命の価値とは?

著:204


「おい、為政どこへ行くんだ。」

ある秋のこと、池柳為政は同じ傭兵の友人に酒場の側で声をかけられた。

「ちょっと家庭教師をしにな。」

「お前、外国人のくせによくこの国で家庭教師なんてできるな。」

「それはつっこまないでくれ。」

そう言い残し、為政は足早にその場を去った。

 

(本当にオレ、よく家庭教師なんてできるよな。実は頭がいいのかもしれん…)

そんな事を考えながら城の城壁に沿って歩いていた。
 

「おーい、為政。」

その声に振り向くと、明朗快活なお転婆娘、いやこの国の王女プリシラ・ドルファンがいた。

「王女様、この様なところでお目にかかり大変光栄です。」

「何いってるのよ。それより今日は、私につきあわない?」

「今日はお仕事。無理、無理。」

「あら私より仕事を優先するというの。いったい何の仕事なの?」

「ピクシス家の家庭教師。」

「あら、そうなの…。なら仕方がないわね。セーラによろしくね。」

「おや、知っているのか。」

「王族がピクシス家の人間を知らないわけないでしょ。だいち、従姉妹よ。」

「そうか、そうだったな。それより時間がないからいくぜ。」

「どうぞ。それより来週どっかつきあわない?」

「予定がないから別にいいぜ。」

そう言って為政は国立公園の前を通って、マリーゴールド地区にあるピクシス家へ急いだ。

 

ピクシス家に着いても、いつも出迎えにくる使用人達が出てこない。

ただ犬のシリウスが落ち着かない様子であるだけである。

「すみません、家庭教師の池柳為政ともうしますが…」

そう声をかけても誰も出ず、ただ慌ただしい人の気配があるだけである。

おかしいと思いつつも為政は、セーラの部屋のある二階へと進んでいった。

するとセーラの部屋の中から執事のグスタフ・ベナンダンディの声がする。

それもいつもとは違い大変慌てているようである。

「すいません、グスタフさん。誰もでないものですから…」

そう言いいながら部屋に入ると、セーラがバルコニーの側に何やらいつもとは違う様子で立っている。

「これは為政殿、良いときに参られた。」

グスタフはそう言いながらもセーラの方からは、目を離さない。

「一体これは何事です?」

「いやっ!!こないで!!」

セーラは近寄ってくる為政に叫んだ。

「セーラ様の可愛がられていたメビウスが…」

そこまで聞いたところで、為政は状況を理解した。

「私も死ぬのよ!メビウスのように…」

セーラはヒステリックに叫んでいる。

「馬鹿な真似はよすんだ!」

為政はセーラを止めようとそう叫んだ。

「馬鹿な真似って何よ!もうお兄さまにもあえないのよ!私の命、どう使おうと勝手でしょ!」

「やかましい!黙って聞いてりゃいい気になりやがって!」

「黙っていない、黙っていない」

グスタフのつっこみを無視しながらビックリしているセーラに向かって続けた。

「君に命の価値がどれくらい分かるというんだ。

 君は確かに心臓に重い病を抱えている。しかしピクシス家に生まれた君には分からない、

 もっと過酷で悲惨な運命に巻き込まれ、もっと生きたい、死にたくないと願いつつ死んでいった人達が

 多く存在しているのを君は分かっていないのか!

 そんな彼らが望んで止まないたった1つの生命を君はすてようというんか!」

続けてグスタフも叫んだ。

「そうですぞ、セーラ様。そのような悲しいことは仰らないで下され。

 私にとってセーラ様をお世話することは何よりの楽しみ。セーラ様の笑顔こそが…。」

そこまで聞いたところでセーラは、泣き崩れ呟いた。

「うっ…、私死にたくない。元気になりたい…。誰かたすけて…。」

 

「為政殿、今日は大変助かりました。今度もまたよろしく御願いしますぞ。」

為政はグスタフの声を背にピクシス家をあとにした。

ふと空を見上げると秋の気配は去り寒々しい冬空になっていた…。


あとがき
 
これは私の最初のSSです。

最初は明るい話にするつもりだったのですが…

かなり暗い話になってしまいました。グスタフを中心にしようとしていたのですが…。
 

ちなみセーラの病気の心房中隔欠損症。私の父親もそうでした。

もう治っていますが、治すにはそれなりの手術が必要です。

中世ヨーロッパのようなドルファンでは絶対なおせないでしょう。

でもおとなしくしていれば、そんなに倒れることはないと思うのですが。

 

この後のセーラはプレイ済みの方はご存知でしょうし、未プレイの方は自分でゲームをやって知って下さい。

最後に今後どうなるかは自分でも分かりませんが、見かけたらそれなりにご贔屓のほどを。


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