-ONE SCENE STORY SPESIAL EDITION-

―――01 色―――

「お父さん、お母さん、今まで私を育ててくれてありがとう。私、きっと幸せになるから心配しないでね」
「ええ、心配なんかしないわよ、涼君と一緒なら。それにあなたは私の娘なのよ」
「うん……」
「ほら、あなたも何か言わなくちゃ」
「……」
「全くダメね、こういう時の男の人って。ほら、あんたも化粧が崩れちゃうから、泣くのは後にしなさい」
「はい」
「いい? 背筋を伸ばして行くのよ。これからも」

 ――コンコン

「もうすぐ式が始まりますが準備の方はよろしいですか?」

 純白の、雪の白さを思わす純白のドレスを身にまとい、瑞葉は少し、背筋をのばした。

「幸せに……なります」


―――03 距離―――

「見てあなた」
「お、どれどれ?」
「ね、私の思ったとおりでしょ」
「こいつは将来が楽しみだ」
「当然よね、なにせ私達二人が生み出した、最高傑作なんだから」
「おいおい、そこまでいうか?」
「フフフッ」

 その小さな手の持ち主は、まだ理解出来ないだろう。あの時の青の事。
 だけど、いつかはきっと、必ずあの青を見つける時が来る。
 私たちの様に―――

「良い色使いだ」
「そうね、あの時の……あの青を思い出すわ」


―――04 ワルツ―――

「ね、ね、お母さん。この間の曲ってなんて言う曲なの?」
「この間って?」
「ほら、父さんが聞かせてくれたじゃない」
「ああ、あれね……でも、どうして?」
「え、うん、その、友達の前で歌ったら良い曲だって言われたから」
「友達……ね。ふふ」
「そ、そうよ、友達。それよりも曲」
「はいはい。あの曲はね、ちょうどあなたと同じくらいに、母さんが作詞したものなのよ」
「え?お母さんが?」
「そう、今のあなたと同じ瞳をしていた時に――ね」


―――06 瞳―――

「わぁ〜雪が降ってきた」
「本当だ、どうりで寒さが違うと思ったよ」
「でも私、雪って好きだなぁ」
「雪の降る日に―――」
「え?」
「いや……」
「な〜に?気になるなぁ」
「笑わないでくれよ」
「多分、ね」
「俺さ昔、雪の降る日に天使を見たんだ」
「天使……って、羽の生えてるあの天使?」
「そ、今も見えるんだぜ」
「ど、どこに」
「それは」
「それは?」

 半信半疑でのぞき込む瞳は、あの時と同じ。

「俺の目の前に……さ」


―――07 遠い海―――

「この時期になるとね、思い出すの」
「ん、何を?」
「私の恋の原点」
「なに?それ」
「私の失恋物語」
「ふ〜ん、そか……で、その事はもう吹っ切れたの?」
「そうね、もう何年も昔の事だもの」
「吹っ切れて無い訳ね」
「うん……でもね、その事がいつまでも心の中に残っているのは、初恋の人を忘れられないのと一緒」

 海との距離はあんなに近かったのに、結局、彼との距離は縮める事は出来なかった。

「でも私、あの恋をした事で、少しだけ大人になれた気がするわ」


―――08 風詠う―――

「朝倉先生、先生はこれからも風景を専門にしていくんですか?」
「おいおい、先生は止めてくれよ」
「あ、スイマセンつい。でも珍しいですよ、先生って呼ばれるのが嫌いなんて」
「嫌いと言うか、柄じゃないだけさ……そうそう、風景を専門にしていくって質問だけど」
「はい。先生は――じゃなかった朝倉さんは風景専門ですけど、その昔はスタジオでジャケとか撮ってたって話しを聞いて」
「ああ、アレは師匠のお手伝い。でも、今でも人物は撮ってるんだよ」
「へぇ〜一度見てみたいなぁ朝倉さんの人物。そう言えば、モデルさんはどうしてるンです?」
「モデルは君も会ってるさ」
「え?」
「ほら、ちょうど……」

