罪深き子羊たちよ、よくいらっしゃいました。
ここは日毎夜毎、貴方がたが溜め込んできた罪を告白し、赦しを請う懺悔の部屋。
神はどのような罪もお赦しになられます。さあ、勇気を出して己が所業を打ち明けなさい。

――っつーかよ。お前が神父のマネゴトなんざして懺悔を聞くなんて、どんな冗談だ?
どっちかっつーと人の罪の意識を暴いてネチネチいじるのが好みだろうに。

人聞きの悪いことを言わないでください、ランサー。
真似事などではありません。あの腐れ神父がいないときは、正式な神父代理ですから。
それから、別に私は他人様の罪の意識を弄んだりはしていませんよ。
罪という重い荷物を抱える人々が転んでしまうことのないよう、まずはその重さを正しく認識させる役割を担っているだけです。

…………物は言い様だな、性悪シスター。それをネチネチいじってるって言うと思うんだがね。
あ〜あ、もうどうでもいいから、さっさとおっぱじめてくれや。こんなメンドくさいことにいつまでもつきあってられねえ。

あら、ずいぶんと性急にがっつくのですね。まるで犬のよう。
早漏は女性にもてませんよ、ランサー?

っっっ………………!!!(机の下で握り拳がふるえる)

ふふ、まあいいでしょう。いつまでもあなたをいじっているわけにもいきませんし。
こちらの懺悔室には、あらかじめ町の方々から匿名でよせられた懺悔を、私が拝聴させていただきます。
ではまず最初の懺悔から。ランサー、お願いします。

へえへえ。んーと、なになに?
『ついつい特定の同居人を甘やかしてしまいます。俺は自覚ないんだけど、家族のみんなが言うにはそうらしいです。
この間なんて、本人にすら「あまり私を甘やかさないでほしい」なんて言われました。
でもあいつは色々と苦労して、やっと平穏な生活を送れるようになったんだから、少しくらい甘えてもいいと思うんだ。それにあのおいしそうに俺のメシを食べる顔は反則だと思う。あれを見て甘くならない料理人なんていない。なんだかんだ言ったって、そこだけは遠坂も』…………

ええ、もうそこまででいいです。懺悔というより単なるノロケですねこれは。
しかし衛宮士郎――

おい、匿名じゃなかったのかよ!?

なにを今さら。貴方だってわかっていたでしょう。まあ、たしかにこれでは匿名の意味がありませんね。次から気をつけます。
ともかく、衛宮士郎。あなたは人間の七つの大罪を知っていますか?

七つの大罪ぃ? ああ、そういやそんなのあったな。言峰が説教してたが。

そのひとつに、『怠惰』というものがあります。ダラダラと怠け、労働を行わず、遊んで過ごすことです。

…………はあ。もしかしてそれが、セイバーに当てはまってるって言いたいのか?

外に出て金銭を稼がずとも、専業主婦という職業もあるにはありますが。
家事一切は衛宮士郎の趣味であり、かつ、彼の方が仕事量を多く有しているのであれば、それは家事手伝いという名の無職でしょう。
これ以上甘やかすのはよくありません。それでもまだ、彼女を甘やかすというのであれば。
衛宮士郎、それはもしかすると、他人を保護して悦に入りたいという貴方の歪んだ正義の味方思想のあらわれかもしれません。

……一応フォローしてやると、だな。
セイバーも、坊主の剣の師匠とか、やってるらしいんだが。

けれど金品は受け取っていないのでしょう。ならばそれは家事手伝いの一環にしかならないわ。
同じ屋根の下で暮らし、実感しました。セイバーは衛宮士郎に比べ、あまりにも働いていません。
そもそもあの家主が働きすぎなので、比較対象が間違っている気もしますが、それでも主ばかり働かせる従者というのはいかがなものかしら。
戦に秀でた王は、平穏時には無用とも言いますが、まさかかの名君と誉れ高いアーサー王までそれに当てはまってしまうなんて。心苦しいことです。



(ガダダダッッ!)

ん? なんか物音が……。



「ええい、離してくださいシロウ! せめて、せめて今日中にもどこか稼ぎ口を……!」「お、落ち着けセイバー!」


外野が騒がしいようですね。猫でも入り込んだのかしら。

……………………サドシスターだな、ホント。
まあ、セイバーのフォローは坊主にまかせておくとするか。次いくぞ、次。

お願いします。

あー……
『家業がお金をたくさん必要とするもので、ついお金にうるさくなってしまいます。注意はしているものの、常に優雅たれ、という家訓に背いてしまっているようなことがないか、時々心配です』

あら珍しい。り……彼女から懺悔がよせられるなんて。

……でもこの後、『だけど、お金はあって困るものでもないし、選びたくて選んだ道だからしょうがないわよね』って続いてるぞ……。

さすが冬木の管理人。迷いがありませんね。これもすでに懺悔ではありませんが。
まあ構いません。お導きしましょう。

この嬢ちゃんに、あえて他人の導きがいるのか……?

