NOVEL-ONE SCENE'S STORY-

ワルツ(1999・05・07)

……ねぇ涼……今でも歌ってる



 つまらない授業が終わり、学生たちに与えられた特権とも言うべき自由な時間。

――放課後

 教室にはそれぞれの風景が広がっている。

 これから始まるクラブの用意をするもの。
 育ち盛りなのか、パンにかじりつくもの。
 昨日のテレビの内容を、声を高くして笑いあっているもの。
 本当に様々な風景だ。

 そして俺はと言えば、いつものようにギターを片手に屋上への階段を登る。

 別に学校のクラブでギターをやっている訳ではない
 単に歌うことが好きで自分で勝手に屋上を借りて練習をしているのだ。
 なにせ自宅では思いっきり弾くことができないし、歌うにしても広いところで大きな声を出して歌った方が気持ちが良い。
 だから、俺は屋上へと向かう。

 うちの学校の屋上はフェンスがしっかりしていて、学生がいつもでも自由に出入り出来る様になっている。お昼どきなどには結構混雑するし、時々演劇部などが発声練習などの為に使用する事もあるのだが、基本的に放課後はあまり屋上へ来る者がいない。

 だから、一人でギターと歌の練習をするのにはうってつけの場所で、最近では雨の日以外は毎日の様に屋上を使っていた。

 最初の頃こそ、俺は有名な曲をコピーしてそれを自分なりの音楽にアレンジしつつ歌っていたのだが、徐々にオリジナルで作詞と作曲をするようになり、最近はどんどんと音楽に対しての楽しみと言うものが増してきた気がする。

 自分の感じた事を言葉にし、その詩に曲をのせて歌にするのは少々難しい事だが、自分の納得出来る曲が出来たときは最高に楽しい。
 そして、自分の歌を人に聞いてもらい、何かしらの感情を与えられればと思ってる……

 そう、俺からのメッセージ

 なーんてカッコつけてるけど、俺の歌を聞きにくる物好きな奴は居ないんだよな、実際。
 へへっ――

「まぁ〜た掃除もサボってへたくそな歌うたってる!」

 ととっ
 そうそう、その物好きな奴が一人いた。

 幼稚園からの腐れ縁って奴で、高校まで一緒になってしまった高科瑞葉(たかしなみずは)だ。

 こいつは俺より身長が低く、どう見ても妹と間違われる様な童顔の持ち主だったが、誕生日が2ヶ月近く早いのを良い事に、何かと姉貴風を吹かしてくる口やかましい奴だ。

「なんだよ瑞葉、また俺の歌声を聞きに来たのか?」
「ちょ、なんであんたのヘタッピな歌を聞かなきゃなんないのよ」
「ヘタって言うなぁ〜」
「じゃぁ上手いの?」
 むむっ、瑞葉の奴痛いところを……
「おぉ〜マイハニ〜、何故分かってくれないのかぁ〜」
 ジャカジャン!
 俺がおちゃらけてギターと共に歌うと
「……」
 瑞葉は冷ややかな視線を向けてきた。
「そんな事よりも、掃除は?」
 つ、冷て〜。
「って、どうせ終わってから来たんだろ?」
「もう、そう言う所だけはしっかりしてるんだから」

 良くも悪くも幼なじみと言うわけです。

「だけど、歌に関しては上達しないって言うか……」
「なにぃ〜、俺の声に文句を付けようってか?」
「うん」
 ――くっ
「って、言うか、リズムは良いんだけどね〜」
「あ〜分かった、分かった。俺の作詞が下手だって言うんだろ」
「まぁね」

 そう言うと瑞葉は俺の隣に座り、一枚の紙を俺に差し出してきた。

「何、これ?」
「良いから読んで見てよ」
 心なしか瑞葉の顔が赤らんでいる
「フムフム、やさしい木漏れ日の様に、さわやかな……」

 やさしい木漏れ日の様に
 さわやかな涼風の様に

 私の心に語り掛けるのは誰?

 透き通る湧き水の様に
 ダンスを踊る音の様に
 私の心をとりこにするのは誰?

 昔観た映画の様に、私をさらうあなたは何処?

