-ORIGINAL STORY-

―低気圧・低血圧―

「さてと……」

 汐見由宇は自分の見せ場と言うモノを心得ている。
 そう、前菜には手を触れず、メインディッシュが終わってドルチェが運ばれてくる時こそ、一番『美味しい』と感じているタイプなのである。登場するタイミングと言うモノをはずさないのだ。

「そろそろ良いかしら――」

 純平を間に挟みながら続いていた千尋と父親との言い争いが、漸く膠着状態に陥ると見るや、絶妙のタイミングで間に入ってきた。

「あまり感心しないわよお父様。娘とは言え、人っ子一人居ない山奥の別荘に家庭教師と監視を付けて監禁するなんて」
「いやな由宇、それはだな……」
「そうよ、お姉ちゃんの言うとおりよ。いくらお父さんだからってやって良い事と悪い事くらいわかるでしょ!」
「くっ――しかし、それはだな千尋の事を思えばこそ、受験の前に、いや、受験が終わろうとも、千尋に悪い虫が付かないようにだな……」

 確か由宇先輩の父親ってゼネコンの経営者って話だが――純平は目の前に居る男を見ると、とても大企業の経営者には見えなかった。
 ベンツから降りてきた時の威厳ある風貌は何処に行ったのか、大企業の経営者も、娘二人に詰め寄られれば人の子なのか、今までの迫力も形無しである。

「まあ、そう考えるのも分かるわお父様……」
「お姉ちゃん!」
「まあ待ちなさいって千尋」そう言う由宇の口元は、微かに笑っていた。
「そうだ、じゃ、こうしたらどうかしら?千尋の事は私が目を光らせるって事で」
「な、何を言って――そもそも由宇だってちっともお父さんの言う事を……」
「あら、お父様は私をそんな風に見てたのね……悲しいわ私」
 由宇は少々わざとらしく嘆いた。
「私はお父様の言いつけをキチンと守って居たのに。それに、娘の事を信じられず、人気の無い別荘で監禁まがい、挙げ句の果てにはアパート一つお釈迦にして」
「いや、由宇の事を信じてない訳じゃない、訳じゃないんだぞ――」
「じゃあ、千尋の事を私に任せてくれるのね」
「あ、いや、それとこれとは話が……」

 ――監禁、アパート損壊
 由宇がボソっとつぶやく。

「むぐぅ」
「千尋もどうかしら?私が監督するのに反対?」
「うっ――いやでも……」
 千尋の表情が笑いながら引きつっている。
(由宇先輩、千尋ちゃんにも何かやってるんだな……)純平は千尋の表情から読みとった。

 港陽大に汐見あり――と言うのは、いわば誰もが知る事実である。純平も由宇と同じサークルに所属しているので、その噂が本当の事であるのも良く理解していた。
 純平の荷物を、これだけ素早く倒壊したアパートから取り出してくる手際もさることながら、急な引っ越しにもかかわらず、人員を確保する手腕も持ち合わせている。
 まあ、人員に関しては大学で見かけた事のある奴らだったから、何かしら弱みを握られていると思った方がいいが――よく見れば、純平と同じ大学の人間が何人か混じっている。
 それにしても汐見由宇は行動の人なのだ。

 どうするの千尋?私は別にどっちだって構わないのよ――由宇は交渉を良く心得ているのか「千尋がお父様の家で大人しく勉強三昧の日々を堪能するって言うんだったら止めないけど」と、あくまで決断は千尋自身に決めさせるスタンスを持ちつつも、選択肢は自らの有利に運ぶ様に誘導している。
 父親の過保護過ぎる環境は嫌だが、かといって実の姉とは言え、由宇の監督下と言う微妙なポジションも悩ましい――千尋に取って、過去に類を見ない選択肢を迫られる事になった。
「ちょうどこの家を改装してアパートにしたから、部屋ならいっぱいあるし、千尋が私を選ぶって言うならここに住めば良いじゃない。私も千尋に悪い虫が付かないように見てられるし、勉強だって見てあげられるわよ」

 まあ、確かに由宇先輩が勉強を見るんだったら問題はないか――純平は汐見由宇のすごさを思い出す。
 そう、汐見由宇と言う女性は、どうして港陽大に通っているのかと不思議がられる程に学業優秀で、その実力は大学の研究室からお呼びが掛かるほどと言われる。
 しかも、大学の学祭でミスコンがあったのだが、由宇が出場していたら今年の優勝者は確実に変わっていたと言われるほどの美人でもある。
 一部、組織票(弱みを握られて)もあるだろうが、確実に美人の部類に入る。
 そんな彼女は、未だ口で言い負かされた事が無い――という噂であった。
 千尋にしてもその辺の事は姉妹なので良く知っているのか、今現在めまぐるしく天秤の針が揺れているのが分かる。

