第八話「ギア・イズ・ロール」


 

 シュンが傷を癒し退院できたのは、年末も押し迫ったドルファン暦D二十六年十二月二十八日の事だった。

 前日まで降っていた雪により、路面は真っ白に染まっていた。しかしこの日は、嘘のように晴れ渡り、冬に似つかわしくない陽光がドルファン首都城塞を包み込んでいた。

 病院から出たシュンは、両手を大きく伸ばして硬くなっていた筋肉をほぐしに掛かる。

「退院できて良かったわね、シュン君」

 後ろから声を掛けられて、シュンは振り返った。

 そこには、ピンク色の制服に身を包んだ看護婦が立っていた。その顔に浮かべられた笑顔は、まさに白衣の天使の名に相応しい物だった。

 テディー・アデレード、彼女の名である。彼女が、入院中のシュンの担当看護婦だった。

「退院はできましたが、まだ本調子ではないんだから、絶対に無理してはいけませんよ」

「は〜い」

 テディーの口調は、まるで保育園の先制が、幼い子をたしなめるかの様な物だ。

 それに対して、シュンは素直に頷く。

 確かにシュンは、ライオンに抉られた脇腹の傷がつい三日前にようやく塞がったばかりであり、油断の許されない状況だった。

「はい、これ」

 そのシュンに、テディーは大小の刀を差し出した。入院に際し、事務所に預けていたシュンの物である。

「ありがとうございます」

 シュンは刀を受け取り、腰のベルトに差す。

 その姿を見ながら、テディーはシュンが運ばれてきたときのことを話し始める。

「まったく、びっくりしたわ。あなたが運ばれてきたとき、私もいたのだけど、その時のあなたは全身から血を流していたものだから、私てっきり、もう手遅れなのかと思っちゃって。しかも、『猛獣と戦って負傷した子供』なんて運ばれてきたのはあなたが初めてよ」

「はあ。そうですか」

 そう言って、シュンは苦笑する。

「もう、そんな無茶なことしちゃだめよ」

「……はい」

 シュンは取り合えず、曖昧に頷いておく。

 傭兵と言う仕事をしている以上、無茶をするのも仕事のうちである。

「それじゃあ、僕はこれで」

「はい、お大事にね」

 そう言うと、テディーはシュンに対して手を振った。

 シュンはテディーに背を向けると、そのまま門の方に向かって歩き出した。

 

「ん〜〜〜!」

 門を出たシュンは、もう一度大きく伸びをした。

 そんなシュンの頭上から、聞きなれた声が聞こえてきた。

『退院おめでとう!!』

「ピコ!!」

 舞い降りたピコを、シュンは両手で受け止めた。

「心配掛けてごめんね」

『ほんとだよ。心配したんだからね!』

 そう言うとピコは腰に手を当てて、少し怒ったような顔をする。

『まったく、君はいっつも無茶ばっかりするんだから!倭国でも、中華民国でも、スィーズランドでも!』

「……ごめんなさい」

 シュンは殊勝な顔で、ピコに謝る。

 それを見て、ピコも笑顔を浮かべる。

『ん、素直でよろしい。それじゃあ、久しぶりに町に出てみようよ』

「うん」

 シュンは頷くと、ピコを連れて町の方に足を向けた。

 

 

 クリスマスも終わり、ドルファン首都城塞は年越しに向けて衣装替えを始めていた。

 ドルファンには倭国ほど正月(こちらではシルベスターと言う)がめでたい物として祝う風習はないが、それでも年越しの際にはカウントダウンが行われるなどのフェスティバルが行われる事になっている。

