第二話「she doesn`t believe in love at first sight」


7月24日

 

目が覚めた。

…まだ、生きてたのか。

あちこち痛い。

 

午後に英田が訪ねてくる。

…もう看護婦さんと知り合いなのか?お前は…

 

ちょっとむかついたので独り言の癖をそれとなく教えておいた。

 

 

7月31日

 

退院。宿舎にもどる。

夏の長期休暇は既に始まっている。損したよな〜。

でも死ななかっただけでもめっけもの。

リハビリついでにバイトを始めることにする。

う〜ん、それにしてもこの時期楽なバイトってなんだ?

 

英田は海水浴場の監視員のバイトに張り切って出かけていく。

他人が遊んでるの見て何が面白いんだ。

というと『萌え萌えなんだあ!!』と叫んで走り去った。

…モエ?何?

 

 

8月1日

 

とりあえずパン屋でバイトを始める。

焼きたてのパンのいい匂いのするなかで仕事をするのはなかなか良い。

…非常に暑いが…

看板娘のスーさんも愛想が良く、なかなか繁盛している店だ。

 

終業後、帰ろうとするとスーさんに呼び止められる。

を!恋の予感?

と思うも英田のことで質問責めにあう。

ここでも独り言の癖と妄想癖について暴露する。

「ホント?」

と神妙な顔で聞かれたので

「残念ながら」

と答えておいた。ついでに

「奴は痔ですよ」

と言っておいた。

 

すまんな英田。プププ

 

 

8月4日

 

バイト中パン生地をこねていると後ろ頭に衝撃をうける。

床をみるとポラギノールと書かれた瓶詰めが落ちている。

これが当たったのか。

誰だ痛てーな!

と、思ったら後ろからスーさんに蹴られた。

「年下のくせに!」

…多分俺のほうが年上だと思うのだが

どうやら痔の話は嘘だったことがばれたようだ。

これ以上雇われ先の娘を怒らすのもアレなので素直に謝る。

 

クビになりませんように。

 

 

8月12日

 

久しぶりの休みだったのに緊急召集がかかる。

この暑いのに、何の用だ?

英田と城に向かう途中変な女に会う。

アイスを奢れ?今忙しいのよ。仕事中なの。

と言おうとしたら英田は女についてった…

 

緊急の用事とは王女の捜索だった。

おいおい、一大事だよ。 

 

必死こいて探すも誰も発見出来なかった。

が、自分でどっかから帰ってきたらしい。

人騒がせな…時間外手当はでるのだろうか。

英田は一人おいしい思いをしたらしい。要領いいよなぁ…

 

 

8月19日

 

レズリーとたまたま会う。

この前から気になってた「モエ」という言葉について聞く。

 

…いまいちよく分からん。

が、説明の言葉が終始吐き捨てるような感じだったことから

あんまりいい意味ではないような気はする。

 

英田の「萌え萌えなんだ!」発言を伝えると、顔をしかめて

「問題だな…」

といったまま黙り込んでしまった。心なしか顔色が悪い。

 

 

8月23日

 

レズリーとロリィと会う。

相談があるとのことでレッドゲート近くまで呼び出される。

 

何スか?相談って。

…この紺色の水着を着るように頼まれたの?英田に?

…うん。…胸のところに名前が入ってるのが恥ずかしい、と…

う〜ん。西洋人の感覚も、英田の感覚も良く分からん。

でも、要約すればつっかえしとけばいいのね?