「さあどうするの?千尋」
 どうするのかな千尋ちゃん……この選択は今後の安寧なる生活が送れるかの瀬戸際だ。決めるにしても時間が掛かるだろうな――純平は端から見ていて千尋がどのような選択をするのか興味があった。
 『アノ』由宇先輩の誘いに乗るのか、それとも家庭教師と共に夏休みをつぶすのか、結論をだすのは時間が掛かるだろう――純平はふとそんな事を思ったが、以外にも千尋の答えは早かった。

「分かったわ、これから私、お姉ちゃんと一緒にこの家に住むから。お父さんだってお姉ちゃんが付いてるんだから、文句無いでしょ――」
 別荘から抜け出す事と言い、走ってる車を止めて逃亡に使う事と言い、千尋ちゃんって以外とチャレンジャーなんだ――純平は汐見家の家風と言うモノをかいま見た気がした。
「じゃ、決まりねお父様。千尋は私が責任を持って預かるから」
「いかん!いかんいかんいかん!!」

――監禁、アパート損壊

「ぐぅ――っ」
 まさにぐうの音も出ないとはこの事だ――いや、実際ぐうの音は出たのだが、純平はそばで見ていて改めて汐見由宇と言う先輩を恐ろしく思う。
 この家をアパートに改装したのも、この調子で丸め込んだに違いない。

 恐るべし由宇先輩――純平の由宇に対する評価が上がった?

「くぅ〜由宇がキチンと面倒を見ると言うのなら……ぐむむっ……仕方がない」
「本当?お父さん」
 千尋の顔に笑顔が広がった。
 とは言え最後の抵抗か、過保護極まる父親は条件を付ける。
「しかし、しかぁ〜し!絶対にこのアパートに、男などの契約は認めん!!」
「はいはい判ってるって、私だって『今後』このアパートに男は入居させないって」
 由宇のこの一言により、漸く決着が付いた。
 結局、俺って親子喧嘩のとばっちっりだったのね……
 「はぁ〜」純平は深い溜息をついた。


「さてと、引っ越しはいつがいいかしら?」
 汐見家の父親がベンツと共に去った後、由宇は早速今後の段取りを取り始めた。
「そ、それは私が自分でやるから――」
「そう?それじゃそれは千尋に任せるわ」
 帰り際、泣いてましたよお父さん――純平はあんな事に巻き込まれながらも、千尋達の父親に同情を禁じ得ない。
「ま、それは良いとして、純平君ったらいつまでそんな所に突っ立ってるのよ。純平君の部屋に案内するから付いてきて。千尋も部屋を選びたいでしょ?一緒に来て」

――はい?

「もう、しっかりしなさいよね。純平君」
「いやあの、話が全く、これっぽっちも見えないんですけど」
「な〜に言ってるのよ、純平君?キミも今日からここに住むんだから、部屋くらい知ってなきゃ住めないでしょ」
 って、先輩?あれ、冗談じゃ――そもそも『あの』お父さんの過保護さからして、自分がここに住む事など認められそうにもない……って言うか、『今後一切男の住人は取らないって』言ってましたよね。
「あら、それは本当の事よ、私は『これから』一切男の住人を取る気なんてないもの」

 ニホン ゴ ムズカシ デスネ――

「純平君は『既に』ここの住人なんだから、嘘じゃないでしょ?」と、当然と言い放つ汐見由宇は、やはり油断のならない人物だった。
「はぁー」絶対これ、逃げられないんだろうな――純平は、深い溜息と共に、目の前に居る美人管理人さんに逆らえない事を悟るのだった。

「じゃ、純平君の部屋はここね」
 由宇に案内された部屋は、二階の、家を真上から見ると中央の廊下を挟んで右上に位置するフローリングの部屋だった。
 一階の中央奥にある階段を上ると、ちょうど引き返す様な格好になる。
 プライベートなモノ以外は荷ときも終わって配置されてるから――という言葉どおり、細々としたモノは段ボールで山積みになっているものの、机やオーディオ関係などの配線まで終わっている。
 それはそうと――純平は部屋を見て疑問を声にした。
「あれ……先輩、ベッドが変わってるんですけど」
「純平君ベッドに何か思い入れあった?」
「いえ特にはないですけど、単なる通販で買ったパイプベッドでしたから」
「良かった。まあ机だけは入れておいたんだけど、ベッドは備え付けのモノがあったから、前に使っていたのは粗大ゴミとして捨てちゃったのよ」
「はぁ…………」
「元々この部屋ってゲストハウスでね、ベッドとクローゼットは備え付けなのよ。純平君にだまって捨てちゃったから怒られると思ってたんだけど」
「まあ、それは別に良いんですけど、こんなに立派な部屋で良いんですか?」