 何かを待ってる子供の様に、はずむ心がリズムを刻む

 待っているのはあなたの心。
 二人で奏でるリズムで踊ろう。

「……」
「どう?」
 何も言わない俺の顔を、少し不安げに覗き込みながら感想を求めている。

「ああ、まあまあだな」
「まあまあ?」
「いや、ま、何だ、そのな」
「何よぉ〜」
 俺がはっきりとした感想を言わないのが不満なのか、不機嫌そうだ。
「分かった、分かったよ」
「じゃ、正直に言いなさい」
 瑞葉も本当は少々不安なんだろうか、姉御風を吹かして誤魔化している。

「うん、良い感じ」
「ちょっとそれだけ?」
「まあ、俺が歌ってやっても良いかな」
「あ〜、そんな事言っちゃって、本当はすっごく良かったんでしょ!まったく涼は素直じゃ無いんだから」

 ったく、幼馴染とは言え、こうも俺の書きたかった詩を作ってくるとは……

「どう? これ歌にしてみてよ」
「あ〜ちょっとまってろ」
「……うん」
 瑞葉は、俺の横に座って空を見上げた。

 ポロロン♪

 俺は一息つくと、瑞葉の詩にリズムを付けて歌いだしていた。
 そう、勝手にリズムが浮かんでくると言う感じだろうか。
 詩を読んでいる時から、なんだか頭の中に浮かんできたリズムだった。

 やさしい木漏れ日の様に……
 爽やかな涼風の様に……

 即興ではあったが、まるで昔から歌っていたかの様に浮かぶリズムに、自分でも驚いた。

「どうだ?」
「うん」

 それ以上、俺と瑞葉との間に言葉は必要無かった。


 あれから3年、俺と瑞葉が高校を卒業してから2年と言う時間が過ぎた。

「ねえねえ、涼君って作曲家になったんでしょ?」
「あ、私も知ってる。 あの歌手の曲作ったの涼君でしょ」
「うん、何とか一曲だけ採用されたみたい」

 瑞葉は高校を卒業後地元にある大学に進学。
 同じ高校から一緒に進学した友達と、講義の合間に話の花を咲かせている。

「でも、涼君って親の反対を押し切って東京で作曲してるんでしょ?」
「うん……」

 俺は都内の音楽スクールへ進学したかったが両親の猛反発にあい、半ば勘当の様な形で家を追い出されたので、一人、東京に出てアルバイトをしながら作曲活動を続けて行く事にした。

 はっきり言って貧乏生活も良いところで、その日の食費にも困る様な毎日。
 だけど、地道な作曲活動が功を奏したのか、有名な歌手の曲を一曲だけ手がける事が出来て、その曲の評判がそこそこに良かった。
 そんな事から、少しだけ作曲の仕事に道が開けてきた――そんな状況だった。

「なんか、大変らしい」
「なんかって、連絡とか無いの?」
「う〜ん、最近電話とかも出来ないくらい忙しいみたい」
「え〜電話も」
「うん」


 さらに二年の時が過ぎ、高校時代の同窓会が開かれて懐かしい校舎のにおいをかぐ。

 やさしい木漏れ日の様に
 さわやかな涼風の様に

 私の心に語り掛けるのは誰?

 透き通る湧き水の様に
 ダンスを踊る音の様に

 私の心をとりこにするのは誰?

 昔観た映画の様に、私をさらうあなたは何処?

 何かを待ってる子供の様に、はずむ心がリズムを刻む

 待っているのはあなたの心。
 二人で奏でるリズムで踊ろう。

「よ、瑞葉」
「涼……」
「最近は人の曲を作ってるけど、俺自身も歌ってるんだぜ」
「曲は良いんだけどね」
 アハハハハ
 二人して同時に笑いが込み上げる。

「どうですお嬢さん、二人で奏でるリズムで一緒に踊ってくださいませんか」

 俺は彼女をエスコートする為に手を差し出した

 そして、しばしの沈黙

「喜んで」
 あの頃と変わらない瑞葉の笑顔だった。


-後書き-

 皆さんの高校時代は、どんな高校時代でしたか?
 実は、私の高校時代は二つあるのです……その理由とは、私が全日制の高校に 通っていたのを辞めて、定時制の高校へと編入した事に由来します。
 別にどうと言った理由があった訳ではありませんでしたが、その何もない高校に 耐えられなくなり、行き場を失ってしまった喪失感から、私は学校を変えると言 う行動に出たのです。
 両親の失望と言ったら無かったでしょう……しかし、それでも私は高校を移り ました。

 ハッキリ言って、学力と言う面では絶大なマイナスでした。
 英語の授業で、単語の書き方から始まったのには涙すらでました。
 しかし、それ以上に得たものは「仲間」と言う、かけがえの無い存在でした。
 定時制に通いだしてからバスケットを再開し、定時制・通信制の全国大会(初戦 敗退でしたし、前年度の優勝校が埼玉から出ていたので、2校まで出場権があっ た……予選では県の2位)に出ることが出来ましたし、生徒会や文化祭での活 動(文化祭では地元の新聞に載るほどに盛り上がりました)で楽しむことが出来 たのは、「仲間」がいたからこそだと思っています。
 思えば、全日制の高校に通っていたときでは絶対に味わえない物が定時制にはあ り、青春と言う言葉はこの時を指すのだと感じています。

 瑞葉と涼の二人には、「何か」がある、高校時代を過ごして欲しいと思っていま す。

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