第四章「神腕」


???「おーい、ケイゴ。飲みに行かねーか?」

と、見知った顔がケイゴの部屋に入ってきた。

ケイゴ「ギャリックか。まだ午前中であろう?」

彼はその男、ギャリック・ゴールドの顔を見上げる。

身長215cmと傭兵隊で一番背の高いこの男は、ケイゴの友の一人である。

ギャリック「いーじゃん、今日は日曜だろ?」

こうやって、ギャリックはまだ未成年の彼をよく酒場に誘いに来るのだ。(どう考えても違法だろ!)

ケイゴ「先週もそんなことを言って泥酔していたのはどこの誰だったのだ?酔っぱらいの世話はもうたくさんだ」

ギャリック「そんなこと言わないでくれよぉ〜!俺とお前の仲じゃないか!」

きっぱりと断られておきながらもなお、ギャリックはケイゴの脛を掴んで追いすがる。

脚絆に覆われているために、触るとヒヤリとした感触が伝わってくる。

ケイゴ「そんなに誘いたければ他をあたれ。あいにくだが、俺には今日用事がある」

と冷たくあしらい、ケイゴは部屋を後にした。

ギャリック「はぁ〜っ。他の連中は女の子に会いに行くとか言っていねぇのに……ヤング教官だって奥さんと出かけちまってるのに……他に誰を誘えってんだよぉ〜〜〜〜っ!」

ギャリックは性格はいいのだが、顔が不細工なために損をしている哀れな(?)男であった。

 

シアター前。

ケイゴは懐中時計の針と、目の前の通りを行き来している群衆を交互に見ている。

ここである人と待ち合わせをしているのだが、約束の時間が刻々と迫っているのにまだその姿を現さない。

ケイゴ(開演時間が迫っているというのに……何かあったのか?)

相手が遅れてくることに対する怒りはなく、ケイゴはその相手の心配をしていた。

そんなところに、慌てた顔でこっちに向かって来るソフィアの姿があった。

ソフィア「遅れてすみません。せっかく誘って頂いたのに……」

ケイゴ「別に気にしてはいない。それより、俺なんかと本当に一緒でいいのか?」

ソフィア「ええ。自分一人では見に行きづらいですし」

ケイゴ「そう言ってくれるとありがたい」

と、いった会話をしながら、二人はシアターに入っていった。

ところで、どうして二人がシアターに行くことになったかというのは三日前までさかのぼる。

 

ケイゴ「このチケットを貰ったのはいいが、俺が見に行ってもな」

と、ぶつぶつ独り言をしながら、ケイゴは道ばたを歩いていた。

買い物帰りにクレアに偶然会い、その時に貰ったものだ。

どうしようかと思っていたところに、下校途中のソフィア達を見つけたのだ。

ハンナ「あ、ケイゴだ!やっほー!」

ケイゴ「ちょうどいいところに来たな。お前達、こういうのに興味はあるか?」

と、ケイゴがさっきのチケットを見せる。今度の日曜日まで行われる舞台劇のチケットだ。

ソフィア「これって、今大人気の舞台ですよね?どこで手に入れたんですか?」

興味深く、ソフィアがそのチケットを見ている。

ケイゴ「知り合いが余ったと言ってくれたものだが、俺一人で行ってもと思って、引き取り手を探しているところだ」

レズリー「悪いけど、あたしとロリィは予定があるから無理だな……第一、ロリィはあーゆーの好きじゃないしな」

ハンナ「僕も陸上部の練習があるから行けないや。ソフィアはどう?」

ソフィア「いいんですか?」

ソフィアは、その大きな瞳をきょとんとさせて皆を見る。

レズリー「こういうの好きなんだろ?行って来な。ついでに、ケイゴに前助けて貰ったお礼ってことで一緒に行ったら?」

ソフィア「えっ……」

彼女の顔が見る見る赤くなる。

そんなことはお構い無しに、レズリーはケイゴに同意を求める。

レズリー「なっ、あんたもそれでいいだろ?」

ケイゴ「俺は別に構わないが……」

レズリー「決定だな。そんじゃハンナ、あたし達は先に行こうか」

ハンナ「うん。それじゃ、またね」

どういった考えがあるのかは知らないが、レズリーはハンナを連れて先に帰ってしまった。

結局、ケイゴとソフィアは待ち合わせ時間を決めて、デート(?)することになったという訳だ。

 