 広場にある、カウントダウンに使われる時計塔の飾り付けがい行われている。その他、通りの店先には、正月の料理に使う為の食材が売り出されていた。

「うう」

 シュンは、軽い唸り声を上げる。

『どうしたの?』

 そんなシュンの様子に、頭の上に乗ったピコが尋ねた。

「結局、クリスマスには間に合わなかった……」

 そう言うと、シュンは残念そうに目を伏せる。

 そんなシュンに、ピコはたしなめるように言葉を返す。

『しょうがないでしょ、入院してたんだから』

「あ〜あ、せっかくソフィアさん達がクリスマスパーティーに招待してくれるって言ってたのに」

 ピコの言葉に、シュンはがっくりと肩を落とした。

『元気出しなよ』

「うん、そだね」

 ピコの励ましに、シュンは気の無い返事を返す。

 二人は今、セリナ運河添いの遊歩道を、ゆっくりと歩いていた。

 シュンはともすれば、積もった雪に滑って足がふら付きそうになるが、それでも何とかバランスを取りながら、歩いている。

『まあ、ヴァルファバラハリアンが、君が入院している間に動いてくれなかったのは、喜ぶべきだろうけどね』

「それって、喜んで良いのかどうか分からないよ」

 実際の話、今年七月のイリハ会戦以降、ヴァルファバラハリアンは国境都市ダナンを占拠したまま動こうとしていない。斥侯に出ている部隊からの報告によれば、プロキアの状況も気になるらしく、各部隊を入れ替わりに国境線に移動させ、随時警戒に当たっているらしい。

 それに対してドルファンは、再三にわたって軍部の方から第二次ダナン派兵案が提出されたが、王室会議はこれを了承せず、傭兵の更なる雇用と、前線基地のある地方都市ウエールへの増派を決定したのみに留まっていた。さらに、イリハ会戦によって壊滅した第二連隊と第四連隊のうち、残存兵力を統合し第二連隊の再編成を行った。被害の率から行けば第二連隊の方が多いのだが、双方とも乱戦の最中司令部が壊滅しており、上層部の判断の結果、第二連隊の再編成を決定したのだった。

 現在、ウエールには第五、第七、第八の三個連隊、合計三万の兵力が駐留している。対してヴァルファバラハリアンは第三連隊六〇〇〇をプロキアとの国境線に貼り付けて警戒する一方、第一、第四、第五、第六の四個連隊合計二万四〇〇〇に加えて、亡きセイル・ネクセラリアが率いていた第二連隊六〇〇〇を各部隊に分散吸収した、合計三万をダナンに常駐させ、ドルファンの侵攻に備えていた。イリハ会戦の結果、同数ではヴァルファに敵わない事が判明したドルファン軍上層部は、無理な力押しを避け、地道にヴァルファの隙をうかがうと同時に、一時に全軍を集中できる瞬間を虎視耽々と狙っていた。ヴァルファの方でも、無理な力押しは損害を増やすだけと考えてか、ダナンから南に来る事は滅多に無かった。

 そうした慢性的な膠着状態のまま、クリスマスは何事も無く過ぎていった。

「ねえ、ピコ」

『ん?』

 シュンは運河の手摺に身を預けながら、ピコに話し掛ける。

「この間の新聞、ピコも見たよね」

『この間のって?』

 ピコはキョトンとした顔で、シュンを見下ろす。

「ほら、セリナ運河に死体が上がったっていうやつ」

『ああ』

 ピコがポンと手を叩く。

 そんなピコを見て、シュンは言葉を続ける。

「その運河に上がった死体って、やっぱり、獣使いの源蔵だったのかな?」

『どうだろうね。身元不明って書いてたけど』

「…………」

 シュンは無言のまま、運河の水面を見下ろす。

 南欧の比較的暖かい気候の下では、冬でも川の水が凍りつく事はない。しかし、寒さは折り紙付きだろう。

「……寒かっただろうね」

 シュンはポツリと言った。

『え?』

 ピコが覗き込むと、シュンは哀しみに満ちた顔をしていた。

「僕を追ってこなければ、死ななくても良かったかもしれないのに」

『シュン……』

「可哀相すぎるよ。こんなの…………」

 水面から吹き上げる風が、シュンの、背中で結んだ長髪を吹き流す。

『…………』

 それを聞いてピコは無言のままシュンの頭から降りる、そしてその耳を掴むと思いっきり引っ張った。

「痛い痛い痛い痛い!!」

『もう!!』

 ピコはシュンを解放すると、顔の正面に回って鼻先に人差し指を突き付けた。

『君はどうしてそう、いつもいつも敵の心配ばっかりするの!?いい!あいつらは君を殺しに来た奴等なんだよ!殺されて当然とは言わないけど、君がそこまで心を痛める必要はないんだよ!!』

