見たことのない、真摯な顔つきを向けてきた。
 自然、彼女の態度も真剣なものになる。この魔術師がこんな顔をするときは、間違いなく大事なことなのだ。
「君は、息子であるモードレットと戦い、相討ち同然で死んだ。それはわかるね」
「……ええ。わかっています」
 その死の間際に、彼女は聖杯を望み、しかし聖杯に願うべき望みは間違ったものだと教えられてきたのだ。
 遙か遠い国の、遙か遠い時代の少年から。
「けれど君には、もう一度チャンスが与えられているんだよ」
「……チャンス、ですか?」
「うん。ひとつはこのまま、死に行く道。
 もうひとつは、彼女の案内で理想郷に行き、やがてブリテンの危機に復活して戦う道だ」
「ブリテンの危機、とは……今のことではないのですか? このままでは、ブリテンは異民族に攻め込まれる。ひとつ間違えば、ブリテンという国名自体、消えてしまうことでしょう」
 唇を噛み締める。自らの力及ばず国を滅ぼしてしまうことは、わかっていても納得できないようだ。
 彼女にとっては想像するだに悔しい話に違いない。
「たしかに消えるかもしれない。しかし、民は残る。いつかこの世界の国がたったひとつになったとしても、民の平安に勝てるものがあるのかな?
 王よ。君は何を守りたいのかな。ブリテンという国名か? それとも民の笑顔か?」
 少女は驚いた顔で魔術師を見る。しかしその表情も、すぐに和らいだ。
 そんなものは決まっている。あの聖剣を抜いた時より、いやその前からずっと、彼女が守りたいと願ったものはそれなのだから。
「――言うまでもありません。たくさんの人が笑っていること。それが私の望んだことです」
「だろうね」
 全てわかっている、という顔で、魔術師はうなずいた。
「それで、どうする? 君にはまだ、その手段が残っているわけだけど――」
「是非もないことです。その話、受けましょう」
 王として生きた誇りを胸に、王として死ぬ。それは彼女の愛した少年に誓った事。
 しかし彼は、こうも教えてくれたのだ。もしやりなおすのならば、過去ではなく今からやりなおすべきなのだ、と。
 王として生きて、けれど王としての望みは果たしきれなかった。それを成し得る可能性があるのなら――
「王としての責務を、果たします」
「よし、話は決まった。それじゃあ行こうか。とりあえずはあっち、陽の沈む方に……」
 魔術師は――いつも彼女を困らせてきた、非常に不吉な――にやりとした笑みを浮かべた。


 それから数日間。
 彼女は海原を漂う小舟の上での生活を余儀なくされた。
 なぜか食事やその他の生理的衝動がなかったのは幸いなのだが――
「マッ、マーリン!! この大波はどういうことです!?」
「どういう、と言われてもね。海が荒れれば波は立つよ」
「やだなあ王さま。知らないのー?」
「ヴィヴィアン! 貴女は湖の妖精でしょう!? なんとかできないのですか!」
「あっはっは、ここは海だもん。あたしの領域じゃないよー」
「――っ、シロウ、シロウ……!」
 またある時は、異常な寒さに襲われたりした。
「……あの、お二人とも……。寒くありませんか……?」
「うーん、寒いね。けど仕方ないね。ここを迂回しないと、この先へは行けないから」
「う、うかい……?」
「『あめりか大陸』とか言うらしいですよ王さまー♪」
「あめりか、ですか……。とても寒いところなのですね。ブリテンの冬よりも……
 ――なんだか、眠く…………」


 〜interlude out〜



「……と、散々な目に遭いました」
「た……大変だったんだな、セイバー……」
 苦渋の表情で語るセイバーに、俺も遠坂も言葉がない。
 頭の中でざっと世界地図を開いてみる。イギリスから西へ、ということは、まずアメリカ大陸にぶつかるはずだ。そこからさらに西に行こうと思うなら、北アメリカか南アメリカを迂回して太平洋に出るしかない。
 今ならばパナマ運河が整備されていて、そこを通ってゆくのが一般的なのだが、アーサー王の時代にはそんなものはなかった。北と南のアメリカ大陸は地続きになっていたはずだ。
 イギリスは北半球だから、北アメリカ迂回路をとったんだろう。季節や海流にもよるが、普通に考えればかなり寒い。
「で、そこから先はどうなったんだ?」
「はい。3日か10日か――。どれだけ経ったかはわかりませんが……」



