第二話「邂逅」


秋を迎えたドルファンのある日の朝の事である。
一隻の船がドルファン港に接岸する。
そして、船に乗っていた人の中に一際、雰囲気の違う少女がいた。
綺麗な黒い髪を後ろで三つ編に結んでいる。
そして、寡黙そうな黒い瞳。年頃の少女には似つかわしくないが、何故か彼女には似合う赤い手袋。読んでいた本をぱたっと閉じる。

『本船はただいまドルファン港に到着しました。下船の際には…』

決まり文句のアナウンスが船内に流れ出す。

「やっと着いたようね」

少女が呟く。
そこに一人の出入国管理局員が近づいてくる。
前にシュウジに声をかけた女性ではない。あの女性よりは、幼い雰囲気を醸し出している。
まだ、それほどこの仕事に慣れてないのだろう。

「あ、あの恐れ入ります」
「何かしら?」

局員の声に少女が答える。

「出入国管理局のものですが、その…入国手続きを」
「そ」

年頃の少女とは思えない受け答えである。
その雰囲気に局員が圧されているようだ。
先ほどから口調がたどたどしい。

「すいません、ここにサインをお願いします」

そう言って局員が、用紙を差し出す。
少女は自分の名前を書いて、局員に返す。返された用紙を見て局員が少女の名前を確認する。

「ライズ…ハイマーさんですか?あの〜ドルファンには観光か何かで?」
「答える必要があるのかしら」

局員の問いを、ライズという名前の少女は冷たくつっぱねた。局員が慌てて弁解する。

「すみません!規則なんです!」

ライズは少しため息をつきながら、答える。

「スィーズランドから留学しに来たのよ」

そう言って手に持った鞄から数枚の書類が入った封筒を覗かせる。

「これが留学手続きの書類よ」
「スィーズランドから、ドルファンへ…ですか?大分変わってますね…」
「そ。どう思うかは個人の自由よ…口にする時は気をつけることね」

局員の問いに、ライズは忠告を入れて再び冷たく答える。
これが少女の性格なのだろう。相応しくない寡黙さと、普通の少女にはないクールな感情を併せ持っている。
新人らしい局員には、その雰囲気に例え少女が15歳であろうと圧倒されて当然だろう。

「すいません!あたしって一言多いみたいで、え、あの…先輩にもよく怒られて…その申し訳ありません!」

局員がお客を怒らせてはたまらない。
これまでにない慌てようを見せ、普段の素行すら、関係のないライズに溢している。

「いいわ、別に」

ライズは興味のないように言い放った。
彼女にはほんとうにどうでも良い事なのだろう。
ソフィア辺りだったら「いえ、そんな気にしないで下さい」くらい言いそうだが。

「お引止めして申し訳ありませんでした。どうぞ下船なさって下さい」

そうしてようやくライズは船から降りる事が出来た。

「そ。じゃ、行かせてもらうわ」

ライズは淡々と船に掛けられた階段を降りていく。
目を半眼にして自分が乗っていた船を微かに見やりながら。
そして、一人呟く。

「所持品すら調べないなんて、おそまつもいいところね」

その台詞は、やはり年相応の性格を表す事はない。
それどころか、何故一介の少女がそんな呟きをもらすのか、それ自体が彼女の存在を別の意味で引き立たせる。
だが今の時点でそれを知る事は不可能だった。

「あ、あの!」

不意に先ほどの局員が船内から声をかけてくる。ライズは振り返った。

「何か?」
「ようこそドルファンへ!あなたが有意義な時を過ごせるよう、お祈り申しあげます!」

局員が元気な声で、そう叫ぶ。
それを聞いてライズが少し間を置いてから、

「ありがとう」

とだけ答えてやった。
このやり取りで、ライズ=ハイマーという少女がどの様な少女かはわかるだろう。
そして、その鋭い眼差しを持つ瞳の奥には、何か『作られた』ような一つの感情が見え隠れしているような気がした。

 

「……お前、意外にファッション気にするだろ」
「……何故そう思う」

ドルファン城塞ドルファン地区キャラウェイ通り。
そこには数多くの店が建ち並んでいる。レストラン、宝石店、花屋…そして、もちろんブティックもある。
その中でアレスはシュウジに向ってぼそっと言った。
それに対してシュウジが不思議そうに答える。
その前に彼らのような傭兵がここにいる事自体が不思議だった。
シュウジは店に置いてある鏡で自分の姿を見て確認している。
その横にアレスとシオンがいた。

「なあ…」
「何です?何度もぼやいて?」
「お前冷たいな」

シオンがアレスのぼやきに冷たく反応する。
無理もない。アレスは今日朝から何度もぼやき、その全てをシオンは隣で聞いていたのだから。

「朝からずっと聞いてるんですよ?冷たくもなりますよ」
「しゃあねえだろうがよ。ぼやきたくもなるぜ?別に普通の鎧着てりゃいいじゃねえか…。一撃くらったら、おしゃかじゃねーのか?」
「大丈夫ですよ。当たらなければいいんですから」

シオンの台詞にアレスがじと目で答える。

「お前が言っても仕方ねーだろ…。大体当たらなきゃいいったってなあ…」

シオンがニコニコ顔でアレスに答える。

「心配性ですねえ」
「そういう事じゃねぇ!!」

何故アレスがそんなにぼやいているのか。
それはシュウジに原因があった。
今から約1ヶ月ほど前の事だ。
シュウジが正式に傭兵部隊の隊長として任命された。
そこでシュウジはドルファンから供給された鎧を着るのではなく、いつもと同じように軽装にすることにしたのである。
店員がシュウジに声をかける。