「それはそうだけど……」

 シュンは上目使いになって、ピコを見る。

 そんなシュンの様子に、ピコはもう一度溜め息をつく。

『君は本当に優しい子だよ。それは十年間付き合ってきた私が一番分かってる。けどさ、思い出してごらんよ。あいつらが君に何をしたかを』

「それは……」

 ピコの言葉に、シュンは言葉を詰まらせる。その脳裏には、幼い日の決して消えない記憶が、刻印のように刻まれている。

 そんなシュンの顔を見ながら、ピコは言葉を続ける。

『正義は、君にあるんだよ。君が死ぬって事は、正義が負けるって事なんだからね』

「……うん、分かってる」

 シュンも分かっているのだ。分かっていてなおかつ、この心優しい少年剣士は、敵の死に哀惜の念を感じずにはいられなかった。

 ピコもそれが分かっているだけに、それ以上強く言おうとはしなかった。

 そのまま二人は、しばらくの間一言もしゃべらずに流れ行く川を黙って見詰めていた。

 暫く経った頃、ピコが思い出したように口を開いた。

『そう言えばさ、今思い出したんだけど』

「何?」

 ピコは羽根を揺らしながら、シュンの視線まで上昇してくる。

『君って、今日誕生日じゃなかった?』

「…………へ?」

 ピコの指摘に、シュンは呆けたような顔をして考える。

 そして、

「…………ああ!」

 シュンは今思い出したように、手を叩いた。

 それを見て、ピコは深い溜め息をつく。その表情は、明らかに呆れの色に支配されていた。

『君ねえ…………そりゃあ、私は君がノーテンキが手足を生やして歩いてる存在だって事は知ってるよ。けどさ、さすがに自分の誕生日を忘れるほどだとは思わなかったよ』

「ぐっ……」

 ひどい言われようだが、事実であるだけに言い返せないシュン。

 そんなシュンを見て、ピコは可笑しそうに笑う。

『可笑しい子だね、君は』

「むっ……」

 ピコの言葉に、シュンはむくれてそっぽを向く。

 そんなシュンの顔の前に躍り出て、ピコはニッコリ微笑む。

『何はともあれ、十五歳のお誕生日おめでとう、シュン』

 それを聞いて、シュンも微笑む。

「ありがとう、ピコ」

『何かお祝いをしなくちゃね。退院祝いも兼ねてさ』

「そうだね。ケーキでも買って帰ろうか?」

『いいねえ』

 そう言うと、二人は雪に中を歩き出した。

 その時、

「シュン」

 突然呼びかけられて、シュンは振り返った。

 そこには、黒髪を三つ網にし、手には真っ赤な手袋をはめた少女が立っていた。

「ライズさん!」

 知り合いの顔を見て、シュンは笑顔を浮かべる。

 それに対して、ライズは眉一つ動かさないままシュンに歩み寄った。

「どうやら、退院できたようね」

「ええ、ご心配おかけしました」

 そう言うとシュンは、ライズにニッコリ微笑む。

 それに対して、ライズはつれなく視線を外す。

「そう。じゃあ」

 そう言うとライズは、シュンに背を向けて歩き出す。

 そんなライズに、シュンは足をふら付かせながら必死に追いつく。

「ちょっと待ってください」

「何かしら?」

 仕方無しに、ライズは立ち止まってシュンを待つ。

「ライズさん、歩くの速いですよ」

「あなたが遅すぎるのよ」

 ライズは、ピシャリと言ってのける。

「だって僕、退院したばかりなんですよ。足腰だって本調子じゃないんですから」

「だったら、大人しく部屋で安静にしている事ね」

 ライズの言葉に、シュンは人懐っこい笑みを見せる。

「いいじゃないですか。久しぶりに自由になれたんですから、僕だってもう少し遊んでいたいですよ」

「…………」

 もはや処置無しと思ったのか、ライズはシュンから視線を外し、歩き始める。しかしその速度は先程と比べて幾分遅く、シュンがついていけない程ではなかった。

 そんなライズの横に、追いついたシュンが並ぶ。

 二人の背はほぼ同じであり、ほとんど差はない。もっともライズは今、赤い帽子を被っている為、その分シュンより大きく見えるが。