 見回せば、明らかに今までのアパートよりも広い。
 調度品なども付いていてとても家賃2万円じゃ釣り合わないのでは無いかと思ってしまう。
「あー気にしないで、今回は千尋が迷惑掛けた事だし」
 って先輩、そんな気軽に言いますが、絶対この部屋だけでも5万円は家賃取れますよ――と言う言葉は飲み込んで、純平は窓を開けた。
 隣の家までは結構な距離が開いている。以前のアパートならば、窓を開ければ隣の家の壁まで3メートルも無かったので、純平に取ってはこれだけでも新鮮だった。
「気に入ってもらえた?」
「はぁ…………」
 純平としてはどこか落ち着かない。
 今までトイレとバスが付いていたモノの、五畳一間の狭き城に住んでいたので、急に部屋が広がると落ち着かないのだ。
 しかも今回は『あの』汐見由宇という先輩と一緒の家となる。さらには、妹の千尋も引っ越して来る事になり、そちらも落ち着かない原因の一つだった。

「まあその辺は追々慣れてくるでしょ」
 などと軽く言える由宇の性格が羨ましい。絶対にこの人ならどんな場所でも緊張しないんだろうな……と、純平は改めて思う。
「さってと、純平君はこのまま荷物の整理でもする?どうせなら千尋と一緒に家の中回りたいんだけど……」
 由宇は今思い出したと言ったふうに手を叩いた。
「あ、そうそう、もう一人の住人も紹介しておきたいし」
「え?!もう住んでる人居るんですか?」
 これには千尋も驚いた。
「お姉ちゃん、ここアパートにしたのってつい最近なんでしょ」
「そうよ。とは言っても、部屋に鍵が掛かる様にしただけだけど」
「で、もう住人がいるんですか?」
「まあ、住人がいるっていうか、その住人が『いた』からカギ掛けたんだけど」
「どういう事?」
 まあまあ、取りあえず今から紹介するから――と言う由宇は、純平の部屋を後にする際「その前に」と、一本のカギを取り出した。

「はいこれ、純平君の部屋のカギだから。一応マスターキーは保管されてるけど、なくさないでね」
「は、はい……ありがとうございます」
「じゃ、もう一人の住人の所にいくから」と言う由宇の後に続く純平は、ああ、本当にここに住むんだ――カギを受け取ると、今までの事が夢で無い事を実感した。


「ま、行くって行っても、純平君の部屋の目の前なんだけど」  由宇は純平の部屋を出ると、文字通り廊下を挟んだ向かいの部屋をノックした。
「この時間……寝てるとは思うんだけど」
 その言葉の通り、しばらく経っても返事が無い。
「あ〜綾音、起きてる?」

 コンコン――と、続いてノックをするが返事がない。

「ったくしょうがない……また徹夜でもしたか」
「先輩?どこかに出かけてるって事は無いんですか?」
「それはないわね」
 由宇は断言した。
「でも、引っ越しの時とか相当物音とかしたはずだし、お姉ちゃんが居ない時に出かけたのかも」
「いいえ、今は修羅場とか言ってたから、あの娘が出かけるのは一週間分の下着の洗濯をするときか、籠城する為の食料を買い出しに行くときかのどちらかしかないわ。絶対に居るはずよ」
「はい?」
 純平と千尋が二人して顔を見合わせる。
 どんな酷い人なんですか――と聞きたい気持ちもあったが、なにやら関わらない方が良いのかも知れないとも思う。

「純平君達は、ちょっとココで待ってなさい」
「はぁ」
 戸惑う二人をよそに、由宇はドアノブに手を掛けた。
「じゃ、行って来るから」
 どこかに冒険に行くかのようにつぶやく由宇は、いざ――と言うかけ声と共にドアを開けた。
 カギが掛かっていない事は承知の上らしい……しかし、たかが部屋に入るのに掛け声が必要ってどんなですか?
 純平と千尋は、またもや顔を見合わせた。

「ぎゃっ、何よこれ、この前掃除したばっかりだって言うのに……綾音どこに埋もれて――いたぁ〜っっっ、痛ったいわね〜なんでこんなところに一刀彫の熊なんか、ぎゃぁっ、って、あんた一体どこから持ってきたのよこれ。チキンなおじさんとケーキ屋ベコじゃんの人形……綾音!起きなさい」
「…………」
「…………」
 顔を見合わせる純平と千尋の声が重なった。
「一体何が居るんだろう千尋ちゃん」
「何が居るんですかね……純平さん」
 外に居る二人は、突入?した由宇がドアを閉めてしまったので、中がどの様な状況なのか窺い知れないのだが、中から漏れてくる声を聞く限り、中は人外魔境の様相を呈しているに違いないと思った。
 由宇先輩の事だから、きっととんでもないモノを飼っているんだろうな――純平の想像の翼は広がる一方である。