 〜interlude〜


 やがて小舟はどこかの島に到着した。
「やあ、やっと到着したね。気分はどうだい?」
「……最悪です……」
 日にちをうっかり忘れるくらい長時間、波に揺られていたのだ。気分のいいはずがない。
 サーヴァントとして騎乗スキルBを持つ彼女ですら、それは過酷な状況であった。
「――それで、ここはどこなのですか……?」
「どこって。君が傷を癒すべき理想郷だよ」
「理想郷?」
「とりあえず傷はふさいであるけれど、彼――モードレットにつけられた傷は深いんだ。ここで有事になるまで、ゆっくり眠って傷を治しなさい」
「……わかりました」
 どことも知れぬ場所で無防備に眠るなど、今までの彼女には信じられなかった。
 それでもここは……なぜか、懐かしかったから。
 眠るなら、こんなところがいい。
 ユメの続きを見るならば。
「いい夢が見られそうです」
 懐かしい、彼の夢を。
 そんな予感がした。
 柔らかい笑顔を浮かべる彼女を、魔術師は同じく穏やかな顔で見つめていた。
 そうして。
 彼女は、魔術師の導きどおり、岸から離れた森の中に身体を横たえ。
 永き眠りについた。
 彼の夢を見られるようにと願いながら。


 しかしその願いは叶うことなく。
 次に少女が感知したのは、激しい頭痛だった。


「――っ、これは、何事ですか……!?」
 頭を鈍器で殴られたような、頭蓋全体を襲う頭痛。
 そのせいかわからないが、身体が重く、関節のあちこちが痛む。
 どういうことだろう。こんなことは初めてだ。
 跳ね起きるようにして少女は上半身を起こす。頭痛は止まらない。
「ああ、起きたのかい?」
 上からふりかかる声に、顔を上げれば。
 そこには、眠りにつく前と変わらぬ位置に、かの魔術師の顔があった。
「マーリンっ……! 一体なにがあったのですか!」
「とても残念だよ。私としても、君をこんな形で起こしたくはなかった」
 沈痛な魔術師の表情に、彼女は覚悟を固めた。
 言うまでもない。彼女はそも、そのために生き長らえることを望んだのだから。
 だとすればこの痛みは、おそらく警告。ブリテンについに迫った、危急の刻を告げるための。
「私が戦いの場に赴く時が来たということですね?」
 それは質問ではなく確認。
 しかし。魔術師は沈鬱な顔を変えぬまま、首を横にふった。
「王よ。いま君は、頭が痛くて目が覚めたのだろう。その痛みは……
 ――ただの眠りすぎだ」


