第五章 後編「餓狼と疾風」


ギャリック「オラオラオラァッ!!」

『バハムート・ティア』がヴァルファの兵を切り刻む。

ヤング率いる騎馬隊の元、ギャリックは最前線でひたすら剣を振るっていた。

 

だが、敵は歩兵部隊の後衛に弓兵部隊を置き、二重で攻撃を仕掛けていた。

ドルファン軍第4大隊は敵に押されっ放しで、部隊戦で唯一有利に戦局を展開している傭兵隊も、疲労の色が濃い。

そんな中であっても、ギャリックは顔色一つ変えず敵を蹴散らしている。

ギャリック「やい!俺の首が欲しけりゃ、かかってこい!」

この一声で、ヴァルファの兵が一斉にギャリックに押し寄せた。

彼には『ドラゴンファイター』という通り名がある。

どんなに傷付こうがその痛みをものともせず相手に立ち向かえる強靭な肉体にちなんで名付けられた異名である。

その『ドラゴンファイター』が目前に現れたのだから、敵の兵士が群がってくるのは当たり前だ。

そして、『ハンガリアの狼』と言われた男・ヤングにも、同様に多くの敵兵が集合していた。

ギャリック「チッ、馬が邪魔だ!」

ギャリックは馬から飛び降り、敵を一人沈めた。

ギャリック「喰らえ!ケイオスクラッシュ!」

剣を離れた瘴気が分散して地を走り、まとめて10人を葬り去る。

その間にも、一薙ぎで三人を血祭りにあげた。

ギャリック「俺を殺そうなんざぁ、100年早いんだよ!」

言葉を吐いている間にも、ギャリックは剣を振るのを止めなかった。

一方のヤングも、裂刀『ファーウェル』を操り敵を斬り裂いている。

この、『ファーウェル』には斬れば斬るほどその切れ味が倍加されるという特殊な効果がある。

そのため、最初は鎧の合間を縫うように攻撃していたヤングだったが、今は鎧毎敵を真っ二つにしている。

鎧諸共斬ることができるのは、この『ファーウェル』のおかげなのだ。

ヤング「もっと骨のある奴は居ないのか!」

彼は新たな獲物を求めて、馬を敵兵の中に進ませた。

 

 

それから数時間後。

第4大隊の蹂躙にかかっていた八騎将セイル・ネクセラリアの元に、諜報部の兵が現れた。

諜報部員1「ご報告致します。我らが第1大隊第2騎兵隊が全滅。ドルファン軍傭兵部隊と交戦中の第1歩兵部隊、第3弓兵部隊も苦戦中とのことです」

セイル「!何だと!?」

諜報部員1「仲間の報告によりますと、たった一人の少年が第2騎兵隊を全滅させたと……」

ネクセラリアは小さく舌打ちした。

取り敢えず、今回は自軍が勝つことになるだろうが、これ以上戦力を削がされるようなことがあれば、今後のドルファン王国制圧に向けての用兵に支障を来す恐れが出てくる。

だが、それよりもネクセラリアを動揺させたのは、騎兵隊を一人で壊滅させたという少年のことだった。

その少年について、彼には心当りがあったからだ。

セイル(まさか、奴がドルファンに加勢しているとでもいうのか!?)

そう思うだけで、今にも全身が痙攣しそうだった。

あの時は味方だったから安心していたが、敵に回ればまさに破壊を呼ぶ少年が居るかも知れないのだ。

このまま戦闘を長引かせては、その少年一人のために逆転負けを喫してしまう。

そう思った矢先、もう一人の諜報部員が現れ、報告をした。

諜報部員2「ほ、報告します!傭兵隊と交戦していた第1歩兵隊、第3弓兵隊が壊滅しました!」

報告を受けたネクセラリアは、愛用の槍『クリムゾン・エッジ』を持って立ち上がった。

セイル「これ以上、ドルファンの好きにはさせん!」

敵将を自ら討つこと。

これがネクセラリアの現状を打開するために思いついた方法だった。
 

 