たしかにお金というものはあればあるだけ人の生活を豊かにします。それは否定するものではありません。また、人はある程度の稼ぎを得なければ生きてゆくことができません。石をパンに変えられるのはイエス様ぐらいのものです。
しかし、聖書にはこうもあります。「人はパンのみにて生きるにあらず」。ただただ豊かなだけでは、人としての幸福な生活はおくれません。物質的には最小限でもかまいません、むしろ心を豊かになさい。

そういやアンタのとこは、わりと質素な生活を基本にする教会だったな。

そのとおりです、ランサー。人の欲には限りがありません。
衣食住など、自らを生かすための最低限のものがあれば事足ります。ならばそれを困っている人々に分け与えれば、一人でも多くの者が明日を迎えることができるのです。

お、なんだかシスターっぽくマジメに――――

そもそも、人は分というものがあります。無理をしてまでお金をかき集めなければ使えない魔術であるというのならば、それは分不相応というものです。
先日など、平行世界を観測できるペンダントを作ろうとして貯金を灰燼に帰したということですが、ちょっと計画性が足りないのではないかしら。
それだけお金が大切であるならば、万一の失敗もないように備えるのが常識でしょう。それをうっかりで引き起こすあたり、血というものは恐ろしいものね。

……あー……一応つっこんどくと、だな。
なんでも言峰が嬉しそうに話してくれたことには、あの嬢ちゃんの家が今ちょっと苦しいのは、言峰があの家の財産をかなり処分しちまったかららしいんだが。



(ズガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッ!!!!!)


……………………なんかまたハデなガンド音がしたな。

昔のことは存じません。そのような男を後見人に選んだ先代の責任でしょう。
それに私はその後見人と同じく、質素倹約を旨としています。同情しろ、と言われても同意できません。

はあ……今さらながら、いや、最初から思ってたけど、これって懺悔になってんのかねえ……?
まあいいや。これで最後だな。次いくぞ。
あー、『しばらく前に妻を迎えました』お、なんだ、色男の話か?

ランサー、脱線していますよ。続けなさい。

へーへー。
『しかし私たちは夫婦という形が先にあり、互いの心を通わせるのはその後の課題として残りました。
妻は私を愛してくれていると言いますし、私も妻を大切に思っていますが、彼女の求めるものに応えられているかはわかりません。
彼女の望み、故郷に帰りたいという願いを叶えるだけの力も私にはない。この年まで人を殺すことしか学んでこなかった私は、妻を幸せにすることさえできていないのではないか。
だとしたら、それだけが私の罪です』
…………重いな、なんか。

とはいえ、本日最初にして最後のまともな懺悔です。シスターとしてこれには応えねば。

つってもなあ。この冬木でこんなこと言うヤツ、一人しかいないだろうがよ。
どう見たってあそこの夫婦だきゃあ――――

罪だなんて、そんなことはありませんっっっっ!!!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………っっっ(耳をおさえてる)

あら、奥さまの魔女の登場ね。

私を幸せにできないなんて、そんなことはありませんわ宗一郎様っ!
メディアは……私は、貴方の傍にいるだけで十分幸せですっ!
ちょっとランサー、その手紙よこしなさい!

へ? ……こ、これか?
って、あ、お前勝手に……!

ああ……たしかに書いてあるわ。
「私も妻を大切に思っています」――――
宗一郎様、それだけで私は天にも昇る心地になれるというのに。願わくば、次は直接口にしてもらって、そして二人はその晩激しく、優しく――

…………キャスターのやつ、真っ赤になってくねくね体ひねりまくってるぞ。

しかもとっても幸せそう。腹立たしさのあまり、瑕を切開する気もなくなりますね。
かつて神に騙され、愛した男に裏切られた女が、愛を知らぬ男と愛し合うなんて、色々と思うところがありそうなのに。

そりゃもちろんあるだろ。でも少なくとも今は、アンタが何言ったって聞きゃしねえなありゃ。

仕方ありません。時間も来ましたし、ここでお開きですね。
ランサー、ここを掃除しておいてください。

っ、冗談じゃねえ! タダでアシスタントやらされて、なんで掃除まで!

か弱い女性に体力労働させようというの? ずいぶんな騎士なのね、ランサー。

ぐ…………ったく、わあったよ。っと、待てよ、掃除って言っても今そこにキャスターが……

ええ、しっかり見張っていてください。正気に戻ったキャスターが照れ隠しのあまり教会を破壊しないように。

な……なんつー貧乏クジだよ……

では皆さん、これで懺悔の時間を終わりにいたします。
もしもなにか個人的に懺悔をしたいことがありましたら、こちらまでご連絡ください。



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