「……え……?」


「いやまさか私も、ここまでブリテンの平和が続くとは思わなかったからね。
 君が自分で起きてくるより、私が起こす方が早いだろうと予想していたんだが」
 魔術師の言っていることを未だ理解できず、呆然としている少女に向かい、魔術師は続けた。
「人間っていうのは、そういつまでも眠り続けていられるものじゃない。それが傷を癒す眠りであっても同じだ」
「わ、私はどのくらい眠っていたというのです……?」
「ざっと、1500年」
「1500年……!?」
 唖然とした。50年の時すら生きていない少女にとって、1500年など数字としてしか理解できない。
「不覚です。そんなに眠りこんでいたとは――」
「さすがに身体の方が眠っていられず、起きたようだね。よく眠りすぎると頭が痛くなる、って聞いたことはないかい?」
「そ、そういえば、シロウがそんなことを言っていたような……」
 あんまり長く寝ていると、頭が痛くなってきて、いつまでも寝ていられない、と。
 いつかのとき、彼女のマスターはそう言っていた。
 あのときは、自分にはそんな経験がないので、実感がわかなかったのだが――
「こういうことだったのですね……」
 頭が痛い。手足が重い。関節が悲鳴をあげる。
 およそ疲れをとるための眠りをとった後とは思えなかった。
 むしろ、眠りすぎて疲れた、という表現の方がしっくりくるだろう。
「ということは、今回私が目覚めたのは、ブリテンの危機と関係は――?」
「ない。まったくない。
 まあちょうどいい機会だから、少し起きて身体でも動かしたらどうかな。いざというとき、頭や関節が痛くて、おまけに勘も鈍っているというのでは、ろくに動けないからね」
「うう……」
 なんだか情けない。しかし彼の言うことは正しい。そもそもこれ以上眠れないというのであれば、あとは起きているしかないではないか。
「とはいったものの、起きているとして何をすればいいのでしょうか?」
「とりあえず起きているだけでいいと思うがね。起きてる間なにをするかは、君が決めればいいだろう」
「はあ……。それでどのくらい?」
「100年ぐらいかな?」
「は……!?」
 さらりと言われた言葉に、彼女の思考回路が止まる。
「1500年も眠っていたんだよ。100年ぐらい起きてなきゃ釣り合わないじゃないか。
 ああそうだ。これを持っておきなさい」
 どさり、と投げ渡されるナップザック。
「――これはなんですか」
「生活に必要最低限のものが入っているんだ。用意するのはなかなか大変だったよ。これがあれば、この世界でも1人で生きていける」
「待ってください! 1人で!? 私1人でということですか!?」
「そうだよ。私は別に、ここで生活をするメリットはないからね」
「だからといって、こんな見ず知らずの世界で1人きりというのは……!」
「大丈夫。君ならきっと、どの時代の男もほっておかないさ。さすがカリスマB」
「どういう意味ですかっ!? いえ、というより、それは私にどこかの男に媚びて生きろと――!」
「それじゃ〜ね〜」
「ああっ、待ちなさい、マーリンっ!」
 痛む身体を無理やり動かして、少女は木陰に隠れゆく魔術師を追った。
 魔術師の姿が消えた一瞬後に、それを追って木陰を覗く。けれどすでに誰もいなかった。
「……どうすればいいのでしょう……」
 少女の心中を占めるのは、それだけだった。
 たとえ1万の敵軍の中に100人の味方だけで孤立しても、ここまで戸惑うことはなかったかもしれない。
 迷う時間はいくらでもある。だが彼女は、わずかの逡巡の後、面を上げた。
 判断する材料がなにもないことに気づいたからである。
「ひとまず現状確認から始めなければ――」
 周囲を見渡せば森。上を見上げれば空。
 森と空の境界に、ほんのわずかになにかの建物が見えた気がする。
 まずはそちらに向けて、彼女は歩き始めた。