「こんな感じでよろしいですか?」
「ああ、これでいい」

それに対し、気に入ったのかシュウジはただそう答える。
シュウジはもともと鎧を着て戦うような男ではなかった。
少しでも攻撃速度を上げるために、重い鎧などは着ずに動きやすい服装で戦うようにしていた。
この前の戦争では仕方なく着ていたのだが、隊長に任命されたという事である程度自由が利くだろうと思い、今まで通りにしようと思ったのだった。
シュウジが着ている服は、普通の繊維より多少防御力がある特別製の繊維で編んでもらったカスタムメイドの服だった。
全身が白で統一されており、時たま入る青いラインがいいセンスをしている。
アンダーシャツの上を薄着のコートを着込み、更に上から短い羽織を装着している。
普通に見れば、かなりかっこ良いと言えるだろう。
シオンがシュウジを見て、

「ほぅ…いいんじゃないですか?何か隊長っぽくなりましたねえ」

と感想を述べる。 隣でピコも(二人には見えていないが)、

(うん!とってもいいと思うよ!!ひゅーひゅー!)

と言っている。

「別にいいけどよ…」

アレスはまだぼやいている。

「いいじゃないですか。彼はもともとあんな感じですし」

シオンが言う。アレスがふぅと息をつきながら、

「まあなあ…。どうにしろ、素早さを最大限に生かすにはいいもんかもな」

と言った。

「それに差別化した服を着たほうが、見た目にも感じが出ていて良いと思いますよ?中身が大事ですが、第一印象も大事ですからね。無愛想なんですから、外見くらいは派手でも」
「どういう理屈だ?」

とシオンが微笑しながらアレスに言った。

「有難う御座いました」

店員がお辞儀をする。
ブティックでの買い物を終え(といってもこれだけなのだが)、シュウジ達は外に出た。

「さぁて、俺はちょっと行って来るかな」

アレスが疲れを取るように手を伸ばして言う。

「そうか。気をつけてな」
「おう」

シュウジにそう答え、アレスはどっかへ行ってしまった。

「さて、私は帰るとしますか」
「そうか」
「では後で」

シオンもそう言って何処かへ行ってしまった。
シュウジは先ほどの服装のままだった。

(ソフィア達にその姿見せてって言われてるんだったよね?)
「…ああ。しかし…何故?」
(…きっとシュウジは一生わかんないと思うよ)

ピコが苦笑しながら言う。

(とにかくドルファン学園へレッツゴー!!)
「…お前はいつも元気だな」

シュウジはブティックから真っ直ぐドルファン学園へとやって来た。
そして門へと塀沿いを歩いている時だった。
突然、何かにぶつかる。

「きゃっ…!」
「うぉ…」

シュウジがふと見ると、目の前で少女が尻餅をついていた。
シュウジが少女へと手を伸ばす。

「すまない…大丈夫か?」

そう言って少女に謝る。

「あ…ごめんなさい…つい周囲に気をとられてて」

少女もシュウジに謝りながら手をとって立ち上がる。
その時、少女の目がシュウジの腰にある剣に気づき、驚く。

「あ…!」
「いや、俺もよそ見をして…ん、どうした」

シュウジが不思議そうに少女に問う。
少女が顔を上げ、まるで睨むつけるようにシュウジを見て、聞く。

「…ちょっと聞いていいかしら。…貴方…傭兵?」

そんな事を聞かれてシュウジは奇妙に思ったが、

「そうだが」

と答えておく。
それを聞いて少女の目が鋭さを増したような気がした。

「なるほどね…私は、ライズ・ハイマー。出来れば、貴方の名前を教えてもらいたいわ」
「…シュウジ=カザミだ」

シュウジは何故か答えなければならないような気がしていた。
目の前のライズという少女に名乗ってやる。
その答えに少女が動揺する。

「あなたが……!!」

それを見て、シュウジが多少目を鋭くした。気づくか気づかないか程度に。

「…俺を知っているのか?」
「シュウジ=カザミ…覚えておくわ。縁があったらまた会いましょう…」

だが、少女はその問には答えず、ただそう言って、そこから去っていった。
その後ろ姿を見やって、

(あの少女…何か気になる。ただの学生でもあるまい…?)

腰にある剣に気づき自分が傭兵か聞き、名前を聞いて動揺する少女。
そして、

(あの目…一瞬だけだったが…)

シュウジはライズから何かを感じ取っていた。
それが何か考えようとした時だった。少女が去った方向とは逆から声をかけられる。

「シュウジさん」

聞き覚えのある声だった。シュウジがそちらを見やる。
ソフィアだった。
ソフィアの隣にいたレズリーがシュウジの服装を見て口を開く。

「へえ、今着ている服がそうなのかい?」
「わあ、お兄ちゃん、かっこいい!」

ロリィがシュウジを見るなり、そう言う。

「ふぅん、そんなの着るんだ」

ハンナも不思議そうに言う。

「シュウジさん…大丈夫なんですか?鎧を着たほうが…」

ソフィアが心配そうに言うが、シュウジは微笑しながら答えてやる。

「大丈夫だ。こっちの方が合っているし、な」
「でも…」

その様子を背にして、先ほどの少女・ライズが塀の影から見ていた。

(彼が、シュウジ=カザミ…。そうそうに会えるなんて、私もついてるわね)

ライズのその瞳はシュウジを睨みつけていた。


後書き

 

今の主人公の状態を簡単に言うと…

某封神演義のハンバーグにされてしまった男がギルティギアのカイの服装を着ていると考えればばっちりです。

(微妙にわかりにくい)


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