仕上がりのよい手紙・感想

2000.06.13 (火) アイピット目白 (19:00〜20:10)
2000.06.16 (金) アイピット目白 (19:00〜20:10)


 敦啓くん舞台出演3作目のこの作品は、これまでの劇場から、レンタルスペース風の小屋に上演会場が変っての舞台で、120席くらい(推定……数えてはいない。I(アイ)列までだったからそのくらいかなっと。)の小さなスペースの利点を活かし、後方の席でもオペラグラスは不要。肉眼でその細かな表情まで読み取れる空間になっていた。
 ただ、劇場が狭い分、チケット争奪戦が熾烈を極めたのは言うまでもない。

 開演時間になると、係の人が、空いている席は中央に向けて詰めさせて、当日券に並んだ人を入れて行き、更には折り畳みのパイプ椅子を客が持参して通路に置いて観劇。通路に椅子を置いた人は当日券の人だったのか、遅れて来たチケットを持っている人だったのかは定かではない。休憩なしの75分(制作側発表)の劇空間だったからこそできたことだろう。
 幸いにも私は2回とも動かずにすんでやれやれ。椅子自体も折り畳みでこそないが可動式のパイプ椅子にシート番号の紙が貼られたもので、それもこういう小さな小屋ならではのことと妙に感心していた。

 3話オムニバスで、敦啓くんの出演する「仕上がりのよい手紙」は2話目。他の2作については後で触れるとして、ここではまず、「仕上りのよい手紙」の感想を述べたい。

 場所は、フランスの田舎(地名を言ったような気がするが、知らない地名だったので忘れた。)のホテルの1室。ビジネスマンがよく持つアタッシュケースを手にした客(敦啓くん)が、部屋に入って来たところから始まる。
 ソファで何事か考え、おもむろにフロントに電話をしてタイピストを呼ぶ。ということは、時代背景的に数十年前(そんなに前じゃない?)の設定か。
 そして部屋にやってきた女性タイピストに、客が手紙の内容を口述し、それをタイプすること依頼。そのやり取りが芝居となる。
 とどのつまりは、若くて美人な女性タイピストに一目ぼれした客が、手紙を口述しているはずなのに、それが何時の間にか女性タイピストへの口説き文句になってたりして、ラストには一緒に旅行に行くのを承諾させてしまうもの。この辺、よくあるオチで特に物語に新鮮味は感じられない。m(_ _)m
 1つの物語の起承転結の舞台ではなく、ある1つの物語の1シーンだけを切り取って舞台上に乗せているような気がしたのは私だけだろうか。少々物足りない面があったのは否めない。

 部屋の1室が舞台になっているので、大きな物語の転換やストーリーのうねりがあるわけでもなく、登場人物の男女2人の会話とその間とテンポと細かな表情で見せる芝居。
 確かにこれはキャパが500以上の劇場には不向きな芝居で、このくらいの大きさの小屋でこその芝居だと納得。

 「犬夜叉」から1ヵ月経たないでの舞台だったので、敦啓くんの声が心配だったが、その点は見事にクリア。生声で堂々の演技。
 表情や仕草・動作にもメリハリがあり、敦啓くんの演技のひとつひとつが意外性に満ち、目が離せないものになっていた。
 動作が若干オーバーアクション気味だったのは、「犬夜叉」の直後だったからだろうか。いや、しかし、そのオーバーアクションが実に芝居にマッチして笑いを誘っていたのだから、「犬夜叉」からの流れというのではなく計算された演出・演技だったとも考えられる。

 グレーのスリーピースにピンクのワイシャツがとてもよく似合い、2話目と3話目の間の装置転換のときに電話で外国人にアイピット目白の場所を教える設定の芝居は秀逸。
 敦啓くんの「REALY?」は表情といい声といいスマッシュヒットだろう。これ見ただけで「おおぉ!」って感じだった。

 さて、「仕上がりのよい手紙」の他の2作、「来週初日」と「二人の食事」の感想。
 「来週初日」はそのタイトル通り、来週に初日を控えたある舞台の演出家が出演の女優の1人の演技が気に入らず降ろそうとするやりとりと、そこからその女優が偶然にも演出家が求めている演技を手に入れるオチのもの。
 「二人の食事」はバカロレア(大学入学資格試験)の結果発表の日、息子の結果を心配して待つ父とその恋人、執事、息子のやりとりのお話。
 どちらの芝居も、くどい、の印象。「来週初日」で演出家に「役を降りてくれ。」と言われたら、女優がその理由を問うのは当然だしその権利もあると思うけど、理由を言われてそれでもなお、ぐちぐちといろいろ聞き苦しいことを口にするのは見ていていい気分はしなかったし、「二人の食事」でも、父親に「大事な用事があるから帰ってくれ。」と言われてるのに帰らずにぐだぐだ話続ける父親の恋人の言葉と行動とその長さには興ざめ。もっと短くして欲しかった。
 あ、「二人の食事」の執事さん役の男性はすごいいい味を出していて、goodだった。(*^^*)

 「仕上がりのよい手紙」は、他の2作ほど(←この”ほど”がポイントだったりして(^^;))、くどいと感じなかったのは、敦啓くんに心を奪われていたせいなのか。私としてはそうは思わないが……。

 「ララバイまたは百年の子守唄〜ハッシャ・バイより〜」、「犬夜叉」と高名な演出家さん・人気の劇団の芝居を経て、3作目にフランス演劇という全く異なった小さな小屋での芝居を選んだ敦啓くん。
 全く違った芝居世界に挑戦し、その中でまた異色な実をその手に入れたのだろう。
 次にまたどんな違ったジャンルにチャレンジするのか期待している。できればそんなに遠くない未来に。