第二十章「ギャリックの夏の一時」


夏。

 

SUMMER。

 

四季においてこれほど響きのいい季節はないだろう。

一体どれほどの者が魅了されたのかを数えるのが不可能なほど、夏という季節は人々を虜にして止まない。

そう、それはドルファン王国とて、同じことだった。

 

シーエアー海水浴場には、例年並みの海水浴客が訪れていた。

夏の陽気もあり賑やかではあるが、必ずしもそうではない。

昨年の鮫騒動や人が溺れるなどでパニックに陥ることもある。

それらを処理し人命救助を行うのが、ライフセーバーである。

ギャリックは、そのライフセーバーのバイトをしていた。

ギャリック「あ〜っ。暇で暇でつまんねぇ」

今、彼は台の上から双眼鏡で海水浴場に異変がないか見張っていた。

かれこれ三時間、こうして目を光らせているのだが何も起こりはしない。

まぁ、何もない方がいいのだが、ギャリックはイライラしていた。

じっとしているのが苦手な彼にとっては、夏の日差しと相まって地獄と言って差し支えない状況だった。

その時、ふと双眼鏡が一人の女性の姿を捕捉した。

スラリと伸びた足、引き締まった体に豊かな胸。

そして顔もよし。

思わずその女性の姿に魅入る。

ギャリック(やっぱ俺って見放さちゃなかったってこったか!ラッキー!)

ガラリと気分の変わったギャリックは、さっきとは別の方角を双眼鏡で覗いた。

そこにも、美人がおり、思い思いの水着を身につけていた。

しかも、似合っていて違和感がない。

うぶな男が見たら、鼻血が出ること間違いないだろう。

ギャリックはニタリと笑った。

この笑いは、彼が何かよからぬことを考えた時に見せるものだ。

ギャリック(俺って、なんて頭がいいんでしょ!!)

そんなこと考えているのはギャリック本人しかいないのだが、自分自身の考えを自画自賛しているのであった。

 

それから一時間後。

見張りの仕事から解放されたギャリックは、ナンパに出かけた。

ターゲットは勿論、さっき双眼鏡で見かけた女の子たちである。

既に顔や着ている水着の特徴を頭にインプットしていた彼にとって、その目標を見つけるのは容易いことだった。

そして、声をかけたのまではよかったのだが、覗き見していたのがバレバレであった。

「声かけないで、変態!」と頬を叩かれたり、「いいご趣味ですこと」とソッポを向かれたり、終いには「覗きなんて、サイテーな男ね」と言われ、なぜかビーチパラソルで横薙ぎにされてしまった。

ギャリック「……はぁ」

声をかけた全員に即刻スパッと断られたのが、十分足らず。

しかも、その人数は丁度十人。

ここに「十分足らずで十人の女の子にフられた」という、見るも無惨な自己更新記録が誕生した。

気力が一気に失せたギャリックは、トボトボと歩き始める。

どれくらい歩いただろうか。

歩いて1・2分のところで誰かに声をかけられたような気がした。

大した時間ではなかったが、彼にとっては、一時間とも思えるくらい長かった。

ギャリック「あ?誰だよ……って」

青ざめた顔が、180度正反対になる。

彼に声をかけたのは、ソフィアたちだった。

ギャリック「ソフィアちゃんにロリィちゃんにレズリーちゃんにハンナ!君たちは俺の天使だぁ〜〜っ!」

と、彼はソフィアの手を固く握り、「ありがと〜〜っ!!」と感激のあまり涙さえ流している。

ハンナ「……いいのかな、そんなことしちゃって」

ハンナがボソリと呟いたのと、ギャリックの脳天にタンコブがプクーッと膨れ上がるのが同時だった。

ギャリック「ッテーな……ってお前までいたのかよ……」

ケイゴ「ソフィアに馴れ馴れしくするな」

当然の如く、ケイゴも一緒のようだ。

ギャリック「あ〜あ、お前はいいよなぁ。ナンパしなくても綺麗で可愛い娘と知り合いになれてよぉ……俺なんかお前みたいにクールな顔してねーしさぁ……」

と、再び彼の気持ちが落ち込んだ。

ケイゴ「ソフィアが誘ってくれたので一緒に来たのだが、それがどうかしたか?」

ギャリック「だから、それが恨めしいんだよ!!」

『バハムート・ティア』を取り出したギャリックは、ケイゴの脳天にそれを振り降ろす。

が、それは彼の頭を割ることはなかった。

ケイゴ「……」

彼は人指し指と中指の二本で、その巨大な刀身を白刃取りしていた。

突然の事態に、場内騒然となる。

ケイゴ「剣を引け。こんなところで喧嘩するつもりか?」

ギャリック「……すまねぇ。最近、ストレス溜まってたもんで」

ケイゴに諭され、ギャリックは剣を納めた。

ハンナ「せっかくここで顔合わせたんだからさ、一緒にどう?」

ギャリック「そうだな。そのお言葉に甘えるとすっか」

彼も、ケイゴたちの輪に入ることにした。

 

