第一話「剣聖」


 D.26年春

 一人の侍がドルファンに降り立とうとしていた。

 その容貌は世間一般の目からすれば上の中と言ったところだろう。

 だが剣を商売にしている者なら分かるのであろうが、その者腕前は並々ならぬ物ではない、そして剣に生きる者なら。

 彼を見ると畏怖と尊敬を込めて、こう賞すだろう。

 

「剣聖」と

 

 

「ふぅ、とりあえずドルファンに着いたな…確かヤングと迎えが来ていると来たが…まだ来ないのか?」

 と言って彼は周りを見回すがそれしき人影は見えない。見える物はといえば…

「何処の国にもこういう輩はいる物だな」

 一人の少女に絡んでいる不良共、俺の視線に気が付いたのかそのなかのモヒカンの不良が俺に近づいてきた。

「そこの変な格好した東洋人の兄ちゃんよう、俺達に何のようだぁ?」

 セリフまでお約束ときたものだ。呆れるしかない。

「別に、ただ貴様らが古典的かつ愚かでどうしようもない生物だと思っているだけだ」

「なっ!てめぇ喧嘩売ってるのか!!」

その声を聞いたのかそこら辺から野次馬が集まってくる。

「そうは聞こえなかったか?そこまで脳味噌が腐ってるのか?この国の不良共は」

 はん、と一笑して挑発をしめた。

 それを聞いてモヒカンはハゲとデブを呼んで俺の周りに集まる。

「このビリー様に喧嘩売ったことを後悔させてやるぜ」

 とまぁ台本通りのセリフを吐いてくれる。

「それはこちらのセリフだ。この「剣聖」の享夜に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」

 と言って蒼月の鯉口を言った。

 

 チン

 

「な、け『剣聖』だとぉ?あ、あの一騎当万の剣聖キョウヤアラガミだっていうのかぁ?」

「だったら、どうするんだ。ビリーとやら?」

「ちっ、偽物に決まってら!!やっちまうぞ!!」

 やれやれ、勿体ないが。俺は居合いの要領で奴らの服、そして髪の毛や眉毛を切り払った。

 

 パチン

 

「さて、ここにお集まりの淑女の皆様方、醜悪な物が目に映りますので目をつぶった方が賢明だと思いますよ…」

 とおどけて注意を促す。野郎の全裸を見たっていい気分になる奴なんていやしねぇからな

「な、テメェ何紳士きどってんだ!!」

「ただ、真実を述べたまでだ。それと自分の服装を見てみな」

 

 バサバサバサァ

 

「へ?お、俺の一張羅が!!ひっ、俺のトレードマークまでぇ!!」

 全裸になりながら自分の髪型まで気にしている。

 その姿は見ていると実に滑稽だ。おまけに周りからクスクス笑う声まで聞こえてくる。

「ちっ畜生!!覚えてやがれ!!」

 と言って全裸になって奴らは逃げしていった。

「そこまでお約束か…」

もはや俺は呆れるしかなかった。

「全くお前はいつになっても、騒動ばかり起こすな…」

 と後ろの方から声が聞こえてきたので振り返ると、

「ヤング、遅いぞ、おかげで斬らなくてもいいもん斬っちまったじゃねぇか」

 と俺はいいかえした。

「ハハ、悪いな少しばかり食べ過ぎてな」

 と笑いながらヤングは答える。

「ったく、何のようなんだ?突然こんな手紙を寄こしやがって」

 と言って送られた手紙を見せた。

「それは我が国の総意でございます」

 と言って隣にいた40才前後の指揮官クラスの人物が話しに入ってきた。

「貴公は?」

「ミラカリオ・メッセニと申します。本題の件ですがここでは出来そうな物でないので場所を移しましょう」

 と言って彼は俺を案内し始めた。

 

 

「で…確かに込み入った話をするには理想的な場所だがなんでドルファン城なんだ?」

 まぁドルファンの総意とあらばしかたないといえるな。

「それは…こちら側の誠意ですよ、享夜様。そして本題になるのですが我が騎士団の指導役をして欲しいのです」

 まぁこの手の話は良くある話しだし、何度断ったのか覚えていない。

「ちっ、こう言うことかよヤング」

 それだけではないはずだ。確かこの国はプロキアに侵攻されているらしいしその事も含めてだろう。

「済まない、けどこうでもしないとお前は引き受けてくれないだろ?」

 全くの友人には苦労をさせられる。

「わかった。わかった受けてやるよ、ヤング貸し5と俺の貸しチャラな」

 まぁこれまでかけた迷惑をチャラと貸しをつくっとくのも悪くはない。

「わかった。まっ色々と頼むぜ享夜」

「但し条件がある」

「何でしょうか?」

 メッセニが真剣にたずねる。

「しっかり教えることが出来る環境を作って欲しい。生徒の切り捨ての自由、衣・食・住・の保証。最後に期間は3年間だ。これ以上は指導役はする気はない」

 これは俺に出来る最大の譲歩だ。

「分かりました。その程度の条件ならば問題ありません」

 ドルファン側もどうやら予測の範囲内だったらしい。

「ところで俺が三年間過ごす所は一体何処だ?」

「マリーゴールド地区に用意してあります。そこで暮らしていただきたい」

「わかった。そこまでの地図も頼む」

「はい、分かりました」

 と言って地図を渡してくれる。

「住所も書いてあるので自宅から何かを送って貰うときにはそれをお使い下さい」

「分かった。話はこれで終わりか?」

「ええ、大体は終わりました。それでは3年間よろしくお願いします」

 と言って握手求めてくる。俺はそれに答えた。

「ああ、こちらこそよろしく」

 そして俺のドルファンの生活が始まった。

 

続く


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