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fateのネタバレSSです。エンディングフルコンプしてからご覧ください。

イリヤ訪ねて30kmくらいのメイド2人

(人気投票セラリズ応援SS)

 3月の麗かな日差しに賑わう新都の駅前パーク。
 そこに、あきらかに場違いな恰好をした女性が2人。上等な仕立であっただろう服は、今は見る影も無く薄汚れている。
 セラとリーゼリットだった。
 アルツベルンの城に、彼女達の主であるイリヤがセイバーのマスターを連行した日、あれから2人は主とはぐれたままだったのである。
 城は戦闘で破壊しつくされるは、イリヤは帰って来ないはで、仕方なく森を死ぬ思いで抜けて、イリヤを捜し歩いているのだ。
 城から一応の資金は持って来たのだが、お金は日本円に両替したものが少なかったし、貴金属は換金してくれないし、かなり底をついてきている。
「恵まれない人々に愛の手を」
「お金ください」
 という訳で、街頭に立って非合法な募金活動を行っていたのであった。リーゼリットは直接すぎ。
 手には『ぼさんばこ』と書かれた箱を持っている。字を間違えていた。箱には、毎朝新鮮な卵を提供してくれていた鶏の血染めの羽が刺さっていたりして、かなりホラーである。赤いというか、赤黒い。
 当然、募金は全然集まらない。あからさまに怪しいのである。街行く人々は無視するどころか、みんな目を背けて見ないようにしていた。
「ママー、あれなにー?」
「見ちゃいけません!」
 定番である。
 結局3時間立ち続けて入手できたのは、リーゼリットが徘徊してるっぽい老人から「わたし、わたし」とふんだくった500円玉1枚のみだった。
 500円だろうと貰ったら嬉しいので、赤黒い羽を両手一杯プレゼントする。血まみれの羽を抱えて帰宅する老人。中々に猟奇的だ。
「作戦に不備があったのでしょうか」
「効率が、悪いわ」
 ぼさんばこを傍らに置き、500円で買ったショートケーキを半分にしてもくもく食べつつ作戦会議。上に乗っていた苺は、じゃんけんの結果セラのお腹に納まった。
 クリームの付いていた指を舐めていたリーゼリットが、ぴ、と指を立てる。
「名案が」
「却下」
 どこぞの未亡人もかくやという電光石火のスピードで否認された。
「セラは、美人」
 でも、リーゼリットもめげない。
「……私達、同じ顔でしょう」
「でも、セラの方が美人」
「まぁ、いいでしょう。それで?」
 セラも美人と言われて不愉快な訳はないのである。
「わたしが、お客を連れてくるから、セラは、あんあん言ってれば」
「何をさせるつもりか」
 リーゼリットのこめかみにセラのアイアンクローが極まった。
「ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
 たっぷり10数えてから解放される。ううーと頭をおさえてうずくまるリーゼリット。かなり痛かった。
「まったく貴女は──あれは」
 セラが慌てて体を伏せる。ちなみに、隠れる場所もない駅前パークでそれをやると余計に目立っているが、本人は気にしていない。
「どうしたの?」
「あれを」
 セラの指差す先には、買い物袋を提げた赤毛の少年の姿があった。エミヤシロウとかいう、セイバーのマスターである。
 彼ならばイリヤの行方を知っているかもしれない。
 しかし、不用意に話し掛けていいものだろうか。イリヤの話を聞いた限りでは、マスターとしては不適格な甘い性格の持ち主であるらしい。だが、まがりなりにも聖杯戦争を戦った敵であり、彼女達の主が拉致った人間でもある。
「大丈夫」
 躊躇するセラの肩に、リーゼリットの手が置かれた。
「あの人は、ちゃっかり、元の生活にもどりつつ、憧れてた女の子とも、仲良くなって、ついでに、妹もゲットして、心に余裕のありそうな、そんな顔をしてるわ」
「どんな顔ですかそれは」
 セラの突っ込みに意味不明な頷きで応え、リーゼリットがすくっと立つ。イリヤとかかわりのある事は、どんな危険があっても見過ごしてはならないのだ。彼女は2人の大切な主なのだから。
「セイバーの、マスター」
 リーゼリットの、そのさほど大きくない声はだが、彼の耳に届いた。
 信じられないものを聞いたという驚愕と緊張の顔で、少年が振り向く。その少年に、リーゼリットは一人歩み寄って行った。

「いい子が、いるんだけど、3万でどう?」
「まだ引っ張るかー!?」
 ぎりぎりと、セラの卍固めがリーゼリットに極まった。
「ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
 
 

 結局、リーゼリットが解放された頃にはセイバーのマスターは逃げちゃってて、彼の近所でごやっかいになってるイリヤと2人が再会するのは、もうちょっと先の話だった。


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