「ほら、いつまでもそんな所に埋もれてないで――って、どうしてあんたはいつも全裸で寝てるのよ」 「う〜う〜ううっ〜」
 ぜ、全裸ですか? どおりで純平を外に待たせる訳である。
「ほら、これ穿いて……これ付ける」
 どうやら下着を付けさせているらしい――目の前で着替えるよりも、何か艶めかしく聞こえるのは俺だけですか?!
「なんやぁ〜由宇……ふぁ〜あっ、由宇ねえさまやないですか〜、今何時やと〜ふぁ〜あっ……むにゅうむにゅう……」
「いいからこれ、早く穿く。新しい住人を紹介するから……どうせ修羅場入って、あんたと顔を合わせるのは一週間は先になりそうだから、今、強制的に紹介しとくのよ……って、あんたその格好で――ちょ、待ちなさ、めがね、めがね掛けなさい!」
 その人物は、由宇の制止よりも早くドアに手を掛けてしまったらしい――ガチャリと言う音と共に、それは二人の前に現れた。

「なんやぁ〜由宇ねえさまが二人に見え……ふぁ〜あっ……あはははは〜由宇ねえさまが二人にふえ、ふえぇくしっ!」

 純平は見た――いや、見えてしまったと言った方が正しいのか、髪はボサボサ、顔にはインクが写ったのか、ミミズが這った様な黒い文字。
 艶めかしい肩は何も付けておらず、由宇が無理矢理付けたブラは、そのたわわな果実を半分しか覆って無かった。視線を下に向ければ、魅惑の三角地帯を小さな布一枚で覆ってはいるが、それにしても……
「よ、酔うと脱ぐタイプですか?寝るときは全裸になっちゃうタイプですか?」
 などと思わず口に出してしまう純平。彼の思考はココで途切れる事になる。
 じゅ、純平さん見ちゃダメ――それは千尋の容赦無い一発だった。
「ツッコミは、基本やなぁ〜」
 突き飛ばされた純平が最後に聞いたのは、関西なまりのとぼけた一言だった……

「あ〜完全に白目剥いてるわね」
「おおおお、お姉ちゃん、大丈夫かな……純平さん、死んだりしないかな」
「って、そんなに心配しなくても大丈夫よ」
 突き飛ばした張本人である千尋は、廊下で大の字に倒れている純平の頭を抱えながらおろおろとしていた。その反対に、部屋から脱出してきた由宇はケロッとした顔をしている。
「お姉ちゃん!そんなふざけてないで救急車、救急車呼ばなきゃ……」
「大丈夫だって、ほら、純平君の顔、気を失ってる割にはにやけてるじゃない」
 言われて千尋は純平の顔を覗き込む――あ、本当だ。
 千尋は純平のにやけた顔に、少し腹が立った。自分が突き飛ばして置いてなんだが、にやけ顔の理由を考えると、無性に腹が立った……自分自身、どうして腹が立つのかも分からないままに。

「しっかし、綾音にも困ったもんね。私が先にめがねを掛けなかったのが悪かったんだけど……まあいっか。どのみち、遅かれ早かれこういう事になるのなら、早いほうがいいだろうし」
 めがね?
 千尋は由宇の言っている意味が分からなかったが、とにかく、純平のにやけ顔の原因である女性が居ない事に気が付いた。
「お姉ちゃん、さっきの人は?」
「ああ、アレがさっき言ってた住人の綾音。ま、めがねを掛けてやったから正気に戻ったんだろうけど……部屋で着替えてるはずよ」
 由宇の言葉を裏付けるかのように、綾音の部屋からは「きゃー、何でこんな人形が」だの「うちったら、またこんなんして……」などと、ごそごそ音が聞こえてくる。
「あー、ま、なんだ、取りあえず純平君が起きてから説明するから」
 溜息と共に由宇は「冷たいおしぼりでも持ってくるか」ときびすを返す。
「ああそうだ、綾音、あんた顔にまたインクが付いてたから、シャワーでも浴びておきなさい」と、ドアに向かって声を掛け、それから本当に一階へと降りていった。

「いたたっ……」
 あれ?一体ココは何処デスカ?

 ギョ――

 目を覚ました純平の視力が戻り始めると、至近距離に千尋の顔があた。
「わわわっ、一体全体何がどう……」
「よ、良かったぁ〜純平さん、死んだんじゃないかって」
 純平の混乱をよそに、千尋が安堵の声をあげる。その声に、純平も今までの事を思い出した。
「白い……白い三角――はっ」
 あ、危ない――純平は魅惑の三角地帯に付いて口走りそうになったが、千尋の鬼のような形相に何とか踏みとどまった。
「もう、膝枕は必要ないみたいですね」
 そう言う千尋の口調は少々乱暴だったが、よく見れば、純平は自分の頭が千尋の膝に乗せられているのが分かった。
 看病してくれたのかな?
「あ、ありがとう……その、なんて言うのか」
「いいんです。純平さんが気を失ったのは、その、あの……私が突き飛ばしたからだし……」
 最後の方は聞き取りづらいほどに小さくなり、千尋はこれでもか――と言わんばかりに顔を赤くした。
「い、いや、それはあの、ああいう状況なら致し方ないというか……」
 純平も急速に恥ずかしさがこみ上げてきた。
 しかも未だ膝枕のままなので、千尋の顔がやけ近い。女の子特有の甘い香りが、千尋の付けているミントの香りと相まって妙に甘美に感じられる。
 意識してしまったからか、純平の心臓が急激に脈打つ。

