茜色の空もずいぶん黒ずんだ色になり、じき空の色は完全な黒になるだろう。
 遠くから澄んだ空気にのって響いてくるのは祭囃子。
 普段はあまり耳にすることのない和楽器の音が高揚感を呼び起こす。うん、日本人なら祭囃子を聞いて血が騒がなきゃ嘘だ。
「セイバー、どうだ? ちゃんと歩けるか?」
「も、もう少しゆっくり歩いてください、シロウ」
 しだいに多くなってきた人ごみと慣れない履き物に四苦八苦しているセイバーに振り向きながら声をかけると、案の定セイバーはわずかに遅れて後ろの方にいた。いや、俺の歩く速度がつい早くなっていたのかもしれない。反省。
 一度引き返してセイバーの隣に並ぶと、彼女は安心したように息をついた。これは思ったより苦労してるらしい。
 冬木市では年に一度の祭りである龍神祭。柳洞寺主催の、未遠川に棲む龍神を奉るというこの祭りは、冬木市民にとって夏の楽しみのひとつとなっている。
 と同時に俺には馴染み深いものだった。
「けど本当に俺が手伝わなくてもいいのかな」
「大河の話では、途中で一度でも寄ればそれで良い、とのことでしたが」
 ヤのつく職業とテキ屋。これは日本において古来より切っても切れない関係である。
 藤村組にとってもこの日は別の意味で祭りだ。藤ねえを筆頭に若衆さんたちが思いっきりはりきるので、俺も毎年屋台の手伝いに駆り出されるのが例年の祭りの過ごし方だった。
 それが、今年に限って手伝わなくてもいい、である。
「代わりにセイバーをエスコートしろ……か。気をつかってくれたのかな?」
「おそらくそうでしょう。わざわざこんな衣装まで用意してくれたのですから」
 セイバーは袖をついと持ち上げ、自分の格好を見下ろした。祭りだから、というただそれだけの理由だろう。わざわざ藤ねえと遠坂がよってたかって彼女に浴衣の着付けをした上、俺にまでタンスの奥から男物の浴衣をひっぱりだして着るように強制したのは。
 とはいえ和装に慣れないセイバーには帯が少々気になるようだ。女物は帯の締め付けが結構きついから当然だろう。さらには下駄という初めての履き物で悪戦苦闘している。いつも身のこなしがすっきりした彼女らしからぬ足捌きで歩いていた。
 こんなおぼつかない足取りで歩いてたら転びそうでハラハラするし、もっと人ごみが多くなってくるとはぐれるかもしれない。
 ――――ぎゅっ。
 そうならないよう、彼女の白く細い手を握りしめた。
「シ、シロウっ?」
「離れてるとはぐれるだろ。窮屈かもしれないけど我慢してくれ」
「いえ、窮屈などと…………わかりました」
 子供扱いするなと怒られることもなく、セイバーは逆に俺の手を握り返し、はぐれないよう体を寄せてくる。
 風呂あがりなのだろう、彼女が愛用してるシャンプーの香りが鼻孔を優しくくすぐった。
 とたん今の格好を痛烈に意識してしまう。
 セイバーが着ているのは水色の浴衣。遠坂いわく、イギリス王室御用達のブランドが作った浴衣で、和洋折衷がコンセプトらしい。和装なのにどこか模様は西洋の花束を思わせる。
 外国人のセイバーでも違和感なく着られるでしょ、と遠坂はご満悦だったが、俺にはそんなこと関係なかった。
 最近の浴衣はおしゃれになってきて、紺色の定番の浴衣を想像していた俺はすっかり意表を突かれてしまったのだ。
 今も意識すると、いつもと違う格好のセイバーに動悸が激しくなってしまう。髪型はいつも通りだというのに、普段は意識しないうなじや後れ毛まで気になってしょうがないから不思議だ。
 うう、なんていうか、白い首筋がものすごく色っぽ――――
「シロウ?」
 びびくん! と体が電流に撃たれたようにはねる。やましいことを考えている最中に声をかけられると、全部見透かされたような気分になってしまった。
「シロウ? どうしたのですか?」
「い、いや、なんでもない。じゃあそろそろ行こうか」
 しっかり手を繋ぎ、商店街への道をセイバーと二人で歩く。
