第3話


「本船は、まもなくドルファン港に到着致します。まだ入国審査がお済みではない方は、出入国管理局の者がうかがいます。その場でお待ち下さい。この度はペイラム海運局、アルビア〜ドルファン行き外洋船に乗船頂きまことにありがとうございました」

 D.26年3月31日。彼はドルファンの地に足を下ろそうとしていた。

 

「…やっと、ドルファンに着いたね」

「ああ、ここが俺の記憶のカギを握ってるのか…」

「…うん、でももっと気楽に行こうよ!!ねね、ドルファンってトルキアとはまた違った活気がある街だよね。いままでこんな感じの街がなかったから、こう感じるのかなあ?」

「そうだな、アフリカで5年も旅したからな。アフリカでは旧オルガディア以外こんな感じの活気はなかったかもな…」

 ピコの声は他の人には聞こえない。よって彼、カイエンは傍からは変な東洋人と見られていた。

 

 ドルファン王国…かつてトルキア帝国から別れた8つの国の一つ。いまはデュラン・ドルファン国王が治める海洋都市。かつてはプロキアの近くにあった首都も海南ぎりぎりまでに移し、アルカント国をそのまま使用している。 

D.20年に攻略したアルカント国であったが、支配、侵略という形ではなく、合併という形で平和に事を治めた。市民にしては、ただアルカント国籍がドルファン国籍となり、住みやすく、学問、経済全てにおいて、発達した良い国という事でしかなかった。よって、もとアルカント国の市民もドルファン王国の市民もなにも問題なく暮らしていた。

 ただ、この6年間の国王の苦労には、隠せないものがあった。しかしその苦労の甲斐があって今のドルファンに至っている。

 しかしドルファン王国には頭を痛める問題がまだ残っていた。プロキア=ヘルシオ公国の侵略が今だ続いていた。そのため、ドルファンでは外国人を傭兵に雇うという政策が3年前より出されていた。ドルファン生まれではあったが戦場を求めてハンガリアやゲルタニアに行った傭兵達を集め現在、近衛兵団、騎士団、傭兵団を編成し、戦地へ赴いていた。

 

「失礼しますが???」

「はい?」

「出入国管理局の者です。入国審査表を回収させていただきます」

 カイエンはアルビアで行なった疫病検査の結果とハンクから身元を保証されている、入国審査表を管理局の者に渡した。

「ええ、カイエンさんは傭兵希望ですね、確かに受理いたしました。ようこそドルファン王国へ、御武運をお祈り申し上げます」

 5分少々のやり取りを終え、彼はドルファンの地に足を下ろした。

 