二人が観客席に入ったとき、空いていたのは最後列だけだった。

でも、二人はそれに不満一つも言わずに座った。
 

舞台劇が終わって、二人がシアターを出たのはお昼過ぎだった。

ケイゴ「午後1時か。少し遅いが、あそこで食事を取ろう」

と、ケイゴは近くにあったレストランを指差した。

ソフィア「そうですね。お腹空いちゃいましたし」

ケイゴ「決定だな」

レストランへ向かおうとした時、真っ白でド派手な馬車がけたたましい音を立てて現れ、二人の前で急停車した。

中から、いかにもキザな顔立ちをした若者が現れた。彼の顔を見るなり、ソフィアの顔が蒼白になった気がした。

ケイゴ(ソフィアに学園前で会ったとき、ソフィアの後を追うように現れた男か)

彼は覚えていたが、この二人が知り合いだとは思いもしなかった。

若者「ダメじゃないか、ソフィア。僕以外の男と一緒にいたりなんかして」

ソフィア「すみません、ジョアン。……以後、気を付けます」

若者「フン、まあいいだろう。おい、そこの東洋人!」

若者は、ケイゴに向き直ると、ビシッと指を差した。

若者「僕はエリータス家の三男、ジョアン・エリータスだ。そして、ソフィアは僕の婚約者なんだ。どうだ、驚いたか!」

ジョアンと名乗った男は威勢よく高飛車笑いを始める。

ケイゴ「なるほど、人ですら自分の『もの』にしないと気が済まない阿呆ということか」

彼の放った言葉は、そこに集まってきた野次馬達はおろか、通行人までも戦慄させた。

彼らは、恐る恐るジョアンを見る。彼はわなわなと体を震わせていた。

侮蔑の言葉、それは彼に聞かせてはならないものだった。

ジョアン「きっ、貴様ぁ!この僕を馬鹿にする気かぁぁぁーーーーーーーーっ!」

怒りが瞬時に爆発したジョアンは、腰のシンクレアーを抜いてケイゴに斬り掛かる。

一方の、ケイゴはジョアンを見据えて立っているだけだ。

ジョアンの剣閃がケイゴを捕らえようとしたとき、ソフィアは悲鳴をあげて目を覆った。

確実に、刃はケイゴの眼前まで来ていたのだが、湿った肉の裂ける音ではなく乾いた金属音が鳴った。

ソフィアがゆっくりと目を開けると、ケイゴがジョアンの剣を人指し指と中指で挟んで止めていた。

いくらジョアンが力を込めても、シンクレアーは動かなかった。

ケイゴ「無駄だ」

ケイゴが言うと、ケイゴの手が黄金の輝きを放った。

その途端、シンクレアーは砕け散り砂鉄となって地面に落ちた。

ケイゴ「はっきり言うが、今のお前は弱過ぎる。力もそうだが、心もな。それでは、お前は絶対に死ぬぞ」

ジョアンには、全く彼の言葉が届いていなかった。

ケイゴの、黄金に輝いた手によって、自分の剣が砂鉄になってしまったのが頭の中でリフレインしていた。

破壊された剣は名匠が打った宝剣で、魔力を持った剣と互角の力を持っている。普通なら、あんなに容易く折られる筈はない。

ソフィア「ジョアン、ジョアン!」

と、ソフィアに呼び掛けられ、ジョアンはやっと我に返った。

ケイゴ「剣が折られたのがそんなにショックか?その剣に託すべき『思い』もない剣を折られて?」

ジョアン「うるさい!いいか、貴様は金輪際ソフィアに近づくな!今度会ったら、次こそは叩っ斬ってやる!」

ジョアンは貴族らしからぬ言葉をケイゴに吐き捨てると、ソフィアに向き直った。

ジョアン「そういえば、お母様が君と話をしたいそうだ。もちろん、一緒に来てくれるよね?」

ソフィアは、仕方なく頷いた。

ジョアンが先に馬車に乗り込む。

その間に、ソフィアはケイゴの元に来た。

ソフィア「ケイゴさん、すみませんでした」

ケイゴ「お前が謝ることじゃない。気にするな」

ソフィア「ありがとうございます」

彼女は深く一礼すると、ジョアンの馬車の中に入っていった。

御者が手綱を捌く。ジョアンの馬車はすぐ視界から消えてしまった。

 

ケイゴはこのとき、あの男にだけはソフィアは渡すまいと思った。

なぜそう思ったのか、自分でもよく分からなかった。


後書き

 

国士無双です。お久しぶりです。

 

今回はジョアンとの絡みがありましたが、

あの剣を破壊して砂鉄にしたやつは、ケイゴの技の一つ『白刃砕き』といいます。

そうそう、このお話では、ケイゴや八騎将などの戦士たちには必殺技と、超必殺技をいくつか持たせる予定です。

(CAPCOMvsSNKの超必に似たのが出てくるかも……)

 

次回は、いよいよイリハ会戦だ!

超熱いバトルを、期待していてください!


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