 〜interlude out〜



「……それで?」
 なんだかだんだんムチャクチャな話になってきたからだろう。遠坂が額をおさえて聞いた。
「はい。とりあえず目についた建物に行ってみようと、近づいたのですが……」
 いいかげん冷めてきた緑茶の、最後の一口を飲みほし、ため息まじりに声を出す。
「着いてみれば、それはイリヤスフィールの城でした」
『……は?』
 今度はこちらの目が点になった。
「イリヤの城……って、もしかして郊外の森の中にある、あれか?」
「ええ。以前シロウが浚われた、あの城です。
 驚きました。まさかあんなものが、あんなところにあるとは思わなかったものですから」
 そりゃ驚くだろう。たとえば海外旅行中に飛行機が不時着して、民家を探して彷徨ったら、日本家屋を見つけてしまったみたいな驚きだ。
「記憶にあったとおりの道をたどり、およそ半日かけて――このあたりに着いたのは、2日前の夕方ごろでした」
 2日前……?
 なんとなく覚えのある符号のような気がしたが。
 遠坂の声が俺の思考をかき消した。
「だったらどうしてもっと早く来なかったわけ!? まさかわたしたちに黙って、1人で生きていくつもりだったわけじゃないでしょう!?」
「それはもちろんです。でも……あの……」
 セイバーは言い淀み、空になった湯飲みを手の中でくるくると回した。
 単に言いにくいことを迷っているだけとはわかっていたが、なんとなく新しいお茶をつぎ足してやる。
「あ、ありがとうございます。シロウ」
「まあ、お茶でも飲んで落ち着け」
「はい」
 熱いお茶を二度ほど吹いて冷まし、セイバーは一口飲んだ。
 それから意を決して。
「わからなかったのです。……その、本当に私が、この家に入っていいものか」
「む。なんだそれ。俺がセイバーを追い返す、なんて思ったのか」
 ちょっと声に不満が入ってしまったのは、しょうがないと思う。
 たとえ誰がセイバーを追い出そうとしても、俺がそんなことは許さない。
「いえ違うのです。なんていうか……シロウが本当に、私を見てわかるのか、と」
「???」
 頭にハテナマークを浮かべる。
 その一方、遠坂は少し考えこんだ後、大きくうなずいた。
「なるほどね。それはたしかに不安かもしれない」
「おい、遠坂。1人で納得してないで、教えてくれ」
「つまりね。セイバーはわたしたちのことを知っている。けど『今』のわたしたちが、セイバーのことを知っているとは限らない。
 もっとわかりやすく言うと、もし『今』が聖杯戦争の前だったとしたら、わたしたちはセイバーの存在すら知らなくて当たり前でしょう」
「あ」
 そうか。俺たちは聖杯戦争が始まって、初めてセイバーという存在を知った。
 けれど1500年ぶりに目覚めたセイバーが、たとえば聖杯戦争の前年にでも目覚めていて、その当時の俺に会ったって、俺がセイバーのことをわかるわけがない。
「……初めは、すぐにでもシロウに会いに行こうとしました。けれどこの家の前で、知らない人が出入りしているのを見て、やっとその可能性に思い至ったのです。
 もしかしてこの家には、シロウでも切嗣でもない人が住んでいるかもしれない。シロウが住んでいても、私を知らないシロウかもしれない。――あるいは、年月を経て忘れられているかもしれない。
 それを確認するまで、感情のままに行動することはためらわれたのです……」
「そうか……」
 それは、とても辛いことだったんじゃないだろうか。
 会いたいのに、相手は自分を覚えていないかもしれない。だから気持ちを抑え込んで。
 最悪の状況を常に想定する、なんて。
 ――想いは期待を否応なしに煽る。けれど現実はそんなに甘くない。期待が高まれば高まるほど、外れたときの落胆は大きい。
 なればこそ期待をしてはいけない。
 しかし。
 好きな相手が目の前にいて、その想いをどうして抑えられようか?
「絶えず家を見張り、シロウの姿は確認しました。私の覚えているシロウと変わっている様子もなかったので、聖杯戦争からそれほど時が離れていないこともわかりました。
 でもいくらシロウを尾行しても、聖杯戦争の前か、それとも後か、となると――」
 よくわからなかった、と。
