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fateのネタバレSSです。エンディングフルコンプしてからご覧ください。

感謝とお願い


 どかーんと、浴室の方で爆音がした。
「イリヤスフィール様!?」
 慌てて現場に急行するメイド2人。確か今はイリヤが使用しているはずだった。
「うー」
 とバスタオル姿で怒っている視線の先には、天井に頭を突っ込んでいるバーサーカー。非常に馬鹿っぽい情景であった。浴槽は全壊。
「イリヤ、無事?」
「これは……どういう……」
 呆然とするセラの方を向こうともせず、イリヤは拗ねたように答える。
「バーサーカーも、お風呂に入れてあげようと思ったのに……」
 イリヤなりにマスターを倒したバーサーカーを労ってやろうというつもりだったのだろうが、これではイリヤもお風呂に入れない。
「イリヤスフィール様は、普段我々が使っている浴室を使用していただくとして、バーサーカーを元に戻してくださいませ。これでは掃除もできません」
「いや」
 リーゼリットに服を着せて貰いながら、イリヤはぷいっとそっぽを向く。
「イリヤスフィール様……」
「バーサーカーもお風呂に入れてあげるのっ」
 そんな事言われても、セラ達が使っている浴室はここより狭いのである。壊れた浴室が2つに増えるだけだ。
 だが、頑固なイリヤは一歩も引かない。
 どうすれば。
 
 

「と、いう訳で」
 びゅうびゅうと風が吹き荒ぶ城外、日もどっぷりと落ちたそこに、メイド2人とバーサーカーが立つ。風邪をひくといけないので、イリヤは城の中だ。
「どき、漢だらけの、大入浴大会」
「どきでもなければだらけでもないし、入浴でも大会でもない!」
 がたがた震えながらリーゼリットに突っ込むセラ。
「ぽろりも」
「あるかー!?」
 アイアンクロー。
「ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
 2人の手には、デッキブラシが握られていた。長いホースで、浴室から温水をひいてある。これでバーサーカーを洗おうという訳だ。伝説の英雄相手にものすごい扱いだが、巨人は黙して語らず。
 どばーっと、バーサーカーの鉛色の体にリーゼリットがホースで温水をかける。それをセラがデッキブラシで擦る。鉄を洗っているような感覚。跳ね返った飛沫がかかった。それは一瞬で冷えてとんでもなく冷たい。
「へくちっ」
 ずずず、と鼻をすする。バーサーカーは微動だにしない。この程度は何でもないのだろう。とすると、この体を洗うという行為自体が無意味だが、それはそれ、仕えるイリヤの為。
「多糖類?」
「それはペクチンでしょう! しかし、バーサーカーって大きいわね……」
「セラの、えっち」
「…………」
「…………」
 デッキブラシでリーゼリットを叩く。いい音がした。
「徹底抗戦」
 だが、相手は飛び道具。ホースの温水(5秒後には冷水)がセラに襲い掛かる。その水をかわし、リーゼリットの懐に潜り込むセラ。

 本来の目的を思い出す頃には、2人共水浸しだった。歯の根が合わない。
 これ以上の不毛な戦いは命に係わるので、バーサーカー掃除を再開する事にした。さすがに顔はデッキブラシで擦るのに抵抗があったので、温水を浸したタオルで丹念に磨く。バーサーカーは座ったりしないので、脚立を持って来た。
 つやつや。
 乾拭きしてワックスをかけたくなるくらい綺麗になった。そんな事はしないが。
 脚立を片付け、城内のイリヤに合図を送る。それに応え、バーサーカーの現界が解除されていった。
 消えていくバーサーカーをじっと見ていたリーズリットは、そっとその体に触れる。
「これからも、イリヤを、守ってね」
 バーサーカーは無言だ。だが消える寸前、バーサーカーが力強く首肯するのを、リーゼリットは見た。
「レア体験」
「は?」
「何でもない。さぁ、帰りましょう」
 心なしか足取りが軽いリーゼリットを、セラが慌てて追った。
 
 
 
 

 当然、次の日は2人とも風邪をひいた。


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