プリシラ「何よ!今日は仕事だって言っときながらあんなのにデレデレしちゃって!!」

ケイゴたちから少し離れたところで、プリシラはギャリックの様子を一部始終見ていた。

それは、彼がナンパを始めてからだったりする。

王女である自分を差し置いて他の娘に手を出しているのを見ると、無性に腹が立つ。

プリシラ「……死刑台が活躍しそうね。フフフ……」

煮えたぎる怒りと嫉妬のオーラに包まれた彼女に、近づく者はいなかった。

 

ギャリック「!!」

遠くからの視線を感じ、ギャリックは背筋に冷たいものが流れた。

ケイゴ「どうした?」

ギャリック「……いや、何でもねぇけど」

ケイゴ「そうか。だが、用心に越したことはない。敵が既にドルファンに侵入しているかもしれんからな」

レズリー「……だからって、その敵がこんなところにまで紛れ込んでるかねぇ?」

ケイゴ「とはいえ、あり得ない話ではない。ギャリック、注意しておけ」

ギャリック「あ、ああ」

元気のない声で、彼は相槌を打った。

ギャリック(やっぱ、こんなプレッシャーを俺にぶつけられるのは『あいつ』しかいねーよなぁ……)

とか考えながら、ギャリックは仰向けになった。

すると、視界に入ってきたのは太陽と青い空ではなく、その『あいつ』であった。

ギャリック「のおおぉっ!!!!!」

彼は咄嗟に跳ね起き、ケイゴの後ろに隠れた。

理由は言うまでもないだろう。

プリシラ「ねぇ、ギャリック。今日は確か、アルバイトだって言ってたわよねぇ……」

ドスの効いた声に、ケイゴですら戦慄を覚えた。

ギャリック「……は、はい」

プリシラ「なのに、なーんで他の女の子に声をかけてたわけ?」

彼女は笑っていた。

確かに、笑っていた。

だが、こめかみや口の端がピクピクと引き攣っており、周囲の人間を戦慄せしめるには十分過ぎるほどだった。

ギャリック「そ、それは……」

弁明をしようとギャリックが口を開けた時、プリシラが超絶に怒りと嫉妬に満ちた笑顔になった。

プリシラ「言い訳却下(はぁと)」

 

ドゴッ!!バキッ!!ゴガッ!!べキッ!!グシャッ!!

 

……1分後。

ギャリックは、白眼を向いて泡を吹いていた。

身体中から流血しており、その怪我の酷さと言ったら言葉では言い尽くせない。

プリシラ「ケイゴさん、ギャリックの馬鹿がお手数掛けました」

ケイゴ「……あ、ああ」

プリシラ「それじゃ、また会いましょ」

憂さ晴らしができてルンルン気分のプリシラは、瀕死のギャリックを引き摺って意気揚々と引き揚げていった。

ケイゴ「……」

ハンナ「……」

ロリィ「……」

ソフィア「……」

レズリー「……なぁ、今の誰だ?」

異様な戦慄で重苦しくなった雰囲気の中、レズリーが開口した。

ケイゴ「……プリムと言って、ギャリックの知り合いだ」

この場にいた全員は奇しくも同じことを考えていた。

「ギャリックは、不運な奴だ」と。

 

二日後、ドルファン国立病院内、A病棟301号室。

ケイゴはギャリックの見舞いに現れた。

あの怪我だから、うーんうーんと呻いているのかと思って赴いたのはよかったのだが……

ギャリック「……はぇ〜」

呆れたことに、彼はテディーに見とれていた。

テディー「あ、ケイゴさん」

部屋に入ったケイゴに、彼女は会釈をした。

ケイゴ「唐突に訊くが、この莫迦に変なことをされなかったか……?」

テディー「……いえ。ギャリックさんは今動けない状態ですので、私が身の回りの世話をしているんですけど、それが?」

それを聞いて、ケイゴの肩が心なしかずり下がる。

これで、ギャリックがとろけていることに説明がつく。

テディーのような美人の看護婦、しかもナイスバディなお姉さんに身の回りの世話をされたら、大抵の男は撃沈だ。

ケイゴ「い、いえ。彼は狼なので、十分ご注意を」

テディー「???」

こりゃ一度プリシラに殺されなきゃダメだな、と思うケイゴであった。


後書き

 

ナンパ野郎な末路は恐ろしや。

ああ恐ろしや、あな恐ろしや。

 

シティハンターのリョウだって、ルパン3世だってそれは同じです。

でも、こういう奴って懲りないからなぁ。

そんな連中ばっかで……ホント、バカばっか。

 

さて、そんな話は置いといて、もう第二十章に入っちゃいました。

気合い満々!!男は熱血!!

この調子でこの国士無双、これからも頑張って参りたいと思います!!

では、さらば!!


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