<<注意>>
この話はいわゆるパラレル物であり、キャラクターと日常の設定しか共通していません。
聖杯戦争、魔術師、サーヴァント、アーサー王などの設定は一切使用しておりません。
またそれに伴う諸々の設定の捏造等がございます。
そのようなパラレル物に不快を感じられない方のみ、お読みください。
(パラレル物…戦国武将になったキャプテン翼、宇宙戦争をするセイントセイヤ等、本来の作品の舞台からかけ離れた場所で、キャラクターはそのままに話を作り上げた物。当然それに伴い、キャラクターも若干の設定の変更が見られる)
【前回までのあらすじ】
藤村組の人と藤ねえに気を使い、あえてチンピラと戦うことを避けた士郎。
セイバーはそんな彼に、自分にはなかった考えと優しさを見つけ、微笑むのでした。
「そういえばセイバーちゃんって、なんでセイバーちゃんって言うの?」
それは藤ねえの発した一言が発端。
そろそろ冬の寒さが本格的になる季節。食後の熱い緑茶が何よりおいしい、そんなある日。
右手に持ったお茶請けのどらやきを、満月から三日月に変化させながら、彼女はそんな言葉を口にした。
「「「え?」」」
思わず聞き返す俺と桜と遠坂と。
一緒に食卓を囲んでいた俺たちは、一瞬わけがわからず呆けた声をもらす。
「だってセイバーちゃんの本名って、アルトリアちゃんでしょ? なんでセイバーって名乗ってるのかなあって」
…………あ、そういえば。
ついうっかり忘れていたが、彼女はここへ来た初日にそう名乗っていた。自らの名前は『アルトリア・ペンドラゴン』であると。
そのとき同時にセイバーと呼べ、とも言っていたのだが――あのときは、いきなりの婚約者発言に動転してたから、理由なんて失念していた。
セイバーは、手の中の緑茶――彼女の愛用となった白磁の湯呑みから緑茶を一口飲み、
「単純な話です。
あのときは名乗りませんでしたが、『セイバー』は私のミドルネームですから」
こちらの期待からすると少々拍子抜けな、当たり前の答えを出してきた。
「あ、なーんだ、そうなんだ。
じゃあセイバーちゃんの本名って、アルトリア・セイバー・ペンドラゴン?」
「いえ。私の正式な名称は、アルトリア・セイバー・レディ・ペンドラゴン・オブ・コーンウォールです」
「「「……………………へ?」」」
今度は俺と桜と藤ねえの声がハモる。……い、今なんて?
「す……すまんセイバー、聞き取れなかった。今の、名前か?」
「ええ。ですから、アルトリア・セイバー――」
「あーもういいわよ。長いから二度も言わなくて」
同じ言葉を繰り返そうとしたセイバーを遠坂が制す。いや、正直俺は今の、きちんともう一度言えるのか聞きたかった気がするんだけど。
「もしかしてって思ってたけど、セイバーってやっぱり、いいとこのお嬢様だったのね」
「え? わかるんですか、姉さん?」
小首をかしげて桜が問いかけた。俺もはす向かいで何度も首をたてにふる。
本名でわかるなんて……もしかして遠坂、セイバーの実家を知ってるのか?
そんな俺たちの疑問を察したのか、遠坂はちっちっとひとさし指を振って、
「あのね二人とも。レディっていうのは、イギリスにおける貴族階級の女性の称号なわけ。代々貴族の長子が受け継ぐ、特別な名前なのよ」
「そんなんあるのか……」
というか、未だにイギリスという国は、貴族という概念が生き残っているのか。
日本で身分制度が撤廃され、国が生まれた家系を保証してくれるのは皇族ぐらいになってから、もうかなりの時間がたっている。そのため生まれてこのかた日本から出たことのない、純国産日本人の俺としては全く実感がわかない。
しかしなんとなく、外国の貴族と聞くと無条件に『スゴいな』と思ってしまうのはなぜだろう。
まるで俺の思考を読み取ったかのように、遠坂は、まあもっとも、と続けた。
「だからって昔みたいに、一般人との恋愛禁止とか、そういう隔絶した身分ってわけじゃないみたいだけど。それに貴族って言っても血だけで、財産はまったくなかったりする人もいるしね。
侯爵の称号を持ってる人が、ロンドンの安アパートに住んで背広着てサラリーマン勤め、なんて驚くようなことじゃないらしいわよ」
セイバーも、こくこくと頷きながら食べていたどらやきから目をあげて、
「ええ。貴族とはいえ、今はかつてのように領地から税収があるわけでもない。財産管理は己が手で行わねばなりません。
一代で没落させることなど、運悪く愚鈍な当主を抱いてしまった家ではよく見られる光景です。むろん数は少ないながらも、逆に身分とは無関係に一代で財を成すことも十分にありえますが」
「ああ、言われてみればそうかもしれないな」
特別な収入があるわけではないのならば、どんな名家だって経営次第で傾く。会社と同じだ。
それにしても、八畳一間のアパートに住み、カップラーメンとコンビニ弁当を食べる侯爵とか。どんなシュールな光景だそれ。正真正銘の独身貴族じゃないか。いや、そもそもイギリスに”畳”なんて単位はないだろうし、カップラーメンやコンビニ弁当が一般的なのかも知らないが。