 ドクン――ドクン――ドクン――

「ち、千尋ちゃ――」
「はーいそこ、いつまでラブコメやってるかな?」
「うわっ、ゆゆゆ由宇先輩、いつからそこに……」
「お、お姉ちゃん!」
 驚く二人をよそに、由宇はニヤリと笑いなが「最初から」と告げ「ま、それはいいとして、綾音を紹介するから二人ともリビングに来て」と、ニヤニヤしながら階段を降りていった。

 ――アレ?

 千尋と共にリビングに入った純平に飛び込んできたのは、楚々としてソファーに座る女性の姿だった。
「先輩、お客様ですか?」
 と、純平がとぼけた事を言うのを聞き流し、由宇は目の前の女性を紹介した。
「これがもう一人の住人、神楽坂綾音(かぐらざかあやね)よ」
「神楽坂綾音いいます。みなさんよろしゅぅ〜」

 ――はい?

「お姉ちゃん、この人、本当にさっきの人なの……」
 千尋も純平と同じなのか、どう見ても先ほどの醜態を見せた女性と同一人物とは思えなかった。
 二人の頭の中には、髪はボサボサで下着姿のだらしないイメージが強烈に残っているのだ。それがどうだろう、目の前に居るのはどう見てもどこかの令嬢と言っても良いくらいに『普通』だったのである。
 いや、透き通る様な髪の毛は、絶対に櫛が引っかかる事は無いだろうと思われる程に綺麗に流れ、ボディーラインを上品に引き立てるシックなワンピースを着ている女性は、大人っぽさで言えば由宇に匹敵する。
 千尋が同じモノを着たら、きっと無理して大人っぽさを演出していると思われてしまうだろうが、彼女にはそれ以上の大人びた雰囲気があって、単なる引き立て役にしかならない。
 膝の上で軽く揃えられた指先は白く、可憐さを醸し出していた……

「あ〜ま〜なんだ、普段の綾音だったらこれが普通なのよね」
「由宇ねえさま非道いですわぁ……それではまるで、非常時にはとんでもない様に聞こえますわぁ〜」
 端々に関西系の方言が混じる綾音は、どう見ても芦屋かどこかのお嬢様の趣がある。由宇を非難する口調も、のんびりとした優雅さがあった。
 牛乳瓶の底の様な分厚いめがねさえ掛けていなければ、その優雅さも、さらに引き立つと思われる。

「修羅場を目の前にしてめがねを掛けてない時の綾音は、見られたもんじゃないのは確かだけどねぇ……」
「いややわ〜」

 そうだ、あの時は確かめがねを掛けて居なかったっけ……だけど――純平は目の前の女性を観察した。

 記憶に残っている綾音の姿にめがねを掛け、ボサボサだった髪の毛を修正し、自己主張してやまない双丘を目の前の女性と比べ、魅惑の三角を……って、本当にあの三角さんだ――由宇のその言葉で脳内の綾音を修正し終わると、確かにあの時の女性であることがわかった。
 変われば変わるモノである――って言うか、かわり過ぎ。
 純平と千尋が目を丸くしていると、綾音は自ら自己紹介を始めた。

「神楽坂綾音いいます〜。由宇ねえさんとは高校時代の後輩にあたります〜」
「高校時代って事は……私の先輩って事ですか?」
「はぁ〜ま〜そう言う事になりますなぁ〜。私が三年の頃、千尋さんは一年生でしたなぁ〜何度か見かけた事ありますなぁ〜」
「まあなんだ、私が女子校の寮に入っていたときの後輩だ……綾音はえ〜っと」
「京都です〜」
「そう、京都からこっちの高校に入って、三年間同じ寮に入ってた訳だ」
「そうです〜由宇ねえさんとはその頃からのお付き合いでして〜、卒業した今もお世話になってる〜訳です」
「高校卒業して京都には戻らなかったんですか?」
「そうですな〜」
「ああ、こいつは両親の強い薦めで受けた大学にことごとく受かっていながら、活動するにはこっちに残った方が良いってんで全部蹴ってな、ほぼ勘当状態になって行く所が無いってんで、ここに転がり込んだ……って言うのが事の真相」
「先輩の通ってた高校って確か……凄いお嬢様学校でしたよね」
「んぁ?お嬢様かは知らないけど、茶の山学園よ」

 ――お茶の山学園?!