「あら、あなた。これからこの仔の散歩に行こうと思ってたのよ」


―――09 乙女―――

「おっす!」
「智子、早いじゃない」
「ま、一応あんたの一番の親友を自認しているからね。こんな時くらいは早く来るわよ」
「ありがとう」
「しっかし納得いかないわ。あんたみたいに夢見る乙女の方が先に結婚なんて」
「ふふ」
「あ〜あ、あんたがどたキャンした合コンにいい男は来ないし、あんたはあんたで、家に帰る途中でいい男を見つけたって言うし。ツイてない」
「智子も腕まくりしなくちゃ」
「え?何それ」
「恋せよ乙女……力こぶってね」


―――11 特別―――

「あ〜あ、どうやったら父さんや母さん見たいに、特別の出会いを見つけられるのかしら?」
「あら簡単よ」
「それは簡単だ」
「な、何よ二人して」
「だって、特別は日常の中にあるのよ」
「そりゃ、特別は非日常の中にあるのさ」
「もう……結局どっちなの?」


―――12 視線―――

「で、先生、その後どうなったんすか?」
「それは聞くなって。お前もいい男になりたかったらな、余計な事は聞くなよ」
「へえへえ」
「それより、昨日の課題は出来たのか?」

 ―――あの時の彼女の言葉

「ありがとう」

 その一言が、彼女の最後の講義だった。


―――13 子猫―――

「お〜い、凛。ちょっとちょっと」
「どうしたの?そんな小さな声で――」
「俺たちのお姫様がさ、小さな従者と一緒にお昼寝中さ」

 昔は飼うことが出来なかった子猫たち――それが今、小さなお姫様と一つの布団で丸くなっている。

「まるで昔の凛を見てるようだ」
「もう……」


───14 歩幅───

 今一度、私は彼からの贈り物を受け取ったのだ。

 ゆっくりと、ゆっくりと……

 相手に会わせて進む道――ヴァージンロードに、歩幅が揃う。




―――15 刻む心―――

 カランカラン――

 まだこのカウベルを使っているんだ――はやる気持ちを落ち着かせるベルは、同時に、自分が本当に帰ってきた事を教えてくれる。
「み、瑞葉ちゃん……」
「久しぶりですマスター。いつもの、お願い出来ますか?」
「もちろん。レコードの方も、変えてくるよ」

 そう言って取り出したレコードは、モーツアルトのクラリネット五重奏曲。

「覚えててくれたんですね」
「忘れる訳がないでしょ……って、今、コンクールで忙しいんじゃないの、瑞葉ちゃん?」
「忙しいなんて言ってられませんよ。だって――」

 カランカラン――

「私の、大切な人との待ち合わせですから」


───16 春───

「最近頑張ってるな――」
 そんな声が、いつの間にか当たり前になってきた。
「何か思うところでもあったの?」
 俺に生きる目標が出来てから、周囲の目も変わった。
「春って」
「ん?」
「春ってワクワクするだろ」
「まあ、暖かくなって、外に出るのが楽しくなるわね……って、恋人でも出来たの?」
「残念ながら、でも」

 俺は春の暖かさを、手に入れたのさ――


───17 夏───

「海いこうよ、海。ボク、海って大好きなんだ」
 凛と同じ大学に通う事になった俺。あの頃から俺は、彼女の輝きにあてられっぱなしだった。
「ねえ直哉、海嫌い? ボクは好きなんだ。なんだかさ、ボクの全てを全力で受け止めてくれそうじゃない」
「俺じゃ凛のこと、受け止められない?」
「あはは〜直哉、海に焼いてる?」
 お互いの呼び方がかわり、身長もあの頃よりだいぶ俺の方が高くなったとしても、彼女の笑顔は翳らない――凛の笑顔は太陽の輝き。

 俺はこれからも、向日葵の笑顔でいられる。


───18 秋───

 秋風を身に受けると郷愁に似た感情を思い出す。

 異常に軽くなった彼女の重みと――唇の感触。

 忘れ無くったって良いだろ……瑞葉


───19 冬───

「ねえあなた、今度シモバシラの花でも植えようと思うんだけど」
「シモバシラの花?」
「ええ、白い小さな花が、8月の下旬から10月の上旬まで見られるんだけど、冬になるとね、もう一つの花が咲くのよ」
「もう一つの花?」
「そう、厳しい冬の寒さの中、茎が地中の水分を運んでね、枯れたはずの花びらが凍って霜柱の花を咲かせるの。朝の寒い時間にしか花は咲かないんだけれども、冬を選んで咲く華ってところかしら」