 潮風が軽く彼らを撫でる。心地良い風だ。

「ねえ、確か地図もらってたよね、ちょっと見せて…」

「ああ、ほら」

 今見ている地図にしたがって、用意されている兵舎に向かった。地図より漁港を通ると近道になるようなので魚の臭いが漂うそこを通る事した。

 漁港の活気は昼間であっても冷めていなかった。遠洋の漁業にででいた大型漁船が戻ってきたからだ。

 しかし、出口差し掛かるところで活気とは別に、大声でもめる声が聞こえた。

「………。…ません……」

「“済みません”で済むわけねーだろ!!どうしてくれんだ!!服が魚臭くてたまんね−よ!!」

 見ると少女に3人のチンピラ風の男が絡んでいる。少女は謝る一方だった。

「…なにがあったんだ?」

 カイエンが近くで働く男に話しかける。すると小声で話し始めた。

「あいつら、わざとソフィアちゃんにぶつかって…。で彼女、魚の入っていた箱を…。でもあいつらこの編でも有名なゴロツキだから係わらない方が良いよ…」

 男はそう言うとそそくさと、箱を持っていく。

「…みんな見て見ぬふりしてるね…。どうするの?」

「…ほっとく訳にもいかないだろう…」

 するとカイエンは“そこ”へ近づいていった。

「今から、気分良く飲みに行こうかと…おい!!なに見てんだよ、東洋人の兄ちゃん!!」

「…見てたぞ、お前らがわざとぶつかって行く所をな…」

「!!あんだと!!おいちょっとこっちこい!!」

 と髪を逆立てている男はカイエンを裏路地へと呼んだ。

 突然の登場にすがる思いの少女もそれについていった。

「おい、金払っても許さねーぞ。痛い思いしてもらうぜ」

 シーエアー地区の裏路地に着くや否や男は彼に言った。それをニヤニヤと他の男が見ていた。

「…語彙(ごい)の少ない奴だな…、金はだすつもりはない」

「うるせーーー!!ボコ殴りだー−!!」

「くっくっくっく、ビリーの奴切れちまったぜ」

 他の男が言うと、ビリーと呼ばれた男はカイエンの顔めがけ拳を振り上げた。そして殴る……

「がっ!!」

 男は殴るつもりが逆にカイエンに顔面に蹴りを入れられた。

「……遅い…」

 一撃だった…。蹴られた本人もわからない位早く、一瞬の内に蹴りを繰り出した。ビリーはその一撃で膝を地面に着き、その場に倒れ伏せた。

「この野郎!!よくもビリーを!!」

 続き様に後ろで見ていた大男が拳を振り上げ、殴りかかってきた。

 …が、軽くそれを回避すると、一瞬息を吸い、力をいれ肘を水月(みぞおち)にいれる。

「ぐふっ!!」

 呼吸が突然途切れるような発声が聞こえる。そして大男の体が一瞬浮いた。

 そこからはスローの様に大男の体が沈んでいった。

「…でどうする?やるか?」

「…くそっ!!今日は勘弁しといてやる!!」

 頭を丸めた男は無理やり倒れている男を引きずる様に引っ張って行き、その場を後にした。

「……あいつすごいな…よく引っ張れる…」

 何か意味わからない事に感心して、彼はその場を後にしようとした。

 その時、彼は何か軽く服を引っ張られた。

「あ…あの……ありがとうございました」

「ん?ああ、怪我…とかはないか?」

「え?は…はい!!私は大丈夫です」

 少女は作業着をささっと見るが、よくよく考えれば、何もされてなかった。

「そうか、よかった。じゃあ、気をつけてな……」

「あ、あの、…もしよろしかったら、お名前とお住まいを教えていただけますか?私は、ソフィア・ロベリンゲと申します。是非改めてお礼をしたいのですが…」

 きびすを帰して帰ろうとするカイエンに少女は尋ねた。

「いやいや、名乗るほどでもない。では…」

 カイエンは、どうしてもと引き下がるソフィアを強引に丸めこんで、その場を後にした。

 

「君って、意識的に格好つけてるの?“名乗るほどでもない”って格好つけ過ぎだよ!!」

 旅中にハンクが言っていた言葉を気に入ってか、つい言ってはみたものの、格好つけだのとピコにからかわれた。散々に言われながら兵舎に到着した。

「ええと、カイエンさんだね、B棟の206号室だよ」

 兵舎を管理しているおばさんから、カギを預かり与えられた部屋へ向かった。その途中、いや着いた時からずっと注意深くみていたのだが、シーエアー地区の倉庫街、兵舎までの舗装された道からは、なにも思い出せなかった…。

「…収穫はないな。なにも思い出せない」

 カギを開け部屋に入る。部屋は机とベット、台所があるがけの簡素な部屋であった。

「……ねえ、ドルファンに住んでいたわけじゃないんでしょ。ハンクもトルク(トルキア人の通称)だって言ってたし。なんでエリス様はドルファンにカギがあるなんて言ってたんだろう?」

「さあな、まあ明日から部隊に配属されて、訓練が始まる。今日は深く考えない事にするよ」

「そうだね、まあ新しい“君”のはじまりとして頑張ろうよ」

「ああ、そうだな…」

 夕暮れが挿しかかるという所で彼は早い眠りに着いた。波の音がかすかに聞こえる。彼を癒す心地よい子守唄であった。

 

 一方、助けられた少女、ソフィアは漁港でのバイトを終え夕暮れの中、帰路に着いていた。彼女の手には紙切れがあった。

 彼女は物思いにふけっていた。当然昼間の事を考えていた。

 “私を助けてくれた、東洋人の方…カイエン・アラキさん…。誰も私を助けてくれなかった…。けどあの人は助けてくれた…”

 彼女は彼の落とした入国の際の手続きに使った紙を落としていた。

 15歳の年頃の娘…格好のよい男に助けられ不謹慎ながらも良い気分は隠せない。頬を染めながら好きな歌を口ずさみ帰路に着いていた。

 そして夕暮れに浮かぶ月をみて、彼との再会を願った。

 

 

───翌日───

 彼は訓練所に着くなり、書類を渡された。そしてその書類にはこの様に記されていた。

  ──カイエン・アラキ  第5傭兵団11部隊に配属──

 訓練所はさしずめ学校を思わせるような造りをしていた。外を見れば、男達が実践さながらに各々の武器を振り回し奮闘していた。ここでは傭兵も正式なドルファン兵も関係なく共に訓練していた。しかしよく外をみると、身なりのよい男達は木の影でしゃべっているだけで、訓練している様子は見られなかった。