「ち、千尋ちゃんも茶の山なの?」
「はい、そうですけど」
 どうりでお嬢様っぽいと思った――純平は、千尋のどこか普通の女子高生らしからぬ所作にも納得がいった。

 由宇や千尋は簡単に言うが、お茶の山学園と言えば学力だけでは入る事が叶わず、相当の寄付金を納められるお金持ちしか入学を許されないことで有名で、勉学はもちろん、礼儀作法なども厳しくしつけられると言われている超お嬢様学園だったからである。
 学園祭の一般入場用チケットは保護者にか配られないので、そのチケットは万単位で取引されると噂の、一部の人間にとってもそれは有名な所だった。

「でも、それじゃ今は何を……そうだ、活動とか言ってましたけど、それが修羅場と関係しているんですか?」
「まあなんだ、こいつはぶっちゃけて言うと小説家だ」

 え?!――これには純平も驚いた。
 あれほどの醜態を演じた目の前の女性が小説家だったと言われ、隣にいる千尋も驚きで目を丸くする。

「いややわ〜由宇ねえさま、今はまだ小説家なんて言えませんわ〜」
「え、本当なんですか?凄いです、私の先輩で小説家なんて――尊敬します」
 千尋の感動も相当だった。
「俺も小説家なんて初めて見ました」
「いえいえ、本当に今はまだ小説家なんて〜」
「先輩、先輩はどんな小説を書いてらっしゃるんですか?」
 小説家と聞いて、綾音を見る千尋は尊敬の眼差しである。
「いややわ〜まだデビューもしてないし」
「あ〜確かにデビューはしてないし読者はかなり限定されるが、売り上げは一回で100万円は超える人気作家だ……一応な」
「凄い、凄いです。どんなお話を書いてるんですか?」
「一応……恋愛小説などを」
「その前に『やおい』と言う言葉が付くけどな。普通の恋愛小説も書いてるが」

 ――はい?

「だから言っただろ『読者はかなり限定される』がって」
 ああ、それは限定されますね……純平は由宇の言葉に納得がいったが、千尋は訳が分からずに聞き返していた。
「あの……やおいって、なんですか?」
「――うっ」
 その質問に、純平と由宇は言葉を詰まらせる。
 純粋培養と言われるお茶の山学園に通っている千尋は、そっち方面の知識も純粋なのか、やおいと言う単語は辞書に無いらしい。
 さてはて、どうやって説明したら良いものやら――純平と由宇が「さて困った」と顔を見合わせた時、綾音は直球勝負のど真ん中でストライクの玉を放っていた。

「まあ、男の子と男の子の純愛って所ですなぁ〜」
「――え?」
「可愛らしい後輩の男の子を、優しく胸に抱く先輩とか……若手サラリーマンが目標とする先輩に恋心を抱くとか……そんなんですなぁ」
「…………それって、男女のお話……ですよね」
 千尋は未知の単語に恐る恐る確かめるのだが、当の綾音はしれっとした顔でオブラート無しのまたもや直球。
「いややわぁ〜、もちろん男の子同士です〜」

 しゅわしゅわ〜ボン!

 と言う擬音が聞こえてきそうな程に千尋の表情は赤から青に、頭の中の回路がオーバーヒートを起こしたと思ったら、最後には『くてっ』と、気を失った。
「ま〜なんだ、純平君、後は任せたから」
「え、ちょっと由宇先輩!」
「あ〜、私もイベントに間に合わせないと行けませんので、この辺でおいとまさせてもらいます〜」
「あ、綾音さん!?」

 結局、千尋が目を覚ましたのは10分後の事だった。


「うう〜ん」
「千尋ちゃん……目、醒めた」
 寝返りを打つ千尋に、純平は荷物の整理をする手を止めた。
「あれ、私……ここは?」
「悪いとは思ったんだけど、リビングのソファーにそのままって訳にもいかないと思ったから、一応俺の部屋……になるのかな、運んできたんだけど」
 くてりと気を失った千尋を前に悩んだ結果、純平は今日から住む事になってしまった部屋のベッドまで運んでいた。
 別にいたずらをしようとか、寝顔を観察しようとかの目的は一切無い。
「私どうして――あっ」
 自分が気を失った原因を思い出したのか、またもや顔から火が出るのではないかと言う程顔を赤らめる千尋だったが、今度は気を失うまではならなかった。
「すすす、すいません」
 と、今度は自分が純平に迷惑を掛けた事を理解したのか、もう一段階顔を赤らめる。
「いやいや、別に気にするほどでもないよ……だけど、そろそろ由宇先輩の所に行った方が良いかも知れない。俺も一度、車を会社の方へ持っていかないと行けないし」
「あっ――」
 千尋はやっと思い出した。純平が本社に戻らず、自分をこの家に送ってくれた事を。
 千尋はその事を思い出すと、ベッドから身を起こして姿勢を正してから頭を下げた。