最前線に着くなり、ネクセラリアは怒涛の声で名乗った。

セイル「我は疾風のネクセラリア!我が槍に挑まんとする勇者は、ここには居ないのかぁ!」

言うまでもなく、一騎討ちの申し込みである。

それに一人の男が名乗りをあげた。

ヤング「ネクセラリア!俺が相手になろう!」

傭兵隊を取り仕切り、今やドルファン最強となったヤングだった。

一瞬相手を懐かしむ顔を見せたネクセラリアだったが、すぐに敵を見据える顔に戻る。

セイル「ヤング・マジョラム大尉か……『ハンガリアの狼』が、今やドルファンの一部隊長とはな……いいだろう、ハンガリア時代の決着を今ここでつけてやる!」

ヤング「望むところだ!」

二人は刃を下段に構え、じりじりと間合いを詰める。

目は相手を見据え、少しずつ二人は近づいてくる。

セイル・ヤング「はぁっ!」

二人が動いたのは同時だった。

刃を一合させると、間髪入れずにヤングが振りかぶってきた。

既に何人もの兵の血を吸って斬れ味の増した『ファーウェル』の一太刀は警戒しなければならない。

ネクセラリアは『クリムゾン・エッジ』でヤングの攻撃を受け流し、反撃の機会を待った。

だが、そのチャンスがなかなか見えてこない。

そうしている間にも、ヤングの攻撃が紅に染まった鎧を掠める。

掠めただけなのに、鎧に一筋のラインが綺麗に入っている。

セイル(防戦一方ではやられる!……なら!)

ネクセラリアは攻撃に切り替え、ヤングに斬り掛かった。

セイル「ソニックブレード!」

風の刃が襲いかかってきたが、ヤングはそれを華麗な体捌きで避けると、ネクセラリアの懐に飛び込んだ。

セイル「何っ!」

ヤング「風車連斬!」

風車の如く回転する乱舞をもろに受けたネクセラリアは、宙を舞い、冷たい大地に放り出された。

ヤング「お前とは、こういう形で会いたくなかった……」

剣を納め、ヤングは背中を向けた。

誰もが、ヤングの勝利だと思ったとき、ネクセラリアはバッと起き上がった。

セイル「疾風牙!」

神速を極めた突きがヤングの体を貫く。

セイル「これで終わりだ!」

そして、ネクセラリアの超必殺技が発動した。

神速の突きを連続で繰り出す、『レッドイリュージョン』。

『クリムゾン・エッジ』の特殊効果である炎の追尾攻撃のため、二つの違ったダメージを同時に、何発も受けるのだ。

この技を受けて助かる者など、皆無に等しい。

全身を走る痛みに、ヤングは言葉にならない声を発する。

セイル「ヤングよ……冥土で会おう」

今、命の灯火が消えようとしているかつての友に、それだけを言うと『クリムゾン・エッジ』を引き抜いた。

ヤング「……クレア……すまん……」

最後に愛しい者の名を呟き、息を引き取った。

ネクセラリアはそれを見届けると、ドルファン軍を見渡した。

セイル「ヤングの仇を取ろうという猛者は居ないか!」

新たなる挑戦者を待つネクセラリアの呼び掛けに応じて、謎の爆発がすぐ近くで発生した。

 

 

敵味方問わず、その爆発の起った方向に目を向けた。

???「ヤング殿の仇、俺が取る」

そこには、ジーパンもTシャツもジップベストも彼の髪と瞳の色で統一した東洋人が居た。

腕には分厚い手甲。

脚には銀色に輝く脚絆。

そうした格好が不似合な綺麗な顔の少年。

彼は腕を黄金に輝かせる。

東洋人の少年「この『ゴッドハンド』、ケイゴ・シンドウがな」

あってはならない『ゴッドハンド』の登場に、ネクセラリアは声が出なかった。

一方のケイゴはまだ温もりのあるヤングの亡骸に一輪の花を供えた。

ケイゴ「安らかに眠ってくれ、ヤング殿」

と、言葉をかけ、再びネクセラリアに向き直る。

ケイゴ「心の用意はいいか、ネクセラリア?」

セイル「あ、ああ。来い!」

構えたまではよかったが、まさか、目の前にいる若い東洋人が『ゴッドハンド』であるとは思わなかった。

とはいえ、ケイゴから発せられる気が尋常ではなかった。

なにか神憑り的な力が彼に味方しているような、そんな気がした。

セイル「行くぞ!」

先手必勝。

ネクセラリアは疾風牙で突撃した。

ケイゴは鎧を着ていないから、これで一気にかたをつけようと思ったのだ。

しかし、ケイゴはその神速の突きを手甲で受け流し、そのまま懐に入り込んで膝蹴りを浴びせた。

さらに、ネクセラリアの体を掴んで、巴投げをする。

セイル(な、何が一体!?)

