丸木美術館企画展 '99年秋



針生一郎(美術評論家)

 丸木位里・俊夫妻の「原爆の図」以後の共同制作は、戦後日本の回避できない社会的主題を独力で描き通した。ところが1970年代以降、日本の美術はほとんど社会的主題の喪失におちいっている。芸術は本来人間の全的解放のため、それをおびやかすどんな圧力にも警鐘を鳴らすべきだが、垣根に囲まれた美術固有の領域に固執する、まちがった「自律性」の観念が横行したせいもある。だが、外国にはどこにもそんな現象はなく、結局日本の美術家が経済の現状に自足したのだ。
 ここに集ったのは、油絵や版画で社会的現実と対決し、反戦平和の主題やメッセージを訴える、1960年代生まれの美術家たちである。むろん、丸木夫妻の仕事に深部で影響され、はげまされた層は彼らにかぎらない。
 丸木美術館はこれまで主に市民運動家に支えられてきたが、美術界への影響力をつよめるため、丸木賞の設定・公募など計画中だ。だが、まずこれらの作家たちの仕事を紹介して、多くの人びとに注目をお願いする。


会期:9/28〜11/28
10/24 14:00〜
作家トーク
出演 白須純 トーマス上原
鷲見純子 鈴木吐志哉

 今秋の企画展「Piece For Peace」の六人の出品作家たちはいずれも30代、位里・俊両先生から見れば孫の世代である。
 今まで丸木美術館で行った企画展は、いずれも両先生と同時代、または次世代の作家を取り上げたものであったから、このように若い作家が丸木美術館に会してひとつの展覧会を作りあげるというのは初めての試みである。

 第二次世界大戦後、世界状況が変化してきた中で、彼らが育ったのは「平和な時代」といえるだろう。
 ただしそれは、この国で、目に見える形での戦争が進行していない、という意味においてである。
 この50余年も地上に戦争はあり続けているし、日常に見える戦争の影が薄いとはいえ、日本も様々な形でそれに荷担してきた。

 その中で生きてきたいわゆる「戦争を知らない世代」にとっての平和とはなんであろうか。
「〈生〉〈決闘〉〈自己〉〈点〉〈創造〉」(トーマス上原)という個人的なイメージ、あるいは「緊張の隙間、肥大し続ける近代理念の仮面、位階秩序への問い」(港万尋)という社会的なイメージは、「平和」という語そのものほどには、「戦争」という言葉と可逆的なものではない。
 それは今の時代背景と微妙に呼応しているようにも思える。  

「戦争」は私たちが考えているほど遠くにあるものではない。
 巧妙なベールに覆われたまま徐々に近づいている。現在までに国会で成立した、または審議中の法案の数々にもそれは顕れている。
 目の前に差し出され、ベールを剥ぎ取るまで気づかないのでは取り返しはつかない。
 それを避けるためには、一人一人が「平和」を意識することが重要である。

今回の企画展タイトルは「平和のためのかけら」という意味だが、出品する作家の一人一人、作品のひとつひとつがそうであるように、観客の一人一人もまた「平和のためのかけら」であってほしい。
 どうか自らの内のかけらを見つけに、丸木美術館を訪れていただきたい。

出品作家
白須純(版画)
人と出会い、話しをすることは、心の中に 地図を持つようなことだと思います。
自分がどこにいるのか、どこを歩き 何を考えているのか、会話の中からしだいに わかってくるからです。
そのとき、 作品は制作するものにとって一つの地図となります。

トーマス上原(HOMEPAGEへ)

SOUL V(出品作品)
たかだか何十年かの自分を振り返ってみても たいしたことはなく
これからの何十年かの自分を想ってみても またしかり
ただただ 終わりの時を待っている今日この頃

鈴木吐志哉(版画)
1995 第24回現代日本美術展「神奈川県近代美術館賞」
1997 ウッジ国際小版画展(ポーランド)    
    ビトラ国際版画トリエンナーレ(マケドニア)
1998 第1回北アイルランド小品版画展(北アイルランド)
1999 第1回飛騨高山現代木版画ビエンナーレ「奨励賞」

鷲見純子(油彩)

ペンテウス(出品作品)
トキワ松造形美術短大卒。
創形美術学校研究科終了。
アジア・アフリカに創作活動の憧憬をもつ。
日常生活の視点から世界的な問題に通じるテーマを 絵画の中で考えることに原点を捕らえる。
JAALA国際交流展・グループ展など多数。

谷口聡子(版画)

The Origin of life 4(出品作品)
1991 中華民国国際版画ビエンナーレ
1992 日本版画協会展 新人賞
1995 さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ
1997 Gyor国際ビエンナーレ(ハンガリー)
   国際現代版画展(カナダ)
1998 カリニングラード国際版画ビエンナーレ(ロシア)
1994〜99 個展(名古屋、東京、福岡)

港万尋(油彩)(HOMEPAGEへ)

反感U―核の死(出品作品)
81-84年 独文学を学ぶ。
97年2月 東京・恵比寿にてグループ展
98年1月 多摩習作美術展出品。
  7月、アジア・アフリカ・ラテンアメリカ交流美術・東京展出品。
  9月、東京・大久保にてグループ展。
99年2月 ジェリコ・ウィンター・フェスティバルにて壁画制作。国分寺市在住。
現在「国分寺市環境通信」を主宰し同紙掲載の図版を制作。 傍ら社会評論、環境文化論等の執筆活動を行う。

HOMEへ
What' new 企画展 イベント 原爆の図
常設展示 略歴 おもなあゆみ 利用案内 友の会
友の会有志 Shop 美術館ニュース Links