 

というやり取りがあったことを宿舎に帰って英田に説明する。

「なぜ、理解できないのだ!スクール水着こそ正義だ!」

…いや、俺に泣かれても困る…正義ってなんだよ…

 

最近の英田は少々おかしい。

 

 

8月31日

休暇は今日で終わり。明日からまた訓練所通いだ。

 

バイト最終日なので給料をもらう。

…ポラギノール代が差っ引かれていた…

 

 

9月17日

 

秋になって英田は随分落ち着いてきた。

「モエ」とかいう発作もここ2週間程起きていない。

 

宿舎に「森に出没する熊を倒してください」という手紙が届く。

退治したら森林地区の自治会からご褒美が出るとのこと。

 

もちろん無視。

 

夕食後ゼペットさんと食堂で話しこんでいると包帯まみれの筋肉君が帰還。

取り巻き連中から

「ほんとにダイジョブなんですか〜?ミッシェルさ〜ん」

との声。そんなカワイイ名前だったとは…
  

 

話を聞くとどうやらホントに剣一本で倒しに行ったらしい。

度胸あるな〜。

 

 

9月20日

 

で、なぜか俺も一緒に森林地区にいる。

つーか命令がでたので仕方ないのだが。

熊相手にまで剣で立ち向かうのは流石にあほらしいので猟銃を調達した。

射手は俺です。

 

まかせろっつーの。

 

おとりは筋肉君。既に前回の傷は塞がっている。

おーい。適当でいいからあんま近づくなよ〜。

「お〜」

返事をする筋肉君。熊に近づく筋肉君。挑発する筋肉君。

筋肉君に気付く熊。走り出す熊。逃げる筋肉君。案の定捕まる筋肉君。

格闘を始める二匹。狙いを定める俺。迷わず引き金を引く俺。

乾いた音が響く。うなる銃弾。

「うがっ!?」

叫ぶ筋肉君。倒れる筋肉君。

「いけねっ」舌をだす俺。こっちをむく熊。もう一回撃つ俺。

「あぅ!」

倒れたままうめく筋肉君。既にこっちに走り出している熊。

逃げる全員。追う熊。

 

そして放置されたままの筋肉君。

 

……数時間後、熊の皮をはいで、筋肉君が帰還した。

殺されるかと思ったが、出血多量で即入院となった。

…安堵

…ゴミンネ…ミッシェル…。

 

 

9月22日

 

ミッシェルこと筋肉君の見舞いに行く。

おみやげはキャラウェイ通りの高級料理店のケーキだ。

えらい高かったがコイツがお気に入りらしいことを取り巻き連中から教わった。

マジで悪いことをしたので平身低頭で謝る。

 

ごめんなさい。

 

と言っても目が血走って怖い顔のままだ。

 

殺られるな、こりゃ

 

しかし、ベッドから起き上がって俺に飛びかかろうとしたその時

「検温のお時間ですよ〜」

といって看護婦さんが入ってきた。

 

「は〜い」

速攻でベッドに戻り、かわいいお返事をする筋肉君。

 

…助かった…そういうことか!

 

看護婦さんの前でひとしきり筋肉君を誉め、ご機嫌をとって帰る。

これで許してくれるといいけどな〜。

 

 

10月1日

 

また英田の様子がおかしい。

食欲も無いようだし、

窓から夕焼けを見て溜息をついたり、

花占いをしたり、俺に

「なあ、運命の出会いってしんじる?」

とか聞いてきたり…。

 

出世頭のコイツがこんなんでは士気に関わるので

「なんとかせよ」

とのお達しが下る。

ナントカっていわれてもな〜。

 

とりあえず悩んでいることがあるか聞いてみる。

 

…なんだ恋の悩みか。略してコイバナ!!っていうアレだな。…ちょっと違うか。

よしよし、真夜中のサンダーロードを突っ走る君にDJがアドバイスをあげよう。

話してみたまい

 

『彼女、すごく僕に対してクールっていうか…取り付くシマが無いんです。

 ほかの女の子とはうまくいってるのに、

 彼女ちょっと感覚が違うみたいで…どんな風にアピールしたらいいのか分かんないんです。

 お願い!助けてよDJ!!』

 

……ほかの女の子?………うまくいっている?

隠れて聞いていた連中(彼女ナシ、もしくは単身赴任)と一緒にボコる。

そんな都合よく全部お前のもんになるかーい!!