とっさに身をひるがえし、ネクセラリアは着地しようとしたが、そこには既にケイゴが待ち構えていた。

ケイゴ「金剛武神流、霊光掌!」

セイル「クッ!ソニックブレード!」

気の塊と炎をまとった空気の刃が相Eする。

セイル「えいやぁっ!」

ネクセラリアは着地後すぐに『クリムゾン・エッジ』を振り降ろしたが、そこにはケイゴの姿はなく、刃は木の棒を捕らえていた。

セイル「何だとっ!?」

ケイゴ「代わり身を知らずに、俺と渡り合うことなし!金剛武神流、金剛掌!」

突如背後から現れたケイゴは、黄金に光り輝く拳で振り返ったネクセラリアの頬を殴った。

激しいフラッシュの中、ネクセラリアの体は50mも吹っ飛ばされた。

セイル「ぐっ……がはあっ!」

ネクセラリアは槍を支えにして何とか立ち上がった。

顔を『クリムゾン・エッジ』の刃で守ったのが功を奏し、一命を取り留めた。

だが吹き飛ばされたときの衝撃波で全身にダメージが及んでいるのも事実だった。

ドルファン兵1「見たかよ……あの一撃」

ドルファン兵2「ああ。ホントに噂通りだ……」

次第に威勢を取り戻し始めたドルファン軍に対し、ヴァルファの兵は一気にどん底まで落とされた。

セイル(ここで、勝負をつけないとまずい……)

ネクセラリアは「うおおーーーーーーーっ!」と叫びながら、ケイゴに突撃した。

セイル「レッドイリュージョン!」

渾身の力を込めて、ネクセラリアの一撃目が放たれた。

ケイゴ「金剛武神流奥義、桜花八卦掌!」

ケイゴは金色に輝かせた両拳を連続で繰り出した。

『クリムゾン・エッジ』の一撃一撃をケイゴの拳が受け止める毎に、気が桜の花びらとなって散っていく。

セイル(ば、馬鹿な!)

ネクセラリアは、自分の最高の技が封じられたことが信じられなかった。

レッドイリュージョンを封じられたこと。

それは彼の敗北を意味していた。

ケイゴ「金剛武神流奥義!金剛神掌!」

レッドイリュージョンが終わるとすぐに、ケイゴは気を集約した拳をネクセラリアの鳩尾に打ち付けた。

金剛掌より10倍も激しいフラッシュに、この闘いを見ていた兵は目をつぶった。

ギャリック「な、何が起ったんだ?」

しばらくして、一番最初に目を開いたギャリックを皮切りに、この場に居合わせた者全員が声を失った。

ケイゴの腕が、ネクセラリアの体を貫いていたのだ。

彼の腕よりも2回りも大きな穴が、ネクセラリアに空いている。

ケイゴ「ネクセラリア……もし、あの世でヤング殿に会ったら、こう伝えてくれ。『ケイゴ・シンドウは、あなたのような立派な騎士になる』と」

セイル「ああ……ヤングは幸福者よ、よい部下に恵まれて……」

ネクセラリアが息を引き取ると、ケイゴはその亡骸をヤングの隣に寝かせた。

 

 

ケイゴ「アシュレイ殿、この二人を丁重に埋葬して頂きたい」

アシュレイ「分かっておる」

ケイゴ「ありがとう」

ケイゴはどこか寂しげな顔で、自分の陣地へと戻った。


後書き

 

どうでしたか、イリハの激闘は?

前回の後書きで言ってた技の内、残りの必殺技と二つの奥義が出てきました。

後一つの奥義はどうなの?とお思いになる方もいらっしゃると思いますが、これは、物語を進めていく途中でケイゴが……

おっとこれ以降は企業秘密ですね。

話を進めていく上で使えるようになるということだけですね、今言えるのは。

(一応、どんな技かは既に決定済みです)

 

それでは次回お会いしましょう。


第六章へ

 

第五章 前編へ戻る

 

目次へ戻る