「純平さん、今日は本当にありがとうございました。あの、私の事助けて頂いて」
 深々――と言う方が良い程の丁寧なお辞儀に、純平はあわてて手を振った。
「いいって、いいって。そりゃ最初は……あ〜最後までびっくりしたけど、でも、住むところも確保出来たし、今考えるとそれなりに楽しかったから」
 これは本当の事である。
 人生の中でサングラスを掛けた黒服に追いかけられたり、自分が住んでいたアパートが半壊していたり、勝手に自分の荷物が運ばれて住むところが変わっていたり……と、色々な事が起きたのは事実だったが、無事これ名馬?いや違う、とにかく無事だった事が何より良かったと思ったのである。
 お気楽主義――と言う訳ではないが、どんな状況に陥ろうとも、それに関わった人が笑っていられるのなら、自分も楽しもうと言うのが純平の信条であった。
「それでも助かりました。わざわざ私をここまで連れてきて頂いて、あの、お父さんが来たときも庇ってくれたし」
「いや、それに関してはなんとも。俺はただ挟まれてただけだし」
「そんな事ありません。あの、とても心強かったです」
「いや、まあ、そう言ってもらえると……」
 実際、純平としては親子喧嘩の際は間に挟まれていただけだった。
 どこのヤクザか――と思った人物が、どうやら目の前に居る少女の父親と知り、それまで張りつめていた緊張と言うか、頭がついていかなかったと言うか、あきれてモノが言えなかったと言うか、何をして良いものやら判らなかったのである。
 ただ、自分の背中でギュッ――とシャツを握りしめる女の子を、放り出す気にはなれなかったのは本当であった。
 まあ、黒服に追われるのは勘弁して欲しいけど――純平が密かに思ったのは秘密である。
「まあ、これからは同じアパートの住人として、よろしくね千尋ちゃん」
「は、はいこちらこそ」
 しばし「ありがとうございます」「そんな事ないよ」の応酬が続いていたが、二人して真顔になり、一瞬の間をおいて笑いあった後、自然と握手をしてこの話には一応の決着がついた……と、その時である。
 一応気を失っている女の子と密室で二人っきりという状況はまずいだろうと、純平は部屋のドアを開けっ放しにしていたのが間違いだったらしい。

「ん〜初々しいわね〜」と言う由宇の顔は、にやけ顔を隠そうともせず、部屋の前に立っていた。
 汐見由宇――彼女は美味しい所を逃さない女なのである。

「いや〜千尋の純情さには感動するわね〜」
「やめてよお姉ちゃん、私はただ、純平さんにお礼を言ってただけなんだから――」
 あの恥ずかしいやり取りを目撃されてからと言うもの、千尋は由宇のおもちゃと化していた。
「いやいやいや、別にお姉さんとしては千尋がそう言う娘に育ってくれて嬉しいってだけなのよ〜」
 再びリビングに降りて来た三人は、からかう由宇にからかわれる千尋、それを眺める純平と言う図である。

「さてと、まあ千尋をからかうのはこれくらいにしておいてあげますか」
 と言う由宇は、ソファーに腰を掛けた。
「純平君は一度会社の方へ戻ってからこっちに来るのよね」
「ええ、さっき連絡しておきましたから、これから会社に戻ります」
「それに関しては私たちがなんかしない方が良いみたいね。遅れたのが女がらみかー!!って、余計複雑になりそうだし」
 そうか、そう言う事もありえるな――純平は自分で何とかごまかすつもりだったが、そんな所まで気が回らなかった。
「純平さん、大丈夫なんですか?」
「ま、そっちは大丈夫でしょ。純平君真面目そうだから、さぼりって見られるよりは、事故にでもあったんじゃないかって思われるだろうし」
「ええ、電話かけるなり大丈夫か!!って言われちゃいました」
「じゃあ純平君はそれからこっちに戻ってくる……と。千尋はどうするの?」
「わ、私も一度戻る。当分の荷物は明日持ってくるけど、本格的な引っ越しとかもあるから」
「そ、じゃあ千尋はご飯とかいらないっか……」
 純平はその言葉で思い出した『敷金礼金ゼロの家賃月2万円で朝食付き』と言う言葉を。
「そうだ由宇先輩、食事の事なんですけど……家賃2万円は良いとして、どうして朝食付きなんですか?」
「ああ、あれ?明日はちょっと無理だけど、明日から一人住人が増える事になって、朝食を作ってくれる予定だから」
「はい?」
「まー私はいらないんだけど、ココをアパートに改造して管理人をする――って言ったら、あの『お父様』が、メイドを一人住まわすなら……って条件出してきたんで、私はそれを渋々飲んだって事。それが明日引っ越してくるのよ」
「め、冥土さんですか?」
 はて、冥土さんとはいかなる存在――純平はメイドさんと言う単語には馴染みがなかったので、脳内変換の漢字が『冥土』となってしまった。
「純平君、冥土じゃなくてメイドさん、お給しさんね」
「って、それ過保護過ぎ――あっ、でもそうか」
「どうしたんですか?純平さん」
「ピンぽーん!まあ、あの親父殿が考えそうな所よね〜名目上はメイドとは言え、いわゆるお目付役だから」