「よう!!」

 ポン、っと後ろからカイエンは肩を叩かれた。

「???」

「お前が、カイエン・アラキか?」

 顔に傷をおった体格の男は突然彼に話しかけてきた。彼は、分かる者には威圧感を感じさせる男であった。

「ああ、あんたは?」

「はっはっはっは、いいねえ、生意気大いに結構、俺は第4,5,6傭兵団をまかされているヤング・マジョラムってんだ」

「!!上官でしたか?済みません…」

「気にするな、知らなかったんなら、尚更だ。それより外を見てわかっただろ」

 ヤングはそう言いながら木の下で全く訓練しようとしない男達を見る。

「あいつらはな、貴族の息子でなにもしなくても、お前達の何倍も早く出世していく。戦争でも端っこでちょこちょこしてるだけでな…。今ドルファンの上層部はあんな連中でうめ尽くされている。6年前一度兵団が解散されてから…。……がいれば…」

 カイエンは彼らを見ていてヤングの話を聞き漏らしていた。

「…まあ、お前に愚痴っても、しょうがないんがだな」

「ヤング…殿?はへんですか…?」

「大尉でいいぜ」

 ヤングは変に難しく考える彼に気さくに教える。

「では、ヤング大尉。俺になんのようですか?」

「ん?ああ、そうだった。お前の名前、“カイエン・アラキ”だろ?この国でも2番目ぐらいに伝説とされている名でな、俺の連れが昨日知ってな。名前負けしてないか賭けようって、俺の部隊ってことで確かめる事になったんだが……」

「…実力を計りたいんですか?ちなみに大尉はどちらに賭けたんですか?」

「俺は名前には負けない奴だってはったんだが、どうだ?俺とちょっとやって見るか?」

「…いいでしょう、俺も今まで自分の実力を把握できなかったんで…いい機会です。大尉をもうけさせてあげますよ」

 彼は密かに燃えていた。もとの性格からであろうか、闘いが嫌いではなかった。今までの旅ではそんなに強い者と闘う機会に恵まれず実力は計れなかった。が、彼にはなぜか自信があった。以前の彼の努力が自信を与えているのだろう。まだ全ての感を取り戻したわけではなかったが、全力のヤングと闘って見たかった。そのヤングからは常人ではない"気"が漂っていたとしても・・・それはカイエンに闘いに火をつけさせた。

 そして二人はグランドに向かった。

 

「ヤング大尉、どうかなさいましたか?」

「いや、ちょっとスペースを借りるぜ。ああ、あと盾を貸してくれ、剣しか持ってなくてな…」

「はあ?どうぞ…」

 ヤングに話しかけた男いまいちわからないといった様子でヤングに手にしていた盾を渡した。

 今、ヤングは簡易な鎧と腕、足にプロテクターをつけていた。

 対する彼は、普通の普段着を着ていた。

「おい、本気で行く。防具を用意しよう」

「では篭手と簡易な胸当てを貸して下さい」

「お前の得物は?」

 カチャリと腰から片手剣を取り出す。

「横の細いのではないのか…盾は?」

「いりません…」

 

 しばらくすると、二人の周りには人だかりができていた。

 カイエンは用意された装備を身につけると、ヤングから少し離れた。

 そんなに整備されていないグランドは荒野を思わせる。実践さながらといった所であろう、ただ隅に人工的に木が植えられているだけであった。

 ギャラリーによって簡易な円形闘技場が作られる。

 カイエンは剣を地面に突き立て、土を手になじませる。

 二人をギャラリーは緊張しながら身守っている。どちらも本気で闘うことが感じられた。

 そしてカイエンは剣を手に取った。ヤングもカイエンよりわずかに長い使い込まれた愛剣を鞘より抜く。

 二人が剣を手に取りにらみ合う。常人がこの間に立たされれば嫌でも伝わってくるプレッシャーにつぶされるだろう。ヤングはカイエンにある程度の実力を計っていた。その見積もりの答えは直ぐ明らかになった。

「あああああああ!!」

 先にカイエンが動いた。

 かなりあったはずの間合いを一瞬にしてうめる。瞬発力は軽くヤングの想像を上まっていた。

 ガキン!!