 セイバーの形のいい眉が、悲しそうに歪められる。ひざに置いた手にも力が入っているようだ。
 そんな彼女に向かって、遠坂が首をかしげながら、
「けど、わたしが士郎と会っているのは? 見なかったの?」
「それも見ました。しかし私には、シロウと凛が聖杯戦争以前から知り合いだった、という記憶しかありません。
 貴方たち2人がどれだけ親しかったのかは、よく知らないのです」
 なるほど。たしかに俺は以前から遠坂を知っていたし、遠坂も俺のことを知っていたようだった。
 正確には互いに面識があっただけで、ほとんど話したこともなかった。話すようになったきっかけはセイバーを喚び出したあの夜からだ。
 だがそれより前を知らないセイバーにとって、俺と遠坂が話しているのは自然なことだったのだろう。
 これでイリヤでもいればすぐにわかったのかもしれないが、あいにくイリヤは2日前の朝を最後に、まだうちに来ていない。
 大事な人が手を伸ばせばすぐ届くところにいる。それでも手を伸ばしてはいけないジレンマ。
 セイバーだから耐えられたようなもので、内心はすごく葛藤があったのだろう。
 それもきっと俺のせいで。
 知らなかったとはいえ、セイバーにそんな想いをさせていたなんて、申し訳なさでいっぱいになった。俺がもっと早く気づいてやれれば、こんな目に合わせないですんだのに。
 そう。ここ数日のことは、わかってみれば不思議でもなんでもなかった。
 ずっと見張り続ける視線が不快ではなかったのも、何かにつけてセイバーのことを思い出したのも。
「セイバー」
 名前を呼んで、手を握る。
 自分でやっておきながらなんだけど、頬が赤くなるのがわかった。でもこれは絶対外せないことだ。
 俺と同じかそれ以上に顔を赤くしたセイバーがこちらを振り仰ぐ。
「シッ、シロウ……!?」
「ありがとな、セイバー。おとというたた寝してた俺に毛布かけてくれたの、おまえだろ?」
「あ…………」
 おとといの夜に土蔵で寝てしまった後、誰かが俺にかけてくれた毛布。明けて翌朝、メシ泥棒をした誰か。ああ、あの時は勝手に食器を使われた腹立たしさがあったけど、それも考えれば当たり前のことだった。
 きっと俺を見張っていたセイバーは、土蔵で寝てしまったことに気づき、部屋から毛布を持ってきてくれたんだろう。そして――空腹に耐えかねて、冷蔵庫の残り物を漁ってしまったのだ。食器棚の奥から、自分がいつも使っていた食器を取り出して。
 昨日の朝、誰かにセイバーの食器を使われたときはショックだった。想い出を踏みにじられたような気がしたのだ。けれどセイバーが自分の食器を使うのは、ものすごく自然なこと。
 セイバーの赤くなった頬から、わずかに血の気が引く。
「…………すみませんでしたシロウ。盗み食いなど、本来ならば決してしてはならぬことだというのに――――」
「いいさ。1500年も寝てりゃな。腹だって減るってもんだ」
 たぶんセイバーには他に食糧入手の方法が思いつかなかったのだ。いくらサーヴァントとして現界し、聖杯からこの時代の知識を得ているとはいえ、俺はセイバーに買い物や外食なんかさせたことがない。きっと切嗣だってそうだろう。
 いやそもそも、セイバーが金を持ってないんじゃ、方法以前に手段すらない。
 セイバーは少し上げかけた顔を再び伏せて、
「そっ……それでですね、シロウ。1500年ぶりに目覚めたため、私はこの世界で行くあてがありません。たしかにサーヴァントとして過ごしたことがありますから、全く不案内というわけではないのですが。
 それにもう、聖杯戦争は終わったわけですけど、私は戦ってシロウを守ることしかできないかもしれませんが、それでも、あの………………」
 ここにいて、いいですか、と。
 うつむいた頬をもう一度赤くさせながら、文脈のまとまっていないことを一息で言ったセイバーの、唇だけでつぶやかれた声にならない最後の言葉を。
 俺はたしかに読み取った。
 握ったセイバーの手に力をこめて、伏せられたままの顔を覗き込む。
「――前も言ったろ。メシだって布団だって、ちゃんとセイバーの分を用意してある。
 おまえが帰るところは俺んちだ。
 それどころかいらないエンリョして、勝手に出ていってみろ。絶対見つけ出して、連れ戻すからな」