「どこに行くんですか?」

 好奇心の篭った目で、シュンは尋ねる。

 セリナ運河のあるフェンネル地区は、シアターや運動公園、ゴンドラ乗り場などが存在する他、パリャヌーイサーカスのテントもあるのだが、残念ながら先日の猛獣事件で、しばらくの間サーカス団は営業停止処分が下されている。また、ゴンドラも寒い季節である為、運行が停止されていた。その他にも、軍が出撃する際に通るレッドゲートと言う巨大な門も、このフェンネル地区にあった。

 ライズの性格から、運動公園で運動をすると言う選択はあまり考えられない。となると、残る選択肢はシアターで観劇と言う事になるが、しかし、ライズの返答はシュンの予想を奇麗に裏切った。

「レッドゲートを、見に行くのよ」

「え?」

 その答えに、シュンは思わず足を止めた。

 つられて、ライズも足を止める。

「何かおかしい事を言ったかしら?」

「いや……あの、思いっきり……」

 おずおずと言った感じに答えてから、シュンは口を開く。

「なんで、あんな門に興味があるんですか?」

 シュンの疑問はもっともであろう。普通、ライズほどの年頃の少女なら、もっと他に興味が湧く物があるはずである。それを拠りも拠って、造りこそ立派だがあんな味気の無い、ただただ巨大なだけの門を見に行く事もないだろうに、とシュンは思った物だ。

 それに対しライズは、無言のまま歩を進める。

「ライズさん!」

「別に、私はついてきて欲しいなんて一言も言ってないわよ」

 帰りたければ帰れ、そう言う事であろう。

「…………もう!!」

 シュンは結局、ライズの後を追った。

 

 

 レッドゲート。

 古来より、ドルファン軍出撃の際にはこの門を通り、戦場へ赴くのが風習となっている。かつては、王侯貴族や自由騎士達の出征する凛々しい姿が、見守る人々を勇気づけ、首都城塞市民の士気昂揚に大きく貢献したものだった。しかしその光景は時代の流れと共に廃れ、自由騎士とは、騎士とは名ばかりのひ弱な貴族子弟に成り下がり、国王に至っては玉座のある王城から離れようとはしなかった。

 士気昂揚に使われていたはずのレッドゲートは、戦場に出る息子や孫、父親を見送る為の悲哀の門に変わっていた。

「大きいわね」

 門を見上げて、ライズは言った。

 確かに大きい、門の最上部分は、首都城塞をぐるりと囲む城壁とほぼ同じ高さの所まで来ており、その上にさらに石造りの監視櫓が設けられていた。

「僕も、見るのは二回目です」

 ライズの横に並んだ、シュンが言った。

 人並みはずれた跳躍力を誇るシュンにしても、一足で門の上に飛び乗れるかどうか自信はない。

「この城壁がある限り、この首都は無敵、と言う訳ね」

「え?」

 ライズの言葉に、シュンは振り向いた。

 それに構わず、ライズは続ける。

「かつて南欧圏最強とまで言われた騎士団は見る影も無く落ちぶれ、貴族は権利を貪るばかり、この前の戦いでも、あなた達傭兵部隊意外はろくな戦果を上げなかったと聞いたわ。そうした状況の中にあって、この城壁だけが市民を守る盾であり、同時に軍を弱体化させる要因にもなっている。と言う訳ね」

 説明するライズの横顔を、シュンは意外そうな顔で見詰める。

「ライズさんって……」

「何?」

 ライズも、シュンに振り返る。

「ライズさんって、軍事関係の知識もあるんですね」

「…………父が、軍人なのよ。スィーズランド連邦軍の」

「へえ、そうなんですか」

 そう言うと、シュンはニッコリ微笑む。

「僕の父は、倭国では憲兵のような仕事をしてました」

「そう」

 いつものようにそっけなく返すライズだが、その言葉にはいつもと違う、微妙なニュアンスが含まれていた。彼女の古い知り合いがこの場にいれば、それが「意外」という要素であると気付いた事であろう。それがシュンの父親に関してなのか、それともシュンがかこの過去のことを話した事に対してなのかは分からないが。