 物凄い剣と剣のぶつかり合う音はギャラリーをハッとさせる。

 ヤングもあまりの瞬発力に盾で防ぐ事がままならず、剣で受ける。

「ぐ…」

 片手で受けるにはキツイ重い一撃だった。

「はっ!!」

 続けざま、相手の剣を流し、左で持つ剣を右肩に振り上げ瞬時に振り下ろす。これをヤングは弾かれた剣では受けず、盾で受ける。

 すると今度はヤングが盾で剣を流し、愛剣を突き出す。それをカイエンは紙一重でかわす。

 するとカイエンは剣を使うだけではなく得意の体術も繰り出した。

 昨日ゴロツキを一撃で静めた蹴りをわざと盾に放つ。

「フッ!!」

 バチン!!

 蹴りで出る音とは思えない音があたりを騒がす。続けて2発蹴りを盾に繰り出した。

 バチン!!バチン!!

「うっ!!」

 思惑通りヤングの盾を持つ手は限界を迎えていた。盾を持つ左腕はしびれていた。するとヤングは盾を捨て、剣を両手に持ちかえ、向かってきた。

「ダアアアア!!」

 ヤングの剣は本来両手で持って力を発揮するのであろう、攻撃に隙がなくなり一振りの重みが半端な物ではなくなった。

 振り下ろし、突き出し、切り払い。ヤングの猛攻に受け流し、かわすのが精一杯であった。

 しかしわずかな隙さえあればその攻守は逆転した。

 誰もが息をするのも忘れみている中、カイエンは勝負に出た。

 彼は最大の瞬発力を持って間合いをうめる。そして力一杯に剣を振り下ろす。

「がああああ!!」

 ガキン!!!

「うおおおおおお!!」

 その剣を受け、ヤングすぐさま反撃を繰り出す。両手で剣を横一線になぎ払った。

 ヤングは本気だった。誰しもカイエンが胴から真っ二つになると思った。

 が…

 ブン!!

 勢い良く剣は空を切る。

 カイエンはその場にいなかった。彼はヤングの頭上を飛び越え一回転し、ヤングの裏に回る、そして直、攻撃に移るのつもりだったが…既に彼の首もとにヤングの剣が当てられていた。

 カイエンの負けであった……。

 周りは全く反応できなかった。カイエンが剣を捨てた事で彼らに勝負の行方をわからせた。しばらくしてから、周りから歓声が上がった。

 カイエンが着けていた防具をはずしていると、ヤングが歩み寄ってきた。
 
「…何故飛んでる間に攻撃しなかった?」

「…まだ身体がちゃんと動かないんですよ」

「……変な奴め。お前には手加減されていたような気がするぜ」

「いえいえ、持ちうる実力を出しました」

「そうか?不思議な奴だ」

 カイエンは防具をはずし終えると、ヤングに所々の浅い切り傷を見せる。

「ヤング大尉、俺を殺そうとしてたでしょう、最後の本当に死ぬところでしたよ」

「…良く言うぜ……」

 するとヤングは右手で盾を拾い自分の左腕と一緒に見せる。

 その盾は鉄でできているにも関わらず、へこんでいた。そしてヤングの腕には紫色の大きな痣ができていた。

「いったいどんな蹴りをすれば、こうなるんだ、ハンガリア時代に巨大な金槌を受けた事があるがここまでひどくなかったぞ…」

「…す、済みません」

「ああ、全くその通りだ、だから今日おごらせろ!!飲みにいくぞ!!賭けは俺の勝ちだしな、フン!!全く面白い奴が入ったぜ!!」

 笑いながらヤングはカイエンを無理やり飲みにつれていった。

 その場には盾を見て驚く者が後をたえなかった。

 

 そして次の日、初めての酒にやられカイエンはベットから離れられなくなっていた。

 

 

「ええと、ここでいいのかな?」

 その子は兵舎管理のおばさんよりB棟の206号室という事を聞き出しいた。

 コンコン

 軽くノックして見る。しかし返事はない。

 コンコン!!

 今度は少し強めにノックして見る。

 すると中からドカッという大きな音が聞こえた。

「???」

 するとガチャリとドアが開いた。

「………え??」

 カイエンは間抜けな声を出した。

 

続く…


<あとがき>

 

 3話完了……なんか前回よりかなり少ないです。

 今回とりあえず(なにがとりあえずだ…)ソフィア、ヤング登場しました。

 …ヤングと闘ってしまいました…(二人とも強すぎ…)。ただ彼等の強さという物を見せたくて戦わせました。正直最近立ち読みしたるろう○剣○の影響がキャラの戦闘を決めている事に気付きました。マキシムは小太刀を持った人、カイエンは白髪の倭刀使いだし…まあいいだろうという事で…(許して下さい)

 

 はやく○ン出したいよー!!3年まで待てないよー!!という気持ちを抑え、第4話がんばります。

 

ブッシュベイビー


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