第3話


「希望的観測しか抱かない指揮官ほど、しばしば兵士に絶望的な事態をもたらす」

(ユリック・N・オーエン:著 「マッキンリー軍曹のささやかな受難」)

 

ドルファン歴にしてD.31年、ヴァン・トルキアの一都市ヴィーンに集まった

ゲルタニア、ハンガリア、プロキア、そして発起人のヴァン・トルキアの四ヶ国首脳は、

一週間にわたる話し合いの上、とある条約の調印に合意する。

都市の名前を取ってヴィーン条約と名づけられたその条約の趣旨は、

「トルキア地方全域の正常な通商と交流を保護し、各国の経済的・文化的発展を促す」事にあった。

有り体に言えば通商・友好条約の一種であったが、この趣旨を額面通りに受け取ったお人好しなど、当時から存在しなかった。

もし仮にそんな人間が存在したとしても、

この条約が結ばれるわずか一ヶ月前にゲルタニアで政権交代が起こり、新政権が自国の外国人排斥法を撤廃した事、

そして、何よりドルファンの代表がこの条約会議に出席すらしていなかった事を加えれば、

自ずから認識を改めようというものである。

一応、四ヶ国の為の名誉に付け加えておけば、彼らも最初から露骨にドルファンを排除しようとしたわけではない。

条約会議参加を要請する使者は、ドルファンにも遣わされていた。

しかし、外国人排斥法を押し進めたアナベルを中心とするドルファン行政府が、そのような条約会議など受け入れるはずもない。

そして四ヶ国は、形式こそ順守したものの、実際にドルファンを会議の席に招く事についてはまったく熱心ではなかった。

「諸事情により参加を見合わせる」という誠意も説得力もない返答を頂いた使者は、

何ら落胆する事もなく本国へ戻り、四ヶ国首脳にありのままを報告した。

その時、プロキアの某代表はむしろ手を叩いて喜び、周囲にワインを振る舞った。

─これは、この場に居合わせたものが、後日証言している─

かくして、会議は全く波乱無く、ヴィーン条約はめでたく発効した。

そして同時に、「トルキア地方全域の正常な通商と交流を保護」するための、参加国の協同による軍隊の創設が進められた。

こうして成立した軍の正式名称を「ヴィーン条約機構軍」と称する。

もっとも、一般にはこの味も素っ気も無い長い名前は好まれず、

ごく単純に「四ヶ国連合軍」、あるいはさらに略して「連合軍」と呼ばれた。

しかし、名称がどうであれ、それがトルキアの歴史上空前の規模を持つ軍事集団である事は、誰にも否定できない事であった。

四ヶ国から精鋭が集められて成立したその陣容は、全兵力の総数五十七万六千名。

しかも贅沢な資金を背景に、スィーズランドから人的・技術的・物量的な支援を受け、

「質量ともに最高かつ最強」と条約機構首脳陣が胸を張るのも決して誇張ではなかった。

 

ドルファンの命運は定まった。


後書き

 

長くなってしまいましたが、背後関係の説明っす。

次回からようやく主人公「ユウキ・キリュー」君が出てきます。

といってもやっぱり説明づめ、つまりユウキが「白銀の月」を作るまでの簡略的説明がメインとなりますが。

ちなみにユウキ・キリューとは漢字で「桐生悠貴」と書きます。

あと、彼はゲーム本編では誰の告白も受けていないって設定です。

つまり、最後の日に誰にも手紙を出さなかったんですねー。

ただし、告白に必要なイベントは一通り全員済ませている、と。

だから最後の八騎将とも対戦してますし、ジョアン君とも戦った事があります。

それが彼の今後にどう関係してくるかはお楽しみって事で。


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