冬を選んで咲く華――

「どうしたの?」
「いや、どうして冬に咲く華って言うのは、そんな厳しい季節を選ぶんだろうと思ってね。もっと暖かい季節もあるのに、どうしてわざわざそんな季節を選ぶんだ?」
「う〜ん、詳しいことはよく解らないけれど、元々そう言う環境で育ってきた花だったら、逆に暖かさが辛いんじゃないかしら」
「辛い――か」
「もっとも、その花が選んだことなんだから、それをどうこうするよりは、あるがままにした方が良いとは思うけど」
「そう……かもな……」
 俺はまだ、あの時の答えが見つからない。

 けれど――冬の華に触れることは出来なかった。
 それだけのこと。


───20 ONE SCENE───

 夏の乱反射に目を奪われて

 徐々に色あせてゆく風に寂しくて

 舞い散る純白の花びらに凍えても

 季節は巡る――

 木々が芽吹きの季節を迎えるように

 二人の季節は――今、始まる





-後書き-
 これは、人によってはあんまり読みたくないものかもしれません。と言うのも、物語のその後と言う題材だからです。

 何故私がこの様な断りを入れるのかと言うと、このONE SCENE STORYでは、完結を曖昧な形で終わらせる事が多く、その後と言うのを読者の方の想像に任せる様にしているので、この様に後から物語りを完結させると言うのは、一種の裏切りの様な形になるからです。

 読者の方が想像した瑞葉と涼のその後と、私が書いたその後が違った話になってしまった場合、感情的に良いものでは無いでしょう。
 しかし、何故あえて今回この様な形にしたのかと言うと、作者のエゴと言うしかありません。先程も書いた通り、ONEは曖昧な形(結末は書いてあるが自由度が強い)で終わっていますが、その先の事も書いておきたいと言う、エゴ以外のなにものでも無いからです。

 特に、今まで読んでくれていた方(いるのかな……)の中には、違和感を感じたり裏切られたと感じたりする事もあるかも知れません。
 ですから、一番最後で何ですが、あんまりお勧めはいたしません。

 それから、途中抜けている物語に関しては、それ以上書く必要が無いと判断したものです。その後を書かなくても良いと言う作品です。

 さて、今回のこの様な形のONE SCENEはどうだったでしょうか?
 恋愛のワンシーンを切り抜いた物語を、短い文章量で表現する――と言う形で始まったONEですが、私自身、ここまで書くとは思っておりませんでした。
 当初、文章を書く――なんて殆どやった事が無かった私が、HPの更新頻度を上げるために短めな作品を書くのはどうだろう……と、少々俗な思考の元に始めた作品だったのですが、読み返してみると、その時の自分自身がどう言った環境に置かれていたのかを思い出せたりと、良い意味で都合の良い作品になりました。
 初期の頃、推敲もしてない原文を読み返してみると、素人さんも裸足で逃げ出すほどの稚拙な文章に、私自身が逃げ出したい――と頭を抱えるモノも多く、歴史を感じさせてくれたりもします。
 それとは別に、本当に書きたいモノを、本当に自由に書いていたんだなーと、あの頃の自分を羨ましく思ったり、ねたましく思ったり……少々複雑な感情も。

 さて、ここまで続けてきたONE SCENE STORYですが、一応の区切りがついたこの作品で終わりにさせて頂きます。
 これは、自分のやりたい事の為に時間を使う――と言う意味合いが強いです。
 ONEがやりたい事じゃ無かった――とは言いません。私自身、昔の作品を読んで良いな……と、本当に思えたりするので、これ以上も続けたいとも思いますが、それ以上に、やらなければならない事が出来た。そう言うことなのです。

 涼と瑞葉の関係。
 凛と直哉の関係。
 それ以外の登場人物達も、私は大好きで、ほんと、私の作品に出演してくれた事に感謝します。

   きっとこれからも、私が書かなくとも彼らは彼らが信じた道を歩むだろう――と、物語の登場人物ではありますが、本当に思えます。

 そして最後に、この作品を読んで頂いた方に、素敵な出会い、素敵な時間、素敵な想い出が訪れますよう、感謝と共にお祈り申し上げます。

 ありがとうございました。


TOP BACK