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 暑い、とても暑い日差しの中、今日も私はあの駅へ向かいます。
 
 私が私に戻れる場所。
 
 大切な人が待っている場所。
 
 そして、大切になるかも知れない人を待っていられる場所……。

 暑い、とても暑い日差しの中、今日も私はあの駅へ向かいます。


遠野美凪の穴



 みちるは待ちくたびれてしまったようです。
 誰も居ない駅のベンチの上で、すやすやと安らかな寝息をたてているみちるを起こさないように、そっと隣に腰掛けました。
 どこからかみちるが見つけてきた扇風機の風が、汗をかいた体を心地よく冷やしてくれます。
「んにゅう」
 ごろりと、みちるが寝返りをうちました。寝相の悪いみちるのおへそが見えてしまいます。いくら夏でもおなかを冷やすと大変なので、服をなおしてあげようと思った手が、止まってしまいました。
「……なんて、かわいいんでしょう」
 子猫のようなその仕草が可愛くてしかたありません。しばらく見惚れてしまいます。
 この子は、どんな夢を見ているのでしょうか?

「美凪ぃ」

 激ラヴです。マジ萌えです。
 思わずぎゅっと抱きしめたくなる衝動を必死にこらえました。

 …………。

 でも、なにか足りません。

 何でしょう? こんなに可愛いみちるになにが足りないのでしょう?
 子猫のようなみちる。
 子猫。
 猫。
 ……。

「……ひげ」

 そう、ひげです。
 これで完璧。
 たしか、ポケットに。
 
 がさ

 がさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさ

 ぴた

 ありました。油性マジックペンです。
「ゆせいまじっくぺんー」
 猫型ロボットのまねをしてみました。
 体調は万全です。
 きゅぽっとフタを開け、みちるの両方のほっぺたにきゅっきゅと線を3本ずつ。
「にゅあぁぁ」
 くらっと来ました。この可愛さは、ちょっと反則です。

 …………。

 でも、まだ何か。
 ……。
「パンダ」
 目の回りを塗りつぶしてみたらどうでしょう? 可愛い顔をして、実は元気いっぱいなみちるにはぴったりかもしれません。
 
 きゅきゅきゅ

「……罰ゲーム?」
 なんだか、おもしろい顔になってしまいました。少なくともパンダには見えません。
 ……。
 泥棒ひげを描いてみてはどうでしょう?

 数分後。

 ガングロ(というか真っ黒)のみちるは、あんまり可愛くありません。
 どうしましょう?

「……にゅ?」

 あ。
 みちるが目を覚ましてしまいました。
「おはよう、みちる」
「あ、美凪。……どうしたの? そんなかなしそうな顔して。また国崎往人になにかされたの?」
 心配そうに私を見上げるみちるから、思わず目をそらしてしまいました。
 だって、黒いから。
「にゅうー! 国崎往人めーっ!」
 なんだかみちるが怒っています。国崎さんは関係無いのに。
「俺がどうかしたか?」
 丁度そこに、国崎さんがやってきました。

 来るなり大爆笑。

「にょわっ!? 国崎往人がこわれた!」
「誰が壊れるか」
 ばきゃ
「ふにょらっ」
「……相変わらず、切れ味抜群」
 さすがです。
「なんでお前は、そんなおもしろおかしい顔をしてるんだ?」
「にゅ? かお?」
 自分の顔をぺたぺたさわるみちる。でも、さわってもわかりません。
 鞄の中から取り出した手鏡をわたしてあげました。それを覗きこむみちる。
 
 固まること数秒。

「にゅあーっ!?」
 かなりびっくり。
「なにこれーっ!」
 それはそうでしょう。だって真っ黒ですし。
 あ、ちょっと涙目。
 胸が、痛いです。
「だれがこんなこと」
「それは、決まってるだろ」
 そう言って私の方を見る国崎さん。
 そう。私が描いたんです。でも、そんなこと言ったらみちるに嫌われてしまうかもしれない。
 どうしましょう?
「国崎さん……」
「やっぱり国崎往人かーっ!!」
「なんでだ!?」

 めくり気味に入ったみちるキックからみちるチョップ、そしてみちる超アッパーにつなげられた国崎さんは、木の葉のごとく宙を舞っていました。

「……ギャラクティカマグナム」
 ちょっと古いでしょうか?

「ぐ、ぐはぁ」
「思い知ったか国崎往人!」
 倒れた国崎さんを蹴っているみちるは、とっても楽しそう。
 でも、国崎さんは関係無いのに。
「やったね! 美凪」
「……がんばったわね」
 問題無いようです。



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