たしかに自分の前の代が破産して一般人並の財力になってしまえば、爵位はあくまで単なる先祖の名を示すだけのものになってしまうのだろう。
――――もっとも。
先日セイバーにやらかされた、ひと月の食費として50万円現金一括払いで渡してくる金銭感覚が一般人のものとは、到底信じられないが。
横目で見ると、彼女はふたたびどらやき攻略を再開している。どうやらそのことに関して口を挟むつもりはないらしい。
しかし今度は遠坂がセイバーのことに興味を覚えたようで、
「だけど、女の子にセイバーって、珍しい名前よね。普通そんな勇ましい名前つけないでしょ? いくらイギリスだって」
「はい。しかし我が家は代々騎士の家系でありましたから。母もそれを思ってつけてくれたのでしょう」
「お母さん?」
セイバーの言葉に少しだけ心臓がはねる。
そういえば、彼女の家族の話を聞く機会はあまりなかったな。
セイバーの母親。たしか、切嗣と二人で俺達の婚約を取り決めた人。
もう亡くなっているとは知ってるが、どんな人だったのかは気になる。
彼女は手の中の湯呑みを、静かに卓上へ置き、
「アルトリアとは私の父が、セイバーとは母が名付け親なのです。
ですからこの名前は、母の形見とも言えます。他人にはおかしな名に聞こえるでしょうが、私にとっては大切な名です」
「そうだったんですか。でもアルトリアさんって名前の方が女の子らしくていいと思いますよ」
桜がふたつめのどらやきに手をのばしながら言う。彼女の言葉通り、亡き母親がつけたという付加価値がなければ、普通は女の子が名乗る名前じゃないだろう。セイバーの母親も何を思ってこんな名前をつけたんだか。
遠坂が妹に賛同して、深く頷く。
「そうよね。なんだったら今からでも、アルトリアで通していいんじゃない?」
「いえ――――」
……セイバーは。
ふっと表情を消し、ここではない――遠いどこかを見つめる眼差しで。
「――――やはり私は、もうしばらくこの名で通したいと思います」
考えるそぶりも見せず、桜たちの提案を拒絶した。
「やっ!」
気合一閃。
セイバーの操る竹刀は、適確に俺の得物をはじき飛ばす。
いつものこととはいえ、こうもあっさり負けるというのは悔しい。だがそうカンタンに追いつくことを、この努力家で才能あふれる師匠は許してくれない。
「ふぅ――シロウ、少し休憩にしましょうか」
「っ……はぁ……そう、だな……」
軽く汗をぬぐうセイバーと違い、こっちは汗だくだ。壁際に置いてあるヤカンの元へ移動し、セイバーの入れてくれた冷たい麦茶を喉に流しこむ。
いきなり冷水を入れると良くないから、多少はぬるめにしてあるとはいえ、運動で熱された体には十分ありがたい。
「おかわりをつぎましょうか」
「ああ、悪い。頼む」
一気飲みした一杯目と違い、二杯目はゆっくりと口に含みながら、横目で隣に座る少女をみやる。俺が落ち着いたのを見てとって、彼女も自分の麦茶を飲み始めていた。
いや、それにしても。
「剣使い――――か」
「はい?」
「いや、女の子には失礼かもしれないけど、ぴったりだなって思って」
こうして道場を使うことになってずいぶん経つが、彼女が俺との鍛錬で肩で息をするほど呼吸を乱したところは見たことがない。剣の技術は言うに及ばずながら、これでも多少は体を鍛えていた自負のある俺としては、ちょっと自信をなくすと同時にセイバーの凄さを改めて思い知らされる。
もしかしなくても、俺との鍛錬だけじゃ彼女自身の鍛錬になってないんじゃなかろうか。だとすれば誰も知らないところで、こっそり鍛錬してるのかもしれない。
俺だってセイバーに鍛えてもらってから、少しは腕が上がった自覚がある。なのに彼女はそんな俺をあざ笑うように、さらに上へ行ってしまうのだ。まるで空を舞う天女を掴もうとしたら、するりとこの手を抜けて、もっと高みへ舞い上がってしまうみたいに。
それはきっと、彼女の努力の賜物で。
「名は体を表すって言うけど、セイバーの名前は似合ってると思う。セイバーは本当に強いからな。――あ、ほんとに、女の子には失礼かもしれないんだけど」
「いえ。普通の女児には似つかわしくない名前でしょうが、私の場合は十分褒め言葉です。これでも一流の剣士たれ、と日々精進しているつもりですから」
それが認められているようで嬉しい、か。
まったく、今の時点でもまだ精進を続けるなら、俺が彼女に一人前の剣士と認められるのはいったいいつになるんだろう。
「そっか。もしかして、セイバーはそれで俺たちに『セイバー』って呼んでほしいのか?」
今の自分の在り方を肯定される、誇らしい名前だから。
ふとそう思って、口にしたのだが――――
「………………」
「? セイバー?」
「ええ、そう――そう、ですね。そうだと思います」
少しの間を置いて、返された頷きは。
彼女がウソをつくのがヘタだということを、如実に物語っていた。
(イギリス貴族の名前のつけ方がどうしても見つからなかったので、「笑う大天使(ミカエル)」を参考に少し修正しています。
もしも間違っていたらごめんなさい)