 あいにくとシュンはライズの旧知ではない為、それとは気付かないまま言葉を続けた。

「とても、優しい父でした。いつも朗らかで。笑顔のとても似合う人でした」

「…………」

 ライズは無言のままシュンの言葉に聞き入っている。しかし、シュンが父親の事を過去形で語った事から、既に彼の父が他界しているであろうことは想像できた。

「あっ、すいません。何か自分の事ばかり話しちゃって」

 シュンは慌てて、ライズに謝る。

 それに対して、ライズは表面上は淡々としている。

「別に構わないわ」

「…………でも」

 シュンは、口の端に微笑を浮かべて話題を変える。

「ライズさんのお父さんも、きっと優しい人なんだろうな」

「……なぜ?」

 突然のシュンの言葉に、ライズは若干驚きを感じながら、尋ねる。

 それに対してシュンは、ライズに向き直って答えた。

「だって、ライズさんがさっき、お父さんの事を話した時の目、ちょっとだけ、輝いてましたから」

「え?」

 思いも掛けない言葉に、ライズは先程よりも強く戸惑いを感じていた。

 そんなライズに、シュンは言葉を続ける。

「早く、会えると良いですね」

「……そうね」

 ライズも、当たり障りの無い答えを返しておいた。

 そんなライズに、シュンは悪戯っぽい笑みを見せた。

「昔、倭国の友達と、こんな遊びをした事があるんですよ」

「何かしら?」

 先程の動揺を隠す意味も含めて、ライズはシュンの話に乗ってみる。

「将棋、まあ、こっちで言うチェスみたいな物ですが、これの対戦を行い、戦っている指し手のうち、どちらが勝つか賭けるんです」

「……そう」

 ライズは、面白くなさそうに呟く。

 しかし、次にシュンの口から出た言葉は、ライズの予想外の事だった。

「この戦争、どちらが勝つか賭けてみませんか?」

 それを聞いて、ライズは思わずシュンの顔を見た。

 まさか、軍に所属している少年の口からこんな事を聞くとは思わなかったからだ。

 しかしライズから見たシュンの顔は、遊び心をもった少年と何ら変わらなかった。

 気を取り直して、ライズも口元に微笑を浮かべる。

「面白いわね。じゃあ、私はドルファンが負ける方に賭けてあげるわ。どちらにも賭ける者がいなくちゃ、賭けは成立しないでしょ?」

「そうですね。じゃあ、僕はドルファンの勝ちに賭けますよ」

 そう言って、シュンは邪気の無い笑みをライズに向けた。

 そこでふと思い出したように、ライズは言った。

「でも、何を賭けるの?まさか、お金でもないでしょう」

「そうですね……」

 シュンは少し考えてから言った。

「『負けた方が勝った方の言う事を聞く』って言うのはどうですか?もちろん、無理な要求はしないと言う事が前提条件です」

「分かったわ」

 そう言ってから、ライズは付け加えた。

「がんばって、戦死しないようにしなさい」

「分かってます」

 そう言って、シュンも微笑んだ。

 

 この二人を含めて、誰一人として知る事はなかった。

 この瞬間、小さな運命の歯車が、人知れず回り出した事を。

 

 

第八話「ギア・イズ・ロール」  おわり


後書き

 

 どうもこんにちは、ファルクラムです。

 

 いや〜、やっぱりこういうシーンは、私は苦手です。しかし、「戦う者には守る物がある。守る物があるから人は戦場に赴く」という事を小説を書く上でのモットーにしている私としては、その守るべき存在に関しても、どうしても触れておきたい訳です。

 であるので、こういうシーンはどうしても避けては通れない訳ですね。精進しなくては。

 そんな事を思った今日この頃でした。

 

ファルクラム


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