第16章「月の光の下で(後編)」


ライズは裏門の隙間に身を滑り込ませ、城の外へ出た。夜の闇に負けぬようあちこちで焚かれた祭火が、煉瓦で造られた街を夜と朝の間に揺らしている。

彼女の目はまっすぐ前を向いて、迷いなどみじんも感じさせない。

だが───

月明かりの下。

広場に皆出払っているのだろう。裏門の回りには誰もいない。

見回して確認したあと、口元に小さく笑みを浮かべる。

「…みっともない所ばかり、見せられないものね…」

笑顔が崩れる。門の鉄柵にすがりついた。

ひどく、固くて冷たい。思った瞬間、涙があふれてきた。

さびた鉄に革手袋がこすれて嫌な感触がする。構わずに座り込む。抑え切れない声が、辺りに響いた。

構わない。構うものか。見ているのは月だけではないか。

あの人には、笑ってさよならが言えたのだから───。

 

 

俺はライズが立ち去ったあとも、長い間柱によりそって月を眺めていた。鏡月は、少し欠けた姿で、静かに辺りを照らしている。

ライズの寂しい笑顔は、もう手の届くところにはない。

「言えない、な…」

腕を組み、回廊から庭園に身を乗り出す。

大切だよ、妹のように。───言った瞬間、ライズはどこか納得してしまったような、自嘲めいた表情を浮かべた。

だがそれも一瞬のこと、俺の手からひらりと離れると、悲しく微笑む。

さよなら、と。

彼女が消えた方向に目を向ける。回廊の向こうには、深い闇が口を開けていた。

いや、実際に闇に捕らわれ、消えるのは俺の魂の方なのだろう。彼女なら許されるかもしれない。だが俺は、幾度地獄の煉火に焼かれようとも、許されはしない。

それでもいい。

あの頃よりずっと大きく、無骨になった己の両手を眺める。

守れなかった小さな手。

───それは、復讐であり、償罪。

 

 

風にのった誰かの声に、一瞬だけついと門の方を顧みる。

自嘲の笑みを浮かべ、首をふった。

その顔からは、もう何の感情も見つけられない。

マクラウドはパーティ会場に向けて歩き出す。救国の英雄として。世界のすべてを騙し、己の復讐を果たすために。

───もう2度と、後ろを顧みたりなどしない。

夜香木の香りが、風にあおられ、はかなく霧散した。

 

 

第1部 了


後書き

 

祝!第1部終了〜(^▽^*)/

…って?あれ?なんか冷たい視線を感じる。

(^□^''')<---(・=・メ)

え?なんでいきなりバッドエンドなんだよ、ですか?

いやいや、だって「第1部」ですよ?冒頭でくっついちゃったら面白くもなんともないっす(たぶん)。この小説の真の副題は「マチコとハルキ」だし(笑)(え?知らないんですか?若いなーいいなー。お父さんお母さんに聞いてくださいな(冷たく))。

私が書くキャラはよく泣きますね…(でも失恋したら普通泣くわな)。ライズなのに…。

ちなみに主人公はダークプリンス戦のすぐあとぶっ倒れ、パコに何の説明もできないまま慌てて現代に帰還(ひきずって行ったのはライズかと思われ)、病院にかつぎ込まれたという設定になっております。

つまり、時が戻る魔法をかけられてはいません(いいことだ。うんうん)。

しかしあんなことを言われたら、私なら復讐やめて幸せになっちゃうけどねぇ。彼はなんかどーしても復讐したいらしいですわ。仕方ないね。

 

えっと、これから話は第2部に移行します。

第2部はオリジナルで、冒険が終わってからの話になります。オリキャラもばしばし出てきます。他のみつめてキャラも数人出てきます。

あ、第2部のテーマソング(またか)は、安全地帯の「碧い瞳のエリス」です。え?古すぎ?それにエリスはプリシラの母親の名前だ?気にしない気にしない。はっはっは。

 

ここまで読んでくださった方々、お疲れ様でした。本当に、ありがとうございますm(_ _)m

多大な手間ひま&ご迷惑をおかけした管理人さん、感想を下さった方々にはスペシャルサンクスを。

ここまで書きあげられたのはあなた様方のお蔭です。

本当に、ありがとうございました。


第17章へ

 

第15章へ戻る

 

戻る