第二話「訓練開始」


ドルファンについた次の日である4月2日。

本格的な訓練は明日からという事でシュウジはドルファン城塞を散策することにした。ドルファンの地理をそれなりに把握しておこうと思ったためだ。アレスは早速今日から行動を開始していた。シオンはどこかに読書しに行ったようだった。ピコはやかましいので宿舎に置いてきた。シュウジにとっては久しぶりに一人だけでの散歩となった。彼はシーエアー地区を離れ、隣のフェンネル地区へと赴こうとしていた。訓練所を一足早く見ておくためだ。

その時シュウジはふと立ち止まった。一つの大きい建物がある。そこには門があり、塀に『ドルファン学園』と書いてある。

「学校か」

シュウジは不意に昨日の出来事を思い出した。ソフィアという少女。

(ソフィアと言ったか…、おそらくここに通っているのだろうな)

その時だった。

「あの…」

「ん…?…君は昨日の」

声をかけられた。シュウジが振り向くと、そこにはちょうどソフィアが立っていた。

「やっぱり…。シュウジさん…でしたよね?昨日は本当に有難う御座いました」

「別に…大した事はしてないさ」

「そんなこと、ないです。私はとても感謝しています。それで…その、お礼をしようと思って…」

「礼?」

「はい。その大したことは出来ないですけど……あ!?」

ソフィアは言葉の途中で、いきなり声を上げた。そしてそのまま、何かに怯えるかのように学校の中へ逃げ込んでしまった。

「…?」

シュウジが怪訝な顔をして走り去ってしまったソフィアを見ていると、何者かが背後から近づいてくる気配を感じた。

「ボクの〜愛しのソフィア〜」

(…なんだ?)

男だった。どうやらソフィアを探しているようだ。

(彼女の知り合いか?)

だとしたら何故逃げたんだ?とシュウジは考えたが、最初に見聞きした言動を思い出してその考えを破棄した。

「ん?ここにいたはずなんだが…」

その男は踊るような足取りで、学校の中へ入っていった。

(いったい何だったんだ、奴は)

 

 

「良く来たなゴロツキども!俺が、ここの主任教官であるヤング・マジョラム大尉だ!!この国では陸戦において銃火器は一切使用していない。全て己の剣技だけが頼りだ。よそで銃に慣れてきた者はここでは地獄を見るぞ!それとだ、剣を持つ者は全て騎士と区別なく扱われる…礼儀・教養・精神…それらも叩き込んでやるから覚悟しておけ!」

訓練学校でヤングの激が飛ぶ。傭兵は今日4月3日から訓練開始となる。外国からやって来た傭兵達は全てここに集まっていた。

「…あいつ、確かどこかで見たことあるぜ」

アレスがヤング大尉を見てそう呟いた。

「『ハンガリアの狼』…だな」

「ええ。まさか、このドルファンにいるとは思いもしませんでしたが」

シュウジの答えにシオンが微笑を浮かべて頷いた。

シュウジの返答に満足したように、アレスも

「なるほどね…どうりで」

と頷いた。

(…ん。あの三人…)

ヤングは訓練に集まった傭兵の中からシュウジ達に気づいた。

(奴らだけ、明らかに雰囲気が違うな。…こいつは面白そうだ)

そして、ヤングはシュウジを見て

(あの男、どこかで見覚えがあるぞ…)

と思った。

(まあいい)

だがヤングはその思いを奥に押し込めて目の前にいる傭兵達に命令した。

「早速訓練開始だ!手を抜けばそれだけ死期が近付くぞ!!いいな、死ぬ気でやれ!!」

他の傭兵達は愚痴を言ったり、それぞれ会話を発しながら、言われたとおり訓練のため、別の場所へ移動しようとしている。シュウジも行こうとした時、アレスに声をかけられた。

「おい、シュウジ」

「なんだ?」

「どのくらい使えるようになったんだ、左手」

「そこそこだ」

「ちょい、試してみるかい?」

「…お前は槍専門じゃなかったのか?」

「おいおい、馬鹿にすんなよ?こう見えてもいろいろな武器を使ったことがあるんだぜ。こういう仕事がら、1つだけじゃ不便だからな」

シュウジは少しの間考えて、

「…いいだろう。頼む」

と言った。それを聞きアレスは笑みを浮かべる。

「ほい来た。じゃ訓練場へ出ようぜ」

「では、私はそれを見学するとしますか」

シオンがそういうのを聞きアレスは「はぁ?」とこける。

「シオン、人の見てないでなんかやれよ?」

「あなたがたのを見てるほうが面白そうなので」

シオンがにっこり笑って言う。アレスはそれを聞き

「やれやれ…」

と呆れてしまった。

 

 

「はっ!!」

 

シャアアア!

 

アレスが剣を突き出してくる。

「ちぃ!」

 

キン!

 

シュウジの剣が弾かれる。

「そら!」

アレスは連続して突き出してきた。

「く!」

シュウジはなんとかかわしていく。

「どうした!シュウジ!反応が鈍ってるぜ!」

「そりゃそうですよ。あれほどの腕を取り戻すにはかなり時間がかかると思いますよ?病み上がりですからね」

「そうは…言ってられねえだろ!?」

「はぁ!」

シュウジが右上段から薙ぎ払う。アレスが受け止める。

「遅いぜ、シュウジ!」

アレスはそれを押し返し、シュウジの喉元へ剣を突き当てる。

「く…!」

シュウジがうめく。アレスは顔をニヤッと微笑して言う。

「俺の勝ちだな?シュウジ?」

そう言い剣を下ろす。だが、シュウジが食いつく。

「…もう一回だ」

「へいへい。もっかいね」

そうしてまた始める。

ヤングがこのやりとりに気づき近寄ってくる。

「…ほう。面白い事をやっているな?」

「でしょう、ヤング大尉?」

「で?お前は何やってるんだ?」

「こっちのほうが面白いから見てるんです」

シオンがにっこり笑う。

「……」

ヤングはあまりにもさわやかににっこりと笑顔で返されたので何も言えなくなった。

だが、ヤングがシュウジを見て顔を怪訝なものへ変える。

(…やはりどこかで見たことがあるな)

しかしヤングは何も思い出せなかった。


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