 ニヤリ――由宇は口元を歪める。

 あ、この顔、何かいたずらが成功した顔だ――純平が由宇の表情を見たとき、とても不吉な予感が胸をよぎった。
「先輩、どうせまた何かやったんでしょ」
「あらあら純平君、どうしてそう思うのかなぁ〜お姉さんはちょっと心外」
「いやだって、お目付役が来るって事は、俺がこの家に居る事がばれるって事ですよね、でも由宇先輩は何にもあわててないから……」
「なぁ〜んだ、純平君て以外と鋭いのね。まあ、親父殿としては上手くお目付役を付けたと思っているんでしょうけど、うちに来る娘、私が雇った娘だから」

 一体いつからこの計画を立ててたんですか?――と思わず聞いてしまいたいくらいに由宇は完璧に対策を立てていた。
 きっと最初は無理難題をふっかけたのだろう。就職活動が面倒だのなんだのの理由を付けてこの家をアパートにしようと言いだし、父親の性格を読んで条件を緩和させながら妥協点を探り、最終的にお目付役を付けると言う事で落ち着いたに違いない。
 しかしそれも計画のうち。
 最初からそれを読んでいた由宇は、メイドを潜り込ませておいたのだ。だからこそあの過保護の固まりだった父親が、千尋がこのアパートに住むと言う事も許したのだ。そうに違いない。

「お姉ちゃん……」
 千尋はあきれ顔で姉を見つめる。
「やっぱり由宇先輩って……」
 敵に回したくない――純平は切実に思うのだった。

「そんな訳で、とにかく細かい事は明日にして、今日はここで解散かな」
「じゃあ俺は、取りあえず本社にもどってから少し仕事するんで、多分帰ってくるのは6時くらいになります。もう少し遅くなるかも知れませんけど」
「私も家に帰るねお姉ちゃん」
「それじゃあ、駅まで送っていくよ……あ、でもお金無いんだっけ」
「それなら大丈夫よ、さっき家賃と共に生活費ぶんどったから」
「さ、さすがです由宇先輩」
 由宇はこういう所も抜け目がなかった。
「はいこれ」と言って渡す封筒は、かなりの厚みがあった。
「ありがとうお姉ちゃん」
 受け取る千尋は、自分のポケットから財布を取りだした。
「あれ?お財布は持ってたんだ」
「あ、はい、でも現金は持ってないんです。カードで殆どはすませてしまうので」
 そう言う千尋の財布には、金色に輝くカードが入っていた。
 ブルジョワ、ブルジョワがココにいますお母様!!!――と叫び出したくなる純平だったが、何とかそれを飲み込む事にした。
「そ、それじゃ行こうか……」
 純平の背中が、少しだけ寂しそうだったのは言うまでもなかった。

「さってと、面白くなってきたなぁ〜」
 二人を見送った由宇は、ん〜と伸びをする途中で『あ……』と声をあげるが、結局『ま、いっか』と言う言葉をあくびと共にかみ殺すと、自分の部屋へと戻っていった。


 ――次の日の朝

 純平は激動の一日を終え、新たなるアパートに帰り着いたのは結構な時間になっていた。
 本社に戻る時間が遅れたのが悪かったらしい。
 普段なら上がっている時間だったのだが、無断で帰社時間に遅れた事を謝るついでに、夜の仕分けを手伝っていたのだが、それが終わって家にたどり着いた時には夜の9時30分を回っていたのである。
 いつもの純平ならばなんて事は無かったのだろうが、今日の出来事で疲れていたのか、部屋にたどり着くなりバタンキュー。
 そして目が覚めた時、それは圧倒的な肉壁を持って純平を圧倒していた。

  「うわぁー!!」

 由宇が目覚まし時計よりも早く起きるのは珍しい。
 それ程の悲鳴が純平の部屋からとどろいてきたのである。
「あちゃー、やっちゃったか……」
 由宇はあくびをかみ殺しながらベッドの中でしばし考えていたが、仕方がないか――とつぶやくと、のそのそと起き出して悲鳴の元へと行く事を決めた。
 ったく、カギ、渡しておいたのに……と、めんどくさそうに。


 ――なんですと!!

 純平は一発で目が覚めた……いや、そんな生やさしい状況ではない。
 後頭部をハンマーか何かでかち割られた様な衝撃に、思わず固まっていた。

 純平のベッドには、全裸で横たわる『めがねを掛けていない綾音』が眠っていたのであった。

つづく

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