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fateのネタバレSSです。エンディングフルコンプしてからご覧ください。

after that


 あれから、もうそろそろ2ヶ月が経とうとしている。
 魔術師達の戦いが終わり、セイバーは去った。長かった冬が終わり、新しい春が巡り来る。
 イリヤは国に帰りたくないと言い出し、色々あって結局藤ねぇの家に居候する事になった。で、藤ねぇと一緒に俺の家に飯を食いに来る。
 色々な事があった。失った物は多いけれど、手に入れた物もある。最後までなくさなかった物だって。
 だから、前を見ないと。
 後ろを振り返っている暇はない。そんな事は人生の最後にすればいい。
 そう、俺の人生はまだまだ始まったばかりなのだから。
 
 

 その日のイリヤは朝から思案顔だった。
「どうしたの? イリヤちゃん。あ、何か嫌いな食べ物でもあった?」
 最近やっと落ち着いてきた桜が、ちょっと心配そうに訪ねる。ううん、と首を横に振ったイリヤが、それに応えるように微笑んだ。
「別に。何か忘れてる気がするんだけど、思い出せないだけ。思い出せないんだから、きっと大した事じゃないんでしょ」
「そうそう、覚えてない事考えてもしょーがないよねぇ。新学期がいつから始まるか、とか」
 それは大した事だろう藤ねぇ。そして朝から食いすぎ。まぁ、桜もイリヤもよく食べるが。うん、よく食べる事はいい事だ。育ち盛りだし。藤ねぇは別。
「あー、士郎今酷い事考えてたでしょ?」
「ああ」
「即答!?」
 いつもの団欒風景である。と、玄関のチャイムが鳴った。
「ごめんください」
「ください」
 そんな女の人の声が聞こえる。その声を聞いて、イリヤが「あ」と小さな声をあげた。
「忘れてた」
「何を?」
「城にメイドを2人」
「大した事だろそれは!?」
 慌てて玄関に向かえに行く。そこには、同じ制服を着た、同じ顔の女の人がいた。2人とも、かなりボロボロだ。2人は俺の顔を見ると、汚れた服をものともしない洗練された動作で一礼した。
「イリヤスフィール様はご在宅でしょうか」
「イリヤ、いる?」
 異口同音にそんな事を訪ねる2人。俺の後ろから顔を出したイリヤを見て、丁寧口調の方ががくーっと脱力した。タメ口の方はへろへろと手を振っている。
「イリヤスフィール様、お元気そうで何よりでございます」
「うん。2人とも、よく生きてたわね」
 あの戦いからこっち、ずっとイリヤはこっちにいたのだから、それからずっとイリヤを探していたのだろう。心中察して余りある。
「ええと」
 何かを思い出すように頬に指を当てるタメ口。
「つつもたせ、とか、かつあ」
「言わんでよろしい」
 丁寧口調のアイアンクローが決まる。
「ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
 たっぷり10数えてから開放された。ううー、とこめかみを押さえてうずくまるタメ口。かなり痛かったらしい。
「とりあえず、こんな所で立ち話もなんだし、上がりませんか?」
 ヤバ気な生活手段はとりあえず聞かなかった事にして、居間に案内した。突然の客にぽかんとする藤ねぇと桜の前で、改めて頭を下げる2人。
「セラと申します」
「リーゼリット」
 丁寧口調の方がセラで、タメ口がリーゼリット。同じ顔なのに、随分と印象が違う。
「それで、2人とも何の用? わたし、家には帰らないから。さっさと帰っちゃえば?」
「とんでもございません。イリヤスフィール様を置いて帰国などしたら、お館様にどんな技をかけられるか。イリヤスフィール様がこちらにお住みなら、我々もここで」
「そ、そんなのだ──」

「そんなのダメーー!!」

 藤ねぇの怒声が響く。キーンときたキーンと。
「何故でしょうか。私、仕事柄炊事洗濯一通りこなせますし、御役に立てるかと思いますが」
「ぐうたら、できます」
「わたしだってぐうたらできるもん!」
 藤ねぇ、そこは対抗する所じゃない。それを制するように、リーゼリットがぴ、と人差し指を上げた。
「昔から、こう言います。
 ──妹とメイド2人がいてこそ、主人公」
 いつの話だそれは。
「な、なるほど……」
 納得しちゃうのか藤ねぇ。
「じゃあ、今度からわたし、シロウの事兄さんって呼べばいいのねっ」
 さっきまでのつっけんどんな態度はどこへやら。大はしゃぎのイリヤ。……まぁ、いいけど。
「じゃあわたしヒロイン? メインヒロイン?」
「タイガはカレーでも食べてればいいでしょ」
「藤ねぇはカレーでも食べてればいいじゃないか」
「即答!?」
 よよよ、と崩れ落ちる藤ねぇ。そこまできて、今までハイテンションな会話に入って来れなかった桜が、あ、と気付いたように少しだけ顔を赤くする。
「あ、あの、じゃあ、わたしが──」
「まぁ、胸の大きさ、だけなら」
「うっ!」
 リーゼリットが痛い所を!?
「正ヒロインの特徴が、胸だけ、というのも、どうかと思うけど」
「ううっ!」
「私の方が、大きいけど」
「うううっ!?」
 うわー、桜の顔こわいー。
 というか、最後の一言はこの場にいる全員を敵に回したのではないだろうか。
 案の定ぼっこぼこにされるリーゼリット。
「ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
 そういう訳で、いい感じに混沌としてきた居間に──

「また今日はいつにも増して賑やかね、ここ」

「あ…脇役?」
「あとは脇役ね」
「ああ、脇役」
「脇役……」
「脇役ですね」
「脇」

 とりあえず遠坂に端から張り倒された。魔術を使われなかっただけ良しとしよう。
「訪ねてくるなり人を脇役呼ばわりとはいい度胸ね。人気No.1ヒロインに向って」
 言い切った──!?
 だが、ここで反論しようものなら今度こそガンドとかが飛んでくるので口には出せない。
「だったら」
 発端である所のリーゼリットが俺を指差した。
「主人公の親友。で、貴女が主人公」
「何いぃーっ!?」
「うん、まぁ、それなら」
 納得すんな遠坂。
「まぁ、赤毛だしねー」
「わーっ ねーさーんっ」
「そっ それはわたしの台詞……!」
「いや、ちょっと待てお前等」
「黙れ、偽物(フェイカー)」
 挙句に俺の方が偽物か!?

 女三人寄ればかしましいと言うが、その倍集まって最早大騒ぎになってしまった居間の隅でぽつーんと一人。

 ああ、俺の蔑ろにされ人生は、まだまだ始まったばかりなのだ。


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