 今繋いだ手を離さない。今度は、絶対に。
 セイバーが戻ってきて、やっと気づいた。自分がこんなにも彼女のことを欲していたのだと。
 もうこの手を離すことなど、できそうにないのだと。
「シロウ…………」
「おかえり、セイバー」
「はい……ただいま帰りました、シロウ」
 セイバーが顔を上げる。潤んだ瞳が俺を見て、柔らかく微笑む。
 ずっと見たかった、心からのセイバーの笑顔。
 ただそれだけで本当に嬉しい。
 思わず見惚れてしまった俺の耳に、遠坂の咳払いが届く。
「あ………………」
 パッ、と視線を逸らす俺とセイバー。けどやっぱり手は離していない。
 俺たちの手元をジロリと見てから、遠坂はニヤリと笑う。
 不吉な予感。エモノを見つけたあくまの笑みだ。
「見せつけてくれるわねえ。独り身には辛いわあ」
「み、見せつけてって、凛、私達はそんな……!」
「あら気にしなくていいのよセイバー。せっかく巡り会えた運命のコイビトたちを引き裂くなんてできないもの。あー、熱い熱い」
 慌てふためくセイバーと余裕の表情の遠坂。こんなセイバーを見てると、俺まで落ち着かなくなってくる。
「運命って……ちょっと大げさだぞ」
「だって考えてみればすごい確率じゃない。セイバーがこの時代を選んで起きてくるのって。
 一度目は偶然、二度目は必然って言葉があるけど、もしかして衛宮くんが呼んだのかしら?」
 にやにやとあくまの笑みが深くなってゆく。絶好調だな遠坂。
「それは違います、凛。正確に言えば、一度目は偶然ではなかった。私の鞘がシロウの中にあったため、私はシロウに呼ばれたのです。偶然と言うならば二度目の方が偶然でしょう」
「一度目は必然、二度目は偶然か……。ふうん、二度目の方が偶然なんて、まずあり得ないけどね」
 口元に手をあて、遠坂は何やら考えこみ、そのままぶつぶつ呟いている。
 俺とセイバーはふたたび顔を合わせて首をひねった。
「……凛は何を考えているのでしょうか?」
「さあなあ」
 俺にはわからない複雑なことを考えているのはおそらく間違いないだろう。しかし遠坂の場合、悩んでもしょうがないことを考えていることも多い。
 まもなく遠坂は一息ついてこっちに戻ってきた。
「まあいいわ。どうせ今考えてもわからないことなんだし。
 それにしても――」
 ちら、と視線を、セイバーの傍らにうつす。
「そのナップザックの中には、お金とか入ってなかったの?」
 魔術師マーリンがセイバーに渡したという、この世界で生きていくために必要な物一揃い。普通ならば金ぐらい入っているはずだ。今も昔も、生きていくためには元手が必要なんだから。
 セイバーも困惑ぎみに袋を見やる。
「はい。実は私も真っ先に、この中を調べたのです。しかし金銭は入っていなくて……。
 入っていたのは、私にはよくわからないものばかりでした」
「よくわからないもの?」
 遠坂は手を伸ばし、ナップザックをたぐりよせると、机の上に中身をぶちまけた。
 まず出てきたのは――どこかで見たことがある、えんじ色の手帳。
 衛宮家ではあまり馴染みがないので、実物を見るのはこれが初めてだが、誰もが知ってる黄金の文字が書かれている。
「っておい! これパスポートじゃないか!」
「しかも日本のよ。普通イギリスのじゃない?」
 中を開くと、そこには確かにセイバーの顔写真。
「ななななんですかこれは! いつの間に……!」
 撮られたおぼえがないんだろう。セイバーの顔は、困惑から混乱に変わっている。
「身分証明書、ってことか?」
 たしかにこの時代で生きていくなら、戸籍はちょっとした金より、はるかに重要な物だ。
「士郎、これ。名前の欄を見て」
「ん……?」
 遠坂に指さされた場所を注視すると。
「アルトリア=セイバー=ペンドラゴン……?」
 なんかおかしなミドルネームが入っていた。
 いや別に、俺たちにとってはおかしくもなんともない。むしろセイバーと呼ぶ俺たちと彼女の本名の間で、他人に余計な詮索をされずに済むことになってありがたいぐらいだ。
 そんな事を考えていると、遠坂はそうじゃないのよ、と前置きして、セイバーに聞こえないよう耳打ちしてきた。
「つまりこれを作った人間は、『セイバー』という名前を知ってるってことよね」
「あっ……!」