 いつもよりたよりない彼女の歩調に庇護欲がかきたてられるのは秘密にしておこうと思った。



 わたあめ、りんご飴。
 いか焼きにおこのみ焼き。
 焼きそばと焼きとうもろこし。
 ――――屋台はセイバーにとって誘惑が多すぎる。
「ふむ……ただ焼くだけという調理法なのに、このとうもろこしの味は…………」
 セイバーはこくこくとうなずきながら、屋台をひとつずつ制覇してゆく。幸いにもひとつ食べ終わるまで次の屋台には手を出さないから、俺の両手が持たされた食べ物でいっぱい、という事態は避けられた。
 が、そのかわり買ったものを食べ終えるまで移動しないので、歩みは遅々として進まない。
「シロウ。なぜ綿が売っているのです?」
「違う。それはわたあめ。祭りの定番だから、食べてみるか?」
「これは食べられるのですか? ―――では、ぜひ」
 ……こうやって彼女の反応が楽しみで、つい勧めてしまう俺にも責任があるのかもしれないが。案の定、セイバーは口の中であっというまにとけてしまうわたあめに、子供のように驚いていた。
 そして足が遅くなるもうひとつの要因が。
「おう、衛宮のぼっちゃん! その娘が姐さんの言ってた、ぼっちゃんのコレですかい!?」
「あ、ヤスさん、こんばんわ」
 フランクフルト屋のガタイのいい男が小指を見せながら愛想良く声をかけてくる。
 藤村組の若衆さんのひとり、ヤスさん。俺とも顔見知りの一人だ。
 この祭りでは例年、藤村組の屋台が全体の三分の一を占める。組と縁の深い俺にとって、顔なじみの宝庫なのだ。あいさつはもちろん、いやそれだけならまだいいのだが。
「それじゃーせっかくだから、お嬢ちゃんにもこれ食べてもらわなきゃな」
「む……お嬢ちゃんという物言いには反論したいところもありますが、せっかくくださるというのですからいただきましょう」
 ひょいと差し出されたフランクフルトを、セイバーはひょいと受け取る。
「セイバー……。ヤスさん、いくらですか?」
「お代はいりやせんよ。その金で他のもん食べさせてやってくれれば」
「そんな、藤村組の人たちみんなそう言うんですけど……」
「なあに、お嬢ちゃんはあの姐さんに匹敵する食べっぷりと聞いておりやす。だったらオレたちが負けて負けすぎるってこたぁないでしょう。
 それでなくても姐さんがいつも世話になってるし、毎年よく祭りを手伝ってもらってたし」
 藤ねえに俺が世話になってる、ではなく、藤ねえが世話になってる、がポイントだ。藤村組において、これは別に謙遜ではない。もちろん俺が世話になってる側面もあるにはあるが。
 こうやって何度も組の屋台に呼び止められ、そのたびに食べ物をご馳走になり、恐縮することしきりなのだが、正直ありがたくもあった。屋台の食べ物は単価が高い。
 そんなわけで毎回、
「じゃあせっかくですからいただきます。セイバー、お礼」
「はい。ありがとう店主。貴方のお心、たしかにいただきました」
「おう、お嬢ちゃんもいっぱい食べて早く大きくなれよ!」
 恐縮しながらも受け取ることになってしまうのだった。
 セイバーはさっそくフランクフルトをほおばる。浴衣と帯でおなかを締められているはずなのに、彼女の食欲には翳りが見られなかった。
 1本きれいに完食し、串を屋台のゴミ箱に捨てさせてもらったとき、ふと腕時計の文字盤が目に入る。
 時刻は8時近くなっていた。
「うわ、ヤバい! そろそろ行かなきゃ」
「どこにですか?」
「8時までには藤ねえの屋台に顔出すって言ってあるんだ。悪いけど食べ歩きは一休みして、先にそっちに行こう」
「では仕方ありませんね。きっとシロウが顔を見せないと大河は怒るでしょう」
 うむ、ふだんは自分のテリトリーで暴れているトラを、野に放つことだけはしてはいけないのだ。なんまんだぶなんまんだぶ。
 二人で前もって聞いていた藤ねえの屋台へ急ぐ。……といっても、別に藤ねえが屋台をやってるわけじゃない。そこまで藤村組の皆さんも無謀じゃないはずだ。正確には、藤ねえの親父さんがやっている屋台、である。
 目的地のやきそば屋は、遠目やたらと混んでいた。
「…………なんだ?」
 疑問に思いつつ近づいてゆく。すると疑問はあんがいあっさりと氷解した。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! なんとびっくり、ここの焼きそばはそんじょそこらの焼きそばとはわけが違う!」
「あ、そこのお兄ちゃーん! 焼きそばおいしいよ、買って買ってー! そっちを歩いてる緑色のポロシャツ着たステキなパパにも買ってほしいなー♪」
 威勢のいい、バナナのたたきうりみたいな声と、自分の持つ魅力を十二分に活用したロリっ娘ボイス
 どちらも毎日聞き慣れた声だった。
 …………正直、あれに自分から近寄るのかと思うと…………
「―――シロウ。あの騒ぎは、もしや」
「言うなセイバー。わかりきってることを言うのは、遠坂いわく心の贅肉だ」
 何もなかったことにして通り過ぎることのできない我が身が恨めしい。
 邪神に捧げられる生け贄の気分でトボトボと屋台へ近づいた。
「あ、シロウだ。シロウーー!」
「え? 士郎? 手伝いに来てくれたの?」
 こちらが声をかけるまでもなく、先に二人が気づいて話しかけてくる。
「イリヤ、藤ねえ……なんなんだこの騒ぎは」
「なにって。タイガが、お祭りはみんなで騒いで楽しむもんだって」
「そーよイリヤちゃん。藤村組のメンツにかけて、祭りは成功させてみせるの! その第一歩がこの高揚感!
 血湧き肉躍る戦いの世界よ!!」
 なにと勘違いしてるんだろうか。藤ねえ、祭りはバトルじゃない。
「そんなことないわよ。ほら、おみこしなんかはある意味格闘だもん」
「あー、あれは別格」
 この祭りにも昼間は御輿が出る。藤村組の若衆さんたちを基本とした有志でかつぐのが例年の決まりだ。もっとも若い男がほとんどなので、ハメをはずしすぎて無茶なかつぎ方をするのも恒例で、かなりの体力が要求される。おかげでまだ体のあちこちが痛い。
 でもな。少なくとも屋台であそこまでのエネルギーは必要としないはずなんだが。
「やっぱり屋台だって盛り上げなくちゃ。楽しくなくちゃお祭りじゃないじゃない。
 はい、そんなわけで士郎、今年もよろしくね」
 当然のように藤ねえは焼きそば用のヘラを渡してくる。うっ……あれ今年もやるのか……。
 今年が初めてのイリヤとセイバーは、不思議そうに俺たちのやりとりを眺めている。
「タイガ? シロウになにさせる気?」
「ふっふっふ、イリヤちゃん。これがホントの客よせパフォーマンスよ〜〜。士郎が藤村組のために覚えてくれたんだから」
 嘘つけ。去年藤ねえの思い付きにつきあわされて、無理やり覚えただけだ。
 とはいえ、まだきょとんとした顔をしているセイバーやイリヤを驚かせてやるのもいいかもしれない。藤ねえの親父さんに断りを入れて、屋台の内側に入りこんだ。
「シロウ? いったいなにを?」
「まあ見てろって」
 麺を炒め、それとは別に具を炒める。ソースを加えれば簡単に焼きそばのできあがり。
 しかしここまでは普通の焼きそば。本番はこれからだ。
「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!! 当代一の焼きそば職人が今から皆さんに超スゴ技をお見せしちゃうわよー!!」
 声をはりあげて藤ねえが客よせをする。周囲の通行人たちがその声にひかれて集まってきた。よし、ギャラリーはこんなもんかな。
 手首のスナップをきかせて、タイミング良くヘラを操る。
「はぁっ!」
 同時に鉄板の中央に固まっていた大量の焼きそばは宙を舞い、バラバラとほどけ滝のように鉄板のすみずみまで万遍なく落ちてゆく。
 どよどよどよっっ!! とギャラリーから驚きの声があがった。
「見たかぁ! これぞ職人技、焼きそばナイアガラ!! さあさあ、お代は焼きそばでひとつよろしく!」
 藤ねえはギャラリーに次々と焼きそばをすすめていく。面白がった周りの人々が次々と焼きそばを買ってゆく。祭りの屋台はある種、目についたものを食べる傾向にあるからな。
 と、藤ねえの親父さんが予備のヘラで3つほどのパックに焼きそばを詰め、セイバーに渡した。
「え?」
「2人とも、手伝いはいいから行っていいぞ。デートの邪魔をして悪かったな」
 これはお駄賃、と言ってにやりと笑う。その笑い方は何か含んだところのあるものではなく、非常に気持ちのいいものだった。
「――――そうだな。まだ祭りは続いてるし。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。
 行こう、セイバー」
「はい、シロウ」
 はぐれないようにもう一度手を繋ぎ直す。
 立ち去る俺たちに人垣の中からイリヤが声をかけた。
「あっ、シロウーー! あとで花火一緒に見ようねーー!」
「ああ、また来るよ」
 背後に振り向きながら返事をして、前へ向き直り。
 その拍子に、わずかではあるがセイバーの手を引っ張る形になる。
「――――――っ!」
 同時に、セイバーが前につんのめった。
「セイバー?」
「あ、すみません」
 転ぶことなく、彼女は体勢を立て直す。けれどどうにも拭えない違和感が残った。
「――――――――」
「シ、シロウ? どうしましたか?」
 あからさまな作り笑い。なにかがおかしい。
 彼女の全身を見渡す。いつもとは違う浴衣姿。さっきみたいに落ち着かなくなってる場合じゃない。
「――――――――」
 ここからならあそこが近いな。
 特に説明することもなく、セイバーの手を引っ張って歩く。強引な行動にセイバーが驚きの声をあげた。
「シロウ! どこへ行くのです?」
「いいから」
 一言だけ答え、あとは有無を言わさず、目的地へ向けて彼女を連れていった。



 無言でセイバーの手を引っ張ること2分。
 商店街にある小さな公園に到着した。
 通りの活気とは裏腹に、今夜はこんなところで休憩する人は少ないのか、人気はまったくない。
 ベンチまで近寄ると、セイバーの肩を押して強引に座らせる。
「シロウ、なにを――――」
「足。見せてみろ」
 端的に用件を言うと彼女の表情がばつの悪そうなものになる。
「…………気づいていたのですか」
「ああ、気づいた。ちゃんと言わなきゃだめじゃないか」
 もっと抵抗するかと思ったが、セイバーは素直に足を差し出す。俺に気づかれた以上はごまかしきれないと観念したらしい。
 慎重に丁寧に、白い足から青い下駄を引き抜くと、そこには夜目にもわかる赤い傷が指の間にはしっていた。
「やっぱり靴ずれか。しかも血まで出てる。どうしてもっと早く言わないんだ」
「せっかくシロウが案内をしてくれているというのに、私の体調のせいで中断するわけには―――」
「セイバーを楽しませるためのエスコートなんだぞ。なのにお前が気を遣ってどうするんだよ」
 水飲み場でハンカチを濡らし、軽く傷口をぬぐう。しみるのか、ぴくんと彼女の足が小さくはねる。
 足を持ち直してもう一度。セイバーは大人しく俺に手当てをさせていた。
「…………そういえば、シロウ」
「ん。なんだ?」
「出かける前に、凛がこんなものを持たせてくれたのですが……」
 小さな巾着の中から取り出したのは、数枚のばんそうこう。
 どうやら遠坂はセイバーの靴ずれをあらかじめ予想していてくれたらしい。ここはありがたく使わせていただこう。
 一枚もらって親指とひとさし指の間に貼り、応急処置は完了。俺が立ち上がると、治療が終わったことを悟ったのか、セイバーの体から力が抜けた。
「祭りを中断させてしまってすみません。少し休んだらまた行きましょう」