しかし、ボコられてなお遠い目をして溜息をついている。

こりゃ本格的だわ。

 

「ハァ……ライズ……」

 

とか言ってたが。

それがその子の名前なのか?

 

 

10月3日

 

で。その子を見に行くことが決定したので英田の後を数人で着けることにする。

 

どの子じゃ?と大の男が物陰から女子高の正門を覗いているのは少々怪しいが

この際気にしない。

…ハズだったが下校時刻になり女の子がたくさん出てくるとさすがにまずいような気がしてくる。

早く出て来いよ!

 

「…あ!来たみたい」

どれよ?どの子?

「ホラ、今話し掛けてる」

おおっあの手袋の子か!三つ編みの!

 

そおかあ、ああいうのが好みなのか。誰でも、というわけでは無かったんだな。

お。なんか誘ってる様子…

「あの。時間あったら今からお茶でも…」

「そんなヒマはないわ」

 

去る少女。うなだれる英田。笑いをこらえるのに必死な俺たち。

いや、あんまり速攻だったんで。

 

ありゃ脈ないわ。

 

ま、頑張ってくれ。

 

 

10月20日

 

今夜は飲み会だ。

まあ皆それぞれ夜出てって飲んでくることは日常的なのだが全員で、となるとなかなか無い。

今夜はシーエアー地区軍部宿舎様で酒場を貸しきらせてもらう。

 

お目付け役のメッセニ中佐はなんか落ち着かない様子だ。

だいじょぶですって、皆いい大人なんですから、

そうそう悪いことなんか……え?…違うの?

あ、あの人はヤング教官の奥さんでわ?なんでここにいるのだ?

…いや、働いてんのはみりゃ分かるが……

俺たち傭兵はともかく正規の軍人にもほとんど労災降りないのか…

なんかショッパイ話だねぇ。ねぇ中佐?

 

中佐?寝てんスか?なにブツブツ言ってンスか、ねぇ飲みましょうよお。

すいませーんこっちおちょーしもーいっぽーん

 

あーたのしいなーいやじっさいこんなたのしいのひさしぶりっすよいやほらね

なんだかんだいってもすてごまじゃないっすかおれら。いやいやいやそんなひていしなくてもいいの。ね。

おれわわかってますよーうん。わかってる。ちゅうさわね

なんだかんだいってもおれらのことみとめてくれてんすよね?ね?

そんなてれなくてもいいんですって。やりますよおりわ、いやおりたちわ。ね?

だいしょぶですよってませんですじぶんわ。ぬはははははははははは

……ははははははっはあっはあっはあ………すんませんちょっとといれ

 

「………zzzzzzzzzzzz…zzzzzzz」

あーすっきりした。つーかちょっと酔いが覚めたな。ん?なんだ中佐寝ちゃったのか。

あ。すんませんワザワザ毛布

「そのままだと風邪ひいちゃうでしょう」

はい。どうもありがとうございます。

…っは〜やっぱ美人だなヤング教官の奥さんは。

 

「きいてくれよ〜」

うわ、なんだお前!って英田か。なんだどしたの?

「ライズをね、デートに誘ってもいっつも断られちゃうんだよ〜」

また、その話かよ!も〜いいじゃん!お前他のコにはもててんだから!

 

人は望むその全てを手に入れられるわけじゃないのだ!!

 

……………

 

俺の大声に静まり返る場内。その一瞬の後に喝采。

 

今のカッコよかった?そう?哲学的?いや〜照れんね!そんな風にゆわれると!

ん?おう!飲む飲む!どんどんつぎたまえ!!ぬはははははははは!!

そーれカンパーイ!カンパーイ!!ぬっははははははははははは!!

ぬはははははははははははははっははっはっはははは!!!!

 

…そんなこんなで明け方まで凶宴は続いたのだった……


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