 たしかにそうだ。彼女を『セイバー』と呼ぶのは、聖杯戦争関連者――つまりこの時代の人間でしかない。
 もしこのパスポートを、魔術師マーリンが作ったというのならば。
 それは。
「他にもいろんな書類が入ってるわよ。うわ、なにこれ」
 考えをまとめる俺をよそに、遠坂が次々と、ナップザックの中身をたしかめていく。
 戸籍謄本。住民票の写し。健康保険証。大型バイクの免許証なんてものまである。
 しかもそれら全てが。
「セイバーの住所がこの家になってる……」
「決まりね。どうやってかは知らないけど、聖杯戦争のことを調べたに違いないわ」
 その上で、この書類を作り上げた、ってことか。
 でも――――いったいなんのために?
「どうかしましたか、シロウ? 凛?」
「あ、なんでもないなんでもない。それよりセイバー。貴女、お腹もいっぱいになったことだし、今度はお風呂にでも入ってきたら?」
「え?」
 こっちで出た結論を聞かせる気がないのだろう。遠坂は話を変えるように立ち上がった。
「もう2日もお風呂に入ってないんでしょ。おまけにいつまでその服着てるつもり?」
「はい……。けれど他に着替えは持っていませんし」
「じゃあわたしの服を家から持ってくるわ。前に着ていた服とよく似た春物が、どこかにしまってあるはずだから。
 あのエセ神父からもらったものだけど、構わないでしょ?」
「もちろん。服に罪はありません」
 さりげなく2人して麻婆神父をこきおろしてから、セイバーも立ち上がる。
 それじゃあ俺は、セイバーが風呂から出てくるまでに、お茶請けの準備でもしておこうか。
 2人がつれだって部屋を出て行こうとするのを見ながら、俺も立ち上がった。その瞬間。
『――少年』
 とつぜん声が聞こえた。
 老人のような青年のような、年のわからない声。しかし声にその人のすごした年月が出るのであれば、間違いなく長い月日をすごしたことを感じさせる、深みのある声だった。
 その声には聞き覚えがある。
 かつてセイバーの記憶を夢に見ていたころ、何度も聞いた魔術師の声。
 だからすぐにこれが誰の声なのかもわかった。
 思わずあたりを見回すが、セイバーも遠坂も気づいていない。
 聞こえたのは俺だけなのか?
『彼女を頼むよ、少年』
 ふたたび聞こえる声。
 しかし今度は、声よりも話している内容の方が気になった。
 彼女。それはやはり――
 一度目は偶然。二度目は必然。あるいは逆に、二度目の方が偶然。
 けれど始めから、偶然なんて存在しなかった。
 星の数ほどの可能性の中から、この時代のこの場所へ、偶然で彼女が来るはずはない。
『こうでもしないと、あの頑固者は、好きになった男のところへ行くこともできないのだから』
 声は、笑みを含んで、そう告げた。
 声の言い草に、俺もつい笑みをもらす。
「ああ。本当に――あいつらしい」



 夢の続きを、見よう。
 今度は起きても覚めないユメを。
 ユメならばどんな奇跡とて起こり得るのだから――――






 世間様では「王を捨てて、士郎と一緒に生きることを望んだセイバー」というセイバー帰還話が多いので。
 んじゃうちは、「王であることを背負いながら、士郎と一緒にいられるセイバー」でいってみました。
 ……いや、だからって王らしいことを何かするってわけぢゃないんですけども。
 反省点として、まだFateSSの書き方がよくわかっていないので、お見苦しい点があるかと思います。
 ここまで拙い文章を読んでくださった貴方に、最大級の感謝をこめて。

 えーと後日追加分として訂正を2つほど。
 セイバーが食器を放置した理由は「洗い物できなさそう」というのが理由のひとつだったのですが、HF6日目に桜と洗い物をするセイバーの姿が…………。いやでも1人ではできないかもしれないし。
 そう思っていたところ、言い訳しようのないものも見つけました。Fateルート8日目夜に藤ねえが過去、衛宮家の冷蔵庫を漁った記述あり。スミマセン、まだ読み込みが足りなかった……。これからもこういうムジュン点が出てきそうですが、先に謝っときます。ゴメンナサイ。




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