チャオはそのとき,不思議な髪型をしていた.チリチリのアフロをあのように伸ばせる薬剤があるのかどうか? 私は知らない.かつらだったのだろうか,と思うこともある.チャオはまぎれもなくサトコの髪型を真似て,ストレートのオカッパ頭をしていた.前髪はまっすぐ定規を当てたように切り揃えてあった.その髪型にするとなぜか,大柄に見えるようだった.大柄に見えるというより,魔法のきのこを食べて急に大きくなってしまったアリスのように見えた.

それから私は,2度とこの街でチャオに会うことはなかった.

私の誕生日も過ぎたある日の午後,妻と私は子どもたちを連れて西公園に散策に出かけた.私たちは広瀬川に沿った南側の柵のあたりを歩いていた.一番下の女の子は妻と私の間にいて両方の手をしっかり握っていた.上の男の子と女の子は,やにわに走り出すと100メートルくらい向こうで立ち止まり,こちらを向いて手招きしていた.

河原の方に目をやると,生え初めた若草が風になびき,波打つ川面には光が揺れて,早い春の仄かな日照に黒々とした土からはかげろうが立ち上っていた.

そのとき,私は見た.複屈折した透明な空気の層を透かして,あの雪に記された愛の手紙が,いま,蒸発して天に上ろうとしているのを,ゆらゆらとたゆたい,あまねく満ち渡る光の中を.

1997.6.10