「なに言ってんだ。家に帰るぞ。屋台の食べ物なら、後でどうにかして手に入れてやるから」
「そ、そのようなことを言っているのではありません!」
 赤くなってセイバーは怒る。しかしさっきから焼きそばの入った袋を手放さない以上、説得力は皆無だった。
「もっと歩くと、反対側の足も靴ずれになるかもしれないだろ。
 だから帰ろう。これ以上セイバーに無理させられない」
「いえ、決して無理というわけでは…………。
 それに、これ以上歩くとと言いますが、帰りはどうするのです。帰りとて歩くのでしょう?」
 ここから衛宮邸までは徒歩で20分以上ある。たしかにまっすぐ帰っても危険な距離だ。
 …………一瞬頭の中に浮かんだ解決策に、勝手に赤面する。
 しかし今、それ以外の解決策はとうてい思い付かなかった。
「……………………セイバー。荷物、ちょっと持って」
「シロウ?」
 焼きそばの袋や彼女の巾着、脱がせた下駄などをセイバーに持たせ。
 おもむろに、ベンチから彼女の体を抱き上げた。
「シ、シ、シロウ! と、突然なにを!!」
「なにって…………歩いて帰れないだろ?」
 ならば俺が運ぶしかない。我ながら他に方法がなかったのかと言いたくなるが。
 セイバーは、いつか同じことをした時みたいにばたばた暴れ、
「お、下ろしてください! 一人で歩けます!!」
「だから歩くなって言ってるんだ。抱っこが嫌ならあとはおんぶしかないぞ」
 その場合、浴衣の裾が大きくはだけてしまうだろう。抱っこ以上に他人様にお見せしたくない格好である。
「…………どうして貴方はいつも、このように脅迫じみた手段で私を抱きかかえるのですかっ…………」
 悔しげに、それ以上に恥ずかしげに唇を噛みしめるセイバー。
 いつも、というのは以前、アインツベルンの森でイリヤとバーサーカーから逃げていた時の話をしているのだろう。
 それは彼女がいつも大人しく抱きかかえられてくれないからなのだが、そう言うと拗ねてしまいそうな気がするので黙っておく。
「大丈夫。今度はあの時みたいに、途中で転んだりしないから」
「ならば私もあの時ほど弱っているわけではない。歩けるので下ろしてください」
「だったら今は戦闘中じゃないんだ。無理をする必要なんてないんだぞ」
 これ以上反論材料がないのか、セイバーはぐっと言葉に詰まったあと、上目遣いに俺を睨みつける。
「まったく貴方という人はっ…………私をなんだと思っているのですか…………」
「騎士で、王さまで、でも女の子、だろ」
 セイバーは口の中でもごもごと、たまには私の言うことも聞いてほしい、だの、まったくシロウは、だのと文句を呟いているが、俺の首に回した手から力を抜く気配はないようだ。
 なら大人しくしてくれる気になったんだろう。
 落とさないようにしっかり抱えなおして、衛宮邸までの道をゆっくり歩き始めた。



 遠くから澄んだ空気にのって響いてくるのは祭囃子。
 それに背を向けて、夜道を一人で歩く。セイバーと歩く。
 不謹慎だけど、彼女の重みのせいで祭りとはまた別のドキドキを感じてしまって。
 でもそのドキドキは、祭りとはまた別の嬉しさも伴っているのだった。






 お題その24、「浴衣でデート。」。ぐは、長さ新記録更新。藤ねえとイリヤを出したのが敗因。
 せっかく夏なので定番の祭りネタ。縁側で夕涼みだとちょーっとデートというより日常一コマだし。季節ネタと言い難くてはずした温泉浴衣デートは、いつか別の機会に書いてみたいなあ。
 ちなみにセイバーの着てる浴衣は実在します。イギリス王室御用達、ってとこで「これだああぁぁあぁ!!!」(笑)
 余談ですが、フランクフルトはサービスカットです(笑)今でもコミケでフランクフルトを(男女問わず)食べないようにって